生前贈与された不動産を一部売却する方法|手順、費用、注意点まで解説

生前贈与された不動産を一部売却する方法|手順、費用、注意点まで解説

親から生前贈与を受けた不動産の活用に悩む方は多くいます。とくに敷地が広い土地は維持管理の負担が大きく、一部だけ売却して現金化したいと考える場合もあるでしょう。

本記事では生前贈与された不動産、とくに土地の一部売却について、具体的な進め方や手続きの流れ、必要な費用・税金を解説します。失敗しないための注意点も紹介しますので、参考にしてください。

目次

そもそも生前贈与された不動産の一部売却は可能なのか? 

生前贈与で取得した不動産は受贈者の財産になるため、原則として自由に売却でき、一部のみの売却(部分売却)も可能です。ただし、土地を分けて売る場合には、登記上も独立した区画として扱えるようにする必要があります。

土地の一部を売却するには「分筆」の手続きが必要

分筆とは、登記上一つの土地を複数に分け、新しい地番を付ける手続きです。分筆により新しい地番が付与され、分けた土地を単独で売却・登記できます。

分筆は土地家屋調査士に依頼し、隣地との境界を確定させるための測量や法務局への登記申請を行います。隣地所有者の立ち会いが求められる場合もあり、一定の時間と費用がかかる点に注意が必要です。

生前贈与された不動産を売却すべきか判断する3つのケース

家の修繕 不動産管理

生前贈与された不動産は、資産として大切に残す選択もあれば、売却して現金化する選択もあります。ここでは、売却を検討すべき3つのケースを紹介します。

  1. 維持管理の負担が大きく活用が難しい場合
  2. 将来の相続税支払いのための資金を確保したい場合
  3. 相続時の遺産分割トラブルを未然に防ぎたい場合

[ケース1]維持管理の負担が大きく活用が難しい場合

広い土地や老朽化した建物など維持コストが重い不動産は、売却を検討するのが合理的です。

固定資産税や都市計画税に加え、草刈りや修繕、害獣対策などの維持費が発生します。遠隔地にある、またはライフプランに合わない物件は管理の手間に見合う収益化が難しく、空き家、空き地化のリスクも高まります。放置すれば、突発的な修繕費も生じかねません。

維持や活用の負担が大きい不動産は、持ち続けるメリットよりリスクが上回る可能性があります。費用対効果を判断し、必要なら早めに売却して資産を活用しましょう。

[ケース2]将来の相続税支払いのための資金を確保したい場合

将来の相続で相続税が高額になりそうなら、生前贈与で取得した不動産を計画的に売却し、納税資金を準備しておくと安心です。

相続税の納付期限は相続開始から10か月以内と定められており、現金を用意できないと、不動産を慌てて安く売らざるを得ない恐れがあります。あらかじめ一部を現金化しておけば、延納や物納を避けやすく、余裕を持って対応できます。

ただし、売却益には譲渡所得税がかかる点には注意しましょう。相続税の納税資金に余裕が生まれるよう、計画的に進めるのをおすすめします。

参考:B1-2 相続税の申告手続|国税庁

[ケース3]相続時の遺産分割トラブルを未然に防ぎたい場合

生前贈与された不動産を売却して現金化し、他の相続人に公平に分配することで、遺産分割トラブルの予防につながります。

不動産は現金のように均等に分けにくく、取得者をめぐって対立しやすい資産です。特定の相続人だけが不動産を受け取れば不公平感が生まれ、協議が難航することもあるでしょう。

例えば、自宅を贈与された子が住み続けたいと望んでも、他の相続人が評価額や代償金に納得せず話し合いが進まない場合があります。しかし、売却して現金化すれば、全員が納得しやすい形で分配が可能です。

不動産を現金化して分配しておけば、将来の相続争いを防ぎ、家族全員が安心して次の世代へ資産を引き継げます。必要に応じて税理士に相談して、贈与の評価や遺留分への影響を事前に整理しておくと安心です。

相続や遺産分割対策に関するお悩みは、ぜひやさしい相続相談センターにご相談ください

生前贈与された不動産を一部売却する前の必須準備

生前贈与された不動産の一部を売却する前の事前準備を怠ると、契約自体が無効になったり、売却が進められなくなったりする可能性があります。

ここでは、不動産を売却する前に必ずすべき準備を手順別に解説します。

  1. 贈与契約が書面で交わされているか確認する
  2. 所有権移転登記を行い名義を自分に変更する
  3. 土地の一部を売却するために分筆登記を行う
  4. 住宅ローンの残債務の有無を確認しておく

[準備1]贈与契約が書面で交わされているか確認する

不動産の贈与契約は口頭でも成立しますが、契約書がなければ後々「贈与は無効」と主張されるリスクがあります。書面を残せば贈与の事実を客観的に証明でき、税務署や第三者にも安心して説明できます。

契約書には贈与日、不動産の所在(地番・家屋番号)、ローンなどの負担の有無を明記し、双方が署名押印します。特に公正証書で作成すれば、証拠力と安全性が高まります。売却を円滑に進めるには、贈与契約を文書化し、登記まで済ませておくのが大切です。

[準備2]所有権移転登記を行い名義を自分に変更する

法務局で所有権移転登記を行い、登記簿上の名義を贈与者から自分に変更します。登記がなければ権利を主張できず、売却も不可能です。放置すると二重譲渡や贈与者の債権者による差押えに対抗できないリスクもあります。

主な必要書類は、以下の通りです。

  • 贈与契約書
  • 固定資産評価証明書
  • 贈与者の印鑑証明書
  • 受贈者の住民票
  • 登記識別情報

登記申請は自分でも可能ですが、司法書士に依頼するのが一般的です。専門家に任せれば書類の不備を防ぎ、安全に手続きを進められます。

[準備3]土地の一部を売却するために分筆登記を行う

土地を一部だけ売却するには、分筆登記をして売却部分を独立した不動産として扱えるようにする必要があります。手続きは土地家屋調査士に依頼し、測量や隣地所有者の立会いを経て、法務局に申請しましょう。

なお、贈与された土地は分け方を誤ると、売却後に残った土地が「建物を建てられない」「形がいびつで使いにくい」などの問題が出ることがあります。将来的な活用も見据えて、「どの部分を残し、どの部分を売るか」を慎重に決めましょう。

[準備4]住宅ローンの残債務の有無を確認しておく

不動産を売却する前に、住宅ローンの残債があるか確認しましょう。残債があれば完済や抵当権の抹消が必要となり、そのままでは売却できません。

抵当権とは、返済不能時に金融機関が不動産を優先的に処分できる権利です。抵当権の有無は登記事項証明書で確認でき、法務局の窓口やオンラインで取得できます。設定されている場合は金融機関に連絡し、残債額や抹消に必要な書類を確認しましょう。

生前贈与された土地の一部を売却する具体的な手続き【4ステップ】

不動産の売買

生前贈与で取得した土地を一部だけ売却するには、一般的な不動産売却と同じ流れを踏みながらも、注意すべきポイントがあります。

ここでは、売却を安全に進めるための手続きを4つのステップに分けて解説します。

  1. 不動産会社に査定を依頼し価格を調べる
  2. 不動産会社と媒介契約を締結し売却活動を始める
  3. 購入希望者が見つかったら売買契約を結ぶ
  4. 売却代金を受け取り物件の引き渡しを行う

[ステップ1]不動産会社に査定を依頼し価格を調べる

売却を考えたら、不動産会社に査定を依頼して土地の相場を把握しましょう。

査定方法は主に2種類です。机上査定は、公的データや周辺の取引事例をもとに概算価格を算出する方法です。訪問査定は、担当者が実際に現地を確認し、土地の状態や環境を踏まえてより正確な価格を見積もります。正確性を重視するなら訪問査定を依頼するのがおすすめです。

複数の査定結果を整理し、費用や契約条件を確認することで、適切な不動産会社を選びましょう。

[ステップ2]不動産会社と媒介契約を締結し売却活動を始める

依頼先を決めたら、不動産会社と「媒介契約」を結びます。媒介契約とは、売主と不動産会社の販売条件を取り決める契約のことです。

媒介契約には「専属専任媒介」「専任媒介」「一般媒介」の3種類があります。れぞれ不動産会社の報告義務や自分で買主を見つけられるか、他の不動産会社にも依頼できるかなどの点で条件が異なります。特徴を踏まえて希望に合う契約形態を選びましょう。

契約後は不動産会社が情報サイト掲載やチラシ配布などの販売活動を行います。売却活動中は、買主の内覧に対応する場面もあるため、不動産会社とこまめに連絡を取り合って進めましょう。

[ステップ3]購入希望者が見つかったら売買契約を結ぶ

購入希望者と条件がまとまったら売買契約を締結します。売買契約は価格や引渡時期を確定する重要な手続きで、法的拘束力があるものです。

契約前には宅地建物取引士による重要事項説明を受けます。その際、売主も境界や地盤、インフラ状況などを確認しておきましょう。契約の不明点はその場でしっかりと確認し、必要に応じて修正したうえで締結しましょう。

[ステップ4]売却代金を受け取り物件の引き渡しを行う

売却代金の決済と物件の引き渡しは、同じ日に行うのが基本です。決済日には売主・買主・司法書士・不動産会社が金融機関に集まり、入金確認後に司法書士が所有権移転登記を申請します。

主な事前に準備するものは、以下の通りです。

  • 登記書類(委任状・登記原因証明情報・印鑑証明書)
  • 固定資産税の精算金
  • 仲介手数料・司法書士報酬
  • 測量図やインフラ関連資料

入金確認後に鍵を引き渡し、抵当権があれば決済金で完済して抹消登記を行います。口座情報は紙面と電話で二重確認をし、登記完了後は登記事項証明書で名義変更も確認します。

必要書類を整え、司法書士や不動産会社と連携すれば安心して取引を完了できるでしょう。

生前贈与された不動産の一部売却で発生する費用と税金

不動産の相続登記と相続税

生前贈与によって取得した不動産を一部売却する際には、様々な諸費用や税金が発生します。

ここでは、売却時に代表的に発生する費用や税金について解説します。

  • 不動産会社に支払う仲介手数料
  • 売買契約書に貼付する印紙税
  • 土地の境界を確定させるための測量費用
  • 売却で利益が出た場合に課される譲渡所得税

不動産会社に支払う仲介手数料

不動産会社に仲介を依頼し売却が成立すると、仲介手数料を成功報酬として支払います。上限は宅建業法で定められています。

例えば、売買価格が800万円を超える場合の計算式は以下になります。

売買価格×3%+ 6万円+消費税

売却価格が1,500万円なら、上限は56万1,000円(税込)です。支払いは「契約時に半額・引渡時に残額」という形が多いですが、契約内容によって異なります。

売買契約書に貼付する印紙税

不動産の売買契約書には印紙税がかかり、契約金額に応じた収入印紙を貼って消印します。

税額は金額帯ごとに決まっており、例えば 1,000万円超〜5,000万円以下の契約書は本則2万円です。ただし、令和9年3月31日までに作成した契約書には軽減措置があり、1万円で済みます。

契約書は通常2通作成し、売主・買主がそれぞれの分を負担します。なお、電子契約のみで締結した場合は印紙税は不要です。

土地の境界を確定させるための測量費用

土地を売却する際、分筆や境界が不明確な場合は、土地家屋調査士による測量が必要です。

境界が曖昧なままでは買主が安心できず、契約条件として確定測量(隣地所有者立ち会いのもと境界を正式に確定する測量)を求められることもあります。

測量は土地家屋調査士に依頼し、費用は土地の広さや形状、隣接地の数、資料の有無によって変動します。相場は数10万円〜100万円以上に及ぶこともあり、売主の負担で行うのが一般的です。

測量費用は高額になることもありますが、境界を明確にしておくことでトラブルを防ぎ、円滑な売却につながるでしょう。

売却で利益が出た場合に課される譲渡所得税

不動産を売却して得た利益は「譲渡所得」と呼ばれ、所得税と住民税の課税対象になります。利益の基本式は、次の通りです。

譲渡所得(利益)=売却価格-(取得費+譲渡費用)

申告で用いる課税対象は、特別控除を差し引いた額です。一定の要件を満たす場合特別控除を差し引くことができます。

課税譲渡所得金額=売却価格-(取得費+譲渡費用)-特別控除

譲渡所得にかかる税率は、不動産の所有期間によって変わります。売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下なら「短期譲渡」(高い税率)、5年を超えていれば「長期譲渡」(低い税率)です。ただし、生前贈与の場合は所有期間の起点を贈与者から引き継ぐため、贈与から日が浅くても長期譲渡の低税率が適用できるケースがあります。

参考:No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)|国税庁

関連記事:遺産の換価分割による譲渡所得税はいくらになる?計算方法を解説

生前贈与された不動産の一部売却で失敗しないための注意点

賃貸不動産の相続

生前贈与を受けた不動産の一部を売却する際には、押さえておくべき注意点が数多くあります。

ここでは、売却を円滑に進め、失敗を防ぐために確認したい注意点を解説します。

  • 贈与税の申告と納税を必ず期限内に行う
  • 売却益が出た場合の確定申告を忘れない
  • 他の相続人の遺留分を侵害しないように配慮する
  • 売却実績が豊富な不動産会社を慎重に選ぶ

贈与税の申告と納税を必ず期限内に行う

不動産を生前贈与された場合は、期限内に贈与税の申告・納税が求められます。贈与税には年間110万円の基礎控除がありますが、それを超える場合は翌年2月1日から3月15日の間に申告・納付が必要になります。

無申告や遅延は延滞税・加算税の対象になるため、売却前に必ず税務処理を終えましょう。必要に応じて税理士に確認を依頼すると安心です。

不動産の生前贈与や相続税対策に関するお悩みは、ぜひやさしい相続相談センターにご相談ください

関連記事:贈与税に課される加算税とは?種類・税率・計算例をわかりやすく解説

売却益が出た場合の確定申告を忘れない

不動産売却で利益(譲渡所得)が出た場合は、翌年の確定申告と納税が必要です。

居住用財産なら、損益通算や繰越控除などの特例を検討できます。必要書類(売買契約書、仲介手数料の領収書、取得費の証明資料など)を揃え、早めに税理士へ相談して納税資金を確保しておくと安心です。

他の相続人の遺留分を侵害しないように配慮する

特定の相続人だけが多額の生前贈与を受けると特別受益と見なされ、不公平が生じやすくなります。遺留分とは配偶者・子・直系尊属に保障された最低限の取り分のことです。

贈与額が大きい場合は、相続開始後に遺留分侵害額請求を受ける可能性があり、売却・現金化していても支払い義務が生じることがあります。争いを防ぐには、贈与前に評価方法や贈与時期を整理し、公正証書遺言や合意書で明確化しておくのが有効です。

関連記事:【税理士監修】遺留分とは?相続財産を必ず受け取れる制度をわかりやすく解説

関連記事:[生前対策]公正証書遺言の作成手順と必要書類

売却実績が豊富な不動産会社を慎重に選ぶ

生前贈与不動産の売却、とくに分筆を伴う土地取引は、測量・境界確定・登記・税務など専門性が高いため、同様の案件に実績がある会社を選ぶのが重要です。

査定額の高さだけでなく、以下の点も確認するとよいでしょう。

  • 説明の分かりやすさ
    手順、費用、リスクまで、初めてでも流れがイメージできるように丁寧に説明してくれるか
  • 販売戦略が具体的か
    想定ターゲット、使う広告、価格の見直し方針(いつにどのくらい下げるのか)が明確か
  • スケジュールと費用が明確
    いつ、何に、いくらかかるのか、見積の内訳と全体のタイムラインを出してくれるか

売却においては複数社と面談し、媒介契約の種類や手数料・広告費の扱いを確認しましょう。過去の成約事例や具体的な実績を提示できる会社なら、安心して任せられます。

まとめ

生前贈与された不動産、特に土地の一部を売却することは可能ですが、そのためには「分筆」という法的な手続きが必須です。実際の売却プロセスでは、贈与契約の確認、所有権移転登記、分筆登記といった事前の準備を行い、不動産会社と連携して進めていきます。

また、仲介手数料や測量費用といったコストに加え、贈与税や譲渡所得税などの税金についても理解し、期限内に申告する必要があります。このような複雑な計算が必要となる贈与では、不動産鑑定士や税理士など専門家の助言も得ながらすすめることをおすすめします。

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相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。