代襲相続した遺産の負債が大きい!相続放棄はできる?

本来の相続人が何らかの事情で遺産を相続できない場合、適用される制度が「代襲相続」です。
しかし、なかには自分に相続権が来るとは思いもよらなかった、という方もいると思います。特に遺産に負債が含まれるケースでは、相続放棄したい、と考えてしまうのではないでしょうか。
そこでここでは、将来的に親以外から遺産を相続する可能性がある方に向けて、代襲相続を放棄する方法や注意点を解説します。
目次
代襲相続とは?
被相続人が亡くなった後、法定相続人となる人物が特別な事情(以下を参照)により財産を相続できないことがあります。その際、親族の中で次点となる人に相続権を移す仕組みが「代襲相続」です。
<代襲相続となる主な要因>
- 法定相続人が相続開始前に死亡している
- 法定相続人が相続人の欠格事由に該当する
- 法定相続人が被相続人から廃除されている
相続人の欠格事由とは、例えば「被相続人および他の相続人の殺害」や「遺言書の偽造・変造・隠匿」などが当てはまります。遺産の取り分を増やそうと違法な行為を行った場合は、これに該当すると考えて良いでしょう。また、被相続人があらかじめ家庭裁判所に申し立て、特定の相続人を「廃除」する手続きをした際にも相続権は失われます。
関連記事:【税理士監修】相続人は誰がなるのか。相続人となる人の範囲や順位について解説
養子の子は代襲相続できる?
代襲相続は、法定相続人である親が亡くなっていればその子に相続権が移転するのが一般的です。しかし、親が被相続人の「養子」である場合はどうなるのでしょうか?
この時には、子どもが「被相続人と養子縁組した後に産まれたか」がポイントとなります。仮に親が婿養子であったとして、結婚前に産まれていた子には代襲相続の権利が与えられない、というわけです。ただし、養子縁組後に産まれた子は被相続人とも血縁関係が生じるため、実子の子と同様に代襲相続の対象となります。
関連記事:【税理士監修】養子縁組制度の解説。普通養子・特別養子の違いや条件、相続税への影響は?
代襲相続に該当しないパターンは?
法定相続人が死亡や廃除などにより相続できないからといって、必ずしも代襲相続が発生するとは限りません。
例えば親から権利を受け継ぐ場合、以下の条件に当てはまると、相続人の子や近しい親族であっても代襲相続が不可能となります。
- 親が事前に相続放棄を行っていた
- 親が被相続人より後に亡くなった
- 親が被相続人の甥や姪である
- 親が被相続人の配偶者で、自分はその連れ子
親となる人物が相続放棄等を行い、既に権利を失っていたのであれば、子にも相続権は移転しません。また、代襲相続は元々の相続人が被相続人より先に亡くなっているケースでのみ発生する、という点にも注意しましょう。
更に、兄弟姉妹の代襲相続は1代限りという制約も存在します。ゆえに、自身が被相続人の甥や姪の子なら相続権はありません。配偶者に関しても本人は相続できますが、その身内は代襲相続の対象になりませんので、連れ子も範囲外となります。ただし、いずれの条件でも、遺言書に名前が記載されていれば相続人となることは可能です。
関連記事:代襲相続とは?代襲相続人の範囲と相続割合をパターン別に解説
代襲相続を放棄したい!方法はある?
遺産分割で相続する財産には、一般的に負債も含まれます。ローンや借金が資産を上回っている、もしくは金額的に大差ない場合、返済や手間などの負担だけが圧し掛かるリスクもあるのです。そういったケースでは、代襲相続の話が来ても断りたいと考える人が多いでしょう。
代襲相続は権利を放棄することも可能
もし代襲相続を望まないということであれば、「相続放棄」によってその権利を辞退できます。これは、自らが受け継げる遺産について、それを一切相続しないと表明するための制度です。
しかし、遺産分割協議において自分の意思を他の相続人に伝えるだけでは、相続を放棄したことにはなりません。相続放棄を行う場合、相続人になって3ヵ月以内に家庭裁判所に申し立てをする必要があります。申請が受理されれば相続権は解消され、また次点の相続人に権利が受け継がれるという流れです。
参考:国税庁「相続税法」
相続放棄に必要な書類
相続放棄をするにあたっては、以下のような書類を家庭裁判所に提出します。
<家庭裁判所に提出する書類>
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票もしくは戸籍附票
- 相続放棄する者(申述人)の戸籍謄本
- 被相続人が死亡したことを証明する戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被代襲者(代襲相続人の親等)が死亡したことを証明する戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
代襲相続では、相続放棄に必要とされる書類に加え、なぜ自分が相続人となったかの証明も求められます。被相続人の孫への代襲相続に関しては、上記の書類を提出するのが一般的です。
また、被相続人の兄弟姉妹の立場になると「直系尊属が既に死亡していること」を示す戸籍が追加されます。更に、被相続人の甥や姪であれば、それにプラスして「被相続人の兄弟姉妹が死亡していること」を表す戸籍が必要です。被相続人との関係性が遠くなるほど、提出書類も増えると押さえておきましょう。
関連記事:【税理士監修】相続放棄の必要書類と手続きをケースごとに解説
相続放棄されることが多いケースは?
代襲相続の権利を放棄する理由として代表的なのは、やはり「資産より負債が多い」場合だと言えます。しかし、他の要因が重なって相続放棄を選ぶ人も少なくありません。例えば、「被相続人自体に借金はないものの、連帯保証人や保証人になっている」ケースが挙げられるでしょう。
また、「相続財産が土地や建物、借地権メインで使い道がない」「維持するために手間や費用がかかる」なども珍しくない事例です。形は違えど、いずれの事例も利益より損失の方が大きい、という点では共通していると言えます。ただし、中には「現状の生活に不満がなく、余計な揉め事のリスクを抱えたくない」といった事情で相続放棄する方もいるようです。
代襲相続を相続放棄する際の注意点とは
遺産を相続してもデメリットの方が大きいと考えられるのであれば、相続を放棄することも可能です。しかし、状況によっては相続放棄を後悔する方もいると言われています。
どのような点に注意して慎重に考えなければならないのか、以下より順に確認していきましょう。
相続放棄後は撤回できない
相続放棄を選んだものの、後から「別の財産が発覚し、全体で見るとプラスになる遺産だった」と判明することがあります。しかし、一度相続放棄すると後悔しても撤回できません。申告期限である3ヵ月以内であっても、家庭裁判所に認められてしまうとやり直しは受け入れられないのです。
そのため、借金が存在した場合でも、即座に相続放棄を選択するのが正解とは言い切れないでしょう。特に、関わりが少なかった親族の資産状況や普段の様子を把握するのは難しいものです。相続放棄を検討するのであれば、慎重に調査等を行った上で判断することをおすすめします。
別の親族に相続権が移ることで、トラブルが発生するリスクも
誰かが相続放棄を行うと、基本的にはその次点の親族に相続権が移転します。ただし、この情報は家庭裁判所が自動的に他の親族に通達してくれるわけではありません。そのため、次点の人物が分かっている場合は、事前に相続放棄の意思を伝えておく必要があります。
なぜかといえば、相手方は自分が相続人にはならないものと安心している可能性があるからです。ある日突然相続の連絡を受け、しかも借金の返済まで含まれているとなれば驚く人も多いでしょう。思わぬトラブルの引き金になることも考えられますので、できる限り次点の方にも配慮した上で相続放棄を選択してください。
「単純承認」と見なされる行為があると相続放棄できなくなる
単純承認とは、プラスマイナスを含めた全ての遺産を無条件で受け継ぐことです。これに関しては相続放棄と違い、特別な手続きは必要ありません。相続から3ヵ月以内に何のアクションも起こさなければ、自動的に単純承認を行ったものと見なされます。
また、「相続財産を処分・活用した」場合にも単純承認の意思があると判断されるため、注意しておきましょう。つまり相続放棄しようとしても、その前に現金や不動産、土地などを利用した形跡が存在すれば放棄は認められないのです。単純承認も相続放棄と同じく、選択後は撤回できない制度ですから、財産の内容を踏まえ堅実に検討してください。
相続発生前は家庭裁判所への申し立て不可
被相続人の負債や借金をあらかじめ把握している場合、「早めに相続放棄の手続きをしておこう」と考える方もいるかもしれません。しかし、家庭裁判所に書類を提出できるのは、あくまでも相続が発生した後からです。
相続人として認められていないうちは相続放棄もできません。生前の対策としては、まず他の親族も含めてこまめにコミュニケーションを取ることが大切です。その上で、相続について少しずつ話し合いを進めてみてはいかがでしょうか。
関連記事:【税理士監修】相続放棄が認められない事例とは?確実な手続きのために押さえたいポイントを紹介
まとめ|代襲相続の相続放棄は、よく考え慎重な判断を
予想外の親族から代襲相続することになった場合でも、相続放棄によってその権利を辞退できます。特に負債が大きいケースや、親族間での揉め事が予想されるケースなどでは、相続放棄を利用する人が多いようです。
しかし、相続放棄は一度利用すると撤回できないため、その後後悔するリスクもゼロではありません。資産状況をしっかりと把握した上で、他の相続人にも配慮しつつ慎重に考える姿勢が求められます。
もし自力での判断が難しい、特別な事情が絡むなどのお悩みがあれば、税理士をはじめとする専門家を頼るのもひとつの方法です。プロの視点から有益なアドバイスが受けられますので、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
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