相続税の税務調査割合とは?最新データと調査対象になりやすいケースを解説

相続税の税務調査は「自分には関係ない」と思いがちですが、実際には毎年一定数の申告が調査の対象となっています。調査には税務署が直接訪問する実地調査と、電話や文書で確認する簡易接触があり、その割合や件数は年度や社会状況によって変動します。本記事では、最新の国税庁データをもとに調査割合の実態や調査を受けやすいケースを分かりやすく解説し、事前に備えるためのポイントについて解説します。
目次
相続税の税務調査割合はどれくらい?
相続税の税務調査は、すべての相続で行われるわけではありません。
国税庁は「相続税の申告件数」を基準に、税務調査の割合を毎年公表しています。その割合について解説します。
実地調査の割合はおよそ5〜6%
国税庁の最新の発表(令和5事務年度)によると、相続税の申告件数は約15万5,000件あり、そのうち実地調査が行われたのは8,556件です。
割合にすると申告件数全体の5〜6%にとどまり、10人に1人よりも少ない水準です。
簡易接触を含めると15〜20%
相続税の調査には、税務署員が訪問する実地調査だけでなく、電話や文書で確認する「簡易接触」も含まれます。
令和5事務年度の簡易接触件数は18,781件で、実地調査の倍以上です。これを合わせると、相続税の申告件数全体の15〜20%が税務署から何らかの確認を受けていることが分かります。
相続税の税務調査割合に幅がある理由
相続税の税務調査割合に幅があるのはなぜでしょうか。
実地調査と簡易接触の定義が異なるため
相続税の調査には、調査官が自宅や事務所を訪れる「実地調査」と、電話や文書で行われる「簡易接触」があり、どちらを基準にするかで割合の見え方が変わります。
国税庁の令和5事務年度の統計だと、実地調査に限れば相続税の申告件数全体の5〜6%程度ですが、簡易接触まで含めると15〜20%程度となり、表現に幅が生まれます。
統計の基準年度が異なるため
相続税の調査割合は、国税庁が毎年「事務年度」ごとに公表しており、その年度ごとの件数や割合には変動があります。
直近3年のデータをまとめたのが以下の表です。「相続税の申告件数」を母数として、実地調査の件数とその割合、実地調査と簡易接触を合わせた件数とその割合を示しています。
事務年度 |
相続税の申告件数 |
実地調査件数 (相続税の申告件数に対する割合) |
実地調査+簡易接触件数 (相続税の申告件数に対する割合) |
令和3年 |
約14万3,000件 |
6,317件 (4.4%) |
21,047件 (14.7%) |
令和4年 |
約15万件 |
8,196件 (5.5%) |
23,200件 (15.5%) |
令和5年 |
約15万5,000件 |
8,556件 (5.5%) |
27,337件 (17.6%) |
このように年度による件数の差が、そのまま割合の幅を生む要因となっています。
社会状況の影響を受けるため
税務調査の件数は社会的な状況によっても左右されます。
令和3事務年度は新型コロナウイルスの影響で調査体制が縮小し、実地調査の件数が通常より少なくなりましたが、その後の年度では件数が回復傾向にあり、外部要因によって調査割合にばらつきが生じることが分かります。
相続税の税務調査前の流れ
相続税の税務調査は突然始まるのではなく、事前に一定の手順を経て進められます。一般的な流れをご紹介します。
申告書を機械で読み取る
まず、申告書の第1表をOCR(光学式読み取り装置)で読み取る作業から始まります。この段階で申告内容が電子化され、審査に活用できる形へ整理されます。
読み取られたデータはシステムで処理され、加算や減算の誤り、数値の不一致などの単純な計算ミスが自動的に判別されます。
税務署が遺産額を推測する
次に税務署は、被相続人が実際にどれだけの財産を持っていたかを推測し、申告額の妥当性を確認します。
以下のような情報を収集・活用します。これらのデータと照合することで、財産の全体像を把握し、申告内容に不自然な点がないかを確認していきます。
- 被相続人の過去の所得や確定申告の内容
- 固定資産税の課税状況
- 不動産登記の記録
- 生命保険金の支払状況
- 預貯金の残高や名義
- 預貯金の入出金履歴(過去5〜10年分)
相続税の税調査を受けやすいケース
相続税の税務調査はランダムに行われるのではなく、一定の傾向をもとに重点的に対象が選ばれます。代表的なケースを紹介します。
税理士に依頼せず自己申告したケース
相続税を自分で申告すると誤りが生じやすく、調査対象となる可能性が高くなります。
税務署は専門家が関与していない申告をリスクが高いと判断しやすく、実際に申告内容の修正が必要となるケースも少なくありません。
無申告のケース
相続税を申告していない場合、税務署は金融機関や不動産登記などから得られる情報をもとに調査を重点的に行います。
無申告は税務署が特に注目する対象であり、申告義務があるのに提出していないと、加算税や延滞税といったペナルティが課される可能性も高くなります。
相続財産が高額なケース
遺産総額が大きい場合は、申告の誤りや評価の不備が発生しやすいため、調査対象となりやすい傾向があります。
特に不動産や株式など評価が複雑な財産が含まれる場合は、正確な計算がされているか厳しく確認されやすいです。
申告内容に誤りや不備があるケース
計算ミスや記載漏れ、添付書類の不足といった形式的な誤りがあると、調査対象に選ばれやすくなります。
税務署はこうした不備を「正確性に欠ける可能性がある」と判断し、詳しく確認を行います。
預貯金や現金が多いケース
現金や預貯金は金額がはっきりしているため、申告漏れがすぐに把握されやすい財産です。
税務署は金融機関の情報を把握しているため、申告額と突き合わせて不一致があれば重点的に確認します。
名義預金や多額の贈与があるケース
名義は相続人や家族になっていても、実質的に被相続人が管理していた預金は「名義預金」とされ、相続財産に含まれる可能性があります。
また、多額や定期的な贈与も実質的に相続財産と見なされやすく、調査の重点対象となります。
小規模宅地等の特例を利用しているケース
小規模宅地等の特例は、宅地の評価額を大幅に減額できる強力な制度ですが、適用要件が複雑です。
計算や書類に不備があると否認される恐れがあり、調査対象となる可能性が高まるため特例を利用する際には、要件を満たすことを証明できる資料を用意しておきましょう。
参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例とは?計算方法や適用要件をわかりやすく解説します
関連記事:【小規模宅地等の特例の計算方法】減額割合・計算例・注意点などポイントを解説
相続税の税務調査の種類
相続税の税務調査は「任意調査」と「強制調査」の2種類に分けられます。調査の目的や進め方が異なるため、それぞれの特徴を理解しておきましょう。
任意調査
相続税の調査の大半を占めるのが任意調査です。税務署から事前に調査の日時や場所が通知され、納税者は税理士の立ち会いも可能です。
年間を通じて行われますが、特に7月から11月にかけて調査が集中する傾向があります。これは、税務署の事務年度が7月開始であり、人事異動を経て新任担当者が本格的に調査を始める時期にあたるためです。
関連記事:税務調査とは?いつ・どこまで調べられるのか?大まかな流れや査察調査(国税調査)との違いなども解説
強制調査
強制調査は、悪質な申告漏れや脱税の疑いが強い場合に実施されます。事前の通知はなく、突然調査官が訪問して帳簿や資料を押収する場合もあります。
任意調査とは異なり、調査の実施時期は特定の期間に集中せず、疑わしい状況が発覚した段階で随時行われるため、対象となる場合には厳格で強制力のある調査が行われるのが特徴です。
相続税の税務調査で指摘を受けた場合のリスク
相続税の調査で申告内容に誤りが見つかると、さまざまなリスクが発生します。指摘を受けた際にどのようなリスクがあるのかを理解しておきましょう。
追徴課税を受けるリスク
調査で申告漏れが判明すると、本来納めるべき税額との差額を追加で支払う必要があります。令和5事務年度の相続税調査では、1件あたりの申告漏れ課税価格が平均約2,700万円と公表されています。
「少しの計算違いだから大丈夫」と考えていても、累積すると数千万円規模の申告漏れとなり、その結果として多額の追徴課税が発生する可能性があるので注意しましょう。
加算税が課されるリスク
申告漏れがある場合には、本来の税額に加えて「加算税」と呼ばれるペナルティが課されます。金額や状況によって以下のように税率が変わります。
種類 |
適用されるケース |
税率 |
過少申告加算税 |
期限内に申告はしたが、申告額が少なかった場合 |
原則10%(不足税額が50万円を超える部分は15%) |
無申告加算税 |
期限までに申告していなかった場合 |
原則15%(50万円を超える部分は20%) |
重加算税 |
財産隠しや仮装など、悪質な場合 |
相続税については40% |
延滞税が発生するリスク
追徴課税や加算税が確定すると、納期限の翌日から納付日までの期間に応じて延滞税が加わります。延滞税は利息のように毎日発生するため、納付が遅れるほど金額が膨らむ仕組みなので注意しましょう。
税率は毎年変動し、令和7年度の税率では、納期限から2ヵ月以内は年2.4%、2ヵ月を超えると年8.7%が適用されます。例えば、100万円を100日遅れて納付した場合、延滞税だけでおよそ20,000円が追加負担となります。
参考:延滞税の割合|国税庁
相続税の税務調査割合を踏まえてできる事前対策
相続税の税務調査は誰にでも起こり得るもので、申告に不備があれば特に対象となりやすくなります。調査リスクを抑えるための主な対策を紹介します。
相続財産を正確に申告する
調査を避けるためには、財産を正確に把握し、漏れなく申告しましょう。
預貯金や現金、生命保険はもちろん、見落とされがちな名義預金やタンス預金も含めて整理する必要があります。
財産評価の根拠資料を整える
不動産や株式などは評価方法が複雑で、税務調査でも重点的に確認される部分であるため、評価額を導き出す根拠となる資料を事前に整理し、必要に応じて説明できる状態にしておきましょう。
計算の妥当性を示すことで、調査官に疑念を持たれにくくなり、スムーズな対応に繋がります。
誤りに気づいたら修正申告を行う
申告後に誤りを発見した場合は、速やかに修正申告を行いましょう。
税務署から指摘を受ける前に自主的に修正すれば、過少申告加算税が課されない、あるいは軽減される可能性があります。
また、延滞税の一部が免除される場合もあり、負担を最小限に抑えられるでしょう。
専門家に依頼して申告の精度を高める
相続税の申告は複雑で専門知識を必要とするため、経験豊富な税理士に依頼するのが安心です。
税理士の関与があれば、誤りや漏れを防ぐだけでなく、調査対象となるリスクを軽減する効果も期待できるでしょう。
相続税の税務調査に不安がある方は専門家に相談
相続税の税務調査は、実地調査や簡易接触といった形で一定数行われており、決して稀なものではありません。しかも調査で申告内容の誤りが見つかれば、多額の追徴課税に繋がる可能性もあります。
こうしたリスクを避けるには、専門家の助言を受けて正確な申告や十分な準備を行いましょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。