遺産相続の寄与分は遺留分にどう影響する?遺留分侵害額請求をされた場合について解説

遺産相続では、寄与分と遺留分が対立することがあります。寄与分は被相続人への生前貢献を評価する制度で、遺留分は法律で保障された最低限の取り分です。両制度が衝突した場合、法律上は遺留分が優先されます。判例でも同様の判断が多く示されています。
この記事では、寄与分と遺留分の違いや遺留分侵害額請求が可能なのか、寄与分・遺留分に関するトラブルの対処法などについて詳しく解説します。
目次
相続における「寄与分」と「遺留分」の違い
寄与分と遺留分は、どちらも法定相続分を調整する制度ですが、その目的と対象者には明確な違いがあります。以下の表で、両者の違いを明確に比較してみましょう。
内容 | 寄与分 | 遺留分 |
目的 | 被相続人の財産の維持・増加に貢献した相続人を優遇する | 法定相続人に最低限の相続分を保障する |
対象者 | 被相続人の財産維持・増加に特別な貢献をした相続人のみ | 兄弟姉妹を除く法定相続人全員(配偶者、子、直系尊属) |
寄与分は被相続人の財産維持・増加に貢献した相続人を優遇する制度であるのに対し、遺留分は最低限の相続分を保護する制度です。つまり、寄与分は「貢献に対する報酬」であり、遺留分は「相続人の権利保障」という異なる目的を持っています。
対象者についても、寄与分は被相続人に対して特別な貢献をした相続人のみが主張できるのに対し、遺留分は兄弟姉妹を除く法定相続人全員に認められています。
ここでは、相続における「寄与分」と「遺留分」の違いについて解説します。
寄与分とは?被相続人の財産維持・増加への貢献した評価額
寄与分は、被相続人の財産維持または増加に特別な貢献をした相続人に認められます。事業への労務提供、財産上の給付、療養看護などが寄与と評価されます。
寄与分の金額に明確な相場はなく、貢献の時期や方法、程度などを考慮して決定します。相続人間の協議または家庭裁判所の判断によって具体的な金額が確定します。
2019年の法改正では、相続人以外の親族にも「特別寄与料」という形で貢献が評価されるようになりました。長年の介護を担った親族への救済措置といえるでしょう。
遺留分とは?法律相続人に保障された最低限の取り分
遺留分は、兄弟姉妹を除く法定相続人に認められた最低限の取り分です。遺言によって相続権が奪われるケースから相続人を守る制度として機能しています。
遺留分の割合は、原則として相続財産の2分の1を法定相続分に応じて分配しますが、直系尊属のみが相続人である場合は3分の1となります。例えば配偶者と子一人がいる場合、配偶者は4分の1、子も4分の1の遺留分が認められる仕組みです。
遺留分は強行法規として強く保護されており、例え遺言で排除されていても、請求権を行使可能です。
参考:遺留分放棄の許可|裁判所
関連記事:【税理士監修】遺留分とは?相続財産を必ず受け取れる制度をわかりやすく解説
寄与分が遺留分を侵害することは認められない
寄与分が遺留分を侵害することは認められません。寄与分の主張が他の相続人の遺留分を侵害する場合、遺留分が優先されます。遺産分割では、まず相続財産総額から寄与分を差し引いた「みなし相続財産」を算出します。
この計算で相続人の取得分が遺留分を下回る場合、遺留分が保障されます。遺留分は相続人の生活保障を目的とした強行法規だからです。
実際には、「自分だけが親の面倒を見た」と大きな寄与分を主張するケースが多く見られます。しかし、法的には寄与分と遺留分のバランスを取ることが重要です。
遺留分侵害額請求をされた場合は寄与分を理由に拒否できる?
他の相続人から遺留分侵害額請求をされた場合、寄与分を理由に完全拒否できません。遺留分は民法で保障された固有の権利であり、寄与分は調整的な制度という位置づけです。遺留分を算定する際の基礎財産には寄与分は含まれないため、遺留分侵害の事実がある限り、支払い義務が生じます。
しかし、協議の中で寄与の事実を説明し、請求額減額の交渉材料にすることは可能です。
寄与分を受け取った相続人への遺留分侵害額請求は可能
特定の相続人が寄与分で多くの遺産を受け取った結果、あなたの遺留分が侵害された場合、遺留分侵害額請求は可能です。これは、遺留分計算では寄与分は考慮されないためです。遺留分侵害額の計算手順は以下の通りです。
- 1. 基礎財産額の確定: 相続開始時の財産に一部の生前贈与を加算します。
- 2. 遺留分額の算出: 基礎財産額に法定の遺留分割合を乗じます。
- 3. 侵害額の確定: 算出した遺留分額と実際の取得額の差額を計算します。
この計算では相手の寄与分は関係なく、純粋に遺留分侵害の有無で判断します。そのため、相続人が寄与分を主張しても、遺留分請求権は影響を受けません。
寄与分や遺留分に関するトラブルや悩みがある方は、やさしい相続相談センターにお気軽にお問い合わせください。
関連記事:【税理士監修】生前贈与にも遺留分が適用される?侵害請求のやり方や注意点を解説
寄与分と遺留分が絡む相続トラブルの対処法
寄与分と遺留分が絡むトラブルは多いため、適切な対処法を行う必要があります。例えば、被相続人の介護に長年尽力した相続人が寄与分を主張すると、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。
また、他の相続人が多額の生前贈与を受けており、自分の遺留分が侵害されている上で、自身の寄与分も合わせて主張したいという複雑なケースも多いです。寄与分と遺留分が絡む相続トラブルの多くは、早期の話し合いと専門家の介入によって解決できることがほとんどです。
ここでは、寄与分と遺留分が絡む相続トラブルの対処法をケース別で解説します。
自分の寄与分で他の相続人の遺留分を侵害しそうな場合
自身の寄与分で他の相続人の遺留分を侵害しそうな場合は、まず基礎財産を評価し、各相続人の法定相続分から遺留分金額を算出します。この計算の結果、遺留分侵害の可能性が高い場合は、相続人との協議が必要です。
遺留分を侵害しない範囲で寄与分を調整するか、代償金を支払うなど譲歩案を提示して合意形成を目指します。遺言で寄与分相当の財産が指定されていても、遺留分侵害部分は法的に無効となる可能性が高いでしょう。
他の相続人に遺留分を侵害され、自身に寄与分がある場合
特定の相続人が多くの遺産を取得し、自身の相続分が遺留分を下回り、かつ自身に寄与分がある場合は、複数の権利を同時に主張することができます。
まず遺留分侵害額請求権を行使し、最低限の取り分を確保する意思を相手に伝えましょう。並行して、遺産分割協議や調停で自身の寄与分を主張します。
遺留分と寄与分は別々の制度なので、手続きも分けて主張するのが基本です。 最終的な取得額は、法定相続分を基準に寄与分の上乗せと遺留分侵害額の回復を両立させる形となるでしょう。
寄与分と遺留分が絡む相続トラブルを専門家へ相談するメリット
寄与分と遺留分が絡む相続トラブルは専門知識が必要で、当事者同士の話し合いだけでは解決が困難です。専門家に相談することで、相続トラブルを解決できることがあります。
ここでは、寄与分と遺留分が絡む相続トラブルを専門家へ相談するメリットを解説します。
法的に有効な証拠収集のサポートをしてもらえる
寄与分の法的認定には客観的証拠が必要です。弁護士などの専門家に相談する場合、事案に応じた有効な証拠の収集方法をアドバイスしてくれます。
療養看護であれば介護記録や医療費領収書、事業貢献であれば経理書類が重要です。証拠の説得力が寄与分認定の鍵となります。
弁護士は裁判例を参考に妥当な金額を算出し、効果的な主張の組み立てをサポートしてくれます。一般の方では入手困難な専門資料も活用できる点が強みです。寄与分と遺留分に関する相続トラブルを避けたい方は、事前に専門家へ相談しましょう。
関連記事:介護による遺産相続の寄与分はどうしたら認められる?介護中にやっておくべきこと
相続人同士の感情的な対立を避け、冷静に交渉を進められる
相続に関する協議は、長年の家族関係を背景に感情的になりがちです。特に寄与分は、「自分だけが苦労した」という想いと他の相続人の反発がぶつかるケースは珍しくありません。
弁護士などの専門家が交渉窓口となることで、当事者同士の直接の感情的対立を避けることができます。そのため、当事者の精神的負担を軽減しながら、法的論点に集中した協議が可能になるでしょう。
また、第三者の介入により、互いの主張を整理し、妥協点を見つけやすくなります。他にも紛争の長期化や関係悪化を防ぐ効果も期待できるでしょう。
遺産分割調停・審判への移行もスムーズに対応できる
遺産分割調停が不調に終わった場合、手続きは家庭裁判所の調停や審判に進みます。調停では主張を論理的に説明し、法的根拠の提示が必要です。審判に移行すれば、専門的な主張書面作成や証拠提出が求められます。
初期の協議段階から専門家に依頼していれば、一貫した方針で対応でき、状況変化に応じた戦略調整も可能です。
まとめ
寄与分と遺留分は相続における重要な権利ですが、性質が異なり、対立した場合は遺留分が優先されます。寄与分で他の相続人の遺留分を侵害することはできません。
近年の法改正で相続制度は複雑化しており、寄与分と遺留分を巡るトラブルは専門知識がないと解決が困難です。そのため、早い段階での専門家相談が重要となります。
また、相続問題は法的側面だけでなく、家族の人間関係も左右します。相続人間で意見が対立した場合は、早い段階で弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
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