不動産所得のある賃貸物件を相続した場合の確定申告の仕方は?

不動産所得のある賃貸物件を相続した場合の確定申告の仕方は?

不動産を相続した際、故人が賃貸物件を所有していた場合は、相続手続きに加えて確定申告が必要になることがあります。

相続人は、故人が亡くなるまでの所得を申告する「準確定申告」と、相続後に自分が受け取る家賃収入を申告する「確定申告」の両方を行わなければなりません。

本記事では、家賃収入や経費の扱い、不動産関連の費用、そして税務上の留意点について、わかりやすく解説します。

不動産所得のある賃貸物件を相続した際の確定申告

賃貸不動産を相続した場合、確定申告には準確定申告相続人の確定申告の2種類があります。

故人の所得に対する申告は相続人が代行し、相続発生後の所得については、相続人自身の所得として申告が必要です。それぞれの申告には異なる期間とルールがあり、適切な申告が求められます。

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準確定申告の要点

準確定申告とは、年の途中で亡くなった方の所得について、相続人がその死亡を知った日の翌日から4ヵ月以内に行う確定申告のことです。

対象となるのは、被相続人が亡くなった日までの所得であり、賃貸不動産からの収入がある場合は、亡くなった日までに支払期日が到来している家賃収入が該当します。

原則として、不動産所得を日割りで計算し、故人と相続人に按分する処理は不要です。例えば、家賃が滞納されていた場合でも、契約書に記載されている支払期日が到来していれば、その家賃は準確定申告の対象となります。

年の途中で亡くなった場合、亡くなった年分(1月1日~死亡日まで)の準確定申告が必要です。また、前年分の確定申告が未完了であれば、それも合わせて行う必要があります。ただし、もともと被相続人に確定申告の義務がなかった場合には、準確定申告も必要ありません。

関連記事:【税理士監修】準確定申告書とは?申告が必要なケース、必要書類や期限などを解説

相続人の確定申告における留意点

相続人が賃貸不動産を相続した場合、相続発生後の家賃収入は相続人自身の所得として確定申告が必要です。これにより所得税が課せられるため、確定申告が無縁だった方も申告の義務が生じる可能性があります。

相続人が複数いる場合、遺産分割協議が完了していない未分割の不動産から生じる賃料は、原則として各相続人が法定相続分に応じて取得し、各自で所得税の申告を行うことになります。この場合、便宜的に代表者の口座に家賃収入が入金されていても、共有状態であることに変わりはないため注意が必要です。

遺産分割協議が確定し、賃貸不動産の所有者が決まった後も、それ以前の未分割期間に法定相続分で申告した内容が、遺産分割後の所有割合と異なっていても修正や更正は行われません。そのため、相続開始後すみやかに遺産分割協議を進めることが、税務処理の明確化につながります。

家賃収入と経費の扱い

不動産(賃貸)の相続

賃貸不動産を相続した場合、故人の死亡日までの家賃収入や経費は準確定申告で計上し、相続発生後の家賃収入や経費は相続人自身の確定申告で計上します。それぞれの期間で計上される収入の種類や経費として認められる項目には違いがあるため、適切な処理方法を理解することが重要です。特に家賃収入や管理報酬、その他賃貸に付随する不動産収入の計上時期には注意が必要です。

準確定申告における家賃収入と必要経費

準確定申告の対象となる家賃収入は、被相続人が亡くなった日までに支払期日が到来しているものです。実際に家賃が支払われたかどうかは問わず、契約書に記載された支払期日が基準となります。

例外として、継続的に記帳を行っており、家賃の期間に対応して記帳されている場合は、相続発生日までの日割りで家賃収入を計上することも可能です。

必要経費については、被相続人が亡くなった日までに発生したものが対象となります。例えば、8月20日に亡くなった場合、それまでに被相続人が支払った修繕費などは、準確定申告の経費として計上可能です。経費を適切に計上することで、不動産所得を圧縮し、所得税額を減らすことができます。

<準確定申告における家賃収入の例>

死亡日までに支払期日が到来した家賃(例:当月末に翌月分が入金される契約の場合、死亡月の前月分まで)

契約書に支払期日が定められている場合は、その支払期日が到来した未収家賃

<準確定申告における必要経費の例>

  • 租税公課(固定資産税、都市計画税など)
  • 損害保険料
  • 修繕費
  • 減価償却費
  • 管理費
  • ローンの利息
  • その他、不動産管理に係る必要経費

相続財産となる家賃収入と必要経費

被相続人の死亡後に受け取れなかった家賃収入は、未収家賃として相続財産に含まれるため、相続税の申告対象となります。原則として日割り計算は行われません。具体的には、死亡日以前に支払期日が到来している未収金は相続財産と見なされます。

相続財産となる家賃収入の例は以下の通りです。

  • 被相続人が亡くなった時点で、支払期日が到来しているが未収となっている家賃

一方、被相続人が死亡日までに修繕工事の請求が発生していたものの支払いが済んでいない費用は、未払債務として相続税申告の際に控除対象となります。これらの項目を適切に把握し、相続税計算に反映させることが、遺産分割をスムーズに進める上で重要です。

相続財産となる必要経費(債務控除)の例は以下の通りです。

  • 被相続人が亡くなった時点で、支払期日が到来しているが未払いとなっている修繕費
  • 未納の固定資産税(相続税計算時に債務控除の対象となる)

相続人の確定申告における家賃収入と必要経費の計上

相続が発生した後の賃貸不動産からの家賃収入や経費は、相続人が自身の所得として確定申告を行います。具体的には、相続が発生した月以降に発生した家賃収入が相続人の所得となり、それに対応する経費も相続人の必要経費として計上されます。

例えば、当月末に翌月分の家賃が支払われる契約の場合、被相続人が亡くなった翌月分からの家賃収入が相続人の所得となります。賃貸不動産にかかるローンの利息も、原則として必要経費に算入できます。

関連記事:家賃収入の税金はいくら?不動産投資の節税対策を解説

不動産関連費用の取り扱い

固定資産税の支払い

不動産所得の確定申告において、固定資産税や減価償却費などの不動産関連費用は経費です。これらの費用は、計上時期や計算方法に特有のルールがあるため、適切に処理を行うことが重要です。特に相続があった場合には、その取り扱い方法が複雑になることがあります。

固定資産税の扱い

固定資産税は、毎年1月1日時点の不動産所有者に対して課税される税金です。納税通知書は通常4月から6月頃に送付されます。被相続人が年の途中で亡くなった場合でも、1月1日時点で被相続人が所有者であれば、その年の固定資産税の納税義務は被相続人にあります。

未納分の固定資産税がある場合、相続税の申告においては債務控除の対象となり、相続税の課税対象額から控除できます。ただし、被相続人の死亡後に納税通知書が届いた場合、準確定申告では経費に算入されず、相続人の確定申告で経費に計上されることになります。

遺産分割協議が完了し、不動産を受け継ぐ相続人が確定した後、翌年1月1日以降もその不動産を所有している限り、新たな所有者である相続人に固定資産税の納税義務が発生します。

減価償却費の計算方法

減価償却費は、建物などの有形固定資産の価値の減少分を費用として計上するものです。土地は減価償却の対象外です。

相続により賃貸不動産を取得した場合、相続人は被相続人の「取得価額」「取得時期」「耐用年数」「未償却残高」を引き継いで減価償却費を計算します。ただし、償却方法は引き継がれないため、相続人が改めて償却方法を選択する必要があります。

主な償却方法は以下の通りです。

  • 定額法:取得価額×定額法の償却率
  • 定率法:未償却残高×定率法の償却率
  • 旧定額法:取得価額×旧定額法の償却率
  • 旧定率法:(取得価額-前年までの償却累計額)×旧定率法の償却率

<計算例>

仮に以下の条件だった場合の、被相続人の準確定申告と相続人の確定申告における減価償却費を計算してみましょう。

  • 取得価額: 1,000万円
  • 法定耐用年数: 22年(木造住宅用)
  • 取得時期: 平成19年4月1日以降(定額法が適用)
  • 被相続人の死亡日: 2025年5月10日
  • 定額法の償却率: 22年 (耐用年数) → 償却率0.046(国税庁の耐用年数表より)

被相続人の準確定申告(2025年1月1日~5月10日の5ヵ月分)

ます、まず、年間減価償却費を算出します。

年間減価償却費=1,000万円×0.046=460,000円

次に、死亡日までの減価償却費を月割で計算します。

460,000円× (5ヵ月÷12) =191,667円(円未満の端数は切り上げ)

したがって、被相続人の準確定申告に計上される減価償却費は19万1,667円になります。

相続人の確定申告(2025年5月11日~12月31日の7ヵ月分)

年間の減価償却費から被相続人がすでに計上した分を差し引いて、相続人の減価償却費を算出します。

相続人の確定申告の減価償却費=460,000円-191,667円=268,333円

もしくは、相続人の所有期間(月数)に基づいて計算することもできます。

相続人の確定申告の減価償却費=460,000円× (7ヵ月÷12) =268,333円

相続人の確定申告に計上される減価償却費は26万8,333円となります。

計算方法によって1円の差が出る場合がありますが、端数処理によるもので実務上はどちらの方法でも認められています。

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青色申告特別控除の適用

青色申告は、事業所得、不動産所得、山林所得がある場合に適用可能な制度で、一定の記帳要件を満たすことで税制上の優遇措置を受けられます。賃貸不動産を相続した相続人も、青色申告承認申請書を提出することで、この青色申告特別控除を適用できます。

青色申告の特典には、最大65万円の特別控除があり、これは複式簿記による記帳を行い、貸借対照表や損益計算書を確定申告書に添付し、期限内に提出することで適用されます。

電子帳簿保存またはe-Taxによる電子申告を行う場合は、最高65万円の控除が受けられますが、紙での申告の場合は最高55万円となります。白色申告に比べて、青色申告は帳簿作成の手間はかかりますが、大幅な節税効果が期待できるため、賃貸物件を相続し、今後も賃貸経営を継続する場合は検討する価値があります。

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その他の税務上の考慮事項

青色申告

不動産所得の確定申告においては、家賃収入の計上時期や未分割財産からの収入の帰属、借入金利子の取り扱いなど、様々な税務上の考慮事項があります。これらの点を適切に理解し、申告を行うことで、不必要な税負担を回避し、適正な税務処理を実現できます。不明な点があれば、税務署や税理士に相談することが賢明です。

借入金利子の取り扱い

賃貸不動産の取得のために借り入れた資金の利子は、原則としてその業務に係る各種所得の金額の計算上、必要経費に算入されます。

これは、被相続人が所有していた賃貸不動産と共に借入金も相続した場合にも適用されます。しかし、賃貸不動産と借入金を別の相続人が相続した場合、借入金利子が不動産所得の計算上、必要経費に算入されないケースが発生する可能性も考慮しておきましょう。

また、居住者と生計を一つにする親族に対する借入金の利子については、所得税法上、経費として計上することができません。この場合、利息を受け取った親族の方でも、その利息金額を所得に計上する必要はありません。

青色申告承認申請の手続き

青色申告の承認を受けていた被相続人の事業を相続人が引き継ぐ場合、青色申告の承認は自動的に引き継がれません。相続人が引き続き青色申告を選択する場合は、改めて「青色申告承認申請書」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。

提出期限は、相続開始を知った時期によって異なります。例えば、死亡日が1月1日から8月31日までの場合、死亡日から4ヵ月以内が提出期限となります。死亡日が9月1日から10月31日までの場合、その年の12月31日まで、11月1日から12月31日までの場合は翌年2月15日までが提出期限です。

もし、被相続人が白色申告をしていた場合でも、相続人が青色申告を選択することも可能です。この場合は、その年の3月15日、または業務を承継した日から2ヵ月以内のいずれか遅い日までに申請書を提出する必要があります。

純損失の繰越について

青色申告を選択している場合、事業所得や不動産所得で損失(赤字)が出た場合、その純損失を翌年以降3年間繰り越して、将来の所得と相殺することができます。これにより、将来の所得税の負担を軽減できる可能性があります。

また、前年に所得税を納めている場合は、純損失を前年に繰り戻して税金の還付を請求できる「純損失の繰戻し」制度もあります。

ただし、相続が発生した場合、被相続人の純損失は相続人に引き継ぐことができません。そのため、被相続人に純損失があったとしても、相続人がそれを繰り越して自身の所得と相殺することはできない点に注意が必要です。

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まとめ

不動産所得のある賃貸物件を相続した場合には、被相続人の所得に関する「準確定申告」と、相続人自身の「確定申告」の両方が必要になります。

準確定申告では、死亡日までの家賃収入と必要経費を計上し、相続人の確定申告では、相続開始後の家賃収入と必要経費を申告します。固定資産税や減価償却費の計算、借入金利子の扱い、未分割財産からの収入の帰属など、それぞれに特有のルールや注意点があります。

さらに、青色申告を利用する場合には承認申請が必要で、提出期限にも注意が必要です。こうした複雑な税務処理を正確に行うためには、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
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