親と同居の家賃は特別受益になる?相続で揉めないための落とし所

親と同居の子が家賃を免除されていた場合、兄弟姉妹から遺産の取り分を減らすよう主張されるケースがあります。無償で実家に住んでいたからといって、必ずしも特別受益になるとは限りません。
本記事では、同居の子の家賃免除が特別受益にあたるかどうかの判断基準や金額の計算方法、考慮すべきリスクを解説します。
目次
タダで実家に同居していたら特別受益にあたるのか?
親と同居して家賃を払っていなかったことが特別受益として認められるケースは、実際には少ないです。 ここでは、法律上の特別受益の考え方を解説します。
原則として特別受益にはなりにくい
子どもが実家の親と同居する場合、親が子に家賃を求めないのはよくあることです。子どもを住まわせるのは当たり前と考える親も多く、逆に一緒に住んでくれて助かるという感覚の方もいます。家賃の免除が子どもへの遺産の先渡し(贈与)であるという認識ではない場合が多いでしょう。
最高裁判所の判例も「親の承諾に基づく使用貸借(無償での貸し借り)であり、特段の事情がない限り特別受益にはあたらない」としています。また、親が亡くなってから遺産分割が終わるまでの期間についても無償で住み続けることが認められるのが一般的です。
特段の事情があると特別受益となる場合も
ただし、以下のような「特段の事情」がある場合は、例外的に特別受益とみなされる可能性があります。
- 親がその子のためだけにマンションを購入し、無償で住まわせていた
- 親が施設入居して空き家になった実家を特定の子どもが独占している
- 他の兄弟は自立して家を出ている中、特定の相続人だけが長期間、親の資産を消費して莫大な利益を得ていた
親の生活のついでに住んでいるのではなく、特定の相続人だけが特別に利益を得ていると判断できるかどうかが分かれ目です。特別受益と判断された場合、同居していた期間の家賃相当分を遺産総額に含め、すでにその恩恵を受けたとして分割します。これを特別受益の持ち戻しといいます。
持ち戻し免除の意思表示があれば持ち戻されない
仮に家賃免除に特別受益の性質があっても、親が遺言書で持ち戻しを免除する旨の意思表示をしている場合は持ち戻されません。
遺言書がない場合でも、介護の実態などから親の意図(黙示の意思表示)が考慮される可能性はゼロではありません。しかし、実務上はハードルが高く、客観的な証拠がなければ認められないケースがほとんどです。
特別受益と主張された場合の家賃相当額の計算方法

遺産分割の話し合いで家賃分を特別受益として持ち戻す場合、同居していた方が得た利益をいくらと見積もるかが課題があります。
相続人同士の対立を避けるためには、客観的な数字の根拠が求められます。実務でよく用いられる3つのアプローチを詳しく解説します。
1.近隣相場を基準にする
客観性が高く、他の相続人も納得しやすいのが、不動産鑑定士の評価や近隣の賃貸物件の相場を基準にする方法です。
まずは近隣の相場から建物全体を貸した場合の賃料を算出します。次に、占有していた個室の面積や、リビング・浴室・キッチンなどの共有部分の利用実態を考慮した割合で家賃を計算します。
ただし、親子の同居は他人に貸す場合とは異なり、親の都合で退去を求められる可能性があるなど、借りる側の立場が弱いです。使用貸借による減価として、市場の賃料相場から2〜3割程度差し引いた金額を最終的な受益額とする考え方が一般的です。
近隣のワンルームマンションの家賃をそのまま適用すると、利益の評価が過大になるおそれがあります。あくまでも不完全な利用権であるという視点を持ち適切に評価しましょう。
2.親が支払った維持費から算出する
親がその子を住まわせるために、実際に負担していたコストに着目する手法も有効です。
具体的には、親が支払っていた固定資産税、火災保険料、屋根や外壁などの修繕費などを合算し、居住人数で割って算出します。収益不動産の相場と比較せず、親の財布から出た純粋な維持費をベースにするため、親族間での合意が得られやすい傾向があります。
特に、築年数が経過していて市場価値が低い実家の場合、近隣相場よりも実費ベースの方が実態に即した金額になりやすいです。親が子を住まわせることでどのくらい損をしたかという視点に立つため、相続人間の公平性を重視した解決策として選ばれるケースが多いです。
3.家計全体の収支バランスから算出する
親と子が同居する場合、世帯全体の収支を客観的に可視化することが重要です。家賃を払っていなかった事実がある一方で、生活費などを負担している場合もあるためです。
例えば、家賃を払わない代わりに世帯全体の光熱費や食費を自身の給与から捻出しているケースがあります。実家の高額なリフォーム費用を負担している可能性もあります。
家賃という利益だけに注目せず、支出と差し引きで同居の相続人がいくら得をしたと言えるかを算出します。他の相続人に対し、家賃は無料だが生活費で相応の負担をしているという根拠を示すと納得感が得られやすいでしょう。
同居家賃問題の裏に潜むリスク
同居していた子の家賃をどのように計算するかは、遺産の分け前だけの問題では終わりません。広い視点を持って、税務上のリスクを避けることが大切です。
小規模宅地等の特例を逃すリスク
同居相続人は、小規模宅地等の特例によって相続税を大幅に節税できる可能性があります。亡くなった親と同居していた子が自宅を相続する場合、土地の評価額を最大80%減額できる制度です。
例えば、5,000万円の土地であれば1,000万円の評価で済むため、これだけで相続税が数百万円、場合によっては1,000万円以上変わります。
ただし、特例を適用するためには、相続税の申告期限までに遺産分割協議が成立していることが条件です。目先の家賃相当額を取り合って協議が整わず、大きな税負担を余儀なくされたのでは本末転倒です。
当事者同士で話し合いが進まない場合は、税理士や弁護士などの専門家に相談の上でスムーズな合意を目指しましょう。
支払いの肩代わりが贈与にあたるリスク
実家に無償で住んでいること自体が贈与とみなされ、贈与税が課されることは通常ありません。税法上は、親子間の扶助義務の範囲内であれば非課税とされています。
しかし、この肩代わりが生活扶助の範囲を超えると、実質的な資産援助とみなされ贈与税の対象となります。例えば、子名義の家に親子で住んでいて、住宅ローン、マンションの管理費、固定資産税などを親が負担している場合です。
特に住宅ローンや固定資産税は、本来子が払うべき負債を親が肩代わりして子の財産を守る行為と判断され、税務署の指摘を受けやすくなります。生活費以外は子自身の口座から支払い、資金の流れを明確にしておきましょう。
親の預金の使い込みを疑われるリスク
同居の子が親の通帳を預かって管理している場合、他の兄弟からは親の預金の使い込みを疑われる可能性があります。税務調査においても、親の口座から引き出された現金が、同居の子の生活費に充てられていないかを確認します。
トラブルを防ぐためには、家賃を払わない代わりに自分が負担した生活費の領収書を、親の支出と明確に分けて管理しておきましょう。家賃が特別受益にあたらないことと、親の財産の私的な流用がないことを証明するための強力な武器になります。
トラブルを回避するための3つの解決策

同居による家賃免除が特別受益だと主張された際、感情的な争いになってしまうと家族関係がこじれかねません。
円満な解決方法として、以下の3つをご紹介します。
1.寄与分(介護・生活支援など)と調整する
特別受益を主張された際の強力な交渉材料となるのが「寄与分」です。寄与分とは、亡くなった方の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人に、法定相続分以上の取得を認める制度です。
同居による見守りや家事支援は、本来であれば外部サービスに支払うべきコストを節約した財産の維持に該当する可能性があります。
例えば、兄弟から「実家にタダで住んでいた期間の家賃を相続分から差し引くべきだ」と主張されたケースを考えてみましょう。これに対し、親と同居していた相続人は「長年、親の介護や身の回りの世話をしてきた貢献も考慮されるべきだ」と主張できます。
厳密に証拠を揃えて裁判で争うと、時間も費用もかかる上、特別受益も寄与分も認められにくいのが実情です。そこで、特別受益と寄与分を相殺する案を提案することで、スムーズかつ円満な遺産分割を導くことが可能になります。
2.遺言書に持ち戻し免除を明記してもらう
親が存命であれば、生前のうちに遺言書に持ち戻し免除を明記してもらいましょう。法的にはシンプルに持ち戻し免除の意思が記載されていれば効力があります。
<記載例> 遺言者は、長男〇〇に対し、遺言者の所有する建物において同居を認め、賃料相当額の利益を与えてきたが、これについては特別受益の持戻しを免除する。 |
また、どのような思いで同居を望んでいたのか、なぜ家賃を免除したのかなども記せば、他の相続人に対して心情的にも理解を得やすく説得力が増すでしょう。
<記載例> 長男〇〇は、長年にわたり遺言者と同居し、身の回りの世話や療養看護に尽くしてくれた。 |
3.争いに発展しそうな場合は弁護士へ
相続の問題は、一度感情がこじれると、当事者同士での冷静な話し合いは難しくなってしまいます。遺産分割協議が家庭裁判所の調停や審判にまでもつれ込めば、解決までに数年を要することもあります。
遺産分割が終わっても溝が埋まらず、家族の縁が完全に切れてしまうという悲しい結末に至るケースもあるのが実情です。
「弁護士に依頼すると、かえって話がこじれるのでは?」と心配する方もいるでしょう。しかし、弁護士の介入は争うことが目的ではありません。むしろ、感情に左右されがちな親族間の議論において、法的に認められる主張を切り分け、客観的に調整する役割を果たします。
争族に発展しそうな場合は迷わず弁護士に相談しましょう。
まとめ
家賃を払わずに親と同居している事実は、法的には使用貸借とみなされ、原則として特別受益にはあたりません。しかし、遺産分割協議においては、実家にタダで住んでいたことが他の相続人に対して感情的な火種となるケースがあります。
家賃相当額を争った結果、相続税や特例の申告期限に間に合わず節税チャンスを逃したり、親族間で修復不能な亀裂を生んだりするリスクは避けたいものです。
親と同居していた相続人の家賃問題でもめそうな時は、まずは相続に詳しい税理士などの専門家に相談しましょう。法務・税務の両面から最善の着地点を見出すことが、円満な相続に繋がります。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。







