普通養子縁組と特別養子縁組、相続に違いはある?注意点も解説
養子縁組をした場合、相続はどのように行われるのでしょうか。本記事では、普通養子縁組と特別養子縁組における相続の可否や違いについて解説しています。また、相続の際の注意点も併せて解説しています。
目次
養子縁組とは
血縁関係がない人同士が親子関係を結ぶことを養子縁組と呼びます。養子縁組には、主に「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2つの方法があります。
以下では、養子縁組それぞれの概要と手続きの流れについて詳しく解説していきます。
普通養子縁組の概要と手続きの流れ
普通養子縁組とは、生みの親との法的な親子関係をそのままにした状態で、養親とも親子関係を結ぶ方法のことです。この方法では、生みの親と養親両方と親子関係を持つことになります。養親より年下であれば年齢の制限なく養子縁組が可能です。
ただし養子が未成年の場合は、基本的に家庭裁判所の許可が必要となります。この方法では、戸籍上も養子として扱われ、離縁も可能です。普通養子縁組は基本的に市区町村役場への届け出によって成立するため、比較的手続きが簡単です。
おおまかな手続きの流れは以下の通りです。
- 必要書必要書類の準備
- 家庭裁判所の許可を取得
- 養子縁組届出書の作成
- 役所への提出
養子縁組の手続きの際には、養子と養親両方の戸籍謄本が必要となります。戸籍謄本は、コンビニや役所窓口、郵送での取り寄せによって入手可能です。また、養子が未成年の場合は家庭裁判所からの許可が必要となるため、家庭裁判所の許可書類も準備しておきましょう。
具体的には、家庭環境や養育状況に関する書類を提出して裁判所の判断を受けなければなりません。養子縁組の許可が下りると、家庭裁判所から審判書が発行されます。
審判所を含む必要書類がすべて揃ったら、届出書の作成を行います。届出書には証人の署名が必要です。証人は親族でなくても問題ありませんが、本人確認の行える方に依頼しておくと安心です。作成が完了したら、現住所または本籍地の役所窓口に提出しましょう。
提出後、役所での確認作業ののち届出が受理されると普通養子縁組が成立します。
特別養子縁組の概要と手続きの流れ
特別養子縁組は、生みの親と親子関係を取り消したうえで養親と親子になる方法を指します。この方法を選択できるのは、原則として以下の条件を満たす場合に限られます。
- 子どもが15歳未満である
- 養親の一方が25歳以上で配偶者(20歳以上)がいる
上記の条件を満たす場合は、家庭裁判所に申立てをしたうえで審判を受けることにより、親子関係を結ぶことができます。この方法では原則として離縁はできず、戸籍には長女、長男などというように記載されます。
特別養子縁組は、子どもの福祉を最優先に考えた制度であるため、通常の養子縁組よりも手続きが慎重に進められます。この方法が取られるのは、生みの親からネグレクトや虐待を受けている場合などがほとんどです。そのため、手続きは家庭裁判所による審査を経ることになっています。
具体的な手続きの流れは以下の通りです。
- 家庭裁判所への申し立て
- 家庭裁判所の調査官による調査
- 試験養育期間
- 審判による成立
まず、養親となる夫婦が養子の居住地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。この際には、申立書や戸籍関係書類、住民票、これまでの養育状況を説明する書類などが必要です。申立て後は、家庭裁判所調査官が家庭訪問を行い、面談が実施されます。
家庭訪問では、実際の養育環境や夫婦の養育能力などの確認が行われます。この調査は特別養子縁組の手続きの中でも特に重要視されているポイントの1つです。家庭訪問および面談が無事に終了すると試験養育期間に入ります。
試験養育期間とは、実際に養子とともに試験的に生活を共にする期間のことを指します。一般的な試験養育期間はおよそ6ヵ月です。実際に養親候補と養子が一緒に生活することで、生活環境が養子に適しているか否かを判断します。
期間中は必要に応じて調査官による家庭訪問が実施され、養育状況を観察します。共同生活の結果、問題がないと判断された場合にのみ、家庭裁判所が特別養子縁組を認可する審判を行います。審判が確定した段階で養子縁組は成立します。
相続のしくみ

亡くなった方の財産を引き継ぐことを相続といいます。財産を相続できるのは、民法で定められた法定相続人のみです。法定相続人に該当するのは、亡くなった方の配偶者・子ども・両親・兄弟姉妹となっています。
誰がいくら相続するのかは、遺言書がない限り民法で規定されている順位と割合に従って決定します。具体的な順位と割合は以下の通りです。
|
相続順位 |
続柄 |
法定相続割合 |
|
常に相続人になる |
配偶者 |
他の相続人との組み合わせによる |
|
第一順位 |
子ども |
2分の1 |
|
第二順位 |
親 |
3分の1 |
|
第三順位 |
兄弟姉妹 |
4分の1 |
基本的には、配偶者はどんな場合でも相続できる決まりになっています。
例えば、配偶者と子どもがいる場合はこの二者が、子どもがいない場合は配偶者と親で相続をします。遺言書によって指定されていない限りは、配偶者+順位の高い法定相続人が相続人になるのです。
ただし、子どもが死亡していて孫がいる場合は、第二順位の親ではなく孫が相続人になります。これを代襲相続と呼びます。代襲相続が生じるのは直系卑属と兄弟姉妹のみです。直系卑属の場合は、下の世代がいる限り代襲相続が続きますが、兄弟姉妹の場合は代襲相続は一代限りです。
遺産を分割する際には、遺言書で指定されていない限りは相続人同士の話し合いによって相続する財産の金額を決めます。しかし遺言書の内容によっては、相続人が十分な財産を受け取れなくなることもあります。このようなケースに対応するために、相続では「遺留分」という相続人が最低限財産を受け取れる割合が決められているのです。
相続時に受け取る財産が遺留分に満たない場合は、遺留分侵害請求を行うことで遺留分に相当する金銭の支払いを求められます。
原則として、相続により取得した財産はその金額に応じて相続税が課せられます。相続税の税率は、相続した金額が大きいほど高く設定されています。ただし、相続した金額から3,000万円+(600万円×法定相続人の数)の金額を控除できるようになっているのです。これを基礎控除と呼びます。
普通養子縁組における相続の権利

普通養子縁組により親子関係を結んだ場合、相続の権利はどのようになるのでしょうか。以下では、生みの親・養親別の相続権や代襲相続、遺留分について解説していきます。
生みの親の相続について
普通養子縁組は、生みの親との親子関係を維持したまま養子縁組を結ぶため、生みの親の財産を相続する権利があります。他者の養子となった子どもでも、相続税算出に当たって法定相続人としてカウントできます。そのため、養子に出したからと言って受けられる基礎控除額が変わることはありません。
他者の養子となっていても生みの親の法定相続人であり続けるため、通常通り法定相続人としての権利が保障されているという点がポイントです。
養親の相続について
普通養子縁組では生みの親の財産の相続権を有しますが、養親とも親子関係を結んでいるため、養親の財産も相続できることになっています。ただし、前述した基礎控除算出の法定相続人に含む人数には以下のような制限があります。
- 養親に実の子供がいる場合、法定相続人に含む養子は1人まで
- 養親に実の子供がいない場合、法定相続人に含む養子は2人まで
生みの親と養親両方の相続権を持つ代わりに、法定相続人に含む人数に制限があるという点がポイントです。
代襲相続人になれる?
原則として、相続ができるのは民法で定められた法定相続人のみです。
ただし、相続発生時に子どもがすでに亡くなっており、かつ孫がいる場合は代襲相続として孫が相続します。普通養子縁組では、原則として養子は代襲相続人になれます。例えば養親の親(養子からみた祖父母)が亡くなり、すでに養親が亡くなっている場合は養子が代わりに相続するのです。
遺留分について
遺言書により相続割合を指定された場合や生前贈与があった場合は、相続人が十分な財産を受け取れない事があります。原則として、遺言書の内容が相続人の遺留分を侵害している場合は、遺留分侵害請求によって最低限の財産を受け取れるようになっています。
遺留分を持っているのは、第三順位以外の法定相続人です。相続において、養子は実子と同じ権利を得るため遺留分も持っています。子どもに与えられている具体的な遺留分割合は法定相続分の2分の1です。
特別養子縁組における相続の権利

特別養子縁組により親子関係を結んだ場合、相続の権利はどのようになるのでしょうか。以下では、生みの親・養親別の相続権や代襲相続、遺留分について解説していきます。
生みの親の相続について
特別養子縁組により他者の養子となった場合、生みの親との親子関係は解消されます。そのため、生みの親が亡くなったとしても子どもは相続できません。
この点が、普通養子縁組との大きな違いと言えるでしょう。
養親の相続について
特別養子縁組を行うと、その養子は実子として扱われます。そのため、養親が死亡した場合は法定相続人として相続が可能です。仮に養親に血のつながった子どもがいたとしても、その子どもと同等の権利を持ちます。
また普通養子縁組では、基礎控除算出の際に法定相続人に含む養子の人数に制限がありましたが、特別養子縁組には制限がありません。完全に養親の法定相続人としての待遇を受けるというのが大きな特徴です。
代襲相続人になれる?
特別養子縁組によって親子になった場合、養子は法定相続人として扱われます。そのため、法定相続人に認められている代襲相続制度の対象になります。
養親の両親が亡くなった場合は孫として、養親の兄弟姉妹が亡くなった場合は甥または姪として本来の相続人に代わって相続が可能です。
遺留分について
原則として、子どもには法定相続分の2分の1の遺留分割合が設けられています。特別養子縁組によって子となった養子が遺留分を侵害された場合、通常どおり遺留分侵害請求が可能です。
具体的な遺留分侵害請求の流れについては、下記の関連記事をご参照ください。
養子縁組と相続の注意点
これまで養子縁組の種類や相続の仕方について解説してきましたが、実際に相続が発生した場合はどのような点に注意しなければならないのでしょうか。以下では、養子縁組と相続の注意点について解説していきます。
離縁した場合の取り扱い
基本的には普通養子縁組のみ離縁が可能となっています。離縁した場合の相続に関しては、相続が発生する前に離縁をしてしまうと、その時点で相続権も失うことになっています。
ただし、養親が亡くなったあとに離縁した場合、すでに行った相続について影響を与えることはありません。このようなケースでは、その後発生する他の親族についての相続には一切関与できないという点も併せて覚えておきましょう。
相続税対策としての養子縁組
相続税の算出の際には、財産の総額から基礎控除を差し引いた金額に対して所定の税率をかけることになっています。基礎控除額は、3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)であるため、法定相続人が多いほど基礎控除も上がるのです。
この点に着目して、相続税対策として養子縁組を行うケースがあります。具体的には、孫と祖父母が養子縁組をする方法が挙げられます。普通養子縁組であれば、生みの親の相続権も保有した状態になるため、孫が両親についての相続権を失うこともありません。
法定相続人の人数が税額に影響するのは基礎控除だけではありません。生命保険の死亡保険金や死亡保険金などには、一定額の非課税枠が設けられています。これらの非課税枠も一定額に法定相続人の人数をかけて算出するため、養子を迎えることで非課税枠拡大するのです。
連れ子と養子縁組した場合の取り扱い
再婚相手に連れ子がおり、その子どもと養子縁組を行った場合は養子縁組の種類に関わらず実子として扱います。そのため、基礎控除算出の際の養子の上限には含まれません。
ただし、連れ子と養子縁組を行っていない場合は実子として扱われないだけでなく、相続権すら持てない点を覚えておきましょう。連れ子に相続させたい場合は、養子縁組や遺贈を検討してください。
種類によって相続の権利が異なることを理解しよう

普通養子縁組と特別養子縁組の相続における違いを分かりやすく表にまとめました。
|
普通養子縁組 |
特別養子縁組 |
|
|
生みの親の相続 |
可 |
不可 |
|
養親の相続 |
可 |
可 |
|
生みの親の代襲相続 |
可 |
不可 |
|
養親の代襲相続 |
可 |
可 |
|
生みの親の遺留分侵害請求 |
可 |
不可 |
|
養親の遺留分侵害請求 |
可 |
可 |
今後、相続税対策としての養子縁組を検討している場合や養子縁組により子どもを持とうと考えている場合は、相続権の違いについて把握しておきましょう。相続についての疑問や不安がある場合は、専門家に相談すると安心です。
本記事を参考に、普通養子縁組と特別養子縁組の相続の違いについて理解を深めて下さい。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。






