現金手渡しの贈与は税務署にばれる?ばれるケースと家族が安心できる方法

現金手渡しの贈与は税務署にばれる?ばれるケースと家族が安心できる方法

贈与税は、個人から財産を無償で受け取った場合に課される税金です。現金の手渡しは記録が残らないため、税務署に知られないと考える方もいるかもしれません。しかし、税務署はさまざまな情報源から贈与の実態を把握しています。この記事では、贈与が発覚するケースと、家族が安心して贈与を行うための正しい方法を解説します。

現金手渡しの贈与が税務署にばれる理由

「現金で、しかも手渡しなら記録に残らないはず」。多くの方がそう考えがちですが、税務署は個人の勘や推測ではなく、確立された仕組みによってお金の流れを把握しています。

税務署の調査能力は高度であり、完全に隠し通すことは極めて困難です。なぜなら、税務署は網羅的な情報網と法律で認められた強力な調査権限を持っているからです。

この事実を理解することが、家族を無用なリスクから守る第一歩となります。

KSK(国税総合管理)システムで情報を管理しているから

税務署が個人の資産状況を正確に把握できる背景には、「KSK(国税総合管理)システム」という強力なデータベースの存在があります。これは、全国民の過去の確定申告や納税に関する情報、さらには給与や不動産といったさまざまな情報を一元的に管理する、国税庁の心臓部ともいえるシステムです。

このKSKシステムを見れば、個人の所得が過去から現在にかけてどのように推移してきたか、どの程度の資産を形成している可能性があるかを税務署はいつでも分析できます。そのため、ある日突然、所得に見合わない高額な資産が家族に現れた場合、その出所についてKSKシステムのデータに基づき、合理的な疑いを持つことができるのです。

参考:国税総合管理(KSK)システムの概要

調査の一環として預金口座の動きを調べることがあるから

税務署は、法律に基づいて金融機関に対し、個人の預金口座の履歴を照会する権限を持っています。相続税の調査などの際には、亡くなった方の口座だけでなく、その家族や親族の口座まで遡って調べることが認められています。

例えば、親の口座から多額の現金が引き出された時期と、子どもの口座に同程度の入金があったり、あるいは高額な買い物をしていたりすれば、それは贈与があったのではないかと疑われる強力な証拠になります。

良かれと思ってした現金の手渡しが、結果的に家族全員のプライベートな口座情報まで調査される事態を招き、大きな負担をかけてしまう可能性があるのです。

関連記事:【税理士監修】現金を生前贈与するとなぜばれる?贈与税を軽減する方法

現金手渡しの贈与が税務署にばれるケース

税務署がどのようにして贈与の事実を把握するのか、イメージが湧きにくいかもしれません。

ここでは、実際にどのようなタイミングで現金手渡しの贈与が発覚するのか、よくある5つのケースをご紹介します。

ケース1:相続税の調査

最も典型的なのは、相続税の調査時です。被相続人(亡くなった人)の預金通帳の入出金履歴が詳細に調べられます。

特に、相続開始前の数年間にわたる高額な現金引き出しは、贈与を疑われる対象となります。引き出されたお金が贈与であることが判明した場合、贈与税の申告漏れとして追徴課税の対象となります。

ケース2:不動産・高額資産の購入

不動産や高級車など高額な資産を購入した際、税務署は購入者の資金源をチェックします。この確認のために、「お買いになった資産の買入価額などについてのお尋ね」といった書類が送付されることがあります。

この書類には、自己資金、借入金、そして「贈与を受けた資金」などを具体的に記入する欄があります。ここで正直に「親から贈与を受けた」と書けば、贈与税の申告漏れを自ら認めることになります。

逆に、自己資金と偽って回答しても、KSKシステムで管理されている過去の収入状況と照らし合わせれば、すぐに矛盾が明らかになってしまいます。

ケース3:法定調書の提出

特定のお金の支払いがあった場合、支払った側が税務署へ「法定調書」という書類を提出することが法律で義務付けられています。代表的なものが、生命保険の満期金や不動産の売買代金に関する支払調書です。

例えば、親が子どものためにかけていた生命保険が満期になり、子どもが1,000万円の満期保険金を受け取ったとします。この時、保険会社は「〇〇さん(子)に1,000万円支払いました」という支払調書を税務署に提出します。

この情報を把握した税務署は、子どもの資産状況に注目します。これをきっかけに過去の申告状況なども合わせて調査され、別の現金贈与が発覚するケースも少なくありません。

参考:法定調書(源泉徴収票、支払調書)の作成と提出|国税庁

ケース4:SNSの投稿

現代ならではのリスクとして、SNSへの投稿がきっかけになるケースも増えています。「お父さんに念願のポルシェを買ってもらった!ありがとう!」「親からの援助で、タワマンの最上階に引っ越しました!」といった投稿は、税務署員が情報収集のためにチェックしている可能性があります。

また、知人や第三者が「あの人は身分不相応な暮らしをしている」と妬み、その投稿を証拠として税務署に情報提供することも考えられます。「友達にしか公開していないから大丈夫」と思っていても、スクリーンショット一枚で情報は簡単に拡散されてしまう時代です。軽い気持ちの投稿が、思わぬ形で税務署の知るところとなるリスクも否定できません。

ケース5:第三者からの密告

税務署に密告されるケースもあります。国税庁のウェブサイトには「課税・徴収漏れに関する情報の提供」という窓口が設けられており、誰でも匿名で情報を提供できます。

例えば、金銭トラブルを抱えた元従業員や親族間の相続争いなどがきっかけで、「あの家は、親から多額の現金をもらって申告していない」といった情報が税務署に寄せられることがあります。全ての情報が調査に繋がるわけではありませんが、お金に関する話は、いつ、どこで、誰が聞いているか分かりません。慎重な行動が求められます。

参考:課税・徴収漏れに関する情報の提供|国税庁

関連記事:【税理士監修】現金を生前贈与するとなぜばれる?贈与税を軽減する方法

関連記事:贈与税の時効は6年(故意なら7年)、バレる確率は?どうやってバレるの?

無申告の贈与がばれたらどうなる?

遺留分放棄と相続放棄の違い

もし、申告すべき贈与が税務署にばれてしまったら、一体どうなるのでしょうか。本来納めるべきだった税金だけでなく、重いペナルティが課され、精神的にも大きな負担を強いられます。隠し続けるリスクがいかに大きいか、その具体的な中身を見ていきましょう。

ペナルティが発生する

贈与税の無申告が発覚した場合、本来納めるべきだった贈与税(本税)に加え、罰金として以下の3つの税金が上乗せされる可能性があります。

  • 無申告加算税:申告しなかったことに対するペナルティです。税務調査で指摘されてから納付する場合、本税の15%(50万円超の部分は20%)が課されます。
  • 重加算税:意図的に財産を隠したなど、特に悪質と判断された場合に課される最も重いペナルティです。無申告加算税に代わって、本税の40%という非常に高い税率が課されます。
  • 延滞税:納付が遅れたことに対する利息です。この利率は年率で計算しますが、納付する日までの期間によって税率が異なるため注意が必要です。

これらのペナルティが加わると、本来の納税額の1.5倍以上になることも珍しくなく、経済的に大きな打撃となります。

関連記事:【税理士監修】無申告加算税とは?税率やその他の加算税について | 会社設立の基礎知識

時間・精神的負担がかかる

金銭的なペナルティ以上に重くのしかかるのが、税務調査に対応するための時間的・精神的な負担です。調査官とのやり取りは、通常、平日の日中に行われます。そのため、仕事を休むことにもなりかねません。

調査では、何年も前の記憶を辿り、「このお金はどこから来たのか」「何に使ったのか」を客観的な証拠とともに説明するよう求められます。万が一、説明が曖昧だと、家族まで疑いの目を向けられるかもしれません。こうしたストレスは、日々の生活に暗い影を落とし、家族関係にまで影響を及ぼすことさえあります。隠し通そうとした結果、お金以上の大切なものを失いかねないのです。

関連記事:【税理士監修】生前贈与の方法とは?税務署に注意されないための手続きについて説明

現金の贈与はいくらまでなら無税?

ここまで贈与がばれるリスクについてお伝えしてきましたが、すべての贈与に税金がかかるわけではありません。国が定めたルールを正しく理解し、その範囲内で行えば、税金の心配なく、安心して家族を支援することができます。

ここでは、その具体的な非課税のルールについて、分かりやすく解説します。

年間110万円以内なら贈与税はかからない

贈与税には、「暦年贈与」という基礎控除の制度があります。これは、「1人の人が、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額が110万円までであれば、贈与税はかからず、申告も不要」というものです。

ここで最も重要な注意点は、この110万円という金額は「もらった人」を基準に計算するという点です。

例えば、ある年に 父から100万円、母からも100万円を現金でもらった場合、子どもがもらった合計金額は200万円 となります。これは基礎控除の110万円を超えているため、超えた部分(200万円 – 110万円 = 90万円)に対して贈与税がかかり、申告が必要になります。

「あげる人1人あたり110万円まで大丈夫」と勘違いされている方が多いので、ご注意ください。

関連記事:[生前贈与の節税対策]孫への相続を非課税にする方法

生活費や教育費は贈与税がかからない

贈与税の目的は、不当な相続税逃れを防ぐことにあります。そのため、親子や夫婦、兄弟姉妹といった扶養義務者間で、生活や教育のために通常必要と認められる範囲のお金を渡す場合には、贈与税はかかりません。

例えば、以下のようなケースは非課税の対象となります。

  • 地方の大学へ進学した子どもに、毎月の家賃や食費として10万円を仕送りする。
  • 結婚する娘の結婚式や披露宴の費用を、親が式場に直接支払う。
  • 孫の大学の入学金を、祖父母が大学の口座に直接振り込む。

ポイントは、「必要な都度」「直接支払う」ことです。生活費や教育費の名目で一度に1,000万円を渡し、そのお金が預金されたり、株式投資に使われたりすると、贈与税の対象となる可能性があるので注意が必要です。

定期贈与とみなされると一括で贈与税が課される

年間110万円の非課税枠を計画的に使おうとする際に、気をつけたいのが「定期贈与」です。

これは、例えば「毎年100万円を10年間にわたって贈与する」という約束を最初に取り交わした場合、「1,000万円をもらう権利を最初に贈与された」とみなされ、1,000万円全額に対して一度に贈与税が課されてしまうリスクのことです。このような誤解を避けるためには、以下の対策が有効です。

  • 毎年、贈与のたびに贈与契約書を作成する。
  • 毎年、贈与する金額を105万円、110万円などと少しずつ変える。
  • 贈与する時期を毎年ずらす。
  • 手渡しではなく、銀行振込を利用して記録を残す。

少し手間に感じるかもしれませんが、こうした工夫が「毎年、新しい意思で贈与が行われた」ことの証明となり、税務署からの指摘を防ぐことにつながります。

関連記事:【税理士監修】贈与税がかからない方法とは?節税には注意が必要

家族に迷惑をかけずに現金を贈与するポイント

「ばれるかどうか」を心配するのではなく、堂々と、そして安心して家族にお金を渡したい。そのために、明日から実践できる具体的なポイントを4つご紹介します。これらのひと手間が、将来の税務調査から家族を守る何よりの盾となります。

[ポイント1]贈与契約書を作成する

最も重要で、かつ簡単な対策が「贈与契約書」の作成です。口約束だけでなく、書面で証拠を残すことで、2つの大きなメリットが生まれます。一つは、税務調査の際に「これは確かに贈与です」と客観的に証明できること。もう一つは、後になって家族間で「言った、言わない」といった水掛け論になるのを防げることです。

契約書と聞くと難しく感じるかもしれませんが、要点はシンプルです。

  • いつ(贈与日)
  • 誰が(贈与者:あなたの氏名・住所)
  • 誰に(受贈者:お子様などの氏名・住所)
  • いくらを(贈与金額)
  • どのように(現金手渡しか、銀行振込かなど)

この5点を明記し、双方が署名・捺印するだけで法的に有効な証拠となります。この一枚の紙が、あなたと家族を守るお守りになるのです。

[ポイント2]もらった側が通帳と印鑑を自分で管理する

親が子どもの名前で作った口座にお金を振り込んでいる、いわゆる「名義預金」は、相続の際に亡くなった方の財産とみなされ、相続税の対象となる典型的なケースです。

これを防ぐためには、お金をもらった側(子どもや孫)が、その預金口座の通帳や印鑑、キャッシュカードを全て自分で管理し、自由にお金を使える状態にしておくことが絶対条件です。

「あなたのために貯金しておいてあげる」という親心は分かりますが、税務上は本人の財産と認められません。管理は必ず、口座の名義人本人が行いましょう。

[ポイント3]110万円を超える場合は特例制度を検討する

もし、住宅の購入資金や教育資金など、一度に110万円を超える大きな金額を援助したい場合は、国が用意している非課税の特例制度の活用を検討しましょう。

例えば、「住宅取得等資金の贈与の非課税措置」や「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」などがあります。これらの制度を使えば、一定の要件のもとで大きな金額を非課税で贈与できます。

ただし、これらの特例は自動的に適用されるわけではありません。贈与を受けた年の翌年に、必ず贈与税の申告手続きを行う必要があります。この手続きを忘れると、せっかくの特例が使えなくなってしまうので、十分に注意してください。

関連記事:【税理士監修】住宅取得資金の贈与には非課税枠がある。適用条件やメリットを解説

関連記事:【税理士監修】教育資金の一括贈与は非課税になる?注意点と手続き方法を解説

[ポイント4]税理士に相談する

贈与のルールや特例制度は複雑で、ご家庭の状況によって最適な方法は異なります。「自分の場合はどの制度が使える?」「このやり方で本当に大丈夫?」と少しでも不安を感じたら、一人で抱え込まずに専門家である税理士に相談することをおすすめします。

特に相続を専門とする税理士は、贈与の注意点にも精通しています。専門家を味方につけることが、家族を守る最も確実な方法と言えるでしょう。

まとめ

現金手渡しでの贈与は「記録に残らないからばれない」というのは誤解です。

税務署は、KSKシステムや金融機関への調査権限を駆使し、相続税調査などのタイミングでお金の流れを把握します。もし無申告が発覚すれば、重いペナルティが課され、家族に大きな負担をかけることになります。

このようなリスクを避け、安心して家族を支援するためには、正しいルールを知ることが大切です。具体的には、年間110万円までの暦年贈与を計画的に活用したり、贈与の証拠として贈与契約書を作成したりすることが有効です。また、贈与税の非課税制度の利用や必要な場合の贈与税の申告も適切に行うようにしましょう。

もし判断に迷うことがあれば、一人で抱え込まず、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。正しい知識を持つことが、あなたと大切な家族を守る最善の方法です。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。