相続廃除とは?要件・手続き・必要書類・費用・判例・注意点まで徹底解説

相続廃除とは?要件・手続き・必要書類・費用・判例・注意点まで徹底解説

「相続廃除」とはどのような制度なのか、本当に相続人の権利を奪えるのかと疑問に思う方も多いのではないでしょうか。本記事では、相続廃除の基本から手続きの種類、必要書類や費用、実際に認められた事例、さらに注意すべきポイントまで詳しく解説します。相続人との関係に悩み、相続廃除を真剣に検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。

相続廃除の手続きは法律上の要件が厳格で、自己判断はリスクを伴います。
小谷野税理士法人では、弁護士とも連携し、相続・遺言に関する複雑なご相談にも対応可能です。
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相続廃除とは何か

相続廃除とはどのような制度で、誰に適用されるのでしょうか。基本的な仕組みと範囲について解説します。

相続の権利を奪う制度

「相続廃除」とは、被相続人が生前に意思を示すことで、推定相続人から相続権を奪う制度です。一定の理由がある場合に認められますが、家庭裁判所の審判が必要で、単なる感情的な対立では成立しません。

効力が確定すると、その相続人は法定相続分や遺留分を含め、相続に関する一切の権利を失います。

推定相続人の範囲

相続廃除の対象は、相続開始時に相続人となる「推定相続人」に限定されます。
配偶者や子は常に相続人となり、孫や甥・姪は代襲相続が発生した場合に限って相続人となります。

一方で、兄弟姉妹も推定相続人に含まれますが、遺留分が認められていないため相続廃除の対象にはなりません。また、おじ・おばやいとこは、そもそも相続人の範囲外であり、廃除の対象にはならない点に注意しましょう。

続柄

推定相続人

相続廃除できるか

備考

配偶者

婚姻関係がある限り常に相続人となる

子(養子を含む)

すでに死亡している場合は孫が代襲相続人となる

親(直系尊属)

子がいない場合に相続人となる

兄弟姉妹

×

相続順位が第3位であり、被相続人の子供がいない場合や両親が他界している場合に推定相続人となる

推定相続人ではあるが、遺留分は認められない

子が死亡している場合に限り代襲相続人となる

甥・姪

兄弟姉妹が死亡している場合に限り代襲相続人となる

おじ・おば

×

×

相続人にはならない

いとこ

相続人にはならない

参考:民法 | e-Gov 法令検索

参考:No.4132 相続人の範囲と法定相続分|国税庁

「相続欠格」との違い

相続廃除とよく混同されるのが「相続欠格」です。

相続欠格は、殺人や遺言書の偽造など、法律で定められた重大な行為をした場合に、自動的に相続権を失う仕組みですが、相続廃除は被相続人の意思表示に基づき、家庭裁判所の審判を経て初めて効力を持ちます。

つまり、欠格は「法律による自動的な剥奪」、廃除は「被相続人の意思による選択的な剥奪」という点で、大きな違いがあります。

遺留分も失う

相続廃除が確定すると、相続人は法定相続分だけでなく、遺留分請求権も失います。遺留分とは、配偶者や子などに保障される最低限の取り分で、通常は遺言でも奪えませんが、廃除が認められれば、遺留分を含めたすべての相続権が消滅します。

参考:遺留分侵害額の請求調停 | 裁判所

関連記事:【税理士監修】遺留分とは?相続財産を必ず受け取れる制度をわかりやすく解説

代襲相続は認められる

相続廃除の効力はあくまで廃除された本人に限られます。その子や孫には及ばず、代襲相続は認められます。

これは「血族による承継」を重視する民法の原則に基づくもので、廃除の効力を子孫まで広げると不合理になるためです。

関連記事:代襲相続とは?代襲相続人の範囲と相続割合をパターン別に解説

相続廃除が認められる要件

親戚の借金に悩む夫婦

相続廃除は、被相続人の単なる意思だけでは認められません。法律に定められた具体的な事由に該当する場合に限られ、家庭裁判所の審判を経て効力を持ちますが、どのような場合に廃除が認められるのでしょうか。

虐待があった場合

民法892条は、被相続人に対する「虐待」があった場合に廃除を認めています。ここでいう虐待には、身体的暴力だけでなく、継続的な暴言や無視などによる精神的苦痛も含まれます。

裁判所は、診断書や録音、証言などの客観的証拠を基に事実を慎重に検討し、虐待に当たるかを判断します。単なる主観的な不満だけでは認められず、具体的で裏付けのある証拠が必要です。

参考:民法 | e-Gov 法令検索

重大な侮辱があった場合

同条は「重大な侮辱」も廃除事由と定めています。これは、被相続人の人格や名誉を深く傷つけ、社会的評価を大きく損なう行為を指します。

単なる言い争いや一時的な暴言では足りず、内容の悪質性や継続性、被相続人が受けた精神的影響の程度などを総合的に判断されます。裁判所は「どの程度の影響を与えたのか」という点を特に重視し、認定の可否を決定します。

参考:民法 | e-Gov 法令検索

著しい非行があった場合

さらに「著しい非行」も廃除事由とされています。これは虐待や侮辱以外の重大な行為を広く対象とするもので、被相続人の財産を勝手に処分する、多額の借金を背負わせる、長期間にわたる不貞行為などが典型例です。

特徴的なのは、必ずしも被相続人本人に直接向けられた行為でなくても足りる点で、被相続人や家族の生活基盤を著しく脅かす場合には、「著しい非行」として廃除が認められる可能性があります。

「虐待」「重大な侮辱」「著しい非行」といった要件を証明するには、客観的な証拠や法律の知識が不可欠です。

当事務所では、証拠整理から家庭裁判所への申立て準備まで一貫してサポートいたします。

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参考:民法 | e-Gov 法令検索

相続廃除の手続きの種類

相続廃除には、生前に家庭裁判所へ申し立てる方法と、遺言で指定する方法の2通りがあります。それぞれの手続きによって、効力が生じるタイミングや進め方が異なるので確認しておきましょう。

生前に申立てを行う場合(生前廃除)

被相続人が生前に家庭裁判所へ廃除を申し立てる方法です。裁判所は虐待や重大な侮辱といった廃除事由があるかを調査し、審判で可否を判断します。

審判が確定すると、対象者は相続権だけでなく遺留分も失います。被相続人が存命中に関係を断ち切りたいときに利用される手続きです。

遺言によって指定する場合(遺言廃除)

被相続人が遺言で相続人を廃除する方法です。この場合、遺言執行者が家庭裁判所に申立てを行い、審判が確定すると効力が生じます。

遺言執行者は遺言で指定されるか、家庭裁判所が選任します。遺言廃除を有効にするには「廃除理由」を具体的に記載する必要があり、曖昧な表現では効力が否定される可能性があるので注意しましょう。

参考:遺言執行者の選任 | 裁判所

相続廃除の手続き

生前廃除と遺言廃除の手続きは、申立人や必要書類、かかる費用には両者で違いがあるため、あらかじめ整理して理解しておく必要があります。以下でそれぞれの手続きを比較しながら解説します。

手続きの流れ

生前廃除は本人の意思によって行われ、遺言廃除は死亡後に遺言執行者が実行するという点が異なります。いずれも家庭裁判所の審判確定を経て初めて効力を持ちます。

項目

生前廃除

遺言廃除

申立人

被相続人本人

遺言執行者

申立て時期

被相続人の生前

被相続人の死亡後

家庭裁判所での審理

虐待・侮辱・非行の有無を調査

審判

廃除の可否を判断

効力発生

審判確定後、戸籍に記載

手続きに必要な書類

以下が、それぞれの手続きで必要な書類です。

項目

生前廃除

遺言廃除

申立書

相続廃除申立書

戸籍関係

被相続人・対象者の戸籍謄本

被相続人(死亡記載あり)・対象者の戸籍謄本

証拠資料

診断書、録音、写真、陳述書など

遺言書の写し/検認調書謄本、遺言執行者選任の審判書(必要な場合)

届出書類

推定相続人廃除届、審判書謄本、確定証明書

生前廃除では「虐待・侮辱・非行を立証する証拠」が重視され、遺言廃除では「遺言書の明確な記載」が必須となります。どちらも形式的な戸籍資料だけでは足りず、客観的証拠や遺言文言の明確さがポイントです。

参考:推定相続人廃除届 | 札幌市

手続きに必要な費用

いずれの手続きも、裁判所への印紙代や切手代といった手数料は小額にとどまりますが、実務では証拠収集や専門家への依頼に費用がかかる点に注意してください

生前廃除では医師の診断書や弁護士費用、遺言廃除では遺言作成や執行に伴う費用が負担となり得ます。

項目

生前廃除

遺言廃除

収入印紙

約800円

郵便切手

数百円〜数千円

市区町村届出費用

無料

その他費用

診断書取得費用、弁護士費用など

遺言作成や専門家依頼費用など

相続廃除の実態

生前贈与の特別受益の持ち戻しによる財産分与

相続廃除は制度上可能であっても、実際に認められる割合はどのくらいあるのでしょうか。以下で、その実態と具体的な判例をご紹介します。

認められる割合

家庭裁判所に相続廃除を申し立てても、そのすべてが認められるわけではありません。裁判所の統計では、審判に至った件数のうち廃除が容認されたのはおよそ2割程度に過ぎず、大半は却下や棄却となっています

これは、相続権が法律で強く保障されており、廃除が本人の生活基盤を大きく奪う重大な決定であるため、裁判所が厳格に運用しているのが理由です。

実際に相続廃除が認められるのはごく一部に限られます。申立てが退けられると、時間や労力が無駄になるだけでなく、家族関係の悪化リスクも伴います。

失敗を避けるためにも、専門家にご相談ください。

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参考:第3表 家事審判事件の受理,既済,未済手続別事件別件数 | 裁判所

認められた事例

もっとも、裁判所が要件を満たすと判断し、相続廃除を認めたケースも存在します。

事件名・裁判所

行為の内容

裁判所の判断

東京家裁八王子支部 昭和63年10月25日審判

玄関ガラスを割る、灯油をまいて放火するなど脅迫行為

「虐待・著しい非行」に該当すると認定

横浜家裁 昭和55年10月14日審判

看護を怠り、無断外泊を繰り返し扶養を怠った

「著しい非行」に該当すると認定

熊本家裁 昭和54年3月29日審判

被相続人の預貯金を無断で名義変更し精神的苦痛を与えた

「著しい非行」に該当すると認定

これらの判例に共通するのは、単なる不仲や感情的対立ではなく、被相続人に深刻な被害を与える「継続性」や「重大性」が認められた点です

相続廃除の取消し

一度成立した相続廃除でも、その後の事情の変化に応じて取り消しが認められています。生前に行う場合と遺言による場合の2つの方法について解説します。

生前の取消し

被相続人が存命中であれば、家庭裁判所に申立てを行い審判が確定することで廃除を取り消せます

関係が修復された場合などに利用され、裁判所を通すことで恣意的な変更や後日の紛争を防ぎ、法的に確実な取消しが保障されます。

遺言による取消し

被相続人は遺言で廃除の取消しを指定できます。相続開始後、遺言執行者が家庭裁判所に申立てを行い審判が確定すれば効力が生じます。「廃除を取り消す」と明確に記載しておけば、相続手続きが円滑に進みます。

相続廃除を検討する際の注意点

相続廃除は強い効力を持つ制度ですが、民法で定められた要件を満たさなければ認められません。検討時に特に注意すべきポイントを解説します。

感情的な理由では認められない

相続廃除が認められるのは「虐待」や「重大な侮辱」、「著しい非行」に限られ、民法892条に明確に定められています。単なる不仲や性格の違い、日常的な口論は法律上の理由に当たらず、申立てても裁判所に退けられます

実際に、家族間の不和のみでは「虐待」や「重大な侮辱」に該当しないとした判例(東京高裁昭和59年10月18日)も存在します。感情的な対立だけで廃除を目指すと、手続きの無駄や家族関係のさらなる悪化に繋がるため注意しましょう。

遺言には理由を具体的に記載する

遺言による廃除を行う場合には、単に「相続させない」と書くだけでは効力が認められません。家庭裁判所は遺言の記載と証拠を照らして判断するため、虐待や侮辱といった具体的な事情を詳細に残す必要があります。

理由が曖昧な遺言は後に無効とされる可能性があり、せっかくの意思表示が実現されない可能性があるでしょう。

廃除理由を裏付ける証拠を準備する

相続廃除は、申立人の主張だけで成立するものではなく、証拠の有無が審判の行方を左右します

家庭裁判所が重視するのは、診断書、録音データ、写真、証言書など客観的に事実を示せる資料です。証拠がなければ申立ては容易に退けられ、かえって人間関係の悪化を招くでしょう。

廃除は取り消される可能性がある

一度廃除が認められても、将来にわたり絶対的に維持されるわけではありません。被相続人が家庭裁判所に取消しの申立てを行えば効力を失いますし、遺言によって廃除の取消しを明記することも可能です

「廃除=永続的な断絶」とは限らないため、取り消し制度の存在を理解して慎重に判断しましょう。

相続廃除でお悩みの方は専門家に相談を

相続廃除は相続人の権利を奪う重大な制度であり、家庭裁判所の判断も厳格です。

感情的な理由だけでは認められず、証拠の準備や手続きの進め方を誤ると申立てが退けられたり、かえって家族関係が悪化したりするリスクもあるため、独断で対応するのではなく、法律と税務に精通した専門家の支援を受けるのが解決の近道でしょう

小谷野税理士法人では、相続廃除を含む相続全般のご相談に対応し、必要に応じて弁護士とも連携して最適な解決策をご提案しています。相続廃除に関する不安やお悩みをお持ちの方は、ぜひ小谷野税理士法人へお気軽にご相談ください

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。