【税理士監修】数次相続とは?手続きの進め方と相続税申告をする際のポイント
更新日:2023.9.8
数次相続とは、1回目の相続が発生した後、遺産分割協議を終える前に新たな相続が発生することです。数次相続が発生したものの、どのように手続きをすればよいか分からず困っている方も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事では数次相続が起きた際の手続き方法を紹介します。注意点や類似する相続方法との違いといった基本情報も併せて解説するため、ぜひ参考にしてみてください。事前に知識を深め、スムーズに手続きを進めましょう。
目次
数次相続とは
数次相続とは、相続が発生し、遺産分割協議や相続登記を行っている間に次の相続が発生する現象のことです。例えば、夫が亡くなり、妻と母親が法定相続人として遺産を相続しようとしていたと仮定しましょう。財産の洗い出しや相続割合の話し合いなどをしている間に母親も亡くなると、数次相続が起こります。
遺産分割協議に期限はありません。相続開始から10ヵ月以内に相続税申告をすればよいため、話し合いを進めていない方も多いでしょう。しかし、数次相続が発生すると、相続人が増えたり相続分が変わったりすることで手続きが複雑化する可能性があります。数次相続が発生する前に、相続手続きを終わらせることが大切です。
類似する相続方法との違い
数次相続と似たような用語に、代襲相続や相次相続があります。言葉は似ていても概念は異なるため、混同しないよう注意しましょう。ここでは、類似する相続方法との違いを解説します。
代襲相続との違い
代襲相続は、本来相続人となる予定の人が相続発生時すでに亡くなっており、その人の代わりに代襲相続人が相続財産を受け取ることです。代襲相続人は法律で決められています。
相続順位 | 法定相続人 | 代襲相続人 |
第一順位 | 子 | 直系卑属(孫やひ孫など) |
第二順位 | 直系尊属(父母や祖父母など) | – |
第三順位 | 兄弟姉妹 | 甥・姪(一代のみ) |
常に相続 | 配偶者 | – |
数次相続では、最初の相続時に法定相続人が生存していますが、代襲相続では最初から法定相続人になる予定の人が亡くなっている点が異なります。
相次相続との違い
相次相続は、相続が発生し相続税を納めた後にその中の一人が亡くなり、次の相続が発生することです。数次相続とは、相続税の申告・納税手続きが完了している点が異なります。
また、相次相続には相次相続控除があります。相次相続控除は、相続が発生した後10年以内に次の相続が発生した際に、被相続人が支払った分の相続税の一部が、今回の相続税から控除されるという制度です。控除を利用すれば相続税の節税につながります。
数次相続が発生した場合の手続き方法
数次相続が発生すると、手続きが複雑化する可能性もあるため注意が必要です。事前に手続き方法を確認し、スムーズに進められるよう準備しましょう。手続きの内容は大きく分けて3ステップです。手順ごとに分けて具体的な内容を解説します。
法定相続人を確定する
まず、遺産分割協議に向けて法定相続人を確定する必要があります。法定相続人全員の合意がなければ、遺産分割協議は成立しません。法定相続人になる人の対象範囲は以下の通りです。
相続順位 | 法定相続人 |
第一順位 | 子 |
第二順位 | 直系尊属(父母や祖父母など) |
第三順位 | 兄弟姉妹 |
常に相続 | 配偶者 |
配偶者は常に相続人となり、それ以外は相続順位が最も高い人のみが法定相続人となります。
数次相続では2つの相続が発生しているため、最初の相続(一次相続)と次の相続(二次相続)の2回分の法定相続人を確定させましょう。故人の戸籍謄本を参照することで、法定相続人が分かります。
遺産分割協議書を作成する
一次相続と二次相続、2つの相続に対して、別々に遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書の作成には義務はありません。しかし、同時に2つの相続が発生すると、それぞれの相続内容が分かりにくくなるため、個別に作成しておくのが得策です。なお、この場合一次相続の遺産分割協議書は通常のものと書き方が異なる部分があります。以下のように記載しましょう。
・被相続人→相続人兼被相続人
・相続人→相続人兼〇〇〇〇の相続人
相続登記や名義変更を行う
相続登記は、土地や建物の所有者を変更する手続きのことです。不動産の相続登記をする際は、遺産分割協議書が必要となります。ただし、法定相続分に応じて不動産を取得した場合は、遺産分割協議の提出は必要ありません。
相続登記をする際は通常、最初の相続の際に発生した相続登記をまず済ませ、次に二次相続の相続登記を済ませるといったように2段階の手続きを行います。ただし、中間の相続が単独相続である場合に限り、1回で全てをまとめて登記する中間省略登記が可能となります。
また、名義変更は、金融機関の口座などの名義を変更することです。戸籍謄本や遺産分割協議書、印鑑証明書などの書類を用意し、手続きを進めましょう。そのまま放置してしまうと将来的に、休眠口座と見なされお金を引き出せなくなる恐れがあります。
数次相続で相続税申告する際の注意点とポイント
数次相続による相続族税申告をする際は、いくつか注意点があります。注意点を事前に確認し、知識を深めましょう。大切なポイントを押さえておくことで、適切に対応できるようになります。
相続人に相続税申告・納税義務が発生する
一次相続の法定相続人で、相続税申告と納税の義務があった人が手続きを終える前に亡くなった場合、対象の相続を引き継ぐ人が申告・納税の義務も引き継ぐことになります。相続税申告・納税の期限に間に合うように手続きを進めましょう。
例えば、故人の配偶者と子供が相続予定だったケースで、遺産分割協議を終える前に配偶者が亡くなったとします。この場合、配偶者が相続する予定だった遺産の相続税も、子供が申告・納税しなければなりません。
基礎控除額は変更されない
相続税の基礎控除とは、相続時に適用できる控除です。3,000万円+600万円×法定相続人の数が基礎控除の金額となります。通常、法定相続人となる人が増えれば1人あたり600万円ずつ基礎控除が増額します。しかし、数次相続では、相続発生時点での相続人の数で計算するため、法定相続人の数が途中で変わっても基礎控除の金額が変わることはありません。
例えば、一次相続で妻と被相続人の母親が相続人になったとしましょう。しかし、すぐに母親が亡くなり配偶者と被相続人の姉2人が二次相続の相続人になったとします。この場合においても、一次相続の相続人は配偶者と母親の2名が適用されます。
相続税の申告期限が伸びる
通常の申告期限は、相続が発生したことを知った日の翌日から10ヵ月以内です。しかし、数次相続が発生すると、申告義務者が申告する前に亡くなることで、申告義務が次の相続人に引き継がれます。そのため申告期限も延長されます。
この場合の申告期限は、申告義務者であった被相続人が亡くなったことを知った日から10ヵ月以内です。申告期限にゆとりができるため、余裕を持って手続きを進められるでしょう。
ただし、期限が延長されるのは二次相続の相続人のみです。一次相続の相続人で存命の方においては、期限の延長はありません。
数次相続でも相続放棄が適用できる
相続放棄とは、一切の財産を相続しないという選択方法です。マイナスの財産が多いケースでは、相続放棄をすることで負債を背負うリスクを回避できます。数次相続においても相続放棄を選択可能です。また、一次相続と二次相続でそれぞれ違う相続方法を選択することも認められています。ただし、一次相続を承認して二次相続だけを相続放棄することはできません。
また、相続放棄をするときは、相続が開始されたことを知った日から3ヵ月以内に、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所への申述が必要となります。
数次相続で利用したい相次相続控除とは?
身内が相次いで亡くなったときは、相次相続控除を利用できます。相続税が軽減される可能性があるため、適用条件に合致する方は利用を検討しましょう。
相次相続控除の概要
相次相続控除は、相続が立て続けに発生した際の二重課税を防ぐための制度です。相続が発生した後、10年以内に次の相続が発生したケースにおいて、前回納めた相続税の一部を今回の相続税額から差し引きできます。相次相続控除を用いて相続税額が0円になれば、相続税の申告・納税義務はなくなります。立て続けに相続が発生した際は、相次相続控除を利用できるかどうか、適用条件を確認しましょう。
相次相続控除の適用条件
相次相続控除の適用条件は以下の通りです。
・二次相続の法定相続人である
・一次相続から10年以内の相続である
・一次相続で相続税を納めている
上記の条件に全て合致する必要があります。法定相続人にのみ適用されるため、遺言の指定により財産を相続した方は利用できません。また、一次相続の際に相続税を納めていないケースも対象外となるため注意しましょう。
相次相続控除の金額
相次相続控除で控除される金額は、以下の計算方法で算出した金額になります。
・A×C÷(B-A)×D÷C×(10-E)÷10=相次相続控除額
A:被相続人が納めた一次相続の相続税額
B:一次相続で被相続人が取得した財産の金額
C:二次相続における相続財産の総額
D:相次相続控除を利用する相続人の、二次相続における相続財産の金額
E:一次相続から二次相続までの経過期間(1年未満切り捨て)
※C÷(B-A)が100÷100を超える場合は100÷100とする
相次相続控除の計算方法は複雑です。自身で控除額を算出することに難しさを感じるときは、専門家に相談しましょう。申告内容にミスが発生すると追徴課税のペナルティーが課される恐れがあります。相続税申告の際は、正確な値を求めることが大切です。
まとめ
数次相続は、1回目の相続が発生した後、遺産分割協議や相続登記を終える前に次の相続が発生することです。数次相続では、相続人に前回の相続税申告・納税の義務が受け継がれたり、相続人が増えて手続きが複雑化したりするといった注意点があります。
なお、身内が相次いで亡くなった際は、相次相続控除を利用可能です。ただし、相次相続控除には適用条件が決まっており、計算方法も複雑であるため、専門家に相談するとよいでしょう。申告が遅れたり計算内容にミスがあったりすると、税務調査によりペナルティーが与えられる可能性があります。適切な形で申告・納税できるよう、準備を進めることが大切です。
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監修者
小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士
84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。