相続税の税務調査|相続財産いくらから調査対象になる?調査の確率は?

相続税の税務調査|相続財産いくらから調査対象になる?調査の確率は?

相続税の税務調査は、申告内容に誤りがないかを確認するために税務署が行うものです。多くの人が不安を感じるこの調査ですが、実際にどのくらいの確率で実施されるのか、またどのような場合に調査対象となるのか、その基準は明確ではありません。

しかし、遺産額や申告状況によって、調査の対象となる可能性が高まることがあります。本記事では、相続税の税務調査の概要から、調査対象となる可能性のある金額、そして調査の確率について詳しく解説します。

相続税の税務調査とは?どのくらいの確率で実施される?

税務署

相続税の税務調査は、申告内容の確認のために税務署が行うものです。すべての申告者に対して実施されるわけではありませんが、申告漏れや誤りが疑われる場合に選定されます。

ここでは、相続税の税務調査の基本的な内容と、実際にどのくらいの確率で実施されるのかを解説します。

さらに、税務調査が具体的に何をするのか、そして申告内容に誤りがあった場合のペナルティについても説明します。

そもそも相続税の税務調査とは何をするのか

相続税の税務調査は、納税者が申告した相続税の内容が正しいかどうか、税務署が確認するために行われます。

日本の税制では、納税者自身が税額を計算して申告・納税する「申告納税方式」が採用されているため、税務署は申告内容に誤りや不正がないかを確認する必要があるのです。

この調査には、納税者の同意のもとで行われる「任意調査」と、悪質な脱税が疑われる場合に裁判所の令状に基づいて行われる「強制調査」の2種類があります。

調査では、故人の預貯金や不動産、有価証券、生命保険金など、あらゆる財産について詳細に確認され、特に申告書に記載されていない財産や名義預金がないか重点的に調べられます。

関連記事:【税理士監修】税務調査とは?対象者に選ばれる理由や調査されやすい勘定科目、対応方法をわかりやすく解説

相続税の税務調査が実施される確率は約20%

相続税の税務調査が実施される確率は、全体で見ると約20%とされています。これは実地調査と簡易な接触を合わせた割合であり、税務署員が自宅に直接訪問する実地調査の確率は約6.4%(令和3事務年度)から9%(平成30事務年度)程度です。

過去には新型コロナウイルスの影響で一時的に調査件数が減少し、確率が約3%まで低下したこともありますが、今後は回復すると予想されています。

申告件数に対する税務調査の実施件数を見ると、申告した人の約11人に1人が調査の対象になっている計算になります。

また、税務調査が実施された場合、約8割以上で申告漏れや誤りが指摘され、追徴課税が発生しています。特に遺産額が5,000万円から1億円の案件では、追徴課税となる割合が90.4%と高い傾向にあります。

申告内容に誤りがあった場合のペナルティ

相続税の申告内容に誤りがあった場合、本来納めるべき税額に加えて、加算税や延滞税といったペナルティが課されます。

過少申告加算税は、本来の税額より少なく申告した場合に課されるもので、追加で納める税額の5%から15%が税率となります。もし申告期限までに申告をしなかった場合は、無申告加算税として15%から30%の追徴課税が課せられる可能性があります。

さらに、財産を意図的に隠したり、偽装したりするなどの悪質な行為があったと判断されると、最も重いペナルティである重加算税が課されます。重加算税の税率は過少申告の場合は35%、無申告の場合は40%に達します。

加えて、納税が遅れた期間に応じて延滞税も発生するため、正しい申告を行うことが重要です。

関連記事:相続税の税務調査の時期はいつ?調査期間・範囲や調査が来るのが多いタイミングを解説!

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金額だけじゃない!税務調査に選ばれやすい家庭の6つの特徴

遺留分放棄と相続放棄の違い

相続税の税務調査は、単に相続財産の金額が多いからという理由だけで行われるわけではありません。申告内容の不備や故人の財産管理状況、相続人による行動など、様々な要因が複合的に絡み合って調査対象が選定されます。

ここでは、金額以外に税務調査の対象者として選ばれやすい家庭の6つの特徴を詳しく解説します。

特徴1:税理士に依頼せず自分で相続税申告をした

相続税の申告は、本来は専門的な知識が求められるほど複雑です。これを税理士に依頼せず自分で申告すると、誤りが発生する可能性が高まります。税務署は提出された申告書をシステムで確認し、計算ミスや記載漏れ、添付書類の不備などがあると調査対象として注目することがあります。

税理士が作成した申告書には署名が入ることで信頼性が高まり、特に相続税専門の税理士であれば、財産評価や特例適用に関するノウハウが豊富で、ミスのリスクを減らせます。

特徴2:相続税の申告義務があるにもかかわらず申告していない

相続税の申告義務があるにもかかわらず、申告期限までに申告を行わない無申告は、税務調査の対象となる可能性が非常に高いです。

税務署は、故人の不動産登記情報や金融機関からの支払調書など、様々な情報源から個人の財産状況を把握しているため、相続財産があるにもかかわらず申告がない場合、申告漏れや意図的な隠蔽を疑い、積極的に調査を行います。

無申告が発覚した場合、本来の相続税に加えて、無申告加算税や延滞税といった重いペナルティが課されるだけでなく、悪質と判断されればさらに重い重加算税が課されることになります。

特徴3:亡くなる直前に預貯金から多額の引き出しがある

故人の預貯金から亡くなる直前に多額の引き出しがある場合、税務調査で特に注意されます。

税務署は、故人の銀行口座の取引履歴を最大10年間遡って確認できます。特に相続直前に引き出された現金については、相続財産として正しく申告されているかを重点的に調べます。

納税額を減らす目的で引き出されたにもかかわらず使途が不明な場合や、タンス預金として申告漏れがある場合は、財産隠しとみなされ、厳しく調査される可能性があります。

関連記事:タンス預金の無申告は税務署にばれる!最適な相続・贈与税対策は?

特徴4:家族名義の口座に実質故人の資産が隠されている

家族名義の口座に故人の資産が隠されている、いわゆる名義預金は、相続税の税務調査で重点的に確認される項目です。

収入がない家族や幼い孫名義の口座に多額の預金がある場合は特に注意です。その原資が故人からのもので、故人が実質的に管理していたと判断されれば、故人の相続財産として課税対象になります。

税務署は故人だけでなく、相続人や家族の預金口座も調査し、不自然な資金移動がないか確認しています。名義預金と判断されると追徴課税の対象となるため、生前からの適切な管理と、税務調査で説明できる証拠の準備が重要です。

特徴5:故人の過去の所得に対して相続財産が少ない

故人が生前得ていた所得に比べて、申告された相続財産が著しく少ない場合も税務調査の対象になりやすい傾向があります。

税務署は故人の収入や資産形成の情報を把握しているため、高収入だったにもかかわらず預貯金や不動産が少ないと、申告漏れの財産があるのではないかと疑念を抱きます。

これは、生前に現金を引き出してタンス預金にしたり、家族名義の口座に資金を移していたりする可能性を考慮しているためです。不動産や株式を売却して財産の形が変わったにもかかわらず、申告された預貯金などが少ない場合も、税務調査の対象となりやすいので注意が必要です。

特徴6:相続人ごとに異なる内容の申告書が提出されている

相続税の申告において、相続人それぞれが異なる内容の申告書を提出している場合、税務調査の対象となる可能性が高まります。これは、相続人ごとに申告内容に差異があることから、税務署が申告漏れや財産の過少評価などを疑うためです。

特に遺産分割協議がまとまらず、相続人間で意見の対立があるような状況では、各自が自己に有利な形で財産を申告しようとして、不整合が生じることがあります。税務署は提出された複数の申告書を照合し、矛盾点や不自然な点が見つかると、詳細な調査を行う傾向にあります。そのため、相続人間で申告内容の認識にずれがないよう、事前の十分な情報共有と確認が重要になります。

関連記事:相続税の未分割申告とは?手続きの流れと4つの注意点を解説

税務署はどのように調査対象を選定しているのか?

税務署が相続税の税務調査対象者を選定する際には、申告書の内容だけでなく、様々な情報源を活用しています。

主に利用されている情報は、国税総合管理(KSK)システムや被相続人の預貯金、不動産などの資産状況です。税務署はこれらの情報と申告内容を照合して、税務調査の対象になるかを判断しています。

提出された申告書はシステムで機械的にチェックされる

税務署に提出された相続税の申告書は、国税総合管理(KSK)システムという独自のデータベースで機械的にチェックされます。このシステムは、国民の確定申告や源泉徴収、所有する財産などの情報を参照できるため、申告内容に計算ミスや記載漏れ、添付書類の不備などがないか自動的に確認します。

申告書に不備や矛盾点が見つかった場合、それは税務調査の対象となる可能性を高める要因となります。システムによるチェックはすべての申告書に対して行われるため、小さなミスであっても見逃されることはありません。

参考:納税者サービスの充実と行政効率化のための取組|国税庁

預貯金や不動産など資産情報は国税庁に把握されている

税務署は、預貯金や不動産といった個人の資産情報を詳細に把握しています。国税庁のKSKシステムを通じて、金融機関からの支払調書不動産の名義変更に関する法務局からの登記情報など、様々な情報が税務署に連携されています。

例えば、死亡保険金が支払われれば、保険会社から税務署へ支払調書が送られ、不動産を相続して名義変更を行えば、法務局から税務署へ登記情報が送られます。こうした情報と申告内容を照合し、不一致や不自然な点があれば、申告漏れや財産隠しを疑い、税務調査の対象として選定するのです。

関連記事:≪相続税の税務調査≫時期や調査割合、何年遡って調べられる?体験事例もご紹介

関連記事:「相続税についてのお尋ね」はいつ・誰に・なぜ届くの?対処法について解説

相続税の税務調査を回避するための4つのポイント

税務の相談先(税理士・弁護士)

相続税の税務調査は多くの人にとって不安の種ですが、適切な対策を講じることでリスクを減らすことができます。ここでは、調査を受けにくくするために特に重要な4つのポイントをご紹介します。

【ポイント1】相続財産を正確に把握し、漏れなく申告する

故人の財産を正確に洗い出し、漏れなく申告することが最も重要です。預金については金融機関の残高証明書を、不動産については登記簿謄本や固定資産評価証明書など、裏付けとなる資料を全て揃えましょう。不明な財産や評価が難しい財産は、税理士に相談して適切に申告しましょう。

【ポイント2】生前贈与の証拠となる契約書などを保管しておく

生前贈与は相続税対策として有効ですが、税務調査で指摘を受けやすい項目です。贈与があったことを明確に証明できるよう、贈与契約書を作成し、現金手渡しではなく銀行振込で贈与を行い、通帳に記録を残すことが重要です。これにより、いつ、誰から誰へ、いくらの贈与があったのかを明確にできます。

関連記事:【税理士監修】生前贈与の方法とは?税務署に注意されないための手続きについて説明

【ポイント3】故人の預金移動の理由を説明できるように準備する

亡くなる直前や生前に多額の入出金があると、調査で必ず確認されます。これは被相続人だけでなく相続人となる方も対象です。亡くなる直前に引き落としや資金の移動をした場合は、理由を具体的に説明できるように準備しておきましょう。

【ポイン4】相続税に詳しい税理士に申告を依頼する

相続税の申告は専門性が高く、財産評価や特例の適用には正確な知識と経験が求められます。そのため、相続税に詳しい税理士に申告を依頼するのが安心です。税理士が作成した申告書は税務署からの信頼性が高まるため、調査対象となるリスクを大きく減らすことができます。

まとめ

相続税の税務調査は不安に感じるものですが、その実態と対策を理解すれば、過度な心配をすることなく適切に対応できます。

税務調査はすべての申告者に行われるわけではなく、確率は約20%程度とされています。ただし、一般的に遺産総額が2億円を超える場合や、税理士に依頼せず自分で申告した場合などは税務調査の対象となる可能性が高まるので注意が必要です。

税務署は、申告書だけでなく、預貯金や不動産といった個人の資産情報も詳細に把握しているため、申告漏れや誤りは発覚しやすいものです。

調査を回避するためには、相続財産を正確に把握して漏れなく申告すること、生前贈与の証拠を保管すること、そして故人の預金移動の理由を説明できるように準備することが重要です。そして何よりも、相続税に詳しい税理士に申告を依頼することが有効な対策となります。

万一調査の連絡が来ても、事前準備を整えて冷静に対応すれば心配ありません。適切な準備と専門家のサポートで、安心して対応することができるでしょう。

相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。

相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。

やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
初回相談は無料です。ぜひご相談ください。

また、金融機関不動産関係者葬儀関連企業税理士・会計士の方からのご相談やサポートも行っております。
小谷野税理士法人の相続専門スタッフがお客様へのサービス向上のお手伝いをさせていただきます。

監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。