相続税はいくらから発生?遺産の金額・控除・税金の計算方法
遺産相続において、相続税がいくらからかかるのかは多くの方が疑問に思う点です。相続税は、故人が残した資産のすべての資産が課税対象となるわけではなく、遺産の総額から基礎控除額を差し引いた金額がプラスになる場合にのみ発生します。
本記事では、相続税はいくらから発生し、いくらかかるのか、その計算方法や各種控除について解説します。
目次
相続税は遺産総額が「基礎控除額」を超えた場合のみ発生
相続税は、亡くなった方から受け継いだ遺産の総額が、一定の非課税枠である「基礎控除額」を上回った場合にのみ課税対象となります。
つまり、遺産総額が基礎控除額以下であれば、相続税はかからず、原則として申告も不要です。多くの場合は遺産総額がこの範囲内に収まるため、実際に相続税を納めるケースは少ないでしょう。
関連記事:【税理士監修】相続税の基礎控除と法定相続人の解説。相続税の申告が不要になるケースは?
相続税を支払う人の割合は全体の約9%
日本において実際に相続税を支払う人の割合は、亡くなった人のうちごく一部に限られます。
国税庁が公表した令和5年(2023年)のデータによると、死亡者数約157.6万人に対し、相続税の課税対象となった被相続人数は約15.5万人で、課税割合は9.9%でした。
この割合は年々増加傾向にありますが、依然として約9割の人には相続税がかかっていないのが実情です。過去のデータを見ても、2020年(令和2年)は8.8%であり、大きな変動はありません。
今後もこの傾向が続くと考えられますが、税制改正等によっては変動する可能性も念頭に置く必要があります。
相続税がかかるか判断する基準「基礎控除額」の計算方法

相続税が発生するかどうかを判断する上で最も重要なのが、基礎控除額の計算です。この金額は、すべての相続において無条件で遺産総額から差し引くことができ、相続税の課税対象額を算出する際の基準となります。
この基礎控除額は、法定相続人が1人、2人、3人と増えるごとに加算され、相続人が多いほど非課税枠が大きくなります。
そのため相続税を算出する前には、まずは誰が法定相続人になるのかを正確に把握することからはじめましょう。
関連記事:【税理士監修】兄弟姉妹も法定相続人になる?相続割合やトラブルを回避する方法も解説
【法定相続人の数別】相続税がかからない遺産額の早見表
基礎控除額を求める際は、以下の計算式を用います。
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基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数) |
基礎控除額は法定相続人の数によって決まります。以下は法定相続人の数ごとの基礎控除額の一覧表になります。
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法定相続人の数 |
基礎控除額 |
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1人 |
3,600万円 |
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2人 |
4,200万円 |
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3人 |
4,800万円 |
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4人 |
5,400万円 |
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5人 |
6,000万円 |
上記の基礎控除額に対し遺産総額の方が下回っていれば、原則として相続税は発生しません。
法定相続人の範囲と確認方法
基礎控除額を正確に計算するためには、まず誰が法定相続人になるのかを確定させる必要があります。
法定相続人の範囲と順位は民法で定められており、被相続人の配偶者は常に相続人となります。それ以外は、第1順位が子、第2順位が直系尊属(親など)、第3順位が兄弟姉妹の順です。上位の順位の相続人がいる場合、下位の順位の人は相続人になれません。
正確な法定相続人を把握するためには、被相続人の戸籍謄本等を取り寄せ、家族関係を網羅的に調査することが不可欠です。これにより、認知している子や養子などの存在が明らかになる場合もあります。
関連記事:【税理士監修】遺産相続の順位とは?法定相続人の意味や相続割合、具体的な例などを解説
【5ステップで解説】相続税の納税額がわかる計算手順

相続税の計算は、遺産総額を単純に分割して税率をかけるだけではなく、いくつかの段階に分けて算出することになります。
納税額を算出する手順については、以下より5つのステップに分けて解説します。
ステップ1:課税対象になる遺産の総額を算出する
最初に課税対象となる遺産総額を確定させます。
そのためには遺産を「プラスの財産」と「マイナスの財産」に分けて整理します。課税対象額は、プラスの財産合計からマイナスの財産合計を差し引いた金額です。
以下はプラスの財産とマイナスの財産の代表例です。
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プラスの財産 |
現金、預貯金、不動産、有価証券、家財、骨董品、美術品、宝石、貸付金、著作権などの各種権利、7年以内に生前贈与を受けた財産など |
|---|---|
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マイナスの財産 |
借金、住宅ローン、各種未払金など 債務ではないものの、葬式費用もマイナスの財産として控除できる |
被相続人の生命保険の保険金(死亡保険金)や死亡退職金も「みなし相続財産」として課税対象になります。なお、これらには「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が設けられています。
関連記事:【税理士監修】生命保険の死亡保険金には相続税がかからない?非課税枠や注意点も解説
生前贈与の持ち戻しについて
相続税の計算では、亡くなる前の一定期間に行われた生前贈与を相続財産に加算する必要があります。これを「持ち戻し」といいます。対象となる贈与の期間は以下の通りです。
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2023年12月31日までの贈与 |
相続開始前3年以内 |
|---|---|
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2024年1月1日以降の贈与 |
相続開始前7年以内(段階的に延長) |
たとえ贈与税の年間110万円の基礎控除内の贈与であっても、上記の期間内に行われたものは持ち戻しの対象となるため注意が必要です。
関連記事:暦年贈与が2023年に改正!変更点は?廃止されるって本当?
ステップ2:法定相続分で分割して仮の相続税額を求める
基礎控除額を引いた課税遺産総額が確定したら、次にその総額を法定相続分に従って各相続人が取得したものと仮定して分割します。
そして、分割された各々の金額に対して、定められた相続税の税率を適用し、控除額を差し引いて各相続人の「仮の相続税額」を計算します。相続税の税率は累進課税方式であり、取得する財産の金額が大きくなるほど税率も高くなります。
以下は、法定相続分ごとの税率と控除額を表したものです。
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法定相続分に応ずる取得金額 |
税率 |
控除額 |
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1,000万円以下 |
10% |
– |
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1,000万円超3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
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3,000万円超5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
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5,000万円超1億円以下 |
30% |
700万円 |
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1億円超2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
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2億円超3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
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3億円超6億円以下 |
50% |
4,200万円 |
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6億円超 |
55% |
7,200万円 |
関連記事:【相続税の税率がすぐわかる】相続税の速算表と計算例のまとめ
ステップ3:各相続人の仮の相続税額を合計して総額を出す
ステップ2で算出した各法定相続人の仮の相続税額を合算し、「相続税の総額」を算出します。
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相続税の総額=配偶者の相続税額+各法定相続人の相続税額 |
仮の税額を足し合わせることで、一旦全体の税額を確定させます。この段階ではまだ個々の最終的な納税額ではなく、次のステップで実際の相続割合に応じて再分配されることになります。
関連記事:【税理士監修】相続税はいくらからかかるのか?遺産総額別の相続税の概算まとめ
ステップ4:実際の相続割合に応じて相続税の総額を按分する
ステップ3で算出した相続税の総額を、改めて各相続人が実際に遺産を取得した割合に応じて按分します。遺言書がある場合はその内容に従い、ない場合は遺産分割協議で合意した割合で分割します。
このステップにより、各相続人が具体的に負担すべき相続税額が算出されます。例えば、全財産を1人が相続した場合、相続税の総額をその1人が全額負担することになります。
ステップ5:各人の税額控除を適用して最終的な納税額を確定する
ステップ4で算出された各相続人の負担税額から、個々の状況に応じて適用できる税額控除を差し引きます。これにより、最終的に納めるべき個人の納税額が確定します。
税額控除には、配偶者の税額軽減、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除など、様々な種類があります。これらの控除を適用することで、納税額が大幅に軽減されたり、ゼロになったりするケースも少なくありません。
このステップを経て、各相続人の最終的な納税義務額が決定します。
関連記事:【税理士監修】相続税は節税できる?利用したい控除と効果的な対策方法
相続税の負担を大幅に軽減できる主な特例と控除
相続税の計算においては、納税者の負担を軽減するために様々な特例や控除制度が設けられています。これらを適切に活用すれば、納税額を大幅に抑えることも可能になります。
ここでは、相続税の負担を軽減できる主な特例と控除について紹介します。
配偶者なら1億6,000万円まで非課税になる「配偶者の税額軽減」
「配偶者の税額軽減」は、被相続人の死亡により財産を相続した配偶者の税負担を大きく軽減する制度です。配偶者が取得した遺産額が「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは相続税はかかりません。
この特例の適用を受けるためには、遺産総額が非課税枠内であっても相続税の申告書を税務署に提出しなければいけません。申告を忘れると特例が適用されず、多額の税金を納めることになる可能性があるため注意が必要です。
関連記事:配偶者控除を適用した後の相続税はいくらになる?ケース別に紹介!
自宅の土地評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」
「小規模宅地等の特例」は、亡くなった方が住んでいた自宅や事業を営んでいた土地などを相続した場合に、その土地の相続税評価額を最大で80%減額できる制度です。
この特例は、相続人が生活基盤や事業基盤を失うことなく、相続後も安定した生活を送れるようにすることを目的としています。
例えば、被相続人の自宅敷地(特定居住用宅地等)については、330平方メートルを上限として評価額を80%減額できます。
ただし、誰が相続するか、相続後にどのように利用するかなど、適用には非常に細かく複雑な要件が定められています。小規模宅地等の特例を活用する際は、専門家のアドバイスを受けることを検討しましょう。
関連記事:【小規模宅地等の特例の計算方法】減額割合・計算例・注意点などポイントを解説
未成年者や障害者が相続する場合に適用される税額控除
相続人が未成年者や障害者である場合、将来の生活への配慮から税額控除が設けられています。未成年者控除は、相続人が18歳に達するまでの年数1年につき10万円が控除されます。
障害者控除は、相続人が85歳に達するまでの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)が控除額となります。
これらの控除は、相続人本人の相続税額から直接差し引くことができ、もし控除しきれない金額がある場合は、その扶養義務者の相続税額からも差し引くことも可能です。
関連記事:【税理士監修】相続税の障害者控除を解説。適用要件や計算方法、申告不要となるケースまで
10年以内に再度相続が発生した場合の「相次相続控除」
相次相続控除は、短期間のうちに相続が相次いで発生し、同じ財産に対して何度も相続税が課される負担を軽減するための制度です。
具体的には、最初の相続から10年以内に次の相続が発生した場合、二次相続で納める相続税額から、一次相続の際に課された相続税額の一部を控除することができます。
控除できる金額は、一次相続で課された相続税額や一次相続から二次相続までの経過年数などによって計算されます。経過年数が短いほど控除額は大きくなります。
関連記事:【税理士監修】数次相続とは?手続きの進め方と相続税申告をする際のポイント
相続税の申告手続きに関する注意点

相続税の申告や納税には期限や手続き上の注意点があります。ここからは、注意すべきポイントを解説します。
申告と納税の期限は相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内
相続税の申告と納税には、厳格な期限が定められています。その期限は、被相続人が亡くなったことを知った日(通常は死亡日)の翌日から10ヵ月以内です。この期限は申告書の提出だけでなく、納税の完了期限も指しています。
もし期限までに申告や納税が間に合わない場合、本来納めるべき税額に加えて、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課されることになります。
また、納税は現金一括での納付が原則となっています。遺産の調査や評価、遺産分割協議には時間がかかることも多いため、相続が発生したら速やかに手続きに着手することが重要です。
遺産総額が基礎控除額以下であれば原則として申告は不要
相続税の申告義務は、すべての相続人に発生するわけではありません。遺産総額が基礎控除額を下回る場合には相続税はかかりません。この場合、原則として税務署への相続税申告書の提出は不要です。
相続財産の評価額を正確に計算した結果、基礎控除の範囲内に収まることが明らかであれば、特別な手続きは必要なく、相続手続きを完了させることができます。
ただし、財産評価を誤ると申告漏れにつながるリスクもあるため、評価は慎重に行う必要があります。
特例を適用して税額が0円になった場合は申告が必須
遺産総額が基礎控除額を超えていても「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった制度を適用した結果、最終的な納税額が0円になることがあります。
この場合、納税は不要ですが相続税の申告書の提出は義務となります。これらの特例は、申告を行うことを適用要件としているためです。
もし申告期限までに申告書を提出しなかった場合、特例の適用が認められず、本来納付すべきであった多額の相続税と、さらに加算税や延滞税が課される可能性があります。
税額がゼロになるからといって手続きが不要になるわけではない点を、十分に理解しておく必要があります。
まとめ
相続税は、遺産の総額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算される基礎控除額を超えた場合にのみ発生します。したがって、相続税がかかるかどうかは、まず遺産総額の評価と法定相続人の確定から始まります。
納税額の計算は、遺産総額から基礎控除を引いた後、法定相続分で按分して税額を算出し、それを実際の相続割合で再分配するなど複雑な手順を踏みます。
また、配偶者控除や小規模宅地等の特例などの税額控除を活用すれば、税負担を大幅に軽減できる可能性があります。ただし、これらの特例を適用により、納税額が0円になった場合でも相続税の申告は必須ですので、期日までに忘れず納税を行いましょう。
なお、相続税の申告や計算、節税対策は専門的な知識を要するため、お困りの際は税理士に相談することをおすすめします。
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相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。