生前贈与と遺産相続のどっちが得?シミュレーションとそれぞれにおすすめの特例

生前贈与と相続のどちらを選ぶべきか、悩む方は多いのではないでしょうか。「生前贈与のほうが節税になる?」「相続のほうが手続きは楽?」など、財産の内容や家族構成によって有利・不利が大きく変わります。本記事では、生前贈与と相続の違いをわかりやすく整理し、ケース別の判断ポイントや使える特例を解説します。ご自身の状況に当てはめて、最適な承継方法を考えるための参考にしてください。
目次
生前贈与と遺産相続はどっちが得?

生前贈与と遺産相続のどちらが有利かは、一概には言えません。財産の規模や内容、家族関係、希望するタイミングなどによって最適な方法は変わります。
金銭的な負担だけで判断するのではなく、手続きの手間や時間、感情的な負担、家族関係への影響も含めて総合的に考えることが重要です。
以下は、生前贈与と遺産相続の特徴や違いについてまとめた表です。
比較項目 | 生前贈与 | 遺産相続 |
登録免許税 | 高い:評価額の2.0% | 安い:評価額の0.4% |
不動産取得税 | 原則かかる | かからない |
贈与税/相続税 | 対象不動産のみ課税 | 全財産が課税 |
手続きの複雑さ | シンプル:当事者2名で完結 | 複雑:全相続人の協力が必要 |
争族リスク | ほぼなし:特定の人に確実に渡せる | あり:遺産分割でもめる可能性 |
渡す相手・時期 | 自由:好きな相手に好きな時に可能 | 不自由:死亡時に法定相続人へ |
どちらを選ぶかは、財産の規模・相手・タイミング・家族関係を総合的に判断する必要があります。生前贈与と相続は「どちらが得か」がケースごとに大きく変わるため、一般の方が判断するのは容易ではありません。
【ケース別】生前贈与と相続のどっちが得?シミュレーションまとめ

判断の目安として以下のケース別ポイントを押さえておくと方針が立てやすくなります。以下のケースの中からご自身の状況に当てはまるものを選んで、ぜひ参考にしてみてください。
財産総額が基礎控除額以内に収まるケース
遺産総額が「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」の基礎控除の範囲内に収まる場合、そもそも相続税の申告が不要です。このケースでは無理に生前贈与をするより、相続でまとめて承継した方が有利と言えます。
財産が現金のみのケース
不動産がなく現金だけの場合、相続で使える特例はあまり多くありません。そのため、贈与税の非課税枠などを活用しながら計画的に贈与することで、相続税の節税になりやすい傾向があります。
ただし、配偶者が相続する場合には「配偶者の税額軽減」があります。そのため税負担だけを見ると相続の方が有利になることもあります。
財産の大半が不動産のケース
財産の多くが不動産の場合、贈与すると贈与税・登録免許税・不動産取得税などの負担が大きくなります。一方、相続であれば配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が使えることが多いため、相続のほうが有利になるケースが一般的です。
現金と不動産が混在するケース
現金・不動産のバランスによって最適な選択が異なり、もっとも判断が難しいパターンです。このケースでは「生前贈与」と「相続」をどちらか一方に決めるのではなく、両方を組み合わせて最適化するのがポイントです。
生前贈与がおすすめな人

生前贈与と相続には違いがあります。「自分はどちらを選ぶべきか」と迷う人向けに、生前贈与を検討した方がよいケースを紹介します。
親や祖父母が若く、財産が多い
相続税は累進課税のため、財産が多いほど税負担が増えます。親や祖父母が若いうちに暦年贈与を活用すると、相続税を効率的に節税できます。
また早い段階から計画的に贈与を進めることで、後々の相続手続きや税負担を大きく軽減できる点もメリットです。
贈与対象者が複数いる
子どもや孫など受贈者が多いほど、年間110万円の贈与税基礎控除を人数分活用できます。これにより、相続財産を大きく減らして節税可能です。家族全体で協力して贈与を受けてもらうことで、無理なく計画的な資産移転ができます。
特定の人や財産を確実に渡したい
特定の相続人に財産や不動産を確実に遺したい場合、生前贈与は遺言よりも確実な手段です。遺言では他の相続人から異議が出る可能性がありますが、生前贈与ならトラブルの余地を大きく減らせます。
必要なタイミングで財産を渡したい
学費や住宅購入など、必要なタイミングで財産を渡せるのは生前贈与の大きなメリットです。必要な時期を逃さず支援できるため、相手にとっても効果的なサポートになります。
会社オーナーや事業主
会社株式や事業用資産を次世代に承継する際、生前贈与と遺言を組み合わせることで確実な承継が可能です。特に事業承継はタイミングが重要なため、早めに計画することで経営の安定性を維持できます。
複数の相続人がいてトラブルの可能性がある
生前贈与で相続財産を減らすことで、相続トラブルのリスクを抑えられます。事前に財産の配分を明確にすれば遺産分割の話し合いがスムーズになり、争いの芽を減らす効果があります。
収益不動産を所有している
賃貸不動産は早めに生前贈与することで、子どもが賃料収入を得られるほか、相続財産の増加を防げます。特に収益物件は価値が上がりやすいため、早めの贈与が節税面で有利に働くケースが多いです。
相続がおすすめな人
生前贈与のメリットが少ない場合は、相続を選ぶ方が合理的です。以下では、相続の方がおすすめな人の特徴について解説します。
相続人がいない
独身者や配偶者・子どもがいない場合は、生前贈与のメリットが少なく、控除も利用しづらいです。このようなケースでは、遺言書を用意しておくことで財産の行き先を明確にでき、将来のトラブルを予防できます。
相続財産が基礎控除以内
財産総額が基礎控除内であれば相続税は発生しません。そのため、生前贈与で手間を増やす必要性は低くなります。むしろ相続の手続きと書類準備に集中し、必要に応じて特例や控除の適用だけ確認しておくのが効率的です。
贈与税の控除制度を利用できない
控除や特例を利用できない場合、生前贈与より相続の方が税負担が軽くなることがあります。制度要件を満たすかどうかを事前に専門家に確認し、税負担が小さい方を選びましょう。
死期が近い
死期が近いタイミングでの生前贈与は、相続税課税の対象になりやすく、相続トラブルの原因になることもあります。急な贈与は家族の誤解やトラブルを招きやすいため、状況によっては相続(遺言や死後整理)を選んだ方が安全です。
生前贈与で使える主な非課税特例
生前贈与には、一定の条件を満たすことで贈与税がかからなくなる特例があります。ここでは代表的な4つの特例を、ポイントを押さえてわかりやすく解説します。
住宅取得資金の贈与
令和6年1月1日〜令和8年12月31日までに、父母・祖父母など直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合、以下の要件を満たすことで非課税対象となります。
- 省エネ等住宅:1,000万円まで非課税
- それ以外の住宅:500万円まで非課税
マイホーム取得を支援する際に利用される代表的な非課税制度です。
参考:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁
教育資金の一括贈与
平成25年4月1日〜令和8年3月31日までの贈与が対象です。最大1,500万円まで非課税(学校以外の費用は500万円まで)となります。入学金・授業料・塾代・習い事など幅広い教育関連費が対象です。
参考:祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし|国税庁
夫婦間の居住用不動産贈与
婚姻期間20年以上の夫婦が、居住用不動産やその取得資金を贈与する場合に利用できる特例です。最大2,000万円まで非課税(暦年課税110万円とは別枠)で、長年連れ添った夫婦の住まいの確保に利用されます。
参考:No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除|国税庁
結婚・子育て資金の一括贈与
平成27年4月1日〜令和7年3月31日までの贈与が対象です。最大1,000万円まで非課税(うち結婚費用は300万円まで)となります。結婚式・出産・育児費用など、ライフイベントにかかる支出を支援できる特例です。
参考:結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置|こども家庭庁
遺産相続で使える主な特例
相続にも税負担を大きく軽減できる制度が複数用意されています。代表的な特例をわかりやすく紹介します。
小規模宅地等の特例
被相続人が住んでいた自宅や事業用の土地を相続した場合、要件を満たせば土地の評価額を最大80%減額できます。相続税の負担を大きく下げられる最重要の特例です。
参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
配偶者の税額軽減
配偶者が相続する財産については、以下のいずれか高い方まで相続税がかかりません。
- 配偶者の法定相続分
- 1億6,000万円
この特例は、残された配偶者の生活を守る目的で設けられており、実務上もっとも利用される制度のひとつです。
未成年者控除
未成年者が相続する場合、相続開始時点の年齢に応じて相続税が控除され、最大180万円の控除が利用できます。若年の相続人の生活を支える目的の制度として活用できます。
相次相続控除
10年以内に複数の相続が続く場合、前回の相続で支払った相続税の一部を、今回の納税額から控除できます。年数に応じて前回相続税額が10%ずつ減少しながら控除可能です。短期間に相続が続いた場合の負担を軽減したい場合におすすめです。
まとめ
生前贈与と相続のどちらが得かは、財産の種類・金額・家族構成・将来の計画などによって大きく変わります。現金が多い場合は贈与の活用が節税に有利なケースがあり、不動産が多い場合は相続の特例を使ったほうが負担を抑えられることもあります。
また、争族リスクを下げたい、特定の人に確実に渡したい、必要なタイミングで支援したいなど、家族状況に応じた判断をしなくてはいけません。最適な方法は一人ひとり異なるため、専門的な知識を踏まえたシミュレーションが必要です。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。


