遺産相続の時効はいつ?相続関連の8の時効と注意点を紹介

遺産相続の時効はいつ?相続関連の8の時効と注意点を紹介

遺産相続に関連する手続きは多岐にわたり、手続きによって時効や期日が異なります。特に時効を過ぎてしまうと権利行使ができなくなるため、時効経過により大きな損失を被ることになる恐れもあります。

時効成立による権利失効を防ぐためには、時効の定めがある手続きについて事前に知っておくことが大切です。今回は遺産相続に関する手続きの時効について詳しく解説します。

遺産相続関連で時効がある手続き

時計・砂時計

遺産相続関連で時効がある主な手続きとして、以下の8つが挙げられます。

手続きの内容

時効成立のタイミング

1

相続放棄・限定承認

相続開始を知った日から3ヵ月

2

遺留分侵害請求権

  • 遺留分を侵害する贈与や遺言がある旨を知った時から1年
  • 相続の開始から10年

3

相続回復請求権

  • 相続権の侵害を受けた旨を知った時から5年
  • 相続開始から20年

4

相続税の申告・納付

申告期限の翌日から5年

(悪意がある場合は7年)

5

準確定申告

申告期限の翌日から5年
(悪意がある場合は7年)

6

生前贈与にかかる贈与税

贈与税の申告期限の翌日から6年
(悪意がある場合は7年)

7

債権の消滅時効

  • 権利行使ができる旨を知った時から5年
  • 権利行使が可能になった時から10年

8

死亡保険金の請求

原則3年

以下より、それぞれの手続きについて詳しく解説します。

1.相続放棄・限定承認|相続開始から3ヵ月

相続放棄と限定承認の時効(熟慮期間)は相続開始から3ヵ月以内です。相続開始から3ヵ月を経過した後に相続放棄や限定承認の申述をしても、原則として受理されません。

なお、相続放棄はプラスの財産・マイナスの財産問わず、すべての相続権を放棄する手続きです。一方で限定承認の場合、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続します。

関連記事:【税理士監修】相続放棄の受理期間は3カ月。経過後の放棄は認められる?

2.遺留分侵害請求権|1年または10年

遺留分侵害請求権とは名前の通り遺留分侵害額の請求ができる権利です。

遺留分の侵害を受けたからといって、自動的に遺留分侵害の請求が実施されるわけではありません。遺留分侵害額の請求手続きを行う必要があります。そして、遺留分侵害額の請求ができるのは一定期間のみであり、時効成立後は遺留分の侵害ができなくなります。

遺留分侵害請求権の時効は以下の2つです。

  1. 遺留分を侵害する贈与や遺言がある旨を知った時から1年
  2. 相続の開始から10年

2の「相続の開始から10年」は、正確には除斥期間(じょせききかん)と呼ばれます。除斥期間とは権利をもつ人の事情に関係なく、期間の経過のみを条件に機械的に進行する点が特徴です。遺留分侵害を受けた事実を知らなかったとしても、相続の開始から10年が経過すると遺留分侵害請求権が自動的に失われます。

関連記事:遺留分侵害額請求の時効は1年と10年!期間内にやるべきことと時効を止める方法

3.相続回復請求権|5年または20年

相続回復請求権とは相続権の侵害を受けた相続人が、相続財産の取り戻しを請求できる権利です。以下のような人物が勝手に遺産の管理・処分をしたといった理由から、相続回復請求権が行使されるケースが多くみられます。

  • 法定相続人以外の親族
  • 本来は法定相続人であるものの、相続欠格事由に該当するため相続権を有しない人物
  • 相続権をもたない養子
  • 養子縁組をしていない連れ子

相続回復請求権の時効は相続権の侵害を知った時から5年です。除斥期間は相続開始から20年と定められています。

4.相続税|申告期限の翌日から5年または7年

相続税の時効は相続税の申告期日の翌日から5年、悪意があるとみなされる場合は7年です。

相続税の時効が5年となるのは、課税対象となる相続財産の存在自体を知らなかった、申告義務の認識不足、相続税の単純な計算ミスや申告漏れの場合などです。

例えば、意図的な過少申告や、悪質な財産隠しなどが行われた場合の時効は7年となります。税務署では、被相続人や相続人の過去の取引履歴や所有不動産、海外資産なども詳細に調べられます。そのため、申告漏れ自体は高確率で発覚すると認識しておきましょう。

なお、相続税の時効が成立すると、国は相続税の課税や徴収ができなくなります。そのため、時効が成立すれば相続税の申告および納付義務は解消されます。

関連記事:【税理士監修】相続税の時効は5年?時効が成立することはあるのか?

5.準確定申告|申告期限の翌日から5年または7年

準確定申告とは亡くなった方の所得についての確定申告です。亡くなった人に代わって相続人に申告および納付義務があります。

準確定申告の時効は準確定申告の申告期限の翌日から5年、悪意がある場合は7年です。

関連記事:【税理士監修】準確定申告書とは?申告が必要なケース、必要書類や期限などを解説

6.生前贈与にかかる贈与税|贈与税の申告期限の翌日から6年または7年

生前贈与にかかる贈与税の時効は贈与税の申告期限の翌日から6年、悪意がある場合は7年です。贈与税の申告期限は贈与を受けた年の翌年3月15日のため、贈与を受けた年の翌年3月16日が時効の起算日となります。

関連記事:贈与税の時効は6年(故意なら7年)、バレる確率は?どうやってバレるの?

7.債権の消滅時効|5年または10年

被相続人の債権は相続人に承継されます。債権の消滅時効は以下の通りです。

  1. 権利行使ができる旨を知った時から5年
  2. 権利行使が可能になった時から10年

消滅時効が成立すると、被相続人の債権を受け取る権利がなくなってしまいます。相続財産を調査する際は、被相続人の債権についても入念にチェックしましょう。

関連記事:相続後に借金発覚!後からでも相続放棄は可能?放棄できる条件と対処法

8.死亡保険金の請求|請求可能になった日から3年

死亡保険金の請求の時効は原則として3年です。根拠となるのは保険法第95条で、以下のように定められています。

第九十五条 保険給付を請求する権利(中略)は、これらを行使することができる時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。

引用元:保険法 | e-Gov 法令検索

例外として、日本郵政グループのかんぽ生命は約款上の時効を5年としています。ほかにも、保険会社やプランによっては手続きの期限が異なる可能性があるため、必ず公式の案内をご確認ください。

参考:【保険金】 保険金の請求手続きの期限を知りたい。 | よくあるご質問

関連記事:【税理士監修】生命保険の死亡保険金には相続税がかからない?非課税枠や注意点も解説

遺産相続関連で時効がない手続きとは

遺産相続関連のうち、遺産分割請求権には時効の定めがありません

遺産分割請求権とは共同相続人に対して遺産分割を求めることができる権利です。法定相続人が複数人いる場合に行う「遺産分割協議の申出」は、遺産分割請求権の行使と表現できます。

遺産相続手続きの時効に関する注意点

ポイント 注意

最後に、遺産相続手続きの時効に関する注意点を3つ紹介します。

[注意点その1]時効成立の撤回は原則不可

遺産相続手続きに限りませんが、時効成立の撤回は原則として認められません。時効の定めがある手続きはなるべく早めに行うよう注意しましょう。

[注意点その2]税金に関する時効の成立はほぼ起こらない

相続税、準確定申告、生前贈与にかかる贈与税の申告・納付には時効の定めがあると紹介しました。仮に時効が成立した場合、申告および納付義務はいずれも解消されます。

しかし実際のところ、税金に関する時効成立はほぼ不可能でしょう。理由として以下の3つが挙げられます。

  • 税務署は入出金履歴や不動産売買の履歴をはじめさまざまな情報を取得できるため、隠し通すのはほぼ不可能
  • 銀行や勤め先、関係会社等への反面調査も実施される
  • 税務署からの支払督促が行われたタイミングで時効が更新される

税務署が取得できる情報の範囲や調査対象の広さから、無申告状態を5〜7年隠し通すのはほぼ不可能です。税金の時効成立を待つ行為は絶対にやめましょう。

関連記事:脱税には時効がある?刑罰や罰金についても解説

[注意点その3]「時効」と「期限」は違う

遺産相続関連の手続きは、時効の定めがあるものと期限の定めがあるものに大別されます。いずれも「この日までに手続きを行う必要がある」旨を意味しますが、時効と期限は異なる意味をもつ点に注意が必要です。

時効は一定期間が経過した場合に権利関係を確定させる制度です。一定期間の経過により権利を失う消滅時効と、一定期間の経過後に権利が付与される取得時効の2つに分けられます。

遺産相続手続きで定められている時効の多くは消滅時効です。すなわち、一定期間の経過による時効の成立により当該権利を失うことになります。権利を行使するためには時効成立前に手続きが必要というイメージです。

一方、期限は手続きを行うべき期間の最終日時です。期限までに手続きを行うことが義務であり、多くの場合は期限を過ぎると何らかのペナルティが発生します。必ず行うべき作業や公的な手続きには、時効ではなく期限が定められています

このように、時効と期限は明確に使い分けられています。各手続きに定められているのが時効と期限のどちらであるか必ず確認しましょう。

権利失効を防ぐためにも遺産相続の時効を把握しよう

遺産相続に関するさまざまな権利は時効の成立によって失われてしまいます。「時効の存在やタイミングを知らなかった」は通用しません。時効成立による権利失効を防ぐためには、権利や手続きごとの時効を知ることが最も大切です。

一口に遺産相続関連といっても、権利の種類や内容によって時効の定めは異なります。それぞれの時効を正しく押さえ、必要に応じて適切に手続きを行いましょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。