「空き家特例」で相続した家を最大3,000万円控除する方法を徹底解説

相続した空き家を売却する際、譲渡所得に対して所得税と住民税が課税されます。しかし、「空き家特例」を利用することで、譲渡所得から最大3,000万円の控除が受けられます。税負担を大幅に軽減できるこの制度は、一定の要件を満たさないと適用できません。
この記事では、空き家特例の概要や要件、手続きの流れなどについて解説します。
目次
空き家特例とは?相続した家の売却益から3,000万円を控除できる制度
空き家特例の正式名称は「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」です。相続または遺贈により取得した被相続人(亡くなった方)の居住用不動産を売却した際に、適用されます。
譲渡所得から最大3,000万円を差し引くことで、税負担を軽減できる仕組みです。
例えば、相続した空き家を5,000万円で売却した場合、空き家特例を適用する前と後で、約600万円の税金が節税されるケースもあります。また、売却益が3,000万円以下の場合、所得税や住民税がゼロになる可能性があります。
不動産の譲渡所得に対する税率は、所有期間によって異なります。
所有期間 | 所得税・復興特別所得税 | 住民税 | |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15.315% | 5% |
短期譲渡所得 | 5年以内 | 30.63% | 9% |
相続した不動産の所有期間は、被相続人の取得時から通算されるため、多くの場合は長期譲渡所得として扱われるでしょう。不動産を売却する場合、所有期間を確認することが大切です。
参考:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁
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空き家特例が適用されるための具体的な要件
空き家特例の適用には、対象者、対象物件、売却方法について複数の要件を全て満たす必要があります。誰が相続したのか、どんな家だったのか、いつまでにいくらで売却したのかが重要です。
また、2024年からの法改正で一部要件が緩和され、より利用しやすくなりました。
【対象者】相続または遺贈によって取得した人のみ
空き家特例は、相続または遺贈によって家屋や敷地を取得した個人だけが利用できます。被相続人から不動産を引き継いだ相続人が対象となります。法人が遺贈で不動産を取得した場合は対象外です。
また、配偶者や子といった法定相続人だけでなく、遺言によって財産を受け取った個人も基本的に対象に含まれます。 しかし、被相続人から直接不動産を取得した相続人である点が重要です。
【対象物件】相続した家の建物と土地の条件
特例対象の物件には、建物と土地の両方に条件があります。空き家特例適用の主な要件は以下の通りです。
- 相続または遺贈により取得した家屋であること
- 被相続人が亡くなる直前まで居住用として使用していたこと
- 昭和56年5月31日以前に建築された旧耐震基準の建物であること
これらの要件をすべて満たす必要があります。一つでも条件を満たさないと特例は適用できません。
例えば、被相続人が死亡時に配偶者と同居していた場合や、居住用と事業用が混在していた場合(自宅兼店舗など)は原則として特例の対象外となります。また、建物と土地の所有者が異なる場合(借地上の建物など)も要注意です。
参考:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁
【売却方法】売却時期や金額に関する決まりごと
特例適用には、売却方法にも規定があります。相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却を完了させなければなりません。期限を過ぎると、特例は受けられなくなります。また、売却代金が1億円を超えないことも条件です。
売却方法としては、家屋を耐震基準に適合させて売却するか、家屋を取り壊して更地にして売却するかのどちらかを選択します。
関連記事:不動産を相続後に売却するなら3年以内に!節税効果の高い売却方法
【2024年改正】制度の延長と緩和された要件
2024年1月1日以降の譲渡について、空き家特例の制度が2027年12月31日まで延長されました。同時に、いくつかの要件が緩和されています。
大きな変更点として、「被相続人が老人ホーム等に居住していたケースで、相続対象家屋の所有者の所有者が3人以上の場合は対象外」という要件が撤廃されました。
また、売却後に買主側で家屋の解体や耐震リフォームを行う場合でも、一定条件を満たせば特例の対象になります。この改正により、多くの相続人にとって特例を利用できる可能性があります。
参考:No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋|国税庁
参考:空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)|国土交通省
空き家特例を利用するための手続きの流れ
空き家特例の適用には、定められた手順で手続きを進める必要があります。まず適用要件を確認し、確定申告に必要な書類を収集します。特に「被相続人居住用家屋等確認書」は重要な書類です。
全ての書類が揃ったら、不動産を売却した翌年に確定申告を行います。事前に書類リストを作成して計画的に進めることをおすすめします。
ステップ1:必要書類を準備する
空き家特例を適用した確定申告では、通常の不動産売却の書類に加え、特例用の追加書類が必要です。共通して必要になるのは、譲渡所得の内訳書、売買契約書の写し、売却代金の領収書の写しなどです。
特例の要件を証明するために、被相続人の住民票の除票や対象家屋の登記事項証明書なども準備しましょう。相続税の申告をしている場合は、関連書類も用意しておくとスムーズです。
参考:空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)について|国土交通省
ステップ2:「被相続人居住用家屋等確認書」の取得方法
被相続人居住用家屋等確認書は、空き家特例に必須の書類です。対象家屋がある市区町村の役所の窓口で交付申請を行います。
申請には自治体指定の申請書類とチェックリストのほか、複数の添付書類が必要です。被相続人の住民票除票、相続人の住民票、売買契約書の写し、解体証明書など、状況に応じた書類を用意します。確認書の申請は売却前でも可能ですが、売買契約書の写しなどが必要なため、通常は売買契約締結後に申請することになります。
申請から取得までの期間は自治体によって異なりますが、概ね2週間〜1ヶ月程度必要なため、売却が決まったら早めに手続きを始めましょう。
ステップ3:家を売却した翌年に確定申告を行う
必要書類が全て揃ったら、不動産を売却した年の翌年2月16日から3月15日までに、確定申告を行います。確定申告書に「被相続人居住用家屋等確認書」や譲渡所得の内訳書などを添付して提出します。
申告期間を過ぎると原則として特例は受けられず、本来の税金を支払うことになります。納税額がゼロになる場合でも申告は必須なので、期限内に必ず手続きを完了させましょう。
空き家特例や確定申告などについては、やさしい相続相談センターにお気軽にお問い合わせください。
空き家特例を適用する際に知っておきたい注意点
空き家特例は税負担を大きく軽減できる一方、いくつかの注意点があります。空き家特例によって納税額が0円になっても確定申告は省略できません。相続物件の利用状況や複数人で相続した場合の控除額の考え方も重要です。
これらの注意点を把握せずに手続きを進めると、後から特例が適用できないことが判明するリスクもあります。
控除で納税額が0円になっても確定申告は必須
空き家特例で譲渡所得から3,000万円を控除した結果、課税対象額がゼロになるケースは多くあります。しかし、納税額がなくても確定申告は必要です。
申告を怠ると、特例を受ける意思がないとみなされ、税務署から本来の譲渡所得に対する納税通知が届く可能性があります。控除によって税金がかからなくても、必ず期限内に確定申告を行いましょう。
事業用に使っていた建物は特例の対象外
空き家特例は、被相続人が亡くなる直前まで居住用として使っていた家屋が対象です。そのため、相続時から売却までの間に、建物や敷地を事業用や貸付用として使用すると対象外になります。
例えば、相続した家を他人に賃貸したり、敷地を駐車場として貸し出したりすると要件を満たさなくなります。
空き家特例の適用を検討している場合は、売却完了まで物件を事業などに利用せず、空き家の状態を維持管理することが重要です。この点を知らずに貸付けして特例対象外になるケースがあるので、注意しましょう。
兄弟など複数人で相続した場合の控除額の扱い
空き家を兄弟など複数人で共同相続し、売却した場合、各相続人がそれぞれ最大3,000万円まで控除を利用できます。しかし、無制限に控除できるわけではありません。
不動産全体の売却益が控除額の総額の上限となります。各相続人は自身の譲渡所得の金額を限度として、最大3,000万円の控除が受けられます。
例えば、兄弟2人で相続し、各自の譲渡所得が2,000万円だった場合、それぞれが2,000万円の控除を受けられることになります。各相続人がそれぞれ最大3,000万円の控除を受けられますが、自身の譲渡所得を超える控除はできないため注意しましょう。
他の税制特例と空き家特例は併用できる?
不動産売却に関する税金の特例は複数ありますが、空き家特例と他の主要な特例との併用は基本的に認められていません。例えば、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」や「特定の居住用財産の買換え特例」などとは同時適用できません。
相続した空き家が相続人自身の居住用財産でもある場合は、どちらの特例を適用するか選択することになります。 どちらが有利になるかは個々の状況によって異なるため、専門家に相談しシミュレーションを行うことをおすすめします。
参考:No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例|国税庁
相続した空き家の特例に関するよくある質問
ここでは、相続した空き家の特例に関するよくある質問について回答します。
Q. 亡くなった親が老人ホームに入居していた場合も対象になる?
被相続人が亡くなる前に老人ホームなどに入居していた場合でも、一定の要件を満たせば空き家特例の対象となります。被相続人が要介護認定または要支援認定を受けており、相続開始の直前まで老人ホーム等に入所していた場合が該当します。
その家屋は被相続人が入所する直前まで一人で居住しており、入所後に事業用や貸付用として使われていないことも条件です。これらの条件を満たせば、被相続人が自宅に住んでいなかったケースでも特例を適用できます。
Q. 家を売った後に買主が取り壊す場合でも適用される?
2024年1月1日以降の譲渡に関しては、売主が事前に家屋を取り壊したり耐震リフォームを施したりしなくても特例の対象となる場合があります。建物を現状のまま買主に引き渡すケースでも対応可能になりました。
売買契約書に「譲渡の日の属する年の翌年の2月15日までに、買主が耐震リフォームまたは家屋の取り壊しを行う」旨が明記されていれば、特例が適用されます。この要件緩和により、売主の負担が大幅に軽減されました。
まとめ
相続した空き家を売却する際の税負担を軽減できる「空き家特例」は、要件を満たす人にとって有効な制度です。最大3,000万円の控除を受けられるため、場合によっては税金がゼロになることもあります。
適用を受けるには、対象者や物件、売却時期や金額などの条件を満たし、期限内に正しい手続きを行うことが必要です。各自治体や税務署によって運用の細部が異なる場合があるため、具体的な手続きについては事前に確認することをおすすめします。
自身での判断が難しい場合や手続きに不安がある場合は、物件所在地の市区町村役場や管轄の税務署、税理士などの専門家に相談しましょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。