1億2000万円の相続税はいくら?遺産分割や計算方法を解説
多額の遺産を相続する場合に気がかりなのが、相続税額がいくらになるのかという点です。本記事では、1億2,000万円の財産を相続する場合にかかる相続税額を紹介しています。また、基本的な遺産分割のルールや相続税額の計算方法も併せて解説していきます。
1億2,000万円の相続税額は?
1億2,000万円の財産を相続すると、どのくらいの相続税を課せられるのでしょうか。具体的な税額を知る前に、基本的な相続税の計算方法と相続のルールについて確認しておきましょう。
目次
基本的な相続税の計算ステップ
相続税の計算は、原則として以下のような流れで行います。
- 亡くなった方の財産の総額を計算する
- 課税対象となる財産の総額を求める
- 課税対象となる財産を法定相続割合に則って分割する
- 相続人に課せられる税額を計算する
- 各種控除を適用し、納付額を算出する
相続が生じると、まずは亡くなった方の財産の総額を確定させなければなりません。財産の総額というのは単純に手元にある財産だけではなく、亡くなる前7年間に行われた生前贈与も含まれます。また、税金の未納分や借金などの負債も相続財産に含まれるため、これらをすべて洗い出さなければなりません。
すべての財産を洗い出せたら、財産の総額から基礎控除額を差し引いて課税対象となる財産の総額を求めます。その後、法定相続分に則って財産を分割して税額を算出します。この時に算出した相続税額を、実際に相続する割合で分割することで各人の相続税額が分かるのです。
相続人が控除を利用できる場合は、相続税額から控除額を差し引いて納付額を算出しましょう。
法定相続人と相続割合
亡くなった方の財産を相続できるのは、民法によって定められた法定相続人のみとなっています。法定相続人になれるのは配偶者や子ども、親などです。相続が発生すると、民法で定められた順位と割合に則って財産を分割し、引き継ぐことになります。
具体的な順位および割合は以下の通りです。
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相続順位 |
続柄 |
相続割合 |
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常に相続人になる |
配偶者 |
他の相続人の組み合わせによる |
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第一順位 |
子ども |
1/2 |
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第二順位 |
親 |
1/3 |
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第三順位 |
兄弟姉妹 |
1/4 |
まず、亡くなった方に配偶者がいる場合は必ず相続人になります。その他の相続人は、子どもがいる場合は「配偶者+子ども」、子どもがいない場合は「配偶者+親」というように分割します。
ただし、子どもがすでに亡くなっており孫がいる場合は、親ではなく孫が第一順位の相続人となり、相続権をもつことになります。この仕組みを代襲相続と呼びます。直系卑属の場合は下の世代がいる限り代襲相続が続きますが、兄弟姉妹の場合は甥や姪まででそれより下の世代には引き継がれません。また、直系尊属となる親には代襲相続はありません。
基礎控除の計算方法
相続税には、財産の総額から一定額を差し引ける基礎控除が設けられています。
相続税の基礎控除額の計算式は、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)です。例えば、配偶者と子ども1人で相続する場合は、3,000万円+(600万円×2)=4,200万円が控除額となるのです。
相続税額が安くなる特例とは?

相続税には、基礎控除の他にも税額が抑えられる特例が設けられています。以下では、配偶者控除や小規模宅地の特例など、相続税に適用できる特例について解説していきます。
相続税の配偶者控除
相続税の配偶者控除とは、一定の条件を満たす配偶者が財産を相続する際に利用できる制度のことを指します。配偶者控除の対象となる具体的な条件は以下の通りです。
- 婚姻関係のある配偶者である(内縁関係は不可)
- 財産を引き継ぐ方法や内容が決まっている
- 相続税を申告すること
上記の条件を満たしている場合は、1億6,000万円または法定相続分いずれか金額が高いほうの金額まで相続税が非課税となります。
小規模宅地等の特例
小規模宅地の特例とは、亡くなった方が住んでいた土地を配偶者もしくは同居人が相続した場合に利用できる特例のことを指します。この特例を利用すると、相続税を算出する際の評価額が最大で80%まで減額されるのです。
特例を利用する場合は、土地の区分ごとに設けられた要件を満たさなければなりません。本制度についてより詳しく知りたい場合は、以下の関連記事を参考にしてください。
未成年者控除・障害者控除
相続人が未成年者の場合に利用できる控除を未成年者控除と呼びます。未成年者控除では、満18歳になるまでの年数×10万円を控除できる仕組みになっています。例えば、10歳の方が相続する場合は10万円×8年=80万円を控除できるのです。
相続人が85歳未満かつ障害者の場合に利用できる特例を障碍者控除と言います。具体的な控除額は満85歳になるまでの年数×10万円です。ただし、制度を利用する人が特別障害者に該当するケースでは、控除額が満85歳になるまでの年数×20万円に増額されます。
本制度を利用するための条件は以下の通りです。
- 日本在住の人
- 相続発生時に障害者である
- 法定相続人である
障害者控除は、上記の条件をすべて満たす場合にのみ利用できます。
1億2,000万円の具体的な計算方法
では、1億2,000万円の財産を相続する場合の相続税額はいくらになるのでしょうか。以下では、様々な相続人の組み合わせによる具体的な計算方法を解説していきます。
配偶者のみの場合
配偶者のみで1億2,000万円の財産を相続する場合の税額は以下の通りです。
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計算する項目 |
計算方法 |
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課税対象となる金額 |
1億2,000万円-3,000万円+(600万円×1)=8,400万円 |
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法定相続分に応じた税額 税率30%/控除額700万円 |
(8,400万円×30%)-700万円=1,820万円 |
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実際の税額 |
1,820万円×(8,400万円÷8,400万円)=1,820万円 |
配偶者1人で1億2,000万円の財産を引き継ぐ場合の相続税額は1,820万円です。しかし、配偶者は配偶者控除が利用できます。このケースでは、控除上限額である1億6,000万円の範囲内に収まっているため相続税はかかりません。
配偶者+子どもの場合
配偶者と子ども1人で相続する場合の法定相続人は2人です。そのため、税額の計算は以下のように行います。
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計算する項目 |
計算方法 |
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課税対象となる金額 |
1億2,000万円-3,000万円+(600万円×2)=7,800万円 |
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法定相続分に則って分割する |
配偶者 2分の1 |
7,800万円×1/2=3,900万円 |
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子ども 2分の1 |
7,800万円×1/2=3,900万円 |
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法定相続分に 応じた税額 税率20% 控除額200万円 |
配偶者 |
(3,900万円×20%)-200万円=580万円 |
|
子ども |
(3,900万円×20%)-200万円=580万円 |
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相続財産全体に課せられる税金 |
580万円×2人分=1,160万円 |
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実際の税額 |
配偶者 |
1,160万円×(3,900万円÷7,800万円)=580万円 |
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子ども |
1,160万円×(3,900万円÷7,800万円)=580万円 |
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つまり、今回のケースでは配偶者と子どもはそれぞれ580万円の税金を支払うことになります。ただし、配偶者控除を利用する場合は控除の上限額に収まっているため、配偶者については非課税となります。この場合、子どものみが580万円の税金を納めることになります。
上記では法定相続分通りに相続した場合の計算となりますが、必ずしもその通りに相続するとは限りません。例えば、配偶者が5,000万円、子どもが2,800万円相続する場合は以下のように計算します。
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1,160万円×(5,000万円÷7,800万円)/1,160万円×(2,800万円÷7,800万円) |
相続税を計算する際には、いったん法定相続分通りに分割したと仮定して全体の税額を求めることになります。また、子どもが複数人いる場合は、子どもの法定相続割合の2分の1を子どもの人数で等分します。
配偶者+両親の場合
亡くなった方に子どもがいない場合は、第二順位の親が相続人になります。配偶者+両親で相続する場合の法定相続人の数は3人です。そのため下記のように計算します。
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計算する項目 |
計算方法 |
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課税対象となる金額 |
1億2,000万円-3,000万円+(600万円×3)=7,200万円 |
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法定相続分に則って分割する |
配偶者 3分の2 |
7,200万円×2/3=4,800万円 |
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親 1人につき6分の1 |
7,200万円×1/6=1,200万円 |
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法定相続分に応じた税額 |
配偶者
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(4,800万円×20%)-200万円=760万円 |
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親
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(1,200万円×15%)-50万円=130万円 |
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相続財産全体に課せられる税金 |
760万円+(130万円×2)=1,020万円 |
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実際の税額 |
配偶者 |
1,020万円×(4,800万円÷7,200万円)=680万円 |
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子ども |
1,020万円×(1,200万円÷7,200万円)=170万円 |
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つまり、今回のケースでは配偶者は680万円、両親はそれぞれ170万円の税金を支払うことになります。ただし、今回のケースでも配偶者控除を利用することで配偶者の相続税は非課税となります。
配偶者+兄弟姉妹の場合
亡くなった方に子どもも両親いない場合は、第三順位の兄弟姉妹が相続人になります。亡くなった方に3人の兄弟がおり、配偶者+兄弟3人で相続する場合の法定相続人の数は4人です。
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計算する項目 |
計算方法 |
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課税対象となる金額 |
1億2,000万円-3,000万円+(600万円×4)=6,600万円 |
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法定相続分に則って分割する |
配偶者 4分の3 |
6,600万円×3/4=4,950万円 |
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兄弟 1人につき12分の1 |
6,600万円×1/12=550万円 |
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法定相続分に 応じた税額 |
配偶者
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(4,950万円×20%)-200万円=790万円 |
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兄弟
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550万円×10%=55万円 |
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相続財産全体に課せられる税金 |
790万円+(55万円×3)=955万円 |
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実際の税額 |
配偶者 |
955万円×(4,950万円÷6,600万円)=716万2,000円 |
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兄弟 |
955万円×(550万円÷6,600万円)=79万5,000円 |
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つまり、今回のケースでは配偶者は716万2,000円、兄弟は1人につき79万5,000円の税金を支払うことになります。ただし、今回のケースでも他のケースと同様に配偶者控除を利用することで配偶者の相続税は非課税となります。
相続税を減らすためには贈与が有効

無償で財産を譲る行為を贈与と呼びます。原則として、贈与には贈与税という税金が課せられることになっており、税率は10〜55%に設定されています。しかし、贈与税には年110万円の基礎控除が設けられているため、この範囲内であれば非課税で財産を譲れるのです。
贈与によってあらかじめ財産を譲っておけば、将来相続が生じた際の財産の金額が減ります。相続税の計算は相続財産の金額が基になっているため、贈与によって財産の金額を減らしておくことが結果として相続税の節税になるのです。
たとえば、4,500万円の財産を持っているケースでは毎年110万円の贈与を10回行うと、合計で1,100万円の相続財産を減らせます。贈与を行った場合の相続財産は、4,500万円-1,100万円=3,400万円です。
この財産を1人で相続する場合の基礎控除は、3,000万円+(600万円×1)=3,600万円となります。この場合、相続財産の金額(3,400万円)が基礎控除内に収まっているため、相続税は課されません。
一方、贈与を行わず、相続財産が4,500万円ある場合はどうでしょうか。基礎控除額は変わらないため、4,500万円-3,600万円=900万円に対して相続税が課せられます。相続財産が1,000万円以下の税率は10%であるため、90万円の相続税を納めることになります。
このように、贈与によって財産を減らしておくと、相続時の税負担を抑えることができるのです。
相続税の申告には期限がある
原則として、相続税の申告および納税は財産の持ち主が亡くなった日の翌日から起算して10ヵ月以内に行わなければなりません。この期間内に、亡くなった方が住んでいた地域を担当する税務署に申告を行います。
定められた期間内に申告・納税を行わなければ、ペナルティを受けることになります。具体的には、無申告加算税や延滞税などの追徴課税と特例の利用ができなくなるといった不利益を被ってしまうのです。
期間内に申告を行わなかった場合に課されるのが、無申告加算税です。無申告加算税の税率は、申告したタイミングによって5〜20%に設定されています。
対して、期限内に納税できなかった場合に課せられる税金を延滞税と呼びます。延滞税の税率は、特例基準割合が適用されたとしても2ヵ月以内の場合で年率2%以上、それ以降では年8%以上にもなります。
期限内に申告や納税をしないことは自分の首を自分で締める行為となってしまうため、必ず期限内に手続きを行いましょう。贈与税の支払いは原則として一括で、窓口納付やクレジットカードによって行えます。
期限内に間に合わない場合の対応
期限内に申告したいと考えていても、遺産分割協議などで問題が生じて申告できないケースもあります。基本的にはどのような事情があれ、期限を守らなければなりません。
では、期限内に申告できそうにない場合は、どのように対応すれば良いのでしょうか。
遺産分割が完了していなくても申告する
遺産分割協議が完了していない場合やトラブルが生じている場合は、いったん法定相続分どおりに分割して申告しましょう。正式に遺産分割を行わないまま申告することを未分割申告と呼びます。未分割申告をしておけば、後から小規模宅地の特例なども適用できます。
未分割申告の際には、申告期限後3年以内の分割見込書を提出しなければなりません。正式な遺産分割が済んだら、修正申告を行って正しい税額で納税します。
延納を検討する
延納とは、本来一括で支払わなければならない相続税を分割で納めることを指します。延納が利用できるのは、下記の条件を満たす場合のみです。
- 期限内に申請書類を提出すること
- 相続税が10万円を超えている
- 納付が困難な理由があり、実際に相続税額が高額であること
- 延納する税額とその利子に該当する金額の担保を用意できること
実際に延長できる期間は相続財産に含まれる不動産の割合によって異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。
相続税の計算方法や納税方法を理解して期限内に納めよう
相続税の計算は、相続財産を一度法定相続分で分割したと仮定して税額を算出し、それを実際の相続分で分割することで確定します。単純に引き継いだ財産に税率を掛ける訳ではないというのがポイントです。
一般的には、引き継ぐ財産が高額になるほど税額も上がっていきます。少しでも税額を抑えたい場合は、生前贈与によって財産の金額を減らしておくと節税になります。
相続税の申告や納付が遅れてしまうと、追徴課税の対象となり税額が上がるだけでなく、特例なども利用できずに不利益を被ってしまいます。税金に関する不安や節税についての疑問は、税理士などの専門家に頼ると良いでしょう。
本記事を参考に、相続税の計算方法や納税方法を整理してみてください。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。






