土地は親、建物は子の相続は要注意!税金のリスクと円満な解決策
実家近くに暮らす方や親が土地を所有している方は、親名義の土地に家を建てる場合があります。しかし、長い目で見ると、土地は親、建物は子の名義のままでは相続の際に思わぬトラブルの原因となるリスクがあるのです。
本記事では、この状況がなぜ問題なのかを税理士の視点から分かりやすく解説し、具体的な解決策を示します。
なぜ問題になる?「土地は親、建物は子」の5つのリスク
「土地は親、建物は子」は、自分の土地に他人の家が建っている状態で、法律上は「借地」です。親子間のため口約束で貸し借りしているケースが多く、将来的に税負担が重くなったり相続トラブルに発展したりするリスクをはらんでいます。
ここでは具体的なリスクを5つ紹介します。
リスク1|相続税の「小規模宅地等の特例」が使えない可能性
小規模宅地等の特例は、相続税の負担を大幅に軽減できる制度です。例えば、自宅の土地330㎡までは評価額が最大80%減額されるため、実際の評価額が1億円の土地の場合は相続税の計算上は評価額を2,000万円まで下げられます。
しかし、特例の適用条件のひとつに「土地と建物を同じ相続人が居住していること」があり、所有者が分かれていると要件を満たしません。特例が使えなければ、評価額を減額できずに高額な相続税が課されるリスクがあります。納税資金の現金が確保できなければ、土地や建物を売却せざるを得ません。
関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例が適用される条件とは?宅地等の相続税を減額するための要件や添付書類を解説
リスク2|土地の評価額が高くなる可能性
通常、第三者に貸している土地は「貸家建付地」などとして評価が下がります。しかし、親が所有する土地に子が家を建てて住んでいる場合は家族間での無償利用とみなされ、評価減が適用されません。つまり、土地は更地と同じ高い評価額で相続税が計算されるのです。
例えば、路線価ベースで5,000万円の土地を所有していた場合、貸家建付地であれば4,000万円程度まで評価が下がる可能性があります。しかし、「土地は親、建物は子」のケースでは減額なしの5,000万円で計算されます。
相続税は税率が高いため、差額1,000万円に課税される相続税は数百万円にもなり、家族の資金計画に影響を及ぼします。このリスクは見逃されがちで、相続が発生してから後悔するケースが多いです。
関連記事:【税理士監修】相続税の土地評価額の計算方法とは?土地評価額を抑える方法も解説!
リスク3|生前対策の税負担が増える
「それなら生前に土地を譲ってもらえばよい」と考える方も多いでしょう。しかし、土地を生前贈与してもらうと、今度は多額の贈与税が発生するリスクがあります。
贈与税は相続税よりもさらに税率が高いため、数千万円単位の土地では数百万円の税額になることもあります。相続と生前贈与のどちらがよいかは一概には言えず、専門家によるシミュレーションが必要です。
登記の際に納める登録免許税や、不動産を取得した際に一度だけ納める不動産取得税の負担も軽視できません。土地は高額が財産のため、税率が2%や3%だとしても、数十万円から数百万円の出費になる場合もあります。
関連記事:【税理士監修】土地の生前贈与と相続はどちらが得?家族が笑顔になる資産承継術
関連記事:土地や不動産を親から子へ名義変更した場合の税金はいくらになる?
リスク4|兄弟間のトラブルに発展する可能性
土地の所有者である親が亡くなっても、土地は自動的に建物の所有者のものになるわけではありません。土地はいったん法定相続人全員の共有する財産となり、分割方法を協議します。
あなたが住んでいる家の土地であっても、兄弟姉妹が受け継いで自由に使えなくなるリスクがあります。特に問題となるのは、土地を売却したい相続人と住み続けたい人の意見が衝突するケースです。
合意できなければ、最終的に裁判に発展し、希望しない条件で家を失うリスクさえあります。兄弟姉妹間の感情的な対立は長期化しやすく、関係が壊れてしまうこともあるため、親の生前に対策を講じることが重要です。
リスク5|建物の建て替えやリフォームができない
建物の所有者は、土地の所有者に無断で建て替えやリフォームができません。親が健在であればまだ合意を得やすいものの、親が亡くなった後は土地の所有者全員の合意を取り付ける必要があります。
土地を兄弟姉妹全員の共有にしてしまった場合は、全員の同意がないと自宅の大規模修繕すら自由にできません。築年数が古くなり、雨漏りや耐震性の問題が解決できない場合もあります。住環境の悪化だけでなく、家族の安全にも影響しかねない重大な問題です。
土地は親・建物は子の相続における解決策

土地と建物の所有者が異なる場合、相続が発生すると手続きがスムーズに進まないケースが多いです。相続トラブルを防ぐためには、親と一緒に生前対策を講じましょう。ここからは代表的な3つの解決策について、それぞれのメリット・注意点を解説していきます。
親から子へ土地を生前贈与する
土地と建物の所有者を一致させ、「土地は親 建物は子」の状態を根本的に解消する方法のひとつが、親から子への生前贈与です。土地も建物も自分自身の所有となるため、将来建て替えや処分が自由に行えます。
贈与を検討する際は、贈与を受ける方の税負担に注意しましょう。贈与税は年間110万円までの贈与について非課税ですが、土地は価値が高い財産のため、税負担が重くなりがちです。
相続時精算課税制度を活用する場合は2,500万円までの贈与が非課税となり、相続発生時に相続税として精算します。土地の評価額だけでなく、親の相続計画を総合的に判断する必要があり、自己判断は危険です。必ず専門家である税理士に相談し、事前にシミュレーションを行いましょう。
関連記事:相続時精算課税制度の改正点とは?メリットもわかりやすく解説!
子が親から土地を買い取る
土地と建物の所有者を一致させる方法として、親から土地を適正価格で買い取る選択肢もあります。生前贈与とは異なり、贈与税が発生しない点がメリットです。
ただし、親子間とはいえ適正価格での売買のため、土地の購入資金が必須です。一括で現金を用意するのが難しい場合は、住宅ローンを利用する手もあります。
また、土地を売却する側の親は、売却益が譲渡所得となり、所得税や住民税が高額になる可能性があります。
所有権移転登記を司法書士に依頼する費用や登録免許税など、名義変更に付随する費用も含めてコストを正確に把握しましょう。親子間だからこそ、税務署に「仮装売買」と疑われないよう、専門家による適正な価格設定と手続きが重要です。
関連記事:遺産相続は相続税以外の税金にも注意!ケースバイケースの税金一覧
土地は親のままで遺言書を作成する
生前の名義変更が難しい場合では、親に遺言書を作成してもらう方法があります。遺言書がある場合は、原則として遺言書に従って遺産分割を行うため、トラブルの予防に効果的です。
遺言書では財産ごとに分割方法や割合を指定できます。例えば、遺言書に「土地は長男〇〇に相続させる」と明記すると、土地の所有権で揉めるリスクは格段に低くなるでしょう。
ただし、土地が財産の総額の大部分を占める場合は要注意です。相続人のうち配偶者・子・直系尊属(親など)には、「遺留分」という最低限の相続分が保証されているためです。
財産の総額に対して、遺言で特定の方が取得する財産の割合が大きすぎると、他の相続人から遺留分を請求される可能性があります。
弁護士や司法書士などのアドバイスを受け、法的に有効かつ家族間の公平性にも配慮した内容にすることが大切です。
関連記事:不動産・土地を兄弟で相続する場合の分割方法とは?注意点も解説!
関連記事:【遺留分の基礎知識】遺留分の割合と計算方法について解説
後悔しないための3つのステップ

相続が発生してから後悔しないために、今から生前対策としてできることを3つのステップで紹介します。
ステップ1|現状把握と家族間での話し合い
まず最初に行うべきは、現在の状況を正確に把握することです。法務局で土地と建物の登記簿謄本を取得し、それぞれの所有者が誰になっているかを確認しましょう。
口約束で譲ると言っていたとしても、登記簿上の所有者が正式な所有者です。土地は親、建物は子というように所有者が一致していない場合、親や兄弟姉妹と話し合う場を設けましょう。
「このままでは将来、家族に迷惑をかけてしまうかもしれない」という問題意識の共有が解決の第一歩です。親が元気なうちに問題提起することで、親自身の意思を反映した円満な解決策を見つけやすくなります。
ステップ2|税理士に相談して相続税をシミュレーションする
家族内での話し合いが進んだら、次のステップは専門家への相談です。
特に、相続税や贈与税の仕組みは複雑であり、自己判断は危険です。税理士に相談し、税額や節税対策について具体的にシミュレーションしてもらいましょう。
例えば、土地を生前贈与した場合と、相続した場合で税金にどのくらい差が出るのか、小規模宅地等の特例が適用できるかなどを明確にすることで、家族に適した解決策を選びやすくなります。
ここで税理士に依頼するのも有効な手段です。あなたや親の資産状況、家族構成などを考慮した上で、税負担が少なくかつリスクの低い相続方法を提案してくれるでしょう。税理士からの提案をもとに、家族全員で納得できる道筋を決めるのが後悔のない選択のポイントです。
関連記事:【税理士監修】土地にかかる相続税はいくらになる?計算方法や節税方法などポイントを解説
ステップ3|他の専門家と連携して手続きを進める
税理士の助言をもとに相続方法を決定したら、相続に必要な具体的な手続きをすすめます。ここでも各専門家に依頼するのがおすすめです。
遺言書の作成や贈与契約書の作成は、司法書士や行政書士がサポートできます。法的には有効か、考えた通りの内容になっているか専門家の視点から確認してもらいましょう。
土地の名義変更(所有権移転登記)は司法書士の専門分野です。法務局への登記申請や必要書類の収集・作成を正確に行ってもらうことで、時間と手間の削減にもなります。
家族間で話し合いがこじれてしまった場合には弁護士を挟むことで、本人に代わって話し合いをスムーズに進めてくれます。
適切なタイミングで専門家を頼ることで、トラブルを未然に防ぎ、安心して手続きを完了させることができるでしょう。
まとめ
土地は親、建物は子という所有関係のまま相続が発生すると、手続きや税金の面で多くの問題が生じます。思いもよらない高額な税金を納める事態になったり、家族間で相続トラブルが起こったりして後悔しないうちに対策を講じることが大切です
解決策として、親から子へ生前贈与する、売却する、遺言書を作成するなどの方法があります。親が元気なうちから話し合いを始め、専門家のサポートを受けながら適切な方法を選びましょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
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