不動産の相続は二次相続も踏まえた対策が必須!基礎知識とポイントを解説

不動産の相続は二次相続も踏まえた対策が必須!基礎知識とポイントを解説

不動産の相続は、故人が亡くなってから初めて行われる一次相続だけでなく、一次相続で相続した配偶者が亡くなった際に発生する二次相続まで見据えた対策が重要です。

この記事では、二次相続の基本的な仕組みや、一次相続と比べて税負担が増加しやすい要因、二次相続に関する具体的な対策について解説します。

納税資金の準備や相次相続控除、遺言書の効果的な活用などの包括的な情報もお伝えしますので、相続への備えとして参考にしてください。

二次相続とは

二次相続とは、最初の相続である一次相続において、財産を相続した配偶者が亡くなった際に発生する二度目の相続のことです。例えば、夫が亡くなり妻と子が相続した後、その妻が亡くなり子が財産を相続する場合などが該当します。

二次相続では、一次相続で配偶者が取得した財産も含まれるため、一般的に相続財産の総額が増加しやすく、一時相続に比べて相続税の負担も大きくなる傾向があります。

一次相続と比較した二次相続の特徴

二次相続で相続税の負担が大きくなりやすい要因として、一次相続した配偶者の財産が合算されること以外にも、次のような理由が挙げられます。

  1. 相続税の基礎控除額が減少する
  2. 配偶者控除の適用がない
  3. 死亡保険金・死亡退職金の非課税枠が縮小する
  4. 小規模宅地等の特例が制限される可能性がある

各項目の具体的な内容を見ていきましょう。

1.相続税の基礎控除額が減少する

相続税には、相続財産の総額から差し引ける基礎控除額が定められています。

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

一次相続では、主に配偶者と子などが法定相続人となりますが、2次相続では配偶者がすでに亡くなっているため、法定相続人の数が一人減ります。結果、基礎控除額が一次相続に比べて減少し、課税対象となる遺産が増えるため、相続税負担が大きくなるのです。

参考:【相続税の計算】|国税庁

関連記事:贈与税の基礎控除額はどのくらい?税額の算出方法や暦年贈与についても解説

2.配偶者控除の適用がない

配偶者控除(配偶者の税額の軽減)とは、相続において被相続人の配偶者が取得した正味の遺産額のうち、次の2つのどちらか多い金額まで配偶者に相続税がかからない制度です。

  1. 1億6,000万円
  2. 配偶者の法定相続分相当額

一次相続では多くの場合、配偶者控除によって配偶者の相続税負担が大幅に軽減されます。しかし、二次相続では配偶者がすでに亡くなっていて控除が適用されないため、相続税負担が大きくなる要因の1つとなっています。

参考:【配偶者の税額の軽減】|国税庁

関連記事:【税理士監修】贈与税の配偶者控除とは?要件や必要書類、注意点等を紹介

3.死亡保険金・死亡退職金の非課税枠が縮小する

被相続人の死後に死亡保険金(生命保険金や損害保険金)を受け取った場合、保険料の全部または一部を被相続人が負担していたケースにおいて、一定の金額まで非課税枠が設けられています。

また、被相続人に支給されるべきであった死亡退職金(退職手当金、功労金、これらに準ずる給与)も、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものに関しては相続税の対象となり、非課税の適用対象となります。

非課税限度額の計算式は以下の通りです。

死亡保険金・死亡退職金=500万円 × 法定相続人の数

一次相続では、配偶者と子が法定相続人となるため、上記の非課税枠をより多く活用できる可能性があります。しかし、二次相続では配偶者がいないため、法定相続人の数が減って死亡保険金・退職金の非課税枠も縮小します。

これにより、課税対象となる金額が増加し、相続税負担が増える可能性があるのです。

参考:【相続税の課税対象になる死亡保険金】|国税庁

参考:【相続税の課税対象になる死亡退職金】|国税庁

4.小規模宅地等の特例が制限される可能性がある

小規模宅地等の特例は、被相続人が居住用や事業用としていた宅地などを相続した場に、一定の要件を満たせば相続税評価額を最大80%減額できる制度です。

一次相続では、配偶者であれば無条件に適用でき、子が適用を受けるには被相続人との同居などの要件を満たす必要があります。

一方、二次相続においては相続人は子のみとなりますが、適用要件は一次相続の場合と同様です。そのため、子が親と同居していなかった場合は特例の適用外となり、土地の評価額が高額なまま相続税が計算され、税負担が重くなる可能性があります。

二次相続対策として子が特例を適用できるようにする有効な方法として、被相続人の生前から同居を開始したり、二世帯住宅を検討したりすることが考えられます。

参考:【相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)】|国税庁

関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例が適用される条件とは?宅地等の相続税を減額するための要件や添付書類を解説

【事前対策が重要】不動産が関連する二次相続

二次相続とは

二次相続において、主要な相続財産となることが多い不動産は、評価方法や分割の難しさからトラブルの原因となるケースがあります。ただし、一次相続発生時、あるいは一次相続発生後、二次相続が発生するまでの間に適切な対策をとることで、税負担の軽減やトラブル回避が可能です。

ここでは、二次相続を見据えた不動産に関する生前対策や、一次相続の後にできる具体的な二次相続対策について解説します。

一次相続発生前からの生前対策

最初の相続が発生する前に被相続人が行える不動産の二次相続対策として、次のような方法が挙げられます。

  • 生前贈与を検討する
  • 生命保険の受取人を「子」に設定する

各対策法について、詳しく見ていきましょう。

生前贈与を検討する

生前贈与は、被相続人が亡くなる前に相続人に財産を贈与することで、将来の相続財産を減らし相続税の負担を軽減する方法です。

個人から一定額以上の財産を贈与された場合に発生する贈与税には年間110万円の基礎控除があり、この範囲内であれば課税されません。そのため、毎年計画的に贈与を行うことで、税負担なく財産を移転できます。

ただし、以下の表が示すように、相続開始前一定期間内の贈与は相続財産に加算され、相続税の課税対象となるため注意が必要です。

被相続人の相続開始日

加算対象期間

~令和8年12月31日

相続開始前3年以内(死亡日からさかのぼって3年前の日から死亡日までの間)

令和9年1月1日~令和12年12月31日

令和6年1月1日から死亡日までの間

令和13年1月1日~

相続開始前7年以内(死亡日からさかのぼって7年前の日から死亡日までの間)

不動産も生前贈与できますが、評価額が高く、贈与税以外にも不動産取得税、登録免許税などの税金や費用がかかるため、慎重に検討しましょう。

参考:【贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)】|国税庁

関連記事:暦年贈与が2023年に改正!変更点は?廃止されるって本当?

生命保険の受取人を「子」に設定する

生命保険や損害保険などの死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が設けられており、活用することで続財産の実質的な減少と相続に係る納税資金の準備が可能です。特に、保険金の受取人を子にすることで、二次相続の際に相続財産に含めずに済むため、節税効果が期待できます。

また、保険金は受取人固有の財産として、遺産分割協議の対象外となることから、特定の相続人に確実に財産を渡したい場合にも有効です。受け取った保険金を相続税の納税資金に充てることもできるため、不動産のように即時現金化するのが難しい財産が多い場合、特に有効な対策と言えるでしょう。

関連記事:生命保険を活用して賢く相続税対策!非課税枠や注意点を解説

一次相続発生後の二次相続に向けた対策

一次相続が発生した際にできる二次相続に向けた対策として、以下の方法が考えられます。

  • 配偶者の相続分を考慮する
  • 同居する子が自宅を相続する
  • 配偶者居住権の設定を検討する
  • 自宅を賃貸併用住宅にする

不動産は二次相続において大きな割合を占めるケースが多いため、対策法について十分に理解しておくことで、思わぬトラブル回避につながるでしょう。

配偶者の相続分を考慮する

一次相続における配偶者の相続分は、二次相続の相続税負担に大きく影響します。

配偶者が多くの財産を相続すると、配偶者の財産が増加し、二次相続における相続税額が高くなる傾向があります。配偶者控除を最大限活用して一次相続での配偶者の税負担をゼロにした場合でも、二次相続では配偶者控除がないため、多額の相続税が発生する可能性が考えられるのです。

そのため、二次相続を見据えた対策として、一次相続の段階で配偶者の取得する財産を必要最低限とし、子に財産を分散させるなどの検討も大切です。

ただし、残された配偶者のその後の生活資金も考慮したバランスの取れた判断が重要となるでしょう。

同居する子が自宅を相続する

子が自宅の敷地や建物を相続する場合、被相続人との同居などの一定の要件を満たすことで小規模宅地等の特例を適用し、相続税評価額を最大80%減額できる可能性があります。

子が適用を受けるための要件は、一次・二次相続同様のため、最初の相続の際すでに子が親と同居している場合は、その時点で子に自宅を相続させることで、二次相続時の特例適用を確実にするという考え方もできます。

子が一次相続後に転居するなどの可能性も考慮し、二次相続までを見据えた検討が重要です。

参考:【相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)】|国税庁

関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例対象となる同居とは?条件や定義について解説

配偶者居住権の設定を検討する

配偶者居住権は、遺された配偶者が被相続人所有の建物に、終身または一定期間、無償で居住できる権利です。一次相続においてこの権利を配偶者が取得し、自宅の所有権を子などが相続することで、配偶者の住む場所を確保しつつ、自宅の所有権の評価額を下げられます。

これにより、配偶者が相続する財産の評価額を抑えられるため、結果的に二次相続発生時の相続財産を減らせます。また、土地の所有権と配偶者居住権を分けることで、それぞれの評価額が算定されるため、相続税においても負担軽減が見込め、二次相続対策としての効果が期待できるでしょう。

参考:【残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。】|法務省

関連記事:【税理士監修】家の相続には相続税がかかる?手続きの方法や注意点を解説

自宅を賃貸併用住宅にする

自宅を賃貸併用住宅に建て替えることも、二次相続対策の1つに挙げられます。賃貸部分の割合に応じて、土地の評価額が貸家建付地として評価減の対象となるため、相続税評価額が下がり、相続税負担軽減につながります。

賃貸併用住宅への転換は、賃貸収入による収益の確保や、将来的な相続における分割対策としても有効です。さらに、要件を満たせば小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)の適用を受けられる可能性があり、さらなる評価減が期待できます。

ただし、建築費用や管理の手間なども考慮し、慎重に検討する必要があるでしょう。

参考:【相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)】|国税庁

二次相続におけるその他の対策

二次相続では、不動産に関する対策とあわせて、次のような有効な備えが考えられます。

  • 納税資金の準備
  • 相次相続控除の適用
  • 遺言書の作成と見直し

具体的な対策法について詳しく見ていきましょう。

納税資金の準備

二次相続では、一次相続よりも相続税額が高くなる傾向があるため、納税資金の事前準備が重要です。

相続税は原則として現金による一括納付のため、不動産などの換金しにくい財産が多い場合は、納税資金が不足する可能性があります。資金確保の方法として、以下のような手段が考えられます。

  • 生命保険を活用する
  • あらかじめ預貯金を確保しておく
  • 不動産の売却を検討する

相続税の申告・納税期限は、被相続人が死亡したことを知った日(通常被相続人の死亡日)の翌日から10ヵ月以内です。期日に間に合わなかった場合、加算税や延滞税が課せられる可能性もあるため、上記の方法も検討しつつ、計画的に準備を進めましょう。

参考:【相続税の申告と納税】|国税庁

相次相続控除の適用

相次相続控除とは、一次相続から10年以内に二次相続が発生した場合に、以下の要件をすべて満たす者に限り、二次相続で納める相続税額から一次相続で納めた相続税額の一部を控除できる制度です。

<相次相続控除が受けられる人>

  • 被相続人の相続人であること
  • その相続の開始前10年以内に開始した相続により被相続人が財産を取得していること
  • その相続の開始前10年以内に開始した相続により取得した財産について、被相続人に対し相続税が課税されたこと

本制度では、一次相続において課税された相続税額のうち、1年につき10パーセントの割合で逓減した後の金額が、二次相続に係る相続税額から控除されます。ただし、計算が複雑なため、対象となる可能性のある場合は、相続に詳しい専門家への相談をおすすめします。

参考:【相次相続控除】|国税庁

遺言書の作成と見直し

被相続人が遺言書の作成によって意思を明確にしておくことも、二次相続への有効な対策の一つです。誰にどの財産を相続させるかを指定できるため、遺産分割をスムーズに進め、相続人同士の争いを防ぐ効果が期待できます。

特に、不動産のように分割が難しい財産が含まれる場合、遺言書の内容が相続に大きな影響を与える可能性も考えられます。

加えて、一度作成したら終わりではなく、家族状況や財産状況の変化に応じて定期的に内容の見直しを行うことも大切です。

関連記事:【税理士監修】遺言書を公正証書で作成するには?必要書類や作成するメリットを解説

不動産の二次相続対策のまとめ

不動産の相続においては、一次相続だけでなく二次相続までを見据えた対策が重要です。

二次相続では、基礎控除額の減少や配偶者控除がないことなどにより、相続税の負担が増加する傾向があります。そのため、生前贈与や生命保険の活用、一次相続での遺産分割の考慮、不動産に特化した対策などを組み合わせて、計画的に準備を進めましょう。

二次相続対策を適切に行うためには、専門的な知識が必要となる場面が多々あります。具体的な対策の実行にあたっては、専門家である税理士への相談がおすすめです。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
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