相続税の2割加算になる対象者は誰?孫養子や代襲相続などについても解説

相続税の2割加算になる対象者は誰?孫養子や代襲相続などについても解説

相続税では、被相続人(亡くなった人)との関係性によって税額が2割増しになる制度があります。主に配偶者や一親等の血族以外が財産を受け取る場合に適用されます。特に孫養子や代襲相続のケースでは判断が複雑になりやすいため注意が必要です。

この記事では、相続税の2割加算の仕組みや対象者の判断基準、計算方法、相続放棄や生命保険金を受け取った場合の注意点について詳しく解説します。

相続税の2割加算とは

相続

相続税の2割加算とは、相続や遺贈によって財産を取得した人が被相続人の配偶者や一親等の血族以外である場合に税額が2割増しになる制度です。

相続税法第18条に規定されており、税制の公平性を保つ目的があります。

2割加算される理由

相続税の2割加算が設けられている主な理由は2つあります。

1つは、被相続人と血縁関係が薄い人への相続は偶然性が高いと見なされるためです。配偶者や子は財産形成に直接貢献していると考えられますが、それ以外の人への相続は偶発的要素が強いとされます。

もう1つは、「世代飛ばし」による課税機会の減少を防ぐためです。

参考:No.4157 相続税額の2割加算|国税庁

2割加算の対象者の判断基準

2割加算の対象者は、被相続人との関係性によって細かく定められています。どのような人が対象となるのか、判断が難しい孫の場合の基準について解説します。

2割加算の対象者

2割加算の対象者は、被相続人の配偶者および一親等の血族以外のすべての方です。

  • 被相続人の兄弟姉妹
  • 被相続人の祖父母
  • 被相続人の甥・姪
  • 代襲相続人ではない孫
  • 被相続人の養子となった孫(例外あり)
  • 配偶者や一親等の血族以外の受遺者
  • 特別縁故者
  • 内縁の妻や夫

これらの方が取得した財産に対する相続税額は2割増しになります。例えば相続税が200万円の場合、240万円を納付することになります。

関連記事:【税理士監修】相続人は誰がなるのか。相続人となる人の範囲や順位について解説

関連記事:【税理士監修】親等のわかりやすい数え方。相続において必要な知識を解説

2割加算の対象外となるケース

2割加算の対象外となるのは、主に次の通りです。

  • 被相続人の配偶者
  • 被相続人の一親等の血族(子や父母)
  • 代襲相続人となった孫

これらの方は相続または遺贈によって財産を取得しても、2割加算は適用されません。再婚相手の連れ子を養子にした場合や婿養子も原則として対象外です。

孫の判断基準

孫が相続財産を取得する場合、状況によって2割加算の対象になるかが変わります。特に孫養子と代襲相続のケースは区別して理解する必要があります。

孫養子と2割加算

孫を養子に迎える「孫養子」は、民法上では一親等の血族となりますが、相続税法上は2割加算の対象です。これは、孫養子が節税効果をもたらすため、課税の公平性を保つ目的で設けられた例外的扱いです。

孫養子の財産には通常の相続税額に2割の加算がされます。しかし、代襲相続人である孫養子は対象外となるケースもあるため、個別に確認が必要です。

代襲相続人となる孫と2割加算

孫が代襲相続人となる場合、2割加算の対象外となります。

代襲相続とは、本来相続人となるべき子が死亡している場合に、孫がその親の代わりに相続人となる制度です。代襲相続人である孫は、親の立場を承継すると見なされるため、一親等の血族と同様の扱いを受けます。

しかし、代襲相続人が相続放棄をした場合は2割加算の対象となるため注意が必要です。

関連記事:[生前贈与の節税対策]孫への相続を非課税にする方法

相続税の2割加算の計算方法

2割加算の計算は、通常の相続税額を算出した後に行います。正確な相続税額を把握するためにも計算方法を理解しておきましょう。

2割加算の計算式

2割加算は、対象となる人の「税額控除前の相続税額」に対して計算します。計算式は以下の通りです。

  • 税額控除前の相続税額 × 0.2 = 2割加算額

この加算額を本来の相続税額に上乗せして納税します。

例えば税額控除前の相続税額が100万円の場合、2割加算分は20万円となり、合計120万円が納税額です。各種税額控除を適用した後の金額ではなく、控除前の金額に対して計算される点に注意が必要です。

2割加算の計算の流れ

以下のケースを想定した上で、相続税の2割加算の流れを解説します。

被相続人: Aさん

財産を取得する人:妻B(配偶者):1億円を取得、長男C(子):6,000万円を取得、弟D(被相続人の兄弟):遺言により4,000万円を取得

課税価格の合計額: 2億円

算出された相続税の総額: 3,340万円(※課税遺産総額を計算し、法定相続人(妻Bと長男C)が法定相続分で取得したと仮定して算出した税額の合計)

1.各相続人の「税額控除前の相続税額」を算出する

まず、「相続税の総額」を、実際に財産を取得した割合に応じて各人に割り振ります。これが2割加算や税額控除を計算する前のベースとなる税額です。

  • 各人の税額控除前の相続税額=相続税の総額×(その人が取得した財産の価額/課税価格の合計額)

​上記の計算式を用いると、以下の通りになります。

取得をする人 各人の税金
妻B 3,340万円×(1億円/2億円)=1,670万円
長男C 3,340万円×(6,000万円/2億円)=1,002万円
弟D 3,340万円×(4,000万円/2億円)=668万円

2.2割加算の対象者かを判断する

次に、財産を取得した人が2割加算の対象になるかどうかを判断します。2割加算の対象者は、財産を取得した人が、被相続人の配偶者と一親等の血族(子や父母)以外の場合です。

今回のケースでは、弟Dのみが2割加算の対象者となります。

3.【対象者の場合】2割加算額を適用して計算する

2割加算の対象者と判断された弟Dの税額を2割(1.2倍)加算します。計算式は次の通りです。

  • 加算後の相続税額=税額控除前の相続税額×1.2

なお、各種税額控除(配偶者控除)を適用する前の税額に対して加算する点に注意しましょう。

上記の計算式により、弟Dの相続税額は次の通りとなります。

668万円×1.2=801.6万円

この時点で、各人の税額は以下のようになります。

取得をする人 各人の税金
妻B 1,670万円 (加算なし)
長男C 1,002万円 (加算なし)
弟D 801.6万円 (加算後)

4.最終的な納税額を確定する

最後に、2割加算を終えた税額から、各人が適用できる税額控除を差し引いて、最終的な納税額を確定します。

  • 最終的な納税額=加算後の相続税額−各種の税額控除額

財産を取得した人の最終納税額は、次の通りです。

取得をする人 各人の税金

妻B

「配偶者控除」が適用できます。取得財産が1億円であり、1億6,000万円の非課税枠を下回るため、税額は全額軽減されます。

1,670万円−1,670万円(配偶者の税額軽減)=0円

長男C

適用できる税額控除がないと仮定します。

1,002万円−0円=1,002万円

(小数点以下の端数処理は申告時に行いますが、ここでは1,002万円とします)

弟D

適用できる税額控除がないと仮定します。

801.6万円−0円=801.6万円

関連記事:【税理士監修】相続税の配偶者控除とは?計算方法や申告方法をわかりやすく解説

相続放棄をした場合の2割加算

相続放棄

相続放棄は財産を一切相続しない選択ですが、2割加算の対象となる場合とならない場合があります。判断が複雑になることもあるため、一親等の血族と代襲相続した孫の場合について見ていきましょう。

一親等の血族が相続放棄した場合

被相続人の一親等の血族が相続放棄をした場合でも、財産を受け取れば2割加算の対象にはなりません。相続放棄をしても血縁関係は変わらないため、対象外として扱われます。

例えば、子が相続放棄し、遺言で財産を遺贈された場合でも2割加算は適用されません。

関連記事:【税理士監修】相続放棄の費用はいくら?手続きの進め方や注意点も解説

代襲相続した孫が相続放棄した場合

代襲相続によって相続人となった孫が相続放棄をした場合、受け取った財産は2割加算の対象となります。

代襲相続人の孫が対象外となるには「相続人であること」が要件です。相続放棄をすると「最初から相続人ではなかった」とみなされるため、対象外の要件を満たさなくなります。

特に生命保険金などの「みなし相続財産」受取時に注意が必要です。

参考:相続を放棄した代襲相続人に遺贈財産がある場合の相続税の2割加算|国税庁

生命保険金等を受け取った場合の2割加算について

生命保険金や死亡退職金といった「みなし相続財産」も相続税の課税対象です。受取人が被相続人の配偶者や一親等の血族以外なら、これらの財産にも2割加算が適用されます。

孫が受取人の生命保険金は、孫養子や代襲相続人でない場合、加算対象となります。相続放棄をした代襲相続人の孫が生命保険金を受け取った場合も対象となるため、事前確認が大切です。

参考:No.4105 相続税がかかる財産|国税庁

相続税の2割加算に関する税制改正

相続税の2割加算に関する税制改正は過去にも行われています。平成15年の改正では孫養子が2割加算の対象となりました。これは「一代飛ばし」による節税対策を抑制し、課税の公平性を確保する目的があります。

教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与非課税制度を利用した財産が相続税の対象となる場合も、受贈者によっては加算対象となる場合があります。税制改正は常に行われるため、最新情報の確認が重要です。

参考:相続税法|国税庁

2割加算があっても一代飛ばしを検討するケース

相続税の2割加算があっても、一代飛ばしを検討する価値があるケースも存在します。2割加算を考慮しても、相続税全体の負担軽減が可能な場合があるためです。

被相続人から子、子から孫への二段階相続と比較して、被相続人から孫への直接遺贈でトータルの税額が少なくなることがあります。特に遺産総額が大きく、子の世代での税負担が大きい場合に有効です。

まとめ

相続税の2割加算は、被相続人の配偶者や一親等の血族以外が財産を取得した場合に適用される制度です。孫養子や代襲相続の判断は複雑で、適切な理解がなければ予想外の税負担が発生します。

相続放棄や生命保険金受取の場合も判断基準は細かく定められています。相続税は特例や控除、2割加算など複雑な要素が多いため、正確な知識と計算が重要です。

2割加算の適用漏れは加算税や延滞税のリスクもあります。このような複雑な相続税の計算や申告をする際は、税理士をはじめとした専門家への相談をおすすめします。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。