相続と遺贈の違いとは?用語の定義と大きな違い4点、注意点を詳しく解説
相続は死亡した人の財産を法定相続人が引き継ぐこと、遺贈は遺言で指定された人が引き継ぐことです。
どちらも「死亡した人の財産を引き継ぐこと」という点では同じですが、手続きの進め方や税額の計算方法など様々な違いがあります。特に、遺贈によって財産を引き継ぐ人が法定相続人でない場合には注意が必要です。
今回は相続と遺贈の違いについて詳しく解説します。
目次
相続|死亡した人の財産を法定相続人が引き継ぐ
相続とは、死亡した人の財産を法定相続人が引き継ぐことです。死亡した人の配偶者と、以下のうち最順位の高い血族が法定相続人になります。
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第1順位 |
子供または孫 |
|---|---|
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第2順位 |
父母または祖父母 |
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第3順位 |
兄弟姉妹または甥姪 |
法定相続人ごとの相続割合は以下のように定められています。
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構成 |
相続割合 |
|---|---|
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配偶者のみ |
全て |
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配偶者と子 |
配偶者:2分の1 子:2分の1 |
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配偶者と父母 |
配偶者:3分の2 父母:3分の1 |
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配偶者と兄弟姉妹 |
配偶者:4分の3 兄弟姉妹:4分の1 |
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配偶者なし |
最も順位の高い血族相続人がすべて相続 |
※同順位に複数人いる場合は全員で等分する。
なお、遺産分割協議により全員が合意した場合、法定相続割合とは異なる割合で遺産分割を行うことも可能です。
関連記事:【税理士監修】遺産相続の順位とは?法定相続人の意味や相続割合、具体的な例などを解説
遺贈|死亡した人の財産を遺言で指定された人が引き継ぐ
遺贈とは、死亡した人の財産を遺言で指定された人が引き継ぐことです。遺贈により財産を引き継ぐ人を受遺者と呼びます。
遺贈は財産の指定の有無によって「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類に分けられます。
包括遺贈|財産の内容を指定しない遺贈
包括遺贈とは財産の内容を指定しない遺贈です。「財産のすべてをAに遺贈する」「財産の3分の2をBに、3分の1をCに遺贈する」等は包括遺贈に該当します。
包括遺贈の場合、財産の移転先および分割割合のみ決められた状態です。そのため、包括遺贈による受遺者が複数人いる場合、遺産分割協議で誰がどの財産を引き継ぐかを決める必要があります。
また、包括遺贈の場合は債務などマイナスの財産の引き継ぎも必要です。例えば「全財産の30%をDに遺贈する」の場合、Dはプラスの財産・マイナスの財産の両方を30%ずつ引き継ぐことになります。
特定遺贈|財産の指定がある遺贈
特定遺贈とは財産の指定がある遺贈です。例として、「Aに不動産Xを遺贈する」「Bに預貯金500万円を遺贈する」等が挙げられます。
特定遺贈の場合は移転する財産の種類や金額、受遺者が明確に指定されているため、対象の財産は他の遺産分割協議の対象になりません。遺産分割協議を経ず、すぐに財産を取得できます。
また、債務について特段の指定がされていない限り、特定受遺者は債務を引き継ぐ必要がありません。債務を引き継ぐリスクがない点はメリットですが、同時に相続税の計算時に債務控除の適用ができない点に注意が必要です。
相続と遺贈の主な違い4点

相続と遺贈の主な違いは全部で4つです。それぞれ詳しく解説します。
関連記事:遺贈・相続・贈与の違いとは?必要な手続きや発生する税金など注意点を解説
[違いその1]財産を引き継ぐ人の制限の有無
相続と遺贈の大きな違いは財産を引き継ぐ人に関する制限の有無です。
相続により財産を取得できるのは法定相続人のみです。前述のように、亡くなった人の配偶者および最も順位の高い血族のみが法定相続人となります。
遺贈には財産を引き継ぐ人の制限がありません。法定相続人以外を受遺者に指定することも可能です。
[違いその2]相続税額の2割加算の可能性
遺贈では相続税額の2割加算が適用される可能性があります。
適用対象になるのは、相続や遺贈によって財産を取得した人が配偶者および一親等の血族(代襲相続人の孫を含む)以外の場合です。孫や兄弟姉妹、親族以外に遺贈する場合、受遺者は相続税額の2割加算の対象となり、税負担が重くなる恐れがあります。
関連記事:相続税の2割加算の対象者は孫だけじゃない!ケース別の対象者について解説
[違いその3]不動産の登記手続きにかかる税金
亡くなった人から引き継いだ不動産の登記手続きにかかる税金も、相続と遺贈で違いがあります。
相続による所有権移転登記を「相続登記」といいます。相続登記の場合、登記にかかる登録免許税は固定資産税評価額の0.4%です。
遺贈の登記にかかる登録免許税の額は、受遺者が法定相続人であれば相続登記と同様に固定資産税評価額の0.4%です。一方で受遺者が法定相続人以外の場合は、固定資産税評価額の2%と法定相続人に比べて高額になります。
また、受遺者が法定相続人以外かつ特定遺贈の場合は不動産取得税が課せられます。不動産取得税の額は原則として固定資産税評価額の4%です。ただし、一定の不動産については令和9年3月31日までは軽減税率が適用されており、税率は3%となっています。
関連記事:【税理士監修】相続登記の必要書類は?登記の必要性や法務局での申請手順も解説
[違いその4]財産を引き継ぐ権利を放棄する方法
財産を引き継ぐ権利を放棄する方法は、相続・包括遺贈と特定遺贈で異なります。
相続を放棄するには「相続放棄」の手続きが必要です。相続放棄をするには、被相続人の死亡時点の住所を管轄する家庭裁判所に申述書を提出する必要があります。相続放棄の申述期限は相続の開始を知った日から3ヵ月以内です。
関連記事:【税理士監修】相続で知っておくべき相続放棄の基本とデメリット。手続き方法もあわせて解説
包括遺贈の放棄の手続きも相続放棄と同様に、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所へ申述書を提出する必要があります。申述期限は包括遺贈の事実を知った日から3ヵ月以内です。
呼び方に違いはあるものの、相続放棄と包括遺贈の放棄の手続きの進め方自体は同じといえます。
一方で特定遺贈の放棄の場合、家庭裁判所への申述は不要です。遺言執行者または他の相続人に対する意思表示のみで遺贈の放棄が成立します。このように包括遺贈と特定遺贈では放棄の方法が大きく異なる点に注意が必要です。
遺贈を受けた人が法定相続人でない場合の注意点3つ

受遺者が法定相続人の場合、税額の計算方法や手続きの進め方などに相続との大きな違いはありません。
一方で受遺者が法定相続人でない場合、相続とは異なる部分が多く存在します。以下では遺贈を受けた人が法定相続人でない場合の注意点を3つ紹介します。
[注意点その1]相続税の基礎控除額や死亡保険金の非課税枠の計算には含められない
相続税の基礎控除額と死亡保険金の非課税枠の計算方法はそれぞれ以下の通りです。
- 相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円 × 法定相続人の数
- 死亡保険金の非課税枠=500万円 × 法定相続人の数
式の通り、計算に用いるのは法定相続人の数です。法定相続人以外の受遺者を計算に含めることはできません。
例えば、遺言書によって受遺者として指定されたのが配偶者と友人Aの場合、受遺者は2人ですが、法定相続人は配偶者1人のみです。したがって、相続人の基礎控除額や死亡保険金の非課税枠の計算に用いる法定相続人の数は「1人」となります。
[注意点その2]法定相続人に比べて税額が高くなる可能性がある
受遺者が法定相続人以外の場合、法定相続人が遺贈を受ける場合に比べて税額が高くなる可能性があります。法定相続人とそれ以外で計算方法が異なる可能性のある税金は以下の3つです。
- 相続税
配偶者および一親等の血族以外の場合は2割加算 - 不動産の登記にかかる登録免許税
法定相続人の場合は固定資産税評価額 × 0.4%、法定相続人以外の場合は固定資産税評価額 × 2% - 不動産取得税
受遺者が法定相続人以外かつ特定遺贈の場合のみ発生。固定資産税評価額 × 4%(令和9年3月31日までは軽減税率3%)
特に注意するべきなのは申告納税制度を採用している相続税です。相続税の2割加算を忘れてしまうと過少申告になり、税務調査で指摘を受けて追徴課税の対象になる恐れがあるためご注意ください。
[注意点その3]遺留分を侵害しないよう注意が必要
法定相続人以外を受遺者として指定する場合、遺言の内容が遺留分を侵害しないよう注意する必要があります。
遺留分とは特定の法定相続人に定められた遺産の最低限の取り分です。遺留分は以下のように定められています。
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構成 |
遺留分の割合 |
|---|---|
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配偶者のみ |
2分の1 |
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配偶者と子 |
配偶者:4分の1 子:全員で4分の1 |
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配偶者と父母 |
配偶者:3分の1 父母:3分の1 |
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配偶者と兄弟姉妹 |
配偶者:2分の1 兄弟姉妹:遺留分なし |
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配偶者なし |
子:2分の1 父母:3分の1 兄弟姉妹:遺留分なし |
遺留分は遺言よりも優先される権利です。遺留分を侵害する内容の遺言書は、受遺者と法定相続人との間でトラブルの原因になるため注意する必要があります。
関連記事:【遺留分の基礎知識】遺留分の割合と計算方法について解説
相続と遺贈の扱いには様々な違いがある!受遺者が法定相続人以外の場合は要注意
相続と遺贈はいずれも亡くなった人の財産を引き継ぐことですが、定義や手続き、発生する税金など様々な違いがあります。
特に受遺者が法定相続人以外の場合、相続税の2割加算や不動産登記にかかる税金の違い等から、税負担が重くなりやすいです。税金の計算方法の違いをしっかり押さえなければ過少申告や登記手続きのトラブル等が発生する恐れがあるためご注意ください。
税金に関するルールは複雑で特例も多いため、専門知識のない人が正確な税額計算をするのは難しいのが事実です。相続や遺贈にかかる税金について少しでも疑問や不安があれば、専門家である税理士への相談をおすすめします。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。