遺留分侵害額の計算方法は?具体例を用いて計算の流れを紹介
                          相続、遺贈、生前贈与等により遺留分の侵害を受けた遺留分権利者は、遺留分侵害額請求が可能です。
ただし、遺留分侵害額請求を行う前に、まずは遺留分侵害額を正確に計算する必要があります。遺留分および遺留分侵害額の計算方法を知らなければ、誤った内容で遺留分侵害額請求をしてしまう恐れがあるため注意が必要です。
今回は遺留分侵害額の計算方法について詳しく解説します。
前提|遺留分とは

遺留分とは、特定の法定相続人に認められた遺産の最低限の取り分です。遺留分の割合は法定相続人の構成によって以下のように定められています。
| 
 法定相続人の構成  | 
 遺留分全体の割合  | 
 各人の遺留分  | 
| 
 配偶者のみ  | 
 2分の1  | 
 配偶者:2分の1  | 
| 
 配偶者と子  | 
 2分の1  | 
 配偶者:4分の1 子:4分の1を全員で等分  | 
| 
 配偶者と親  | 
 2分の1  | 
 配偶者:3分の1 親:6分の1を全員で等分  | 
| 
 配偶者と兄弟姉妹  | 
 2分の1  | 
 配偶者:2分の1 兄弟姉妹:なし  | 
| 
 子のみ  | 
 2分の1  | 
 子:2分の1を全員で等分  | 
| 
 親のみ  | 
 3分の1  | 
 親:3分の1を全員で等分  | 
| 
 兄弟姉妹のみ  | 
 なし  | 
表の通り、法定相続人であっても兄弟姉妹には遺留分が認められていません。
関連記事:【遺留分の基礎知識】遺留分の割合と計算方法について解説
遺留分は遺言よりも優先される権利です。遺贈や遺産分割、特定の条件を満たす生前贈与等によって遺留分の侵害を受けた相続人には、遺留分侵害額請求の権利があります。
遺留分の侵害を受けたからといって、自動的に遺留分侵害額請求が実行されるわけではありません。遺留分侵害を受けた本人による手続きが必要です。
手続きの詳細は以下の記事で解説しています。
関連記事:遺留分侵害額請求の時効は1年と10年!期間内にやるべきことと時効を止める方法
関連記事:損をしないための遺留分侵害請求|基礎知識や時効について解説
遺留分侵害額の計算に用いる財産の範囲

遺留分侵害額を計算するには、まずは計算に用いる相続財産等の範囲について正しい理解が必要です。
以下より計算対象に含まれる財産について詳しく解説します。
被相続人が亡くなったときに所有していた財産
いわゆる相続財産です。計算に含める財産の例を紹介します。
【プラスの財産】
- 現金、預貯金
 - 有価証券(株式、小切手など)
 - 不動産および不動産上の権利(借地権、抵当権など)
 - 自動車
 - 家財
 - 貴金属、宝石、骨とう品など
 - 知的財産権(著作権など)
 - 損害賠償請求権
 - 被相続人が受取人とされている生命保険金
 
【マイナスの財産】
- 借入金やローン
 - 各種未払金(税金、家賃、公共料金、医療費、罰金の未納分、クレジットカード未払金など)
 
プラスの財産・マイナスの財産どちらも遺留分の算定に用います。マイナスの財産を控除しわすれてしまうと、遺留分の金額が過大になってしまうため注意が必要です。
相続開始前1年以内に行われた贈与財産
相続開始前1年以内に行われた贈与分の財産価額は無条件で遺留分の計算に含めます。
相続税の計算においては、生前贈与加算の対象期間は段階的ではありますが、最大で7年と定められています。しかし、遺留分の計算で対象期間となるのは相続開始前1年以内の贈与分です。相続税計算よりも加算対象期間が短く設定されている点にご注意ください。
相続開始前10年以内に特定の相続人だけが被相続人から受けた生計の資本としての贈与(特別受益)
特別受益とは、特定の相続人だけが被相続人から受けた贈与のうち、生計の資本として受けたもののことです。被相続人から相続人に対する贈与のうち、結婚持参金や居住用不動産(取得資金含む)、事業用資金等は特別受益に該当する可能性が高いです。
民法1044条3項では、特定受益に該当する贈与は相続開始前10年以内に行われた分を遺留分の計算に用いると定められています。
参考:民法 | e-Gov 法令検索(903条、1404条)
関連記事:生前贈与と特別受益ってどう違う?制概要や相続遺産の算出方法を解説
贈与者・受贈者の双方が遺留分侵害に当たる旨を認識していた贈与
贈与者と受贈者の双方が遺留分権利者の権利を侵害する事実を認識していた贈与も遺留分の計算に含めます。
根拠となるのは民法第1044条1項の条文です。「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えると知って贈与をした場合は、1年よりも前に行なった贈与分も計算に含める」旨が定められています。
なお、遺留分に限らず権利を主張する側には、権利の侵害を受けた事実や侵害額についての説明責任があります。すなわち「贈与者・受贈者の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた」事実についても、遺留分侵害額請求を行う権利者に立証責任があります。
遺留分侵害額を計算するための流れ

大前提として、遺留分額の計算方法を簡略化した式は以下の通りです。
| 遺留分額=遺留分を算定するための財産の価額 × 各人の遺留分割合 | 
上記の式で計算した遺留分額から実際に相続等によって取得した財産価額を差し引いた額が、遺留分侵害額となります。すなわち遺留分額および遺留分侵害額を求めるには、はじめに「遺留分を算定するための財産の価額」の計算が必要です。
今回は以下の例を用いて、各人の遺留分額および遺留分侵害額の計算をしてみましょう。
- 法定相続人の構成:配偶者、子供A、子供B
 - 遺言書の中で「子供Bに対して全財産を相続する」と指定されている
 - 子供Aに対して相続開始の10年前に生計資本として1,500万円の贈与が行われていた
 - 3以外の生前贈与の事実はないものとする
 - 相続財産はプラスの財産が8,000万円、マイナスの財産が500万円
 
遺留分侵害額を計算する流れは大きく4つの工程に分けられます。以下より各工程について詳しく解説します。
[ステップ1]遺留分の計算に用いる財産を洗い出す
まずは遺留分の計算に用いる財産、前述した式における「遺留分を算定するための財産」を洗い出します。
今回の例で計算に用いる財産は以下の3つです。
- プラスの財産:8,000万円
 - マイナスの財産:500万円
 - 子供Aに対する生前贈与:1,500万円
 
財産の洗い出しが不十分な場合、後の計算結果に誤りが生じてしまいます。前述のように遺留分侵害額請求を行う権利者には、遺留分侵害を受けた事実や侵害額についての説明責任があります。主張に誤りがあると、遺留分侵害額請求が上手くいかない恐れがあるため注意しましょう。
[ステップ2]「遺留分を算定するための財産の価額」を計算する
[ステップ1]の結果をもとに、遺留分の計算に用いる基礎財産(遺留分を算定するための財産の価額)を計算します。
今回の例における遺留分を算定するための財産の価額は以下の通りです。
| プラスの財産8,000万円-マイナスの財産500万円+子供Aに対する生前贈与(特別受益)1,500万円=9,000万円 | 
[ステップ3]各人の遺留分額を計算する
続いて、各人の遺留分額を計算します。法定相続人の構成が配偶者と子の場合、各人の遺留分割合は以下の通りです。
- 配偶者:4分の1
 - 子:4分の1を全員で等分
 
したがって、今回の例では各人の遺留分額は以下のようになります。
- 配偶者:9,000万円 × 4分の1=2,250万円
 - 子供A:9,000万円 × 4分の1 × 2分の1=1,125万円
 - 子供B:9,000万円 × 4分の1 × 2分の1=1,125万円
 
今回は子供2人のため、子供Aと子供Bはそれぞれ子供A全体の遺留分割合に2分の1を乗じて計算しました。子供が3人の場合は3分の1を乗じるといったように、子供の数に応じて調整をする必要があります。
[ステップ4]遺留分侵害額を計算する
最後に、各人の遺留分額から実際に相続等によって取得した財産価額を差し引きます。ここで算出された額が遺留分侵害額となります。
今回の場合、各人が取得した財産の価額は以下のようになります。
- 配偶者:0円
 - 子供A:特別受益に該当する生前贈与1,500万円
 - 子供B:遺言によって指定された全財産7,500万円(プラスの財産8,000万円-マイナスの財産500万円)
 
遺言の中で子供Bに全財産を遺贈する旨が明記されているため、配偶者・子供Aともに遺贈による財産の取得分はありません。
ただし、子供Aは特別受益に該当する生前贈与を受けています。特別受益の1,500万円は、前節で計算した遺留分1,125万円を上回っているため、子供Aは遺留分侵害を受けていません。
今回の例の場合、配偶者の遺留分額は2,250万円です。配偶者は生前贈与と遺贈のどちらも受けていません。したがって遺留分額2,250万円について、子供Bに対して遺留分侵害額請求が可能です。
遺留分侵害額請求では権利者による説明責任がある!計算方法を要確認
遺留分侵害額請求を行うには、自身が本当に遺留分侵害を受けているのか、遺留分侵害額はいくらであるのか等の確認が必要です。
計算に少しでもミスや漏れがあると金額がズレてしまい、主張が正しくないと否認されてしまう恐れがあります。遺留分侵害額請求をスムーズに行うため、遺留分侵害額を正確に計算することが理想です。
ただし、遺留分侵害額を計算するには生前贈与まで細かく調査する必要があります。法律の知識が必要な場面もあるため、専門家に相談しながら進めるのが安心です。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。