山林の相続放棄はできる?手放す方法や注意点を解説

親族から財産を相続した際、現金や不動産の中に山林が含まれている場合があります。しかし、山は大規模ゆえに管理が難しく、活用もしにくいため持て余してしまう方も少なくないでしょう。
そのような事態において、山林を相続放棄することは可能なのでしょうか?ここでは山林を所有する親族がいる方に向け、受け継がない方法や注意点などを解説します。
目次
山林「のみ」の相続放棄はできない
まず、相続放棄は基本的に「財産の全て」に対する権利を辞退するものです。つまり、プラスになる財産のみを受け取り山林は相続放棄するといったことはできません。しかし、状況によっては相続しない方が得になるケースもあります。では、相続放棄した場合にはどのようなメリットとデメリットが存在するのでしょうか?
相続放棄のメリット・デメリット
山林を相続放棄するメリットは、何といっても「管理や活用に悩む必要がなくなる」ことだと言えます。山の土地は広大だからこそ、清掃や整備を行うだけでも重労働です。また、権利に伴う税金の支払いがなくなる点も、大きな利点だと考えられるでしょう。
<山林を含め相続放棄するメリット>
- 収益性がない土地の管理・維持業務から解放される
- 所有しているだけで発生する固定資産税を払わずに済む
<山林を含め相続放棄するデメリット>
- 他の財産を相続できない
- 相続放棄後も管理業務が残るリスクがある
- 生命保険を受け取った際、非課税枠が適用されない
相続放棄のデメリットは、やはり他の財産もまとめて相続できなくなることです。山林以外で有益な遺産が存在する場合、結果的に損失を被るリスクもありますので気を付けましょう。
また、例えば生前被相続人と共にその山林を管理・運用していた形跡があると、相続放棄をしてもその義務が残ることがあります。この制約は基本的に他の相続人に引き渡されるまで続くため、自身が山林に関わっていなかったか確認してみてください。
故人が加入していた生命保険を受け取る際、一般的には500万円×法定相続人の数が非課税となります。しかし、相続放棄すると非課税枠から除外されてしまいますから、そのルールが適用されません。相続放棄を検討している方は、得られる権利も含め慎重に考えましょう。
関連記事:【税理士監修】相続放棄の費用はいくら?手続きの進め方や注意点も解説
山林を相続して活用する方法はある?
相続放棄にはデメリットも存在するため、いっそ相続した方がいいのでは?と考える方もいると思います。山林の活用方法としては、以下のような選択肢が挙げられるでしょう。
- 太陽光発電システムを設置する(売電収益を狙う)
- 農園として野菜や果物、穀物を栽培する
- キャンプ場や、自然を活かしたレクリエーション施設を経営する
- 林業・林産物業を営む人に貸し出す
- 建築会社や土木会社に資材置き場として利用してもらう
- 産業廃棄物処理場として活用してくれる業者を探す
山林を収益化するためには、大きく分けて「自力で何かを生み出す」方法と「専門業者に貸し出す」方法があります。自ら経営する場合、発電した電気や食物などを作り売ったり、キャンプ場の開設などが代表的な例です。
とはいえ、自身で事業を興すのは簡単なことではありません。特にキャンプ場等の施設を作るためには、上下水道の整備や整地など多くの手間がかかるでしょう。
そこで、既にノウハウを有している会社や事業主に託すのも有効な手段だと言えます。山林は広大だからこそ、林業や建築関連、産業廃棄物処理など幅広い用途に使える可能性があるのです。ただし、土地の広さや立地によって向き不向きが変わる点には注意しておきましょう。また、産業廃棄物処理場に関しては、周辺住民や法律上の課題が生まれることもあり、比較的ハードルが高いようです。
関連記事:山林所得の特別控除とは?計算方法や税率についても解説
相続した後に売却・帰属させる方法もある!
相続放棄すると損失になるものの、山林を活用するのも難しい…という方は多いと思います。そんな時には「一度相続した後に手放す」方法を検討するのも一つの手段です。これには、大きく分けて2つのやり方が存在します。
方法その1|山林を相続後、売却・寄付を行う
相続放棄をしなくとも、売却や寄付を行えば相続後でも山林を手放すことができます。不動産会社の中には山林の扱いを得意とする業者も存在し、査定から売買の仲介まで任せることが可能です。ホームページで実績等を確認した上で、信頼できる専門家を探しましょう。また、森林の所有者が組合員として共同経営を行う「森林組合」に相談する方法もあります。ここは管理や売却についての受託事業にも対応しているため、全国の森林組合一覧からお近くの場所を選んでお問い合わせください。
売却以外には、寄付という手立てもあります。身近に個人的な当てがなければ、市区町村をはじめとする各自治体や公益法人などを頼るのが良いでしょう。売却と寄付いずれの場合でも、根気強く相手を見つける姿勢が重要です。
参考:全国森林組合連合会
方法その2|相続土地国庫帰属制度を利用する
近年では、2023年に施行された「相続土地国庫帰属制度」も利用できるようになりました。これは相続人が一定の要件を満たす場合に、不要な土地を国に帰属させられる制度です。
ただし、国庫に引き渡す上では法務大臣の承認を受ける必要があります。要件に該当しているかをしっかりと確認しなければならないほか、手続きに手間や時間がかかることは覚悟しておきましょう。(以下・申請不可となる要件を引用)
【引き取ることができない土地の要件の概要】
(1) 申請をすることができないケース(却下事由)(法第2条第3項)
- 建物がある土地
- 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 他人の利用が予定されている土地
- 土壌汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
(2) 承認を受けることができないケース(不承認事由)(法第5条第1項)
- 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
- 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
- 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
- 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
- その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
また、帰属に際しては土地を審査する手数料や、10年分の管理に要する費用の納付も求められます。金銭的な負担より、その後の管理から解消されることを優先したい方におすすめの制度だと言えるでしょう。
遺産分割協議で「他の相続人に譲渡」するケースも
遺産分割協議の時点で、他の相続人に権利を譲渡する、というのも山林を手放す手段のひとつです。相続人が複数存在する状況では、誰がどの財産を受け継ぐか話し合わねばなりません。その中で、自分以外の相続人に山林を相続してもらうよう説得できれば交渉成立です。
とはいえ、誰も山林の相続を希望しないケースも少なくないと思います。対話を円滑に導くには、当面の維持費として現金や換金性の高い財産も一緒に譲るといった工夫が必要になるでしょう。また、遺言書等で山林の相続人に選ばれた方に関しては、「自らの相続分を譲渡」することも可能です。その際はのちのトラブルを防ぐためにも、遺産分割協議書や相続分譲渡証明書を作成し、証拠として残しておきましょう。
関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説
山林の相続に対応する際の注意点は?
山林は先祖代々受け継がれているような土地も多いため、取り扱いが難しい面もあります。そこで最後に、山林を相続する際によくあるトラブルと、押さえておきたい注意点について知っておきましょう。
所有者や土地の境界が曖昧になっていることがある
昔は相続登記が義務化されていなかったこともあり、過去の相続において上手く手続きが行われていないケースがあります。「自分の家が管理しているからうちの土地だろう」と思っていても、調べてみると所有者が定かではない場合が存在するのです。
もし所有者がはっきりしない時は、法務局に相談して以前の相続人を遡りましょう。また、長年の地形変動等により、土地の境界も曖昧になってしまっていることがあります。特に売却を希望するにあたっては重要な情報ですから、専門業者に再測量を依頼する必要も出てくるかもしれません。
関連記事:【税理士監修】土地の評価額は複数存在する。評価額の調べ方や計算方法、注意点も解説
評価額の査定が難しく、相続税の申告に影響するリスクも
遺産分割や売却を行う上で、山林がどの程度の価値を持つか金額にして表したい状況もあると思います。しかし、山林は路線価等の具体的な相場が設定されていないため、評価額の査定が複雑になることも少なくありません。
人によって評価が分かれる部分がありますので、相続税の申告等も難しいと考えられます。追徴課税を避けるためにも、専門的な知識を有する業者に依頼するのが間違いないと言えるでしょう。また、相続税に関する不安があれば、税理士をはじめとする専門家に相談してみてください。
相続に関するご相談は『やさしい相続センター』にお気軽にお問い合わせください。
トラブル時の責任が重いため、早めの対処が求められる
山林を所有していて問題となりやすいのが、「災害時のトラブル」です。台風や地震などが発生した際に土砂崩れ等を引き起こしてしまった場合、所有者が損害賠償責任を追うことになります。
また、放置しすぎた結果、管理不足により山火事等の被害に繋がったケースでも、所有者が責任を問われるのが一般的です。適切に管理し活用するか、手放すか…万が一の事態も踏まえ、早めに答えを出し対処を行いましょう。
まとめ|扱いが難しいからこそ、冷静な決断を
山林は土地が広大、かつ古くから所有されてきたケースが多いため、対応が難しい財産だと言えます。しかし、だからこそトラブルや後悔に繋がらないよう、早めに相続について検討することが大切です。
相続放棄を行う場合でも、手続きが完了すればそれで終わりとは限りません。引き続き管理業務等の義務が残っているかもしれませんので、しっかりと確認してください。また、次点に当たる相続人とも念のためその旨を話し合っておくと、揉め事を防ぐことが可能です。
と言っても、山林の相続をどう対処すべきか、自力で考え進めるのは困難だと思います。少しでも悩みや不安があれば専門の不動産業者や弁護士、税理士など、プロに相談するのが近道だと言えるでしょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
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