親族間の貸付金は相続財産になる?課税リスクと対策をわかりやすく解説

親族間の貸付金は相続財産になる?課税リスクと対策をわかりやすく解説

親族にお金を貸している場合、そのお金は相続時にどのように扱われるのでしょうか。一見すると単なる家族間のやり取りのようでも、税法上は相続財産として課税対象になるケースがあります。本記事では、親族間貸付金の相続時の扱い、課税リスク、そしてトラブルを防ぐための具体的な対策について解説します。親族への貸付や返済の扱いに不安がある方は、最後までご覧ください。

目次

親族間の貸付金は相続財産になるのか

現金の使い込み

親族に貸したお金も、法律上は単なる「家族間のやり取り」ではなく、相続財産として扱われる資産にあたります。

貸付金は被相続人の「債権」として評価される

税法上、貸付金は「返済を受ける権利」を持つ資産として位置づけられています。たとえ返済が途中であっても、債権として存在する以上、被相続人の財産の一部とみなされます。

相続税の対象となる財産は、「現金・預貯金・有価証券・土地・建物」などに加え、貸付金や特許権、著作権など、金銭に見積もることができる一切のものが含まれるため、親族間での貸し借りであっても、他の財産と同様に相続財産として申告が必要です。

参考:No.4105 相続税がかかる財産|国税庁

参考:No.4205 相続税の申告と納税|国税庁

貸付金債権の相続税評価方法

貸付金債権は、相続の際に「元本の金額」と「利息の金額」を合計した金額で評価されます。

元本+利息=相続税評価額

ただし、この評価を正しく行うには、貸付の実態を客観的に確認できる証拠が必須です。口約束や現金の手渡しのみで済ませていた場合は、金額や利息の根拠を示せず、課税上の判断が難しくなる場合もあるため注意しましょう。

参考:第3節 定期金に関する権利|国税庁

同族会社への貸付金も課税対象となる

被相続人が会社経営者や役員として、自らの会社へ資金を貸し付けていた場合も、その金額は相続税の課税対象です。

会社の帳簿上では「役員借入金」として計上されており、同族会社であっても返済義務が消えません。

仮に会社が返済困難な状況にある場合、税務上は「役員個人が会社に贈与した(みなし贈与)」と判断され、別の税金が発生する可能性もあります。

返済が難しくても原則として相続財産に含まれる

返済が滞っている場合でも、契約書や帳簿に貸付の記録が残っている限り、法的には債権が存在しています。そのため、「返してもらえそうにない」という理由だけで、相続財産から除外することはできません。

回収不能と認められた場合は相続財産に含めなくてよい

ただし、回収が著しく困難であると客観的に認められる場合には、貸付金を相続財産に含めなくても良いとされています。

以下のようなケースが典型例です。

  • 債務者が破産手続や民事再生手続を開始している
  • 特別清算命令や会社更生手続開始の決定を受けている
  • 取引停止処分を受け、事業を6ヵ月以上休業・廃業している
  • 債権者集会で債権の一部切り捨てや棚上げが正式に決定された

このように、法的手続きや第三者が確認できる証拠がある場合には、貸付金の評価を減額または除外できます。

参考:第3節 定期金に関する権利|国税庁

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親族への貸付金が贈与とみなされるケース

現金手渡しの贈与

親族間の貸し借りであっても、内容や実態によっては贈与とみなされる場合があります。どのようなケースで贈与と判断されるのでしょうか。

契約書がない・返済が行われていない場合

親族間でお金のやり取りを行う際に、契約書を交わしていなかったり、実際に返済が行われていなかったりすると、税務署から「返済の意思がなかった」と判断される可能性があります。

その場合、形式上は貸付でも実質的には贈与とみなされ、贈与税の課税対象となる可能性があるので注意しましょう。

無利息や返済期限なしの貸付をしている場合

契約書を作成していても、返済期限を定めていない、あるいは利息を設定していない場合、税務署が「返済の意思が不明確」と判断し、実質的に贈与とみなす場合があります。

特に、親が子どもに生活資金や事業資金を援助するケースでは、形式上は貸付でも実際には返済を求めていないと見なされる可能性が高くなります。

返済の意思や実績が確認できない場合

貸付か贈与かの判断は、最終的には「返済の実態があるかどうか」で決まります。

定期的に返済が行われている、あるいは返済計画や入金記録が確認できる場合には貸付として扱われますが、返済の意思や実績が確認できない場合は贈与と判断される可能性が高くなります

親族間の金銭授受は信頼関係のうえに成り立つものですが、税務上は客観的な証拠が重視されます。「貸した」、「返す」という双方の意思を、第三者が見ても確認できる形で残しておく必要があります。

親族間貸付金に関する税務上の注意点

注意点

親族間でのお金の貸し借りは、信頼関係のうえで行われるため、税務上の扱いを軽く見てしまいがちですが、相続や贈与の場面では貸付金も課税の対象になるため、思わぬトラブルや追徴課税に繋がる場合があります。

親族間の貸付金をめぐって特に注意しておきたい税務上のポイントについて解説します。

未返済でも期限内に相続税を申告・納税する必要がある

返済が終わっていない貸付金であっても、相続財産として申告・納税を行いましょう。被相続人が亡くなった日から10ヵ月以内に、他の財産と同様に貸付金を含めて相続税の申告を行わなければなりません。

「まだ返ってきていないから関係ない」と考えて申告を省略すると、申告漏れや追徴課税の対象になる可能性がある点に注意しましょう。

貸し借りの取り扱いを明確にしてトラブルを防ぐ

親族間の貸し借りを曖昧にしたまま相続を迎えると、相続人同士のトラブルに発展する可能性があります

返済を求めるのか、遺産分割で相殺するのかが不明確だと認識が食い違い、話し合いが難航しやすいです。特に、借りていた人が相続人のひとりである場合は、返済義務と回収権が重なり問題が複雑化します。

こうした混乱を防ぐため、相続前に貸し借りの内容を整理し、書面で方針を明確にしておきましょう。

相続人間の貸し借りが消えても課税対象になる

貸し借りがなくなっても、相続税の課税対象は外れない点に留意しましょう。

例えば、親が生前に子どもへお金を貸していた場合、親が亡くなると、その貸付金を含む親の財産を子どもが相続します。その結果、「貸していた側(親)」と「借りていた側(子)」が同じ人物になるため、民法上の「混同(こんどう)」という状態となり、貸付金の権利は消滅したものとみなされます。

ただし、相続税法では「被相続人が生前に持っていたすべての財産」に税金がかかるため、形式上債権が消えても課税対象には含まれるのです。

「貸し借りがなくなったから税金はかからない」と判断するのは誤りであるため、税務上の取扱いを正しく理解しておきましょう。

参考:民法 | e-Gov 法令検索

参考:相続税法 | e-Gov 法令検索

相続発生後に貸付金が判明した場合は相続財産として申告する

相続の手続きが進む中で、被相続人が誰かにお金を貸していた事実が後で判明するケースがありますが、このような場合でも、貸付金は相続財産に含めて申告しなければなりません

相続税の計算に反映せずに放置すると、申告漏れや過少申告として加算税の対象になる可能性があります。貸付金が判明した時点で、契約書や通帳などをもとに正確な金額を評価し、速やかに修正申告などの対応を行いましょう。

参考:加算税制度(国税通則法)の改正のあらまし  |  国税庁

回収不能として債権放棄を行う場合は贈与とみなされる

貸したお金が返ってこないからといって、「もう返さなくてよい」と債権を放棄すると、税務上は贈与とみなされる可能性があるので注意しましょう

例えば、親が子に貸したお金について返済を免除した場合、「実質的に財産を与えた」と判断され、贈与税の課税対象になるおそれがあります。

このようなトラブルを防ぐには、債権放棄の理由や経緯を明確にし、書面などの証拠を残しておくのが重要です。

貸付金の実態に合わせた評価を誤ると課税リスクが高まる

貸付金は、実際の返済状況や回収の見込みに応じて正しく評価する必要があります。形式的な金額だけで申告すると、実態と異なる評価と見なされ、後に税務調査で修正を求められるケースもあるため注意しましょう

特に、返済が滞っていたり、回収不能の可能性がある場合は、専門家の判断を仰ぎながら、合理的な根拠をもって評価額を決定する必要があります。

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親族間貸付金のトラブルを未然に防ぐための対策

こうした親族間貸付金に関する課税リスクや申告トラブルを防ぐためには、相続が発生する前から準備しておくのが重要です。

税務上の誤解や相続人同士のトラブルを避けるために、事前に行っておくべき具体的な対策を解説します。

契約書を作成して証拠を残す

親族間でお金を貸すときは、必ず契約書を作成して証拠を残しましょう

「家族だから大丈夫」と口約束で済ませると、後に返済の有無や金額を証明できず、贈与とみなされる可能性があるため、貸付金額や利息、返済期限、方法などを明記した「貸付契約書(借用書)」を作り、印紙を貼付して保管するのが重要です。

可能であれば公正証書にしておくと、将来的に法的効力が強まり、税務署からの指摘を防ぐ効果も期待できます。

生前のうちに回収や整理を行い税務リスクを減らす

相続が発生する前に、生前のうちに貸付金を整理しましょう。返済が可能な場合は早めに回収を進め、返済が難しい場合には債権整理や評価見直しなどを検討します。

破産や廃業などで返済不能と判断できる場合は、相続財産の評価を下げられる可能性がありますが、その際には、破産手続書類や債務整理の記録など、客観的な根拠を残しておきましょう。

少額なら生前贈与を活用する

返済が困難な場合は、贈与税の非課税枠(年間110万円)を活用した少額の生前贈与を検討する方法もあります

毎年少しずつ贈与して整理していけば、相続時の貸付残高を減らせます。その際は、贈与契約書を作成し、振込などで実際にお金が動いた証拠を残しておきましょう。

参考:No.4402 贈与税がかかる場合|国税庁

同族会社への貸付金は役員報酬や債権放棄で整理する

会社に貸したお金(役員借入金)は、そのままにしておくと相続や税務で問題になる場合があります。整理の方法としては、主に2つあります。

1つ目は、役員報酬を減らして、その分を会社からの返済に充てる方法です。報酬を一時的に減らせば、会社の資金負担を抑えながら少しずつ返済できるので、結果的に、役員個人の社会保険料や税金を軽減できます。

2つ目は、返済が難しいときに債権(貸したお金の権利)を放棄する方法です。ただし、この場合は会社に「債務免除益」という利益が発生し、課税の対象となる可能性があるので注意しましょう。

どちらの方法も、内容証明郵便で手続きを残すなど、正式な記録を残しておくのが重要です。

参考:No.4424 債務免除等を受けた場合|国税庁

DESを活用して債権を株式化する

会社への貸付金を整理する方法として、「DES(デット・エクイティ・スワップ)」という仕組みを利用するのも1つの方法です。これは簡単に言うと、貸していたお金を会社の株式に変える方法です。

例えば、経営者が会社に1,000万円を貸していた場合、その1,000万円分の返済を受け取る代わりに、会社の株を新しく発行してもらいます。

これにより、会社は借金が減って財務体質が強くなり、経営者側はお金の代わりに自社株を持つ形で資産を引き継げます。さらに、将来的に事業承継税制を活用できるケースもあり、後継者へのスムーズな引き継ぎにも繋がるでしょう。

参考:法人版事業承継税制|国税庁

親族間の貸付金の相続で不安がある方は専門家に相談

親族間の貸付金は、契約書がない、返済が滞っている、債権放棄をしたなどの状況によって、贈与とみなされるリスクや相続財産の評価誤りが起こりやすい分野です。判断を誤ると、追徴課税や親族間のトラブルに発展する可能性もあります。

こうした複雑なケースでは、相続税や贈与税の扱いに詳しい専門家のサポートを受けるのが大切です

小谷野税理士法人では、親族間貸付金の整理や評価、申告手続きまで丁寧に対応し、税務リスクを未然に防ぐサポートを行っています。親族間の貸付金の扱いに不安がある方は、早めに小谷野税理士法人へご相談ください。

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相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。