相続税は分割して払える?延納制度の仕組みをわかりやすく解説

相続税は分割して払える?延納制度の仕組みをわかりやすく解説

相続税は金額が大きくなりやすく、一括での納付が難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。実は、一定の条件を満たせば「延納」という制度を利用して分割払いが可能です。本記事では、相続税の延納制度の仕組みや申請条件、利子税や担保の要件、注意点までをわかりやすく解説します。相続税を一度に支払うのが難しい方や、分割払いを検討している方は最後までご覧ください。

相続税の支払い方法でお悩みではありませんか。

相続税は分割して支払えるのか

現金手渡しの贈与

相続税は原則として一括で納付する必要がありますが、一定の条件を満たす場合には「延納制度」を利用して分割払いが認められます。

相続税は原則一括納付

相続税は、原則として申告期限(相続開始から10ヵ月以内)までに一括で現金納付する必要があります。延納の適用を受けない限り、分割払いは認められません。

参考:No.4205 相続税の申告と納税|国税庁

分割納付が認められる「延納」とは

相続税の納付が難しい場合に、一定の条件を満たすことで分割して支払いできるのが延納制度です。

申請が認められると、税務署の許可を受けて数年から最長20年にわたり分割して納付します。期間中は、税務署から通知されるスケジュールに従い、毎年計画的に相続税を支払わなければなりません。

参考:No.4211 相続税の延納|国税庁

相続税の延納(分割払い)を申請するための条件

チェックポイント

延納を利用するためには、どのような条件を満たす必要があるのでしょうか。相続税の分割払いが認められるための必須条件について解説します。

相続税額が10万円を超えている

延納が認められるのは、納付すべき相続税の金額が10万円を超えている場合に限られます。税額が少ない場合は延納の対象外となり、一括での納付が必要です。延納はあくまで納税の負担が大きい相続人のための制度であり、少額の場合は原則として現金一括納付が求められます。

一括納付が困難である

延納は、「金銭で一度に納めることが困難である」と税務署に認められた場合に限り許可されます。単に資金を準備していないという理由では認められません。

収入・支出の状況や財産の構成などを踏まえ、客観的に一括納付が難しい事情を示す必要があります。

延納税額と利子税に相当する担保を提供できる

延納を希望する場合は、延納税額および利子税に相当する担保を提供しなければなりません。

担保として認められるのは、不動産や有価証券など、価値が安定していて換金が可能な資産に限られ、これらの資産について税務署が審査を行い、許可が下りることで延納が成立します。

特に土地を担保とする場合は、以下3つの条件をすべて満たす必要があるので、事前に評価額や権利関係をしっかり確認しておきましょう。

要件

内容

延納税額に相当する価値がある

土地の評価額が延納税額を下回る場合は担保として認められない

売却が可能である

延納の支払いが滞った際、土地を売却して納付に充てる必要がある

抵当権を設定できる

税務署が土地に抵当権を設定し、延納が履行されない場合に優先弁済を受けられる

申請書類を期限までに提出する

延納を希望する場合は、相続税の申告期限(相続開始から10ヵ月以内)までに申請書を提出する必要があります。期限を過ぎると申請は受理されません。必要書類には申請書や担保明細書、延納理由書などがあり、作成に時間を要するため、早めに準備しましょう。

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相続税の延納(分割払い)の申請手続きについて

相続税の延納(分割払い)を利用するには、申告期限までに必要な書類を整え、税務署へ正式に申請しなければなりません。延納申請の流れと必要な書類について解説します。

申請方法

延納を希望する場合は、相続税の申告期限(相続開始から10ヵ月以内)までに納税地を管轄する税務署へ申請します。

項目

内容

申請先

納税地を管轄する税務署

申請期限

相続税の申告期限(相続開始から10ヵ月以内)まで

審査機関

税務署(資産・担保内容を審査)

結果通知

延納許可後、納付スケジュールが通知される

申請後、税務署が担保や資産状況を審査し、問題がなければ延納が許可され、納付スケジュールが通知されます。

必要な書類

延納の申請を行うには、いくつかの書類を準備する必要があります。主な書類は以下の通りです。

書類

内容

相続税延納申請書

延納を希望する旨を正式に申請する書類。納税者情報、延納額、期間、担保などを記載。

 金銭納付を困難とする理由書

一括納付が困難である具体的な理由を説明。客観的な根拠を明示(資金繰り表など)。

担保関係書類

担保財産の権利・評価を証明する書類(登記事項証明書・評価証明書など)。財産種類により必要書類が異なる。

担保の種類や評価額によって必要な書類が異なるため、税務署の指示に従い、早めに準備を進めましょう。

参考:3 様式集|国税庁

相続税の延納(分割払い)が認められた後の支払い内容

延納が認められると、税務署の許可内容に基づいて分割払いが始まります。延納の期間・利子税・担保の取り扱いについて解説します。

延納期間の上限

延納期間は最長で20年と定められています。実際の期間は、相続財産の内容や支払い能力に応じて税務署が判断します。現金や有価証券など換金しやすい財産が多い場合は5年以内、不動産のように換金に時間がかかる資産が中心の場合は10〜20年の延納が認められる場合があります。

財産構成

延納期間の上限

金銭・有価証券など換金性の高い財産

5年以内

不動産など換金性の低い財産が多い場合

10〜20年以内

混在している場合

構成割合に応じて個別判断

参考:No.4211 相続税の延納|国税庁

利子税率の算定方法

延納を利用すると、分割期間に応じて「利子税」が課されます。利子税率は、国税庁が毎年公表する「延納特例基準割合」に基づいて決まり、財産の構成によっても異なります。

一般的に、不動産の割合が高いほど延納期間は長く、利率は低く設定されます。例えば、不動産が多い場合は年3.6%前後、現金中心の場合は6.0%程度が目安です。延納年数や資産構成ごとに細かく区分されているため、申請時に確認しておきましょう。

区分

延納期間

(最高)

延納利子税割合

(年割合)

特例割合

不動産等の割合が75%以上の場合

①動産等に係る延納相続税額

10年

5.4%

0.6%

②不動産等に係る延納相続税額(③を除く)

20年

3.6%

0.4%

③森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額

20年

1.2%

0.1%

不動産等の割合が50%以上75%未満の場合

④動産等に係る延納相続税額

10年

5.4%

0.6%

⑤不動産等に係る延納相続税額(⑥を除く)

15年

3.6%

0.4%

⑥森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額

20年

1.2%

0.1%

不動産等の割合が50%未満の場合

⑦一般の延納相続税額(⑧、⑨および⑩を除く)

5年

6.0%

0.7%

⑧立木の割合が30%を超える場合の立木に係る延納相続税額(⑩を除く)

5年

4.8%

0.5%

⑨特別緑地保全地区等内の土地に係る延納相続税額

5年

4.2%

0.5%

⑩森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額

5年

1.2%

0.1%

参考:No.4211 相続税の延納|国税庁

担保として認められる財産

延納の担保として認められるのは、評価が安定しており換金しやすい資産に限られます。主な対象は以下の通りです。

  • 国債および地方債
  • 社債その他の有価証券で税務署長が確実と認めるもの
  • 土地
  • 建物、立木、登記される船舶などで、保険に附したもの
  • 鉄道財団、工場財団など
  • 税務署長が確実と認める保証人の保証

一方、日常生活に必要な家財や動産などは担保として認められません。また、担保の内容が不十分な場合には延納の許可が下りない場合もあるため、申請前に税務署へ確認し、適切な資産を提示できるよう準備しておきましょう。

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相続税の延納(分割払い)も困難な場合は「物納」を検討する

延納(分割払い)を利用しても相続税の納付が難しい場合には、現物で納める「物納制度」の利用を検討しましょう。物納が認められる条件・対象財産・注意点について解説します。

物納の条件

物納は、現金納付や延納のどちらも困難な場合に限り認められる特例制度です。不動産や有価証券などで納付できますが、延納を申請したうえで税務署が「資金的に納付が不可能」と判断した場合のみ許可されます。

単に「資金が足りない」という理由では認められず、納付困難であることを客観的に証明する必要があります。

参考:No.4214 相続税の物納|国税庁

物納の対象財産

物納に充てられる財産には優先順位があり、以下の順で扱われます

  1. 不動産、上場株式等
  2. 非上場株式等
  3. 動産

ただし、共有名義の土地や管理が難しい財産は認められない場合があります。申請前に、対象資産が物納として受け入れられるか税務署に確認しておきましょう。

物納が認められないケース

物納は、現金や延納でも納税が難しい場合の最終手段として利用できますが、提出する財産の内容や手続きに不備があると却下されるケースがあります。

特に、換金しにくい・管理が難しい・価値が不安定な財産を提出した場合は認められません。また、書類の不備や提出期限の遅れといった形式的なミスでも不許可となる場合があります。

確実に手続きを進めるためには、申請前に対象財産の適格性と必要書類を入念に確認しましょう。

相続税を延納(分割払い)する際の3つのポイント

相続税を延納で支払う場合には、手続きを円滑に進めるためにいくつか押さえておきたい点があります。以下3つのポイントを確認しておきましょう。

  1. 遺産分割が終わっていなくても申告は必要
  2. 延納の申請は期限内に完了させる
  3. 預貯金払戻し制度を活用して納税資金を確保する

遺産分割が終わっていなくても申告は必要

遺産分割がまだ決まっていない場合でも、相続開始から10ヵ月以内に申告と納付を行わなければなりません

この時点では法定相続分に基づいて一時的に申告・納税し、後日、分割内容が確定したら修正申告をして税額を調整します。申告期限は待てないため、早めに準備を進めるのが大切です。

参考:B1-27 相続税及び贈与税の更正の請求手続|国税庁

延納の申請は期限内に完了させる

延納を利用する場合でも、申告期限までに申請書を提出しなければなりません

期限を過ぎた申請は原則として認められず、延滞税や加算税の対象になる可能性があります。延納を検討している場合は、必要書類を早めに準備し、余裕をもって申請手続きを行いましょう。

参考:No.2024 確定申告を忘れたとき|国税庁

預貯金払戻し制度を利用して納税資金を確保する

遺産分割が未完了の状態でも、「預貯金払戻し制度」を利用すれば、金融機関から被相続人名義の預金の一部を引き出して相続税の納付資金に充てられます

この制度では、「相続開始時の預貯金残高 × 1/3 × 法定相続分」の範囲内で払い戻しが可能(同一の金融機関からの払戻は150万円が上限)とされており、家庭裁判所の手続きを経ずに金融機関の窓口で対応してもらえます。

ただし、利用には相続人全員の同意や戸籍・印鑑証明などの提出書類が必要です。手続きに一定の時間がかかるため、納付期限に間に合うよう、早めに金融機関へ確認・準備を進めておきましょう。

参考:相続された預貯金債権の払戻しを認める制度について  |  法務省

相続税の延納(分割払い)で不安がある方は専門家に相談を

相続税の延納(分割払い)は、申請期限や担保の条件、利子税率などの要件が厳格に定められており、わずかな手続きミスでも延滞税や申請却下のリスクが生じます。

こうしたリスクを避け、確実に手続きを進めるためには、相続税に詳しい専門家へ相談するのが安心でしょう

小谷野税理士法人では、相続税の延納申請や納付計画の立案、税務署対応まで一貫したサポートを提供しています。相続税を分割して支払いたい方や、納付手続きに不安がある方は、ぜひ小谷野税理士法人へご相談ください。

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相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。

相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。