遺産相続で連絡が来ない場合の対処法とは?放置するリスクも解

遺産相続で連絡が来ない場合の対処法とは?放置するリスクも解

親族が亡くなった後に遺産相続の連絡が来ないと、手続きの状況や自分が相続できるのかについて不安を感じるのではないでしょうか。連絡がない状態を放置すると、本来受け取れるはずの遺産を取得できなくなったり、予期せず借金を背負ったりする危険があります。

この記事では、遺産相続の連絡が来ないことを放置する危険性や連絡をとる方法について紹介します。連絡がないまま手続きが進行していた場合の対処法も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

そもそも遺産相続の連絡は誰から来る?

相続に関する連絡は「他の相続人の代表者」または遺言書がある場合には「遺言執行者」から来ることが一般的です。それぞれのケースについて紹介します。

他の相続人(配偶者や子など)の代表者

遺言書や遺言執行者がいない場合、相続人のうち一人が代表者になり、連絡や実務を担います。配偶者や同居していた子など、近しい親族が務めることが多いです。

代表者は相続人同士の窓口として、資料収集や日程調整、協議の呼びかけを行います。ただし、相続人同士が疎遠であったり、代表者が多忙であったりすると連絡が滞る可能性があります。さらに、悪意から特定の相続人を外そうとする不公平な進め方が行われるケースもあり得ます。

連絡が来ない背景には、相続人同士の関係の希薄さや代表者の対応の遅れ、偏りなど様々な事情が影響していると考えられます。

遺言書で指定された遺言執行者

故人が有効な遺言書を残し、遺言執行者が指定されている場合、相続に関する連絡は遺言執行者から届きます。遺言執行者とは、遺言内容を実現する権限を持つ人のことです。相続人の代表者に限らず、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることもあります。

遺言執行者は就任後、速やかに相続人全員へ内容を通知し、財産目録の作成や名義変更、遺贈の履行などを進める必要があります。

しかし、遺言書の所在確認に時間がかかっている、遺言執行者が就任を承諾していないなどの理由で手続きが進まない場合もあるでしょう。遺産相続の連絡が来ないときは、遺言執行者が正式に動ける状態にないという理由が背景にあると考えられます。

遺産相続の連絡がないまま放置する5つのリスク

リスク

遺産相続に関する連絡が来ない状況を放置し続けると、経済的な不利益を被るだけでなく、法的な権利を失う可能性もあります。

ここでは、相続の連絡がない状態を放置した場合に起こりうる5つのリスクについて解説します。

  1. 本来もらえるはずの遺産を取得できなくなる
  2. 相続放棄の期限(3ヵ月)を過ぎて借金を背負う可能性がある
  3. 相続税の申告が遅れて追徴課税される恐れがある
  4. 遺産を他の相続人に勝手に処分されてしまう
  5. 最低限の遺産を請求する権利(遺留分)が時効になる

[リスク1]本来もらえるはずの遺産を取得できなくなる

相続の連絡がないまま放置すると、本来受け取れるはずの遺産を失う恐れがあります。

遺産分割は本来、相続人全員の合意がなければ成立しません。欠けた状態での協議は無効です。しかし、気付かない間に預貯金の払戻しや不動産の名義変更といった既成事実が積み重なれば取り戻すのは難しくなります。

例えば、相続口座の資金が他の相続人によって引き出された後では、使途を特定するのは困難です。不当利得返還請求を行う場合でも、立証に多大な時間と費用がかかり、現実には回収できない可能性があります。

遺産相続の連絡がないまま放置すると、法定相続分を受け取る機会を逃してしまいかねません。

[リスク2]相続放棄の期限(3ヵ月)を過ぎて借金を背負う可能性がある

遺産にはプラスの財産だけでなく借金も含まれるため、連絡がないまま放置すると知らないうちに故人の借金を背負う危険があります。

故人に多額の負債がある場合、家庭裁判所で相続放棄(相続人としての地位を最初から失う手続き)を行えば返済義務を免れます。ただし、相続放棄の期限は「相続開始を知った日」から原則3ヵ月と決まっており、期限を過ぎると放棄は難しくなるのです。さらに、相続財産に手を付ければ、相続を承認した扱いとなり放棄は認められません。

借金の存在に気付かず、督促状で初めて知るケースも珍しくありません。すでに期限が過ぎていれば原則放棄はできず、結果的に借金を引き継いでしまいます。

相続放棄の期限は短いため、早めに負債の有無を確認しましょう。連絡がないからといって放置すると取り返しのつかない不利益につながります。

参考:相続の放棄の申述 | 裁判所

[リスク3]相続税の申告が遅れて追徴課税される恐れがある

遺産相続を放置すると相続税の申告期限を過ぎてしまい、追徴課税につながることがあります。

遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合には、相続税の申告と納税が必要です。納税の期限は、被相続人の死亡翌日から10ヵ月以内と決められており、期限を過ぎると無申告加算税や延滞税が課されます。

例えば「他の相続人が手続きを進めていると思っていた」としても、申告義務は各相続人が個別に負っているのです。自分が動かなければ、余計な税負担を抱えるリスクがあります。

参考:No.4205 相続税の申告と納税|国税庁

[リスク4]遺産を他の相続人に勝手に処分されてしまう

相続の手続きを放置すると、他の相続人が遺産を無断で処分し、取り返しのつかない状況になる恐れがあります。

遺産分割が終わるまでは、相続財産は相続人全員の共有です。したがって、故人名義の預貯金を引き出したり、不動産や株式を勝手に処分したりする行為は、相続人全員の同意を要する行為に反します。法的には無断処分は無効ですが、実際には既成事実が積み重なると、後から権利を回復するのは難しくなるのです。

例えば、不動産が第三者へ売却され登記移転が進むと、権利関係が複雑化し、取り戻すには多大な時間と費用がかかります。連絡がないまま放置すると、解決には時間、労力、費用が余計にかかり、かえって長期化しかねません。

[リスク5]最低限の遺産を請求する権利(遺留分)が時効になる

遺産相続を放置すると、本来法律で保障された最低限の取り分である遺留分を請求できなくなる問題があります。

遺言で「特定の相続人に全財産を承継させる」と記されていても、配偶者や子ども、直系尊属には遺留分が認められています。遺留分を金銭で取り戻すのが遺留分侵害額請求権です。ただし権利には期限があり、相続開始と侵害事実を知った時から1年、知らなくても10年で時効により消滅します。

例えば、遺言によって兄弟の一人に全財産が相続されたとしても、他の相続人には遺留分を主張する余地があります。しかし、連絡がないまま放置すると時効にかかり、不公平な内容でも請求ができなくなるリスクがあるのです。自ら積極的に動くことで、法的権利を確実に守りましょう。

遺産相続の連絡が来ないときにやるべきこと

遺産相続の連絡が来ない場合、ただ待つだけでは状況は改善しません。自身でも行動を起こしましょう。

まずは最初にすべきことは、故人の死亡を法的に確認することです。そして、相続が発生するのか自身が相続人になるのかを確認しましょう。

以下より、それぞれの手順について解説をします。

故人の戸籍謄本を取得して相続の発生を確認する

親や兄弟など近しい人が亡くなったら、まず故人の本籍地の役所で、死亡の事実が記載された戸籍謄本(除籍謄本など)を取得します。これにより、相続が発生しているかを確認することができます。

本籍地が不明な場合は、故人の住民票(本籍地がはいったもの)を取得して本籍地を調べます。

連続した戸籍謄本を集め、自身が相続人であるかを確認する

相続の発生が確認できたら、故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を集めます。

通常、戸籍は結婚や離婚、本籍地の変更(転籍)などにより、1通ではなく複数の種類の戸籍に分けられています。これらをまとめたのが、戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)です。

この出生から死亡までの連続した戸籍謄本によって法定相続人が誰であるかが分かります。

役所の窓口で「相続手続きに必要なため、出生から死亡までの連続した戸籍謄本をすべて発行してください」と伝えるとスムーズです。

遺産分割の際はほかの相続人についても調べる

自身が相続人であることを知ると同時に、そのほかの相続人についても確認をしましょう。

遺産分割を進めるには、相続が開始した事実と相続人の範囲を確定させることが欠かせません。戸籍謄本は出生から死亡までの記録を参照できるため、相続人の範囲を正確に把握できます。婚姻歴や認知の有無も分かるため、兄弟以外の相続人がいる可能性も確認可能です。

例えば、故人が過去に認知した子がいた場合、その人も相続人になります。戸籍を漏れなく集めることで「後から知らない相続人が出てきて協議がやり直しになる」といったトラブルを防げるでしょう。

このように、自身が相続人であることを確認するだけでなく、ほかの相続人についても確認をしておくことは重要です。戸籍で相続人を確認することが相続手続きの一歩となります。

知らない間に遺産分割が進められていた場合の対処法

自身が相続人であるかを知った時点で、すでに他の相続人によって遺産分割協議が進められていたのが判明する場合があります。あるいはすでに完了していたのが明らかになる場合もあるでしょう。

ここでは、知らない間に遺産分割が進められていた場合の3つの対処法を段階的に紹介します。

  1. 遺産分割協議の無効を主張し、やり直しを求める
  2. 当事者間の話し合いで解決しない場合は遺産分割調停を申し立てる
  3. 最終手段として遺産分割審判や訴訟を提起する

1.遺産分割協議の無効を主張し、やり直しを求める

遺産分割協議は、相続人全員が参加し、全員の合意があって初めて有効になります。一人でも欠けていれば協議書や合意は無効になるため、まずはその点を他の相続人に明示し、協議のやり直しを求めましょう。

やり直しを求める際は、内容証明郵便を配達証明付きで送りましょう。記載内容には協議が無効であることと、改めて協議に参加する意思があることを示しておきましょう。

たとえ連絡が途絶える場合でも、無効を主張した事実を記録に残すのが大切です。後日の調停・審判や交渉の場で、無効主張の事実とその時期を客観的に立証できます。

2.当事者間の話し合いで解決しない場合は遺産分割調停を申し立てる

協議のやり直しに応じない、または感情的な対立で合意できない場合は、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てます。

調停は、裁判官と調停委員(民間の有識者)が中立の立場で双方の主張を整理し、合意案を提示して解決を目指す制度です。当事者だけの協議よりも冷静に論点を整理できる場が整っています。

多くの場合、相手と同席せず交互に話を聞く形式で進められるため、直接のやり取りより感情的な衝突を避けやすく配慮されています。

申立先は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。申立書、相続関係説明図、戸籍一式、財産目録などを提出し、収入印紙と郵便切手を納付します。

合意に至れば調停調書が作成され、判決と同じ効力を持ち、未履行の場合には強制執行も可能です。早めに証拠資料を整えて臨みましょう。

3.最終手段として遺産分割審判や訴訟を提起する

相続人同士の協議や調停で合意できない場合、最終手段として遺産分割審判や訴訟に進みます。

調停が不成立に終わると、手続きは自動的に遺産分割審判へ移ります。審判では、裁判官が相続人の主張や提出資料、評価書を踏まえ、法律に基づいて分割方法を決定します。これは当事者の合意ではなく裁判所の判断によるもので、作成される審判書は判決と同じ効力を持ちます。不服があれば、原則2週間以内に即時抗告が可能です。

また、遺産の範囲や相続人資格そのものが争点となる場合は、地方裁判所で確認訴訟など民事訴訟を提起する方法もあります。連絡不能な相手に対しても裁判所が送達(必要に応じて公示送達)を行い、手続きを進行可能です。

実務では、審判や訴訟に備えて評価資料、取引履歴、相続関係書類を早めに整理しておくことが欠かせません。ただし、遺産分割審判や訴訟は時間と費用を要するため、あくまで最終手段と考えましょう。

相続人同士での解決が難しいなら専門家への相談がおすすめ

法律

戸籍謄本の収集や相続人の住所調査、手紙での連絡、遺産分割協議の申入れまでを自力で進めるには、多くの時間と労力がかかります。関係が悪化している相手や非協力的な相続人がいる場合は、精神的負担も大きくなりがちです。

そのため、連絡が取れない、話し合いが進まないと感じた時点で専門家へ相談するのをおすすめします。

例えば、弁護士は交渉・調停・審判・訴訟まで代理できる法律の専門家です。戸籍収集や内容証明の送付、払戻し停止や仮差押えといった保全手続の要否判断まで一貫して対応します。

税理士は相続税・所得税など税務の専門家です。相続税申告と遺産評価の実務、分割案ごとの税額シミュレーションなど、相続手続きを税務面から総合的に支援します。

小谷野税理士法人では、会計・税務に加え、外部の弁護士と連携して遺産分割や交渉局面にもワンストップで対応可能です。「まず何から始めればいいか」を一緒に整理し、必要に応じて弁護士への橋渡しまで伴走します。

まとめ

親族が亡くなった後に遺産相続の連絡がない場合、放置することには多くのリスクが伴います。連絡がない状況が続けば、相続放棄の機会を失って借金を背負ったり、知らないうちに遺産が第三者に渡ってしまったりする可能性があります。

まずは故人の戸籍謄本を取得して相続関係を正確に把握し、他の相続人に連絡を取るなど、具体的な行動を起こすことが欠かせません。ご自身だけでの対応が難しい場合や他の相続人との間でトラブルに発展した場合は、速やかに専門家に相談しましょう。

連絡がないからと諦めず、ご自身の正当な権利を守るために適切な対処を進めていきましょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。