実家の名義変更、贈与と譲渡どちらが得?費用とリスクを徹底比較

実家の名義変更、贈与と譲渡どちらが得?費用とリスクを徹底比較

実家の名義変更を検討する際、贈与と譲渡(売買)のどちらが税金や諸経費で得になるのか判断に迷う方は多いです。 生前対策として良かれと思って選んだ方法が、実は数百万円も損をしていたというケースもあります。

本記事では、最新の税制改正を踏まえ、トータルコストとリスクを比較し、後悔しないための判断ポイントを分かりやすく解説します。

贈与か譲渡か検討する前に確認する3つのポイント

不動産の名義変更を検討する時は、コストを正確に比較するために以下の3つのポイントを確認しましょう。

1.親がその家をいくらで買ったか

不動産を親から子へ譲渡する場合、親が当時その不動産をいくらで購入したかの証明が重要です。不動産を売って得た利益は譲渡所得となり、所得税と住民税が課されます。利益の金額は「現在の売値 − 取得するためかかった費用」で計算されるため、いくらで買ったかが税額に直結するのです。

現在の時価よりも高い金額で買っていた場合、子に時価で売っても利益が出ないため、親に所得税は1円もかかりません。

一方で、購入時の売買契約書を失くしてしまっている場合、概算取得費として認められるのは売値のたった5%だけです。実際には利益が出ていなくても多額の税金が課されるリスクが生じます。

売買契約書があるかないかによって、贈与と譲渡どちらが得かの判断が変わる可能性があります。

2.子どもに不動産購入や納税に充てる現金がいくらあるか

贈与はタダで貰えるイメージがあるため、手出しの現金は不要だと思い込んでいる方もいます。しかし、実際には贈与を選んだ場合の方が多額の現金が必要になるケースも多いです。贈与税の基礎控除額は年間110万円しかなく、不動産の価値が110万円を超えた部分には高い税率の贈与税が課されるためです。

一方、譲渡を選ぶ場合、親に不動産の購入代金を支払う必要があります。親子間であっても、銀行振込などによる資金移動の証拠を残さなければ、税務署から贈与とみなされるリスクがあります。

贈与の場合も譲渡の場合も、まとまった現金が必要となる可能性が高いです.不動産を受け取る子が用意できる現預金がいくらあるのかを把握した上で、無理のない財産移転の計画を立てる必要があります。

3.親の固定資産税納税通知書はあるか

名義変更にかかるトータルコストを算出するためには、不動産の現在の価値を知る必要があります。現在の価値とは、不動産会社が査定する「売れる値段」ではなく、市区町村が決定する固定資産税評価額のことです。

固定資産税評価額は、毎年春頃に届く納税通知書に同封の課税明細書に不動産ごとに記載されています。見当たらない場合は、市区町村役場で名寄帳を取得しましょう。

登記の手数料である登録免許税や、不動産の取得に対して課される不動産取得税は、固定資産税評価額を基準に計算されます。登録免許税は所有権移転の原因によって異なり、贈与の場合は2.0%、譲渡(売買)の場合は土地が1.5%で建物は原則2.0%です。評価額を把握することで、より精緻なコスト比較が可能となるでしょう。

親が高く買った物件では譲渡が得になる

不動産と現金

家を購入した際の価格が現在の相場よりも高い場合、譲渡(親子間売買)が有力な選択肢になります。譲渡所得税の仕組みを活用すればよりコストを抑えられます。

親の購入時より値下がりしていれば譲渡所得税は0円

不動産を売却した際にかかる税金は、あくまでも利益に対して課されるものです。親が買った当時の取得費よりも、子に売る価格の方が低ければ、税務上の利益はマイナスとなります。

例えば、親が20年前に5,000万円で建てた実家を、現在の時価である3,000万円で子に売却した場合、2,000万円の赤字が出ている状態です。親にはこの不動産の譲渡について、所得税も住民税も一切かかりません。

高額な不動産を贈与した場合、不動産を取得した子に多額の贈与税がかかるリスクがあります。購入時より値下がりしていることが証明できるなら、譲渡を選んで国に納める税金を大幅に圧縮するのが合理的な戦略と言えます。

契約書がないと売値の5%しか経費にできない

売買契約書を紛失し、当時の購入価格を証明できない場合、譲渡すると税負担が大きくなる可能性があります。

概算取得費として計上できるのは売買代金の5%だけです。仮に時価2,000万円で子に売った場合、概算取得費はわずか100万円(2,000万円×5%)になります。差額の1,900万円は売却によって得た利益として扱われ、5年以上保有した物件の場合は約380万円の所得税が発生します。

救済措置として、売買契約書そのものがなくても当時のローンの契約書やパンフレットがある場合は、取得費を推計できる場合もあります。契約書がないからとすぐに諦めるのではなく、できる限り資料を集めて専門家に相談してみましょう。

親子間売買でも市場価格で

親子だからといって相場よりも著しく低い金額で売ると、相場との差額分を贈与したものとみなされるリスクがあります。税制上「低額譲渡」と呼ばれ、不動産を受け取った子に対してみなし贈与税が課税されるのです。

近隣の取引事例や路線価を参考に、第三者に売ってもおかしくない妥当な価格を設定しましょう。

法改正で贈与が選びやすくなった

2024年(令和6年)1月の贈与税法改正により、「贈与は税金が高い」というこれまでの常識が変わりました。特に、不動産の名義を早く移しておきたい事情がある場合、新しい贈与の仕組みを活用するメリットが大きいと言えます。

相続時精算課税制度でも年間110万円の控除が受けられる

相続時精算課税制度は、18歳以上の子や孫が60歳以上の両親・祖父母などから贈与を受ける際に選べる制度です。

例えば、父親からの贈与分に相続税精算課税制度を選択すると、父親からの贈与については2,500万円までは贈与税が課されません。その代わり、将来の相続時に贈与した時点の財産の価格を相続財産に足し戻して相続税を精算します。

さらに法改正により、相続時精算課税制度の枠内で計算される独自の基礎控除が新設されました。年間110万円までの贈与分については、贈与税もかからず、将来の相続税の計算対象からも除かれます。

1年目に2,000万円の土地を贈与し、2年目と3年目に110万円ずつの現金を贈与していく場合で考えてみましょう。

年数

贈与する財産

課される税金

1年目

2,000万円の土地

110万円:基礎控除額(贈与税も相続税も非課税)
残りの1,890万円:2,500万円までの特別控除枠を利用(贈与税は非課税、相続税の対象)

2年目

110万円の現金

全額基礎控除枠内(贈与税も相続税も非課税)

3年目

110万円の現金

全額基礎控除枠内(贈与税も相続税も非課税)

旧制度では、2年目と3年目の贈与分も含めて2,500万円までの贈与が全額相続税の対象となっていました。一方、新制度では毎年110万円までの贈与には、贈与税も相続税もかかりません。まとまった額の移転と、少額ずつの移転を組み合わせられるため、贈与が節税のためにより有利になったと言えます。

将来値上がる土地は早めに贈与して相続時の評価額を固定する

税額を算定する基礎となる不動産の評価額は、贈与した時点の価格です。再開発地や新駅設置などが予定されている地域の不動産は、早期に贈与することで節税できる可能性があります。

現在の評価額が2,000万円の土地を相続時精算課税制度で贈与した場合、将来相続財産に加算されるのは2,000万円です。相続時点でその土地が5,000万円に値上がりしていても、税額が上がることはありません。

資産価値の向上が期待できる優良な不動産を持っている方ほど、検討価値がある戦略です。

建物は贈与、土地は相続の分割移転術

不動産の名義変更は、必ずしも土地と建物をセットで行う必要はありません。建物だけを先に贈与し、土地は将来の相続まで持っておくというハイブリッドな移転術もあります。土地を生前贈与せず相続まで残しておくのは、相続税の小規模宅地等の特例を活用するためです。

建物は年数が経つほど価値(評価額)が下がるため、相続時精算課税制度を活用すると、低い税負担で子へ名義を移すことができます。将来のリフォーム費用の負担を明確にしたり、収益物件であれば、賃料収入を子へ移転させて親の資産膨張を防いだりすることも可能です。

つまり、建物は生前に名義を移して管理を楽にしつつ、高額な土地は将来の相続で特例を使って安く引き継ぐという仕組みです。

どの方法がより節税に繋がるかは、ご家庭の事情や財務状況、不動産の性質にもよるため、税理士に相談してシミュレーションを行うとよいでしょう。

諸経費も含めたトータルコストの比較が必須

不動産の名義変更の方法を検討する際、贈与税や所得税といった本人の税金だけに目を奪われるのは危険です。名義変更にかかる費用にも目を向けなくてはいけません。数十万円になるケースもあるため、諸経費も含めたトータルコストで比較しましょう。

契約のためにかかる費用

契約までにかかる費用には以下のものがあります。

項目

概算金額の目安

行政書士等の契約書作成費用

贈与契約書

2万円 〜 5万円程度

売買契約書

5万円 〜 10万円程度

契約書に貼る印紙代

贈与契約書

一律 200円

売買契約書
(軽減適用)

500円 〜 1万円

不動産鑑定士による鑑定費

簡易査定
(調査報告書)

10万円 〜 20万円程度

正規の鑑定評価書

20万円 〜 40万円以上

親子間であっても、贈与や譲渡(売買)の内容を証明するための契約書が必要です。契約書作成を行政書士などの専門家に依頼する場合は報酬が発生します。

譲渡(売買)の場合は適正な価格設定が求められるため、場合によっては不動産鑑定士による鑑定費用も想定しておくとよいでしょう。

登記手続きにかかる費用

不動産の名義変更をするためには、法務局で登記申請を行います。登記手続きにかかる費用は以下の通りです。

項目

概算金額の目安

必要書類の取得手数料

登記事項証明書

1通 480円 〜 600円

印鑑証明書

1通 200円 〜 500円

住民票・戸籍附票

1通 200円 〜 300円

固定資産評価証明書

1通 300円 〜 400円

登録免許税

贈与の場合

評価額の 2.0%

売買(譲渡)の場合

土地:1.5% / 建物:2.0%

司法書士の報酬

贈与の所有権移転

4.5万円 〜 10万円程度

売買の所有権移転

5万円 〜 10万円程度

書類取得代行など

数千円 〜 2万円程度

登録免許税の税率は、原則として税率は固定資産税評価額の1.5%~2%です。ただし、2027年3月31日まで売買によって取得した家屋のうち、実際に自分が住むなど条件を満たすと0.3%に軽減されます。

登記手続きを司法書士に依頼する場合は別途報酬が発生します。必要書類の収集や権利関係の確認を確実かつスムーズに進めるために、専門家に依頼する費用も予算に組み込んでおきましょう。

参考:No.7191 登録免許税の税額表|国税庁

不動産取得税がかかる場合がある

不動産取得税は、不動産を取得した際に1回だけ納付する都道府県税です。登記が完了して半年ほど経過した頃に納付書が届きます。相続や遺贈によって取得した場合は課税されない一方、贈与や譲渡(売買)の場合は課税対象です.

税率は原則4%ですが、2027年3月31日までに取得した土地と住宅(居住用家屋)には軽減税率3%が適用されます。税額は固定資産税評価額をもとに計算しますが、2027年3月31日までに取得した宅地の評価額は特例により2分の1になります。

数十万〜数百万円の支出になるケースもあるため、事前に確認しておくべき重要な項目です。

参考:総務省|地方税制度|不動産取得税

まとめ

不動産の名義変更をする際に贈与と譲渡のどちらが得かは、物件の条件や家族の状況により大きく異なります。安易な判断は予期せぬキャッシュアウトで家計に打撃を与える可能性があるためおすすめできません。

トータルコストで損をしないためにも、まずは税理士に相談し、個別の状況に合わせた精密なシミュレーションをしましょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。