失踪宣告の取消は相続にどう影響する?遺産分割や手続きの注意点を徹底解説

失踪宣告の取消は相続にどう影響する?遺産分割や手続きの注意点を徹底解説

「失踪宣告を取消すると相続はどうなるのか」「相続税は返還されるのか」「既に分割した遺産の扱いは?」など、失踪宣告の取消と相続について不明な点がある方もいらっしゃるでしょう。

行方不明者に対して家庭裁判所が行う「失踪宣告」は、法律上その人を死亡したものとみなす制度です。相続が開始されるため、残された家族は遺産分割や名義変更、相続税の申告といった手続きを進めることになります。ところが、その後に本人の生存が判明した場合「失踪宣告の取消」が行われ、これまでの相続関係は大きく揺らぎます。

この記事では、失踪宣告の取消が相続に及ぼす影響を整理し、実務上の注意点や手続きの流れをわかりやすく解説します。

失踪宣告の取消と相続の関係とは  安否不明 失踪

失踪宣告とは、行方不明になり生死が確認できない人を法律上死亡したものとみなす制度です。家庭裁判所に申立てることで、生死不明の者に対して法律上死亡したものとみなす効果を生じさせます。

ここでは、失踪宣告と取消の基礎知識および、相続にどのように関係するのかを解説します。

失踪宣告とはー普通失踪と特別失踪の違い

失踪宣告には普通失踪特別失踪があります。普通失踪は7年間生死が不明の場合、特別失踪は危難が去って1年間生死不明の場合に申立て可能となります。

失踪宣告により死亡とみなされた後、生存が確認されたり異なる時期の死亡が判明した場合には、失踪宣告の取消しという手続きが必要です。

失踪宣告は死亡の推定ではなく「死亡したものとみなす」とする擬制であることから、反証をあげただけでは否定はできず、裁判所による失踪の宣告の取消しが必要です。この取消しを行わなければ、実際には生きている人でも法律上は死亡扱いのままとなってしまいます。

参考:民法 第三十二条 | e-Gov 法令検索

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失踪宣告の取消の意味と相続にまつわる法的な位置づけ

失踪宣告の取消とは、家庭裁判所が法律上死亡したものとみなした失踪宣告を、後から無効にする手続きです。法律により失踪者が生存していることや、失踪宣告で認定された時期と異なる時期に死亡したことが証明された場合、家庭裁判所は本人または利害関係人の請求により、失踪宣告を取り消さなければならないと規定されています。

失踪宣告の取消が認められると、法的には失踪宣告が初めからなかったものとして扱われます。これにより、失踪宣告によって開始された相続は原則として無効となり、失踪者の財産権や身分関係が復活します。ただし失踪宣告後、その取消前に善意でなされた行為の効力には影響を及ぼさないと法律で定められているため、すでに処理された法律関係すべてが覆るわけではありません。

相続との関係では、失踪宣告により相続人が取得した財産について、現に利益を受けている限度においてのみ返還義務を負うという規定があります。この制度により、失踪宣告を信頼して行動した相続人や第三者の利益も一定程度保護される仕組みとなっています。

参考:民法 第三十二条 | e-Gov 法令検索

失踪宣告の取消が認められるケースと手続きの流れ

失踪宣告の取消しが認められるのは、失踪者が生存していた、または死亡時期が宣告と実際の死亡とで異なると証明された場合です。ここでは失踪宣告の取消が認められるケースと手続きの流れを詳しく解説します。

生存確認や帰還による取消

生存確認や帰還による失踪宣告の取消は、失踪者が実際に生きていることが判明した場合に行われます。失踪宣告により法律上は死亡したものとみなされた人が、実は他の地域で生活していたり、記憶喪失などの理由で連絡が取れなかったなどのケースが該当します。

このような場合、民法第32条第1項に基づき、本人または利害関係人が家庭裁判所に失踪宣告取消の申立てを行う必要があります。生存の証明には、本人の現在の住民票、警察署が発行する発見証明書、医療機関の診断書などが用いられます。特に本人確認については、DNA鑑定や指紋照合などの科学的手法が採用される場合もあります。

取消の申立てが認められると、失踪宣告は初めからなかったものとして扱われ、相続や婚姻関係などの法律関係が原則として復活します。

参考:民法第32条第1項 | e-Gov 法令検索

家庭裁判所への申立手続き

家庭裁判所への失踪宣告取消の申立手続きを行えるのは、本人または利害関係人です。申立先は失踪者の住所地を管轄する家庭裁判所で、失踪者が現在居住している場所の管轄裁判所に申立書を提出します。

利害関係人とは、以下のような人のほか、失踪宣告の取消について法律上の利害関係を有する人が含まれます。

  • 失踪宣告した人の配偶者
  • 相続人
  • 財産管理人
  • 受遺者

失踪宣告取消の申立てに必要な書類

「失踪宣告」の手続とは|国税庁

引用:「失踪宣告」の手続とは・・・ よくあるご質問|裁判所

失踪宣告取消の申立てに必要な書類は、以下の生存または異なる時期の死亡を証明する資料です。

  • 失踪宣告取消審判申立書
  • 失踪者の戸籍謄本
  • 失踪者の戸籍附票

失踪宣告取消審判申立書

引用:失踪宣告取消審判申立書|裁判所

申立書には収入印紙800円分を貼付し、連絡用の郵便切手を添付します。

具体的な生存の証明資料とは、以下のようなものが該当します。

  • 本人の現住所の住民票
  • 警察署発行の発見証明書
  • 医療機関の診断書

家庭裁判所では、提出された書類をもとに家庭裁判所調査官による調査が行われます。調査では失踪者本人の同一性確認、生存状況の確認、申立ての動機や経緯などが審理されます。

審理の結果、取消が相当と判断されれば失踪宣告取消の審判が下され、審判確定後、申立人は10日以内に市区町村役場へ届出を行う必要があります。

失踪宣告の取消が相続に与える影響とは?

失踪宣告が取り消されると、相続にはどのような影響があるのでしょうか。ここでは、以下3点について詳しく解説します。

  1. 原則として相続が初めからなかったものとして扱われる
  2. 例外となる「善意で行われた行為」とは
  3. 相続税の申告・納税への影響

1.原則として相続が初めからなかったものとして扱われる

失踪宣告後に発生した相続は、失踪宣告の取消により原則として初めからなかったものとして扱われます。

失踪宣告が取り消されると、失踪宣告による死亡の効果がさかのぼって消滅し、相続の開始自体がなかったことになるためです。これは失踪宣告が法律上の死亡擬制であるため、その擬制が否定されることで、死亡を前提とした法律関係も同時に否定される結果です。

具体的には、失踪宣告により相続人が取得した被相続人の財産について、その取得の根拠となった相続そのものが無効となります。例えば、失踪宣告により配偶者と子が相続した不動産や預貯金は、法的には失踪者本人の所有のままだったことになり、相続登記や名義変更も法的効力を失います。

この遡及効により、相続人として財産を管理していた人は、実際には他人の財産を管理していたことになるため、原則として失踪者への返還義務が生じます。ただし、この原則には重要な例外があり、善意でなされた行為の効力は維持され、現存利益の範囲での返還にとどまるという制限が設けられています。

2.例外となる「善意で行われた行為」について

善意で行われた行為とは、失踪宣告が事実と異なることを知らずに行った法律行為を指します。この規定は、失踪宣告を信頼して取引を行った関係者の法的安定性を守るために設けられており、失踪宣告の取消があっても、その行為の効力は影響を受けません。

善意が認められるためには、行為の当事者双方が失踪者の生存や異なる時期の死亡について知らなかったことが要件となります。

例えば、相続人が失踪宣告を信じて相続財産である不動産を第三者に売却した場合、売主である相続人と買主の双方が失踪者の生存を知らなければ、その売買契約は有効なまま維持されます。

一方でどちらか一方でも失踪者の生存を知っていた場合は悪意となり、その取引は無効となる可能性があります。

この善意の判断時点は行為を行った時点であり、後から失踪者の生存が判明しても、行為時に善意であれば保護されます。

3.相続税の申告・納税への影響

失踪宣告の取消が行われた場合、相続そのものがなかったことになるため、既に行った相続税の申告と納税についても原則として無効となります。

相続税の申告期限である10ヵ月以内に申告・納税を済ませていた場合でも、失踪宣告が取り消されると、その申告の法的根拠が失われるのです。

この場合、納付済みの相続税は更正の請求により還付を受けられます。ただし、失踪宣告の取消という後発的事由が生じたときは、その事実を知った日から2ヵ月以内に更正の請求を行わなくてはいけません。

また失踪宣告の取消後に失踪者が実際に死亡した場合は、その時点から改めて相続が開始し、新たに相続税の申告義務が発生します。

参考:国税通則法 第二十三条| e-Gov 法令検索

失踪宣告取消後の相続手続きと注意点

相続・贈与に関する書類手続き

失踪宣告取消後の相続手続きは、失踪宣告により一度処理された法律関係を整理し直す必要があるため、通常の相続手続きよりも複雑になります。

失踪宣告の取消により相続が初めからなかったことになるため、既に行われた遺産分割協議は原則として無効となり、相続登記も抹消手続きが必要となるのです。

まず重要な注意点として、失踪宣告取消の審判確定後、速やかに市区町村役場へ届出を行い、戸籍を正常な状態に戻す必要があります。その上で、失踪者への財産返還について、現存利益の範囲で返還義務が生じますが、既に消費した財産や善意で第三者に売却した不動産などは返還対象から除外される場合があります。

失踪宣告により納付した相続税については、国税通則法に基づく更正の請求により還付を受けられますが、請求期限があるため注意が必要です。

失踪宣告取消後の相続手続きは、複雑で手続きには専門的知識が求められます。失踪宣告取消後の相続手続きについて専門的なサポートが必要な場合は、経験豊富な税理士に相談しましょう。

まとめ

失踪宣告が取り消されると、法律上は当初から相続が発生しなかった扱いとなり、遺産や保険金は本人に返還されます。ただし、現に利益を受けている範囲のみが返還対象です。さらに、宣告後に失踪者の生存を知らずに行われた取引は有効のまま維持されます。

この規定により相続関係の再構築を進めながらも、第三者の安心・信頼が守られているのです。

失踪宣告取消後の相続は複雑な手続きがあり、専門的な法律の知識が求められます。不明な点がある場合は、税の専門家である税理士に相談しましょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。