生前贈与がバレる確率は?調査で発覚する理由と正しく節税する方法

生前贈与は本当にバレるのか、その確率を気にする方は少なくありません。実は税務署は様々な情報を把握できる仕組みを持っており、無申告のままでは思わぬリスクを招く可能性があります。本記事では、生前贈与がどのようにして発覚するのか、調査で明らかになる典型的なパターンを解説し、正しく節税する方法も解説します。生前贈与の確率やリスクが気になる方は最後までご覧ください。
目次
生前贈与がバレる確率とは?
生前贈与の無申告事案は、実地調査で申告漏れ等が見つかった件数のうち、おおむね80%以上を占めています。
以下の表は、国税庁の「相続税及び贈与税の調査等の状況」における、贈与税の実地調査件数、申告漏れ等が見つかった非違件数、そしてその中で無申告事案が占める割合を示しています。
事務年度 |
実地調査件数 |
非違件数 (申告漏れ等) |
無申告事案の割合 (非違件数に占める無申告の比率) |
令和5年度 |
2,847件 |
2,630件 |
84.2% |
令和4年度 |
2,907件 |
2,732件 |
82.8% |
令和3年度 |
2,383件 |
2,225件 |
83.1% |
令和2年度 |
1,867件 |
1,769件 |
82.2% |
令和元年度 |
3,383件 |
3,132件 |
86.0% |
令和元年度から令和5年度までの結果を見ると、無申告事案の割合はいずれの年度でも80%を超えており、令和元年度は86.0%、令和2年度は82.2%、令和3年度は83.1%、令和4年度は82.8%、令和5年度は84.2%と推移しているのが分かります。
生前贈与がバレる典型的なケース
生前贈与は「申告しなければ分からない」と思われがちですが、実際にはさまざまな情報経路から把握されてしまいます。典型的な発覚パターンをご紹介します。
現金や預金の贈与による発覚
現金の手渡しなら追跡できないと考えるかもしれませんが、銀行口座の入出金記録や資金の流れから容易に確認できます。
国税庁は、国税総合管理システム(KSK)を通じ金融機関や登記情報を横断的に把握しており、不自然な資金移動があれば調査で明らかになります。したがって、現金であっても痕跡が残る以上、無申告のままでは発覚する可能性が高いと言えます。
参考:Ⅱ 納税者サービスの充実と行政効率化のための取組|国税庁
関連記事:【税理士監修】現金を生前贈与するとなぜばれる?贈与税を軽減する方法
高額な買い物や生活費から資金源を追跡される場合
収入に見合わない住宅購入や高級車の取得は、税務署に資金源を疑われやすい行為なので注意しましょう。支出が収入を大きく上回る場合、その裏付けとして贈与が行われたのではないかと調査対象になるかもしれません。
結果として、購入資金や生活費の出所を確認される過程で未申告の贈与が判明する可能性があります。
不動産の名義変更による発覚
不動産を贈与する場合、名義変更の登記が必須であり、その情報は法務局から税務署へ通知されるため、不動産を無申告で移転することは実質的に不可能です。
形式上は名義変更に過ぎなくても、税務署はその過程で贈与を把握できるため、未申告の贈与が発覚します。不動産の贈与は必ず課税上の確認が及ぶと考えて良いでしょう。
保険金や貴金属の売却に伴う支払調書
保険金や貴金属取引は、一定額を超えると金融機関や保険会社から税務署へ支払調書が送られます。所得税法225条で、200万円超の貴金属売却や100万円超の保険金支払に報告義務が定められています。
本人が申告していなくても取引記録が税務署に届くため、特に高額取引では調査以前に把握されやすく、隠すことは事実上困難と言えるでしょう。
海外送金や金融機関の報告による発覚
国外送金は国内より厳格に監視されており、100万円を超える送金は金融機関から税務当局へ自動報告されます。
さらに多額の海外資産を保有する場合には国外財産調書制度により申告義務が生じ、怠ると罰則対象になる可能性もあります。こうした制度により、海外経由の資金移動は隠すことが難しく、未申告の贈与が露見する代表的なルートとなります。
相続発生時に過去の贈与が確認されるケース
相続税法19条により、相続開始前7年以内の贈与財産が相続財産に加算されますが、この際、過去の資金移動が精査されるため、無申告の贈与が明らかになる場合があります。
相続手続きに伴い金融資産や取引履歴が確認されるため、見逃される余地は小さいでしょう。結果として、生前に隠したつもりの贈与が相続時に表面化するケースは少なくありません。
マイナンバーと口座紐づけによる監視強化
マイナンバー制度により、金融口座と個人番号が紐づけられる仕組みが導入されているため、預貯金の動きは従来よりも税務署に把握されやすくなっています。
名寄せや情報照合の精度が高まったことで、資金の移動を申告せずに隠すことはますます難しくなっています。マイナンバーと口座の連携は、隠れた贈与を発見する強力な手段となりつつあります。
生前贈与を無申告にした場合のリスク
生前贈与を申告しなかった場合、税務調査で発覚すれば金銭的にも法的にも大きな負担が生じます。代表的なリスクについて解説します。
追徴課税・延滞税・重加算税の負担
申告を怠った場合、本来の税額に加えて無申告加算税・延滞税・重加算税が課されます。無申告加算税は期限を過ぎても申告しなかった場合に発生し、期限後申告の有無や時期で割合が変わります。
延滞税は納期限の翌日から完納まで日割りで加算され、放置すればするほど膨らみます。さらに隠蔽や仮装と判断されれば、最も重い重加算税が課されるため注意しましょう。
税目 |
内容 |
税率・加算割合 |
無申告加算税 |
申告期限までに提出しなかった場合に課される |
|
延滞税 |
納期限までに納付しなかった場合に課される |
|
重加算税 |
隠蔽や仮装など故意に無申告とされた場合に課される |
|
参考:延滞税の割合|国税庁
関連記事:相続税の税務調査の時期はいつ?調査期間・範囲や調査が来るのが多いタイミングを解説!
関連記事:タンス預金の無申告は税務署にばれる!最適な相続・贈与税対策は?
故意と判断された場合の刑事罰リスク
生前贈与の無申告は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。ただし、故意に隠したと認定された場合には、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科されます。
刑事罰は「過失」と「故意」の違いで大きく変わるため、意図的な無申告は刑事責任に直結する重大なリスクとなる点に注意しましょう。
贈与税の時効と延長されるケース
贈与税には時効があり、国税通則法第70条で原則5年と定められています。ただし、隠蔽や仮装といった不正行為がある場合には7年に延長されるため、単純に「5年経過すれば安心」とは言えません。
時間の経過だけで解決されるわけではなく、悪質と判断されれば時効が延びて追徴の対象となります。申告を怠ったまま放置すればするほど、潜在的なリスクを長く抱えてしまう点に注意しましょう。
関連記事:【税理士監修】相続税の時効は5年?時効が成立することはあるのか?
生前贈与は「バレない方法」ではなく正しく節税する方法を選ぶ
生前贈与は、バレないように隠して行えば前述のようなリスクを負ってしまうため、制度上認められた方法で正しく節税しましょう。以下に代表的な方法を紹介しますので参考にしてください。
暦年贈与の非課税枠を活用する
贈与税を節税したいのであれば、暦年贈与の非課税枠を活用しましょう。
贈与税には年間110万円まで非課税となる制度があり、少額でも毎年継続的に贈与すれば計画的に相続財産を移転できます。一度に大きな額を渡すと課税対象となるため、少額贈与を繰り返すのが基本です。
この非課税枠を使う方法は、最もシンプルで確実な生前贈与の節税策と言えるでしょう。
教育資金・結婚子育て資金などの特例を利用する
教育資金や結婚・子育て資金の特例の利用もおすすめです。教育資金の一括贈与非課税制度は、30歳未満の子や孫に対し、最大1,500万円まで非課税で資金を渡せる仕組みです。
結婚・子育て資金の一括贈与非課税制度では、18歳以上50歳未満の子や孫に対し、結婚費用や出産・育児費用として最大1,000万円まで非課税で贈与できます。
いずれも信託銀行等を通じて専用口座を開設する必要があり、対象外の用途や年齢超過時の残額には課税が生じます。
通常の年間110万円の非課税枠と併用すれば、相続財産を効率的に減らしつつ、子や孫のライフイベントを支援できる実用的な節税策でしょう。
参考:〔措置法第70条の2の2((直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税))関係〕|国税庁
参考:父母などから結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし|国税庁
関連記事:【税理士監修】教育資金の一括贈与は非課税になる?注意点と手続き方法を解説
関連記事:【税理士監修】結婚・子育て資金贈与とは?概要や手続き方法、注意点を解説
贈与契約書を作成・保管して証拠を残す
贈与契約書を必ず作成・保管しましょう。贈与は口頭でも成立しますが、税務調査では書面による証拠が必要です。
署名押印した契約書を残せば、贈与の事実や時期を明確に証明できます。書面がなければ「名義預金」とみなされ課税対象になる可能性があるため、贈与を確実に成立させるうえで契約書は不可欠です。
名義預金を避けて受贈者本人が管理する
名義預金を避けて、受贈者本人に管理させましょう。口座の名義だけを子や配偶者にして、実際には贈与者が通帳や印鑑を管理している場合、それは「名義預金」とされ課税の対象となります。
国税庁も資金の出所で実質的所有者を判断すると明示しており、受贈者が自由に資金を使える状態であることが重要です。
相続時精算課税制度を活用するケース
一度に多額の贈与をしたいのであれば、相続時精算課税制度を検討しましょう。これは、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫に贈与する際に利用できる制度で、累計2,500万円までの贈与について贈与税が非課税となる仕組みです。
ただし、一度選択すると暦年課税に戻れず、非課税枠を超えた部分は一律20%で課税されます。また、贈与した財産はすべて相続時に合算され、相続税の計算に含まれるため、将来の負担が増える可能性もあります。
短期的にまとまった資金移転をしたい場合に有効ですが、長期的な影響も見据えて専門家に相談するのが安心でしょう。
関連記事:相続時精算課税制度とは?特別控除と新設の基礎控除を解説
生前贈与の確実な準備は専門家に相談を
生前贈与は相続税対策として有効ですが、家族同士の贈与であっても税務調査で発覚する可能性が高いため注意しましょう。特に名義預金や契約の不備があれば「隠した」と判断され、追徴課税や加算税が課される恐れもあり、節税どころか大きな負担となりかねません。
だからこそ、生前贈与は正しく申告し、制度を適切に活用するのが重要です。
とはいえ、名義預金の整理や契約書作成、調査への備えまで一般の方が判断するのは難しいため、専門家に相談するのが安心でしょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。