相続税申告は自分でできる?申告手続きの流れや注意点を詳しく解説
相続税申告は納税者本人が自分で行うことも可能ではあります。ただし、相続税はルールが複雑で難しい部分が多いため、ごく単純なケースを除きミスや漏れのリスクが高いため注意が必要です。
自分で相続税申告をするのであれば、自分で実施できる内容であるか検討した上で、事前に手続きの流れを十分確認する必要があります。今回は相続税申告を自分で行う場合の流れや注意点について詳しく解説します。
目次
相続税申告は単純な相続であれば自分でも可能
結論として相続税申告は自分で行うことも可能です。税理士に依頼するのが一般的とはいえ、納税者本人が申告・納税手続きをしても問題ありません。
ただし、相続税申告には細かなルールが多く存在します。相続人の数や相続財産の内容によっては計算が非常に複雑になり、ミスや漏れのリスクが高くなります。単純に難易度が上がるだけでなく、相続税申告にかかる時間や労力が増す点も考慮するべきでしょう。
このように自分で相続税申告を行うことはできるものの、内容によっては難易度が高く、重い負担がかかる恐れがあります。したがってごく単純な相続を除き、専門家である税理士に依頼するべきといえるでしょう。
相続税申告を自分でできる条件

相続税申告を自分でできる条件として、以下の4つが挙げられます。
- 相続人が1人
- 相続財産が預貯金のみ
- 相続税の課税対象となる生前贈与をしていない
- 必要に応じて自分で税務署に訪問できる
どれかひとつでも満たさない場合、自分で相続税申告を行うのは避けるのが無難です。それぞれの条件がなぜ重要であるのかを詳しく解説します。
[条件その1]相続人が1人だけである
大前提となるのが相続人が1人であることです。
相続人が増えると各人の課税価格や相続税額の計算などが必要になり、単純に作業量が増えます。計算が多いほどミスのリスクも上がるため、相続人が複数人いる場合は税理士に依頼するべきでしょう。
[条件その2]相続財産が預貯金のみ
2つ目の条件は相続財産が預貯金のみであることです。1つ目の相続人に関する条件と同様、計算作業を最小限に抑えるための条件として挙げられます。
基本的に、預貯金以外の相続財産は評価額の計算が必要です。財産の種類や状況によって評価額の計算方法が異なるため、専門知識のない人が評価額計算を行うのはミスのリスクが高いといえます。
特に土地または非上場株式のいずれかが相続財産に含まれる場合、自分で相続税申告を行うのは避けましょう。いずれもルールが複雑であり、税理士でも相続税に詳しくなければ計算を誤ってしまうケースすらあります。
[条件その3]相続税の課税対象となる生前贈与をしていない
生前贈与によって取得した財産は、原則として贈与税の課税対象であり、贈与を受けた年の翌年に贈与税の申告および納付をします。しかし、以下のいずれかに該当する贈与財産は相続税の計算に含める必要があります。
- 相続開始前3年以内(令和13年1月1日以降に発生する相続分からは7年以内)に暦年課税に係る贈与により取得した財産
- 相続時精算課税制度を選択した贈与者による贈与財産
いずれかに該当する贈与財産は相続税の課税対象です。相続税の計算が複雑になるためミスのリスクが上がります。
相続税の課税対象となる生前贈与をしている場合は、相続税申告を自分で行うのは避けるべきです。
[条件その4]必要に応じて自分で税務署に訪問できる
これまで紹介した3つの条件をすべて満たしていても、スムーズな手続きができるとは限りません。
特に相続税申告がはじめての場合はちょっとした要素でつまづいてしまう可能性も高いです。相続税申告を適切に行うため、疑問や不安があれば自分で対処しようとせず、詳しい人に相談するべきでしょう。
税理士に依頼しない場合、相談先として最も有力なのは税務署です。しかし、税務署の開庁時間は平日の8時半から17時までです。平日に時間をつくれる人でなければ税務署に相談できません。また、個別の事情やケースには対応できないないため、自分で相続税申告をするのはリスクが高いでしょう。
自分で相続税申告を行う場合の流れ

自分で相続税申告を行う場合の流れは大きく5つの工程に分けられます。各工程について詳しく解説します。
[手順1]遺言書の有無を確認する
最初に行うのは遺言書の有無の確認です。
遺産相続は亡くなった人の意思が最優先であり、遺言書がある場合は内容通りに遺産分割を進めることになります。そのため相続手続きを始める前に、まずは遺言書の有無を調べる必要があります。
遺言書がある場合は手順2と4は不要です。遺言書がない場合は手順2に進みます。
[手順2]財産調査・相続人調査をする
遺言書がない場合は、相続財産および相続人の調査を行います。
前章で、相続税申告を自分でできる条件として「相続人が1人」「相続財産が預貯金のみ」を挙げました。財産調査・相続人調査の結果、これらの条件を満たすと判明した場合は、相続税申告を自分で行うことを視野に入れても良いかもしれません。
相続財産および相続人調査の方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
[手順3]遺産分割協議を実施する
相続人が複数人いる場合は、遺産分割協議により遺産分割の方法を決める必要があります。遺産分割協議が成立次第、「遺産分割協議書」の作成が必要になります。
ただし、相続税申告を自分でできる条件の1つに「相続人が1人である」があります。ほかの相続人がいなければ遺産分割協議は当然不要のため、相続税申告を自分で行う場合、本工程は発生しないケースが多いでしょう。
[手順4]相続財産の評価をする
相続税計算のためには相続財産の相続税評価額を明確にする必要があります。そのため、相続税申告の手続きの前に相続財産の評価が必要です。
なお、相続財産のうち預貯金は残高がそのまま評価額となります。相続税申告を自分で行えるような単純な相続、すなわち相続財産が預貯金のみである場合、財産評価の作業は基本的に発生しません。
[手順5]相続税申告書を作成し、期日までに申告・納税する
手順4までの作業がすべて完了すれば、相続税の計算ができる状態になります。期日までに申告・納税ができるよう相続税申告書の作成を進めましょう。
相続税の申告および納付期限は相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です。申告書の提出先および納税先は、被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署です。納税者(相続人)の住所の管轄税務署ではないためご注意ください。
相続税申告を自分で行う場合の注意点

最後に相続税申告を自分で行う場合の注意点を2つ紹介します。
[注意点その1]見落としやすい財産に注意する
相続税申告を正しい内容で行うためには、相続財産を正確に把握する必要があります。少しでも把握漏れや集計ミスがあれば、税額がズレてしまうため注意が必要です。
特に以下の財産は見落としやすく、計算ミスの原因になりがちです。
|
財産 |
補足説明 |
|
みなし相続財産 |
死亡退職金、死亡保険金など |
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非課税財産 |
墓石、仏壇、仏具などの日常礼拝をしている物、一定の要件を満たす寄附金など |
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葬式費用 |
マイナスの財産としてプラスの財産から差し引けます |
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生前贈与 |
一部の生前贈与は相続税の計算に含める必要があります |
なお前述のように、課税対象となる生前贈与がある場合は、自分で相続税申告を行うのは避けるのが無難です。
相続税申告を自分1人で行う場合、相続財産の把握漏れについて指摘してくれる人は存在しません。相続財産の見落としがないよう入念な確認が必要です。
[注意点その2]配偶者と一親等の直系血族以外は2割加算の対象になる
相続人が配偶者と一親等の直系血族以外の場合、相続税の2割加算が適用されます。2割加算の対象者は、税額控除前の相続税額に0.2を乗じて計算した額を相続税額に上乗せする必要があります。
2割加算の適用を忘れてしまうと過少申告となり、ペナルティの対象になってしまうため注意しましょう。
相続税申告は難易度が高い。税理士に依頼するのが安心
相続税は細かなルールが定められている上、申告書の作成にあたって行うべき作業が多岐にわたります。相続が複雑になればなるほど作業量が増えてミスのリスクが高くなるため、自分で行うのは避けるのが無難です。
相続内容がごく単純で手続きが少なく済む場合を除き、相続税申告を自分で行うことはおすすめできません。最低でも「相続人が1人」「相続財産が預貯金のみ」「相続税の課税対象となる生前贈与をしていない」「必要に応じて自分で税務署に訪問できる」の4つを満たすべきといえます。
4つのうちどれか1つでも条件を満たさない場合や、少しでも疑問や不安がある場合は、専門家である税理士に相談しましょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。





