法定相続人と相続人の違いとは?正しく使い分けるべき理由や関連用語を紹介

法定相続人と相続人の違いとは?正しく使い分けるべき理由や関連用語を紹介

法定相続人と相続人は、実はそれぞれ異なる意味をもつ言葉です。両者の違いを押さえなければ意味を混同してしまい、誤った使い方をしてしまう恐れがあります。誤解やトラブルの原因になる恐れがあるため、法定相続人と相続人を正しく使い分けることが大切です。

今回は法定相続人と相続人の違いや両者を適切に使い分けするべき理由、その他の関連用語との違いなどを詳しく解説します。

法定相続人と相続人の違い

考える男女

はじめに、法定相続人と相続人それぞれの意味を解説します。

法定相続人とは

法定相続人とは民法で定められた相続権をもつ人のことです。配偶者および以下の血族が法定相続人になります。

第1順位

直系卑属(子供や孫など)

第2順位

直系尊属(父母や祖父母など)

第3順位

兄弟姉妹または甥姪

被相続人の配偶者と以下のうち最も順位の高い血族のみが法定相続人となります。例えば被相続人の配偶者、子供、父母が存命の場合、法定相続人になるのは配偶者と子供のみです。第1順位である子供がいるため、より下位である父母は法定相続人になりません。

法定相続人は実際に相続するか否かに関係なく、相続権をもつ人を指す言葉といえます。

関連記事:【税理士監修】相続税の基礎控除と法定相続人の解説。相続税の申告が不要になるケースは?

相続人とは

相続人とは実際に相続等により遺産を取得する人を指す言葉です。

以下のケースを例に、法定相続人と相続人の違いを解説します。

  1. 被相続人の配偶者と子供2人(A、Bと仮定)、父母が存命
  2. 遺産分割協議の結果、実際に相続をしたのは配偶者と子供Aの2人となった

この場合、法定相続人は配偶者と子供A、子供Bです。第1順位である子供がいるため、第2順位の父母は法定相続人になりません。

2の通り、実際に相続したのは配偶者と子供Aです。したがって、相続人に該当するのも配偶者と子供Aのみとなります。子供Bは法定相続人ではあるものの相続による遺産の取得をしていないため、相続人とはみなされません。

このように、法定相続人ではあるものの相続人ではないケースが有り得ます。法定相続人より相続人の方が、より狭い範囲を対象とする言葉といえるでしょう。

法定相続人でも相続人にならないケースの例

相続放棄

前章で紹介した通り、相続人は法定相続人よりも狭い範囲を対象とする言葉です。この章では法定相続人に該当するものの相続人にはならないケースの例を紹介します。

遺産分割協議等で相続を辞退した場合

相続人とは」で紹介した通り、生前の話し合いや遺産分割協議を経て自ら相続を辞退した人は相続人になりません。相続人という言葉は実際に相続をした人のみを指す言葉のため、相続をしなかった人には用いられない言葉です。

関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説

遺贈により財産の取得ができなかった場合

遺言書の中で遺贈先として指定されなかった法定相続人も相続人に該当しません。法定相続人ではあっても、必ずしも遺贈を受けられるとは限らない点に注意が必要です。

ただし、法定相続人のうち配偶者、第1順位、第2順位の人には最低限の取り分である遺留分が設けられています。遺言によって遺留分よりも少ない財産しか取得できなかった人には遺留分侵害額請求の権利があります。

関連記事:遺留分侵害額請求の時効は1年と10年!期間内にやるべきことと時効を止める方法

相続放棄をした場合

相続放棄とは相続の権利をすべて放棄することです。プラスの財産・マイナスの財産関係なく、すべての財産の相続権を失います。

相続放棄をした人が遺産相続をすることは絶対にないため、当然ながら相続人にもなり得ません。

なお、相続放棄をするには本人による手続きが必要です。相続放棄をした人は最初から法定相続人ではなかったものと扱われ、相続税の基礎控除額の計算等に用いる法定相続人の数からも除外されます。

関連記事:【税理士監修】相続放棄の必要書類と手続きをケースごとに解説

廃除や欠格により相続権を失った場合

廃除や欠格により相続権を失った人も、遺産相続を受けることが起こり得ないため相続人にはなりません。

相続における廃除と欠格それぞれの意味を紹介します。

廃除

欠格

概要

被相続人が所定の手続きを行い、推定相続人から相続権をはく奪する制度

民法に定められた欠格事由に該当した場合に、相続権を失う制度

発生事由

被相続人に対する虐待、侮辱、推定相続人等に対する非行など

以下のいずれか

  • 被相続人や推定相続人を故意に死亡させる、もしくは死亡させることを計画する
  • 被相続人が殺害された事実を知りながらも告発や告訴をしない
  • 被相続人の遺言作成や変更等を、詐欺や脅迫によって妨害する
  • 遺言書の偽装や隠ぺいなどを行う

手続きの必要性

必要

被相続人が自分の意思で手続きを行う必要がある。生前に家庭裁判所へ申し立てる「生前廃除」と、遺言書の中に廃除の旨を記す「遺言廃除」という2つの方法から選択可能

不要

民法891条の相続欠格事由に該当するとみなされた場合に自動で欠格となる

法定相続人と相続人を使い分けるべき理由

法定相続人と相続人は混同されることも多く、誤った使い方をされやすいのも事実です。しかしそれぞれ異なる意味をもつ以上、適切に使い分けるべきといえます。

用語を使い分けるべき理由として最も大きいものが、誤った使い方をしてしまうと、誤解や誤認が原因のトラブルが起こる恐れがあるためです。

相続人と法定相続人を誤ることで起こるトラブルの1つとして、相続税の基礎控除額を誤って計算してしまうことが挙げられます。

前提として、相続税の基礎控除額の計算式は以下の通りです。

相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

法定相続人と相続人の誤用がトラブルにつながるケースについて、以下の会話を例に考えます。

  1. Aさん「(今回って相続税の基礎控除額はいくらになるんだろう。)今回の相続、法定相続人って何人だったっけ?」
  2. Bさん「(法定相続人って相続人のこと?それなら……)2人だよ」
  3. Aさん「2人ね、わかった。(それなら、基礎控除額は3,000万円+600万円×2人=3,600万円だ)」

法定相続人が全員相続人になった場合、上記の会話でもまったく問題ありません。

しかし、仮に遺産分割協議によって法定相続人のうち1人が相続を辞退していた場合、この基礎控除額の計算は間違ったものになってしまいます。

というのも、基礎控除額は相続人ではなく法定相続人の数で算出するからです。

今回の例の場合、Bさんが法定相続人と相続人の違いを知らず、Aさんに誤った情報を伝えてしまいました。Aさんは法定相続人の数を1人少なく認識しているため、相続税の基礎控除額が本来より少なくなってしまいます。結果として納付する相続税額が増えて損してしまう恐れがあるのです。

今回挙げたケースは極端な例ではあるものの、発生する可能性は十分に考えられます。些細な間違いが大きなトラブルにつながる恐れがある以上、用語の意味を押さえて適切に使い分けることが大切です。

参考|「法定相続人」「相続人」と似た意味をもつ用語との違い

最後に、法定相続人や相続人と同じように混同されやすい用語について解説します。

受遺者|遺贈により遺産を取得した人

受遺者とは遺贈により遺産を取得した人を意味する言葉です。

遺言による遺産の贈与を遺贈といい、遺贈により遺産を取得した人は受遺者と呼ばれます。遺贈を受けた人を相続人と呼ぶ場面もみられますが、厳密には誤りのためご注意ください。

関連記事:【税理士監修】遺言書を公正証書で作成するには?必要書類や作成するメリットを解説

推定相続人|法定相続人になると考えられる人

将来的に相続が発生した場合に法定相続人になると考えられる人のことを「推定相続人」と表現します。推定相続人と法定相続人の範囲に違いはありません。

Xさんを推定被相続人とし、Xの子供A、母、兄がいる場合を例にします。全員が存命と仮定すると、推定相続人となるのは第1順位である子供Aのみです。

一方、推定相続人を考える段階において子供Aがすでに亡くなっている場合、推定相続人になるのは第2順位である母となります。子供Aも母も亡くなっている場合は第3順位である兄が推定相続人です。

代襲相続人|代襲相続によって相続人になった人

代襲相続とは本来相続人となる人が死亡・欠格・廃除等によって相続権を失っている場合に、代わりに子供や孫が相続する制度です。代襲相続によって相続人になった人を代襲相続人といいます

なお、もともと相続権を有していた人は被代襲者と呼びます。

法定相続人や相続人など用語を正しく使い分けることが大切

法定相続人は民法で定められた相続権をもつ人を意味する言葉です。配偶者と一定の血族が法定相続人になります。また、将来的に法定相続人になると推定される人を推定相続人といいます。

一方で相続人とは、実際に相続等により遺産を取得する人のことです。実際に相続が発生し遺産分割協議等が完了するまで、誰が相続人になるか明確にはわかりません。

法定相続人と相続人は似たイメージをもたれやすく、実際に混同される場面も多いです。しかし、用語を誤って使ってしまうと思わぬトラブルにつながる恐れもあります。

スムーズな相続手続きを実現させるためには、法定相続人や相続人など似たイメージの用語を正しく使い分けることが大切です。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

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