相続放棄を勝手にされたらどうする?無効にするための対処法

相続放棄を勝手にされたらどうする?無効にするための対処法

もし親族が亡くなり、あなたの知らない間に相続放棄されてしまっていたら不安になりますよね。しかし、あなたの知らない間に勝手に行われた相続放棄は、原則として無効のため、焦る必要はありません。

本記事では、勝手に相続放棄された状況を紐解き、具体的な対処法を分かりやすくお伝えします。

相続放棄を勝手にされる状況は2つある

「相続放棄を勝手にされた」という状況は、大きく分けて2つのパターンに分類できます。ひとつは家庭裁判所での相続放棄の申述を勝手に行われたパターン、もうひとつは遺産分割協議を勝手に終えられたパターンです。それぞれの状況について詳しく見ていきましょう。

家庭裁判所での相続放棄を勝手に行われたパターン

親族があなたに代わって家庭裁判所に「相続放棄の申述書」を提出してしまったケースです。

法的な「相続放棄」について詳しくは後述しますが、原則として本人が書類を準備し、家庭裁判所に提出しなければなりません。親族であっても勝手に手続きを行う状況は考えにくいですが、稀に書類の偽造や印鑑の不正使用を伴う悪質なケースも存在します。

遺産分割協議を勝手に終えられたパターン

遺産分割協議とは、相続人全員で亡くなった方の財産をどのように分けるかを話し合うことです。しかし、相続人の中に疎遠な方や不仲な方がいる場合、特定の相続人抜きで話し合いを進めてしまう場合があります。知らない間に「何も相続しない」という内容で遺産分割協議書が作成されてしまうのです。

親族と疎遠な場合、自分が相続人となったことさえ知らないまま遺産分割協議が終わっているケースもあります。勝手に相続放棄されてしまったパターンの多くは、このような遺産分割協議の問題であり、法的な相続放棄は行われていません

相続放棄とは?その効果と手続きについて

相続放棄

法的な相続放棄には家庭裁判所での手続きが必要です。「相続放棄する」と宣言したり、遺産分割協議書に書いたりするだけでは、法的な相続放棄の効果は発生しません。

ここでは、相続放棄の効果と手続きについて詳しく解説します。

相続放棄の法的効果

相続放棄すると、あなたは最初から相続人ではなかったことになります。亡くなった方の財産を受け継ぐ権利を失うと同時に、借金の返済義務もなくなるのです。相続放棄をするために他の相続人の許可を得る必要はなく、相続人それぞれの判断で行えます。

親族と不仲で相続に一切関わりたくない場合や、亡くなった方に多額の借金があり引き継ぎたくない場合などに選ばれることが多いです。

相続放棄の手続き

相続放棄をするには、相続人自身が、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄の申述」をします。その後、家庭裁判所から届く照会書に回答し、正式に受理されると相続放棄が成立します。

相続放棄ができる期間は、「自己のために相続が開始したことを知ったとき」から3ヵ月以内です。「知ったとき」は通常、被相続人が亡くなった日を指します。しかし、何らかの理由で亡くなったことを後から知った場合は、知った日からカウントします。

3ヵ月の期間を「熟慮期間」と呼び、この期間を過ぎると、原則として相続を承認したとみなされ相続放棄はできません。ただし、特別な事情がある場合は期間延長が認められることもあります。

勝手にされた相続放棄は有効なのか?

結論、あなたの知らない間に勝手に行われた相続放棄は基本的に無効です。「家庭裁判所で手続きをされたパターン」であっても、「遺産分割協議で何ももらえないパターン」であっても、法的に無効を主張できる余地が十分にあります。

勝手な手続きが無効とされる理由

勝手におこなわれた相続放棄や遺産分割協議が無効となるのは、本人の意思表示を欠いているためです。例えば、あなたが知らない間に誰かがあなたの名前で借金の契約書にサインしても、その契約が成立しないのと同じことです。

相続放棄も、あなたが「財産はいらない」と決める意思表示であり、本人の意思がなければ法的に成立しません。無効であることを後から証明できれば、一度受理された手続きであっても効力が否定されます。

親族が親切心で進めた手続きも無効になる

親族がよかれと思って手続きを進めたとしても、あなたの承諾がなければ無効の主張が可能です。例えば、「借金を背負わせたくない」「遠方に住んでいるあなたに手続きの負担をかけたくない」といった親切心から勝手に手続きを進めてしまうケースもあります。

しかし、有効性の判断においては勝手に手続きを行った動機は関係ありません。悪気はなかったと言われても、同意していない事実を毅然と主張することが大切です。

相続放棄がされたことを確認する方法

「相続放棄を勝手にされたかもしれない」と思ったら、まずは焦らずに事実関係を確認することが大切です。冷静に状況を把握するために、以下の方法を試してみましょう。

家庭裁判所に相続放棄の有無を照会する

亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、相続放棄の申述の有無についての照会を行います。亡くなった方の最後の住所地は、住民票の除票や戸籍の附表で調査が可能です。

照会が受理されると、裁判所から書面で回答が送られてきます。あなたの名義で相続放棄の手続きが受理されていた場合、相続放棄が受理された事実と受理年月日が記載されているはずです。

回答書で相続放棄の事実が判明した場合、家庭裁判所に「相続放棄受理証明書」の交付を請求しましょう。これは相続放棄が確かに受理されたことを公的に証明する書類であり、後の法的手続きを進める上で重要な証拠となります。

財産の名義を確認する

あなたが知らない間に遺産分割協議が終えられていることを確かめるには、財産の名義変更が完了しているかを確認する方法があります。

亡くなった方が不動産を所有していた場合、法務局で登記事項証明書を取得してみましょう。亡くなった日付で「相続」や「遺贈」を原因とした所有権移転があれば、遺産分割協議書などを法務局に提出して手続きした証拠になります。

預貯金の場合も、金融機関に残高証明書や取引明細書(入出金履歴)の開示を請求できます。他の相続人が勝手に協議を終えていた場合、預貯金を解約して引き出している可能性が高いでしょう。亡くなった日以降に不自然な高額の引き出しや、口座の解約がないかを調べましょう。

財産の名義変更が完了していることは、他の相続人があなたの同意を得ずに勝手に手続きを進めたという動かぬ証拠です。後の法的手続きで無効を主張するための重要な証拠となるため、取得した書類などは保管しておきましょう。

親族に確認する

他の相続人や親族に直接確認すると決定的な情報を得られる可能性があります。もし可能であれば、亡くなった方の財産を管理していた人や、財産を多く受け取ったと思われる人に連絡してみましょう。

「勝手にやったでしょう」と感情的に問い詰めるのではなく、「相続の手続きはどこまで進んでいますか?」と現状を尋ねる体で切り出すのが賢明です。

ただし、直接の確認は「言った言わない」の水掛け論になりがちで、相手が嘘をつく可能性もあります。そのため、確認の際は録音を取ったり、メールや書面など記録に残る形でやり取りをしたりすることをおすすめします。

親族間の関係悪化を避けるためにも、証拠を集めつつ、最終的には弁護士など専門家の力を借りることも視野に入れましょう。

勝手な相続放棄の無効を主張する方法

税理士に主張をするイメージ

事実確認の結果、やはり勝手に手続きをされたと判明した場合、手続きの無効を主張し、相続権を回復する方法があります。相続放棄を無効にする場合と遺産分割協議を無効にする場合で対処法が異なるため、それぞれ確認していきましょう。

相続放棄の無効主張と取消し

家庭裁判所にあなたの名義で勝手に相続放棄の手続きをされてしまった場合、対応策はあなたの状況によって異なります。

あなたが知らない間に第三者が勝手に書類を偽造して手続きをした場合、相続放棄は法律上無効となります。しかし、一般的には相続放棄の無効を確認する裁判を単独で起こすのは認められません。

遺産分割調停や、他の相続人または債権者からの請求訴訟などの具体的な争いの場で「相続放棄は無効だ」と反論として主張し、裁判官に認めてもらう必要があります。

一方、詐欺や脅しによって、やむなく自分で手続きをしてしまった場合は、家庭裁判所に「相続放棄取消しの申述」を申し立てます。ただし、詐欺や強迫があったことの証明が必要です。取消しができるようになってから6ヵ月以内、または相続放棄から10年以内の期限内に申述しましょう。

いずれのケースでも、勝手に手続きをされたことや、詐欺・強迫があったことを証明するための証拠集めが重要です。手続きは複雑で専門的な判断が必要なため、弁護士に相談して適切な対応を始めることを強くおすすめします。

遺産分割協議を無効とする場合

あなたの知らないところで遺産分割協議が行われ、勝手に相続放棄したことになっていた場合は、遺産分割協議の無効を主張できます。

まず、他の相続人に対し、遺産分割協議にはあなたが参加しておらず、合意もしていないため、無効(または不存在)であることをはっきりと伝えます。内容証明郵便など送った記録が残る方法で行うのが確実です。

他の相続人が無効を認めず、話し合いが進まない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。裁判所が間に入ることで、遺産分割のやり直しに向けた話し合いを進められます。

調停でも解決に至らない場合は、地方裁判所などに「遺産分割協議無効確認の訴え」や、協議の存在そのものを否定する「不存在確認の訴え」を提起し、裁判官に判決を出してもらいます。無効や不存在の判決が確定すれば、遺産分割協議は初めからなかったことになります。

この種のトラブルは、他の相続人があなたの署名や押印を偽造していたなど、複雑な問題が絡んでいることが多いです。無効を主張するためには、あなたが合意していないという確かな証拠が求められます。問題が発覚したらすぐに弁護士に相談し、適切な法的手続きを踏むのが望ましいです。

まとめ

「相続放棄を勝手にされた」というケースは、家庭裁判所での相続放棄をされたパターンと、遺産分割協議に参加させてもらえなかったパターンの2つに大別されます。いずれの場合も、本人の意思に基づかない手続きは法的に無効となる可能性が高いです。

法的な対応が必要なため、一人で悩まずに信頼できる弁護士に相談することが、早期解決への近道です。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
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