不動産の生前贈与と相続どちらがお得?メリット・デメリットと注意点を解説

不動産を次世代へ承継する方法には「生前贈与」と「相続」があります。どちらを選ぶかで税負担や手続きの手間、さらには家族間の公平性に大きな影響が及ぶため、慎重な判断が欠かせません。本記事では、それぞれの仕組みや特徴を整理し、メリット・デメリットや注意点を具体的に解説します。不動産承継で迷ったときの判断材料として、ぜひ参考にしてください。
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目次
不動産の生前贈与と相続の基本
まずは、生前贈与と相続税の基本的な仕組み、不動産特有の注意点について解説します。
生前贈与について
生前贈与とは、親や祖父母が生きている間に不動産を子や孫へ移転する方法です。承継先を早めに確定できるため、将来の相続時に家族間で揉めにくくなる点が特徴でしょう。
贈与税がかかりますが、年間110万円の基礎控除や相続時精算課税制度(2,500万円まで非課税)を利用できます。
参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
関連記事:贈与税の基礎控除額はどのくらい?税額の算出方法や暦年贈与についても解説
相続について
相続は、被相続人が亡くなったときに財産を引き継ぐ制度です。相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人」の基礎控除が設けられており、多くの家庭では相続税が発生しないのが一般的です。
さらに、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった優遇制度を活用できるため、税負担を抑えやすいのも特徴です。
参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
関連記事:【税理士監修】相続人は誰がなるのか。相続人となる人の範囲や順位について解説
不動産特有の注意点
不動産は現金のように分けにくいため、承継時に家族間のトラブルが起きやすい資産です。
不動産の相続税評価は「財産評価基本通達」に基づき、路線価方式や倍率方式で算定されますが、実際の取引価格(実勢価格)と差が出るケースも少なくありません。
また、共有名義にすると売却や活用の際に相続人全員の同意が必要となり、スムーズに手続きが進まないリスクもあるのが特徴です。
関連記事:不動産・土地を兄弟で相続する場合の分割方法とは?注意点も解説!
生前贈与のメリット・デメリット
不動産を生前贈与する場合のメリットとデメリットについて解説します。
メリット |
デメリット |
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メリット
不動産を生前贈与する最大のメリットは、相続開始後の遺産分割トラブルを未然に防げる点です。生前に承継先を決めることで相続人間の争いを避けやすくなります。
また、贈与時の評価額で課税が確定するため、将来の地価上昇による税負担を抑えられるのもメリットでしょう。
さらに「相続時精算課税制度」を利用すれば、最大2,500万円まで非課税で贈与でき、評価額を早めに固定できる点も有利に働きます。
関連記事:【税理士監修】相続税対策に生前贈与を行うべき?生前贈与のメリットや注意点を解説
デメリット
一方で、贈与税は相続税よりも税率が高く、課税額が大きくなりやすいです。また、不動産を贈与する際には登録免許税(評価額の2%)や不動産取得税(評価額の3%)といった諸費用が発生し、数十万から百万円単位の負担となるケースもあります。
さらに、一度贈与するとその不動産を自分で処分できなくなるため、将来の生活費や介護費用を確保できなくなるリスクもあります。
相続のメリット・デメリット
次に、不動産を相続する場合のメリットとデメリットについて解説します。
メリット |
デメリット |
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メリット
相続の最大のメリットは、課税を軽減できる制度が豊富に用意されている点です。「3,000万円+600万円×法定相続人」の基礎控除があるため、多くの家庭では相続税がかかりません。また配偶者が相続する場合は「配偶者の税額軽減」により、大幅に課税を抑えられます。
さらに、居住用宅地については最大330㎡まで80%減額できる小規模宅地等の特例があり、課税評価額を大きく下げられます。
相続登記にかかる登録免許税も0.4%に軽減され、不動産取得税も非課税となるため、費用面でも優遇されているのが特徴です。
参考:不動産を相続した方へ ~相続登記・遺産分割を進めましょう~ | 法務省
関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例とは?計算方法や適用要件をわかりやすく解説します
デメリット
財産額が基礎控除を超えると相続税が発生し、想定外の負担になる可能性があるでしょう。また、相続人が複数いる場合に不動産を共有すると、売却や活用のたびに全員の同意が必要となり、処分が難しくなります。
さらに、相続登記を放置すると世代交代で相続人が増え、権利関係が複雑化するリスクがあります。2024年からは相続登記が義務化され、放置すれば過料の対象となるため、早めの手続きが欠かせません。
不動産の生前贈与と相続はどちらがお得か?
不動産を承継する際に「生前贈与」と「相続」のどちらを選ぶべきかは、一概に決められません。財産額や不動産の種類、家族構成によって有利・不利が大きく変わるためです。
具体的なケースごとにどちらがお得かを解説します。
相続財産が基礎控除内なら相続がお得
相続財産が、相続税の基礎控除内(3,000万円+600万円×法定相続人)であれば、相続の方がお得です。
例えば、相続財産の合計が3,000万円で相続人が2人の場合、基礎控除額は「3,000万円+600万円×2人=4,200万円」となるため相続税はかかりません。
一方、生前贈与で同じ3,000万円の土地を移転すると、不動産取得税(90万円)や登録免許税(60万円)が発生し、150万円の負担が生じるため、この場合は相続を選んだ方がお得と言えます。
特例を利用できるなら相続がお得
小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使えるなら、相続の方がお得です。例えば、評価額5,000万円の自宅を相続する場合、小規模宅地等の特例を使えば最大80%の評価減が適用され、1,000万円に圧縮できます。
さらに配偶者が相続するケースでは、法定相続分または1億6,000万円まで非課税となるため、課税額は実質ゼロになります。生前贈与ではこれらの制度を利用できないため、条件を満たせるなら相続がお得と言えます。
不動産の値上がりが見込まれるなら生前贈与がお得
不動産の値上がりが見込まれる場合は、生前贈与の方がお得です。
例えば、現在3,000万円の評価額の土地が10年後に4,500万円になった場合、相続では4,500万円が課税対象となり負担が増えますが、贈与時点で3,000万円で移転しておけば、その後どれだけ値上がりしても課税は3,000万円で固定されます。
将来の値上がりリスクを考慮すると、生前贈与がお得と言えます。
住宅取得資金の非課税制度を使えるなら生前贈与がお得
住宅取得資金の非課税制度を利用できる場合は、生前贈与の方がお得です。条件を満たせば数百万円から最大1,000万円超まで非課税で贈与でき、子が住宅購入に充てることで不動産を間接的に承継できます。その結果、贈与税の負担をゼロにしながら承継を進められます。
タイミングよく制度を活用すれば、大きな節税効果に繋がるでしょう。
参考:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁
関連記事:【税理士監修】住宅取得資金の贈与には非課税枠がある。適用条件やメリットを解説
収益物件を引き継ぐなら生前贈与がお得
収益物件を引き継ぐ場合は、生前贈与の方がお得です。収益物件は相続まで持ち続けると、家賃収入が積み重なり財産評価額が膨らむリスクがあります。例えば、年間300万円の収入が10年続けば3,000万円が財産に加算され、その分相続税の負担が増えます。
しかし、生前贈与しておけば、その後の家賃収入は子が受け取ることになり、親の財産は増えません。これによって相続財産の評価額を抑え、将来の相続税を軽減できるでしょう。
将来の分割トラブルを避けたいなら生前贈与がお得
将来の分割トラブルを避けたい場合は、生前贈与の方がお得です。不動産は分割が難しい財産であり、例えば3,000万円の土地を3人で分けるには売却が必要になり、不公平感が生まれやすくなるでしょう。
生前贈与を活用すれば「自宅は長男に、別の土地は次男に」と事前に割り振れるため、兄弟間の対立を未然に防げます。トラブルを回避したい場合には、生前贈与が適しています。
特定の相続人に確実に渡したいなら生前贈与がお得
特定の相続人に確実に渡したい場合は、生前贈与の方がお得です。相続では希望通りの分け方が難しいケースもあります。例えば、長男が介護を担っていても、相続時には他の兄弟と平等に分ける必要があるかもしれません。
生前贈与をすれば、自宅を長男に確実に移転でき、意思をはっきり残せます。公平性よりも貢献を重視したい場合に有効です。
相続税や贈与税の比較は複雑で、一般的な解説だけでは判断しにくいケースもあります。
具体的な財産状況に即したシミュレーションをご希望の方は、ぜひご相談ください。
不動産の生前贈与と相続で注意すべきポイント
不動産の承継は、制度や税制だけでなく実務面や家族関係にも影響します。生前贈与や相続を検討する際に注意すべきポイントを解説します。
贈与加算の対象に注意する
生前贈与を行う場合は、相続開始前3年以内の贈与が課税対象に加算されるため注意しましょう。これは「持ち戻し」と呼ばれ、結果的に節税効果が消えてしまいます。
例えば、亡くなる直前に3,000万円の土地を贈与しても、その評価額は相続財産に含まれて課税されます。こうした無駄を避けるためには、少なくとも3年以上前から計画的に贈与を行いましょう。
参考:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁
老後の生活資金を確保する視点を持つ
不動産を生前贈与すると、自分で売却や担保に使えなくなります。老後の生活資金や介護費用が不足しても、不動産を活用できないリスクがあるでしょう。
例えば、自宅を子に贈与した後に資金が必要になっても、自分の意思で処分できません。生活資金の確保と安心感のバランスを取るために、贈与は慎重に検討する必要があります。
不動産移転に伴うコストを正しく把握する
不動産を移転する際は、税金だけでなく登記や諸費用も発生するため、総額を把握しておく必要があります。生前贈与では贈与税のほかに不動産取得税や登録免許税がかかり、相続でも登記費用などは避けられません。
例えば、3,000万円の土地を贈与する場合、不動産取得税や登録免許税だけで100万円以上の費用になる場合があります。単純な税額比較だけでなく、移転コスト全体を考慮して判断しましょう。
家族間の公平性や争いのリスクを考える
不動産承継では、家族間のトラブルを避けるために早めに準備しましょう。不動産は現金のように分けやすい財産ではなく、相続や生前贈与の方法によって公平性や満足度が大きく変わるためです。
例えば、相続であれば法定相続分に従って公平性は保ちやすいものの、希望どおりの承継が難しくなります。一方で、生前贈与を使えば特定の相続人に確実に渡せますが、その結果ほかの相続人が不満を抱く可能性があるでしょう。
こうしたトラブルを防ぐためには、早い段階から家族全員で話し合い、承継の方針を共有しておく必要があります。
この記事で紹介した注意点は、実際のケースでよく問題になる部分です。
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不動産の生前贈与と相続で迷ったら専門家に相談を
不動産の承継は、生前贈与と相続のどちらを選ぶかで税負担や手続きの複雑さ、さらには家族関係への影響まで大きく変わります。
安易に判断すると、想定外の相続税や贈与税が発生したり、将来の分割トラブルに発展するリスクも少なくありません。
自身の財産規模や家族構成、活用できる特例制度を踏まえた最適な方法を検討するには、専門家の助言が有効でしょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
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