[生前対策]公正証書遺言の作成手順と必要書類
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公正証書遺言とは、形式の不備による無効リスクが低く、相続トラブルの防止にもつながる確実性の高い方法です。
この記事では、公正証書遺言の作成を検討されている方に向けて、公正証書遺言の作成手順や必要書類、費用、注意点などを詳しく解説します。特に、作成時に求められる書類の種類や取得方法に焦点を当て、スムーズに準備を進められるようサポートします。
目次
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、公証人が法律に基づいて作成する遺言書の一種です。公証役場で、遺言者と二人以上の証人の立ち会いのもと作成されます。
他の形式の遺言書と比べ、形式不備で無効になるリスクが少なく、原本が公証役場に保管されるため、紛失や偽造の心配がほとんどありません。
また、相続開始後の家庭裁判所による検認手続きが不要であることも大きな特徴です。公証人は長年、裁判官や検察官などを務めた法律実務の経験者から法務大臣が任命するため、その信頼性は高いと言えます。
公正証書遺言作成のための必要書類
公正証書遺言を作成するためには、いくつかの書類を準備する必要があります。これらの書類は、遺言者本人、相続人や受遺者(相続人以外で遺言により遺産を受け取る人)、そして遺産の特定に関する情報を提供するために必要となります。
以下では、公正証書遺言作成のために必要となる主な書類について解説します。
本人確認のための書類
公正証書遺言を作成するには、遺言者本人であることの確認が必要です。これは、遺言が本人の真意に基づくものであることを証明するために行われます。本人確認の書類としては、公的機関が発行した顔写真付きの証明書が求められます。
具体的には、以下のいずれかを提示する必要があります。
- 印鑑登録証明書(3ヵ月以内に発行されたもの)と実印
- 運転免許証と認印
- マイナンバーカードと認印
- 住民基本台帳カード(写真付き)と認印
- パスポート、身体障害者手帳、または在留カードと認印
相続人や受遺者に関する書類
遺言書では、誰にどの財産を相続させるか、あるいは遺贈するのかを明確に定める必要があります。(遺贈とは、遺言によって相続人以外の人に財産を与えることで、これを受け取る人を受遺者と言います。)
そのため、相続人や受遺者に関する正確な情報を把握し、証明するための書類が必要です。これにより、遺言の内容を実行する際に、相続関係や受遺者に関する不要な争いを避けることができます。
必要書類と取得できる場所は、以下の通りです。
必要書類 |
取得場所 |
---|---|
遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本 |
遺言者の本籍地の市区町村役場 |
受遺者の住民票(受遺者が個人の場合) |
受遺者の住所地の市区町村役場 |
受遺者となる法人の登記事項証明書 |
全国の法務局(受遺者が法人の場合) |
財産を特定するための書類
遺言書には、遺言者が所有する財産を具体的に記し、それを誰に承継させるかを明確にする必要があります。財産が特定されていないと、遺言の実現が困難になる場合があるため、不動産や預貯金などの主要な財産については、詳細を確認できる書類を準備します。
これらの書類がそろっていれば、遺言の内容が明確になるだけでなく、財産目録の作成にも役立ちます。
財産を特定するための主な書類は下記の通りです。
必要書類 |
取得場所 |
---|---|
不動産の登記事項証明書(不動産登記簿謄本) |
法務局 |
固定資産税納税通知書または固定資産評価証明書 |
不動産が所在する市区町村役場 |
預貯金通帳のコピーまたは残高証明書 |
ー |
有価証券や自動車などの財産に関する書類 |
ー |
その他の書類
公正証書遺言の作成においては、上記以外にも特定の状況に応じて必要となる書類があります。たとえば、遺言執行者を指定する場合や相続人の中に兄弟姉妹が含まれる場合などです。これらの書類は遺言の内容を正確に反映させ、その後の手続きを円滑に進めるために役立ちます。
以下に、特定の状況で必要となる書類の例を挙げます。
状況 |
必要な書類 |
---|---|
遺言執行者を指定する場合 |
遺言執行者となる人の氏名、住所、生年月日、職業がわかる資料 |
証人を自分で手配する場合 |
証人となる人の氏名、住所、生年月日、職業がわかる資料(運転免許証のコピーなど) |
代襲相続が発生している場合 |
代襲相続に関する戸籍謄本 |
兄弟姉妹に遺贈する場合 |
兄弟姉妹に関する戸籍謄本 |
関連記事:【税理士監修】遺言書の持つ効力とは?無効になるケースと確実性を高めるポイント
公正証書遺言作成にかかる費用
公正証書遺言を作成する際には、公証役場に支払う手数料のほかにも、さまざまな費用がかかります。費用の総額は、遺言に記載する財産の内容や金額、依頼する専門家の有無などによって異なります。
ここでは、公正証書遺言を作成にかかる費用について、その内訳をご紹介します。あらかじめ把握しておくことで、計画的に準備を進めることができます。
公証役場の手数料
公正証書遺言の作成には、公証役場に規定の手数料を支払う必要があります。この公証役場の手数料は、遺言書に記載する財産の価額によって決まります。
たとえば、特定の相手に2,000万円を相続させる場合、その部分にかかる手数料は23,000円です。
また、全体の財産が1億円以下の場合は、これに遺言加算として11,000円が加算されます。複数の相手に財産を渡す場合は、相手ごとに財産額を計算し、それぞれの基本手数料を合算します。
必要書類取得にかかる実費
公正証書遺言に必要な書類は、遺言の内容によって異なり、それぞれの書類取得には手数料がかかります。
書類1通あたりのおおよその費用は以下のとおりです。
取得書類 |
手数料 |
---|---|
戸籍謄本 |
450円程度 |
住民票や印鑑登録証明書 |
300円程度 |
登記事項証明書 |
600円程度 |
固定資産評価証明書 |
300円程度 |
これらは、役所や法務局の窓口、または郵送で取得できます。
専門家への報酬
公正証書遺言の作成を弁護士や司法書士、行政書士といった専門家に依頼する場合、別途報酬が発生します。専門家に依頼することで、必要書類の収集や遺言内容の検討、公証人との事前調整などをサポートしてもらうことができます。
特に、財産の内容や相続人の関係が複雑な場合などには、専門家のアドバイスを受けることで、より円滑かつ確実に手続きを進めることが可能です。
専門家への報酬額は、依頼する事務所や遺言の内容によって異なりますが、一般的に司法書士や行政書士に依頼した場合の報酬相場は10万円から20万円程度とされています。
証人への日当(立会謝礼)
公正証書遺言の作成には、法律により証人2名の立ち会いが必要です。この証人には、日当(謝礼)として、1人あたり5,000円〜1万円程度の支払いが一般的です。証人手配の可否や費用も含めて、事前に公証役場に確認しておくと安心です。
なお、証人に求められる条件などの詳細については、次項の「公正証書遺言作成の流れ」であらためて説明します。
関連記事:【税理士監修】遺言書を公正証書で作成するには?必要書類や作成するメリットを解説
公正証書遺言作成の流れ
公正証書遺言は、いきなり公証役場に行ってすぐに作成できるわけではなく、いくつかのステップを経て進められます。事前の準備や公証人との打ち合わせ、証人の手配も必要です。
ここでは、公正証書遺言を作成するための一般的な流れについて説明します。当日の手続きをスムーズに終えるためにも、全体の流れを把握しておきましょう。
1.事前準備|遺贈内容の検討と必要書類の取得
最初のステップは事前準備です。
まず、誰にどの財産を相続または遺贈したいのか、遺言の内容を具体的に検討します。そして、その内容を実現するために必要な情報を整理し、関連する書類を収集します。
具体的には、相続人や受遺者の特定、所有する財産の種類と評価額の把握などを行います。これらの情報に基づき、財産目録を作成すると、その後の手続きがスムーズに進みます。
2.公証役場に連絡|公証人との打ち合わせ
事前準備が整ったら、公証役場に連絡を取り、公証人との打ち合わせの予約をします。打ち合わせでは、遺言者が公証人に対して遺言の内容を伝え、公証人がその内容を確認し、法的に問題がないかなどを検討します。
この際に、収集した必要書類を提出し、遺言の原案について話し合います。公証人から遺言の内容や形式に関するアドバイスを受けることも可能です。打ち合わせは通常1回で済むことが多いですが、内容によっては複数回行う場合もあります。
3.証人の手配|2人以上の立ち合いが必要
公正証書遺言の作成には、証人2名以上の立ち会いが必要です。証人は、遺言者が自身の意思に基づいて遺言を作成していることや遺言の内容を正確に理解していることを確認する役割を担います。
証人は、未成年者や相続人、受遺者、それらの配偶者や直系血族などはなることができません。自身で適切な証人を見つけることが難しい場合は、公証役場や専門家に証人の手配を依頼することも可能です。
4.作成当日|公証役場で作成する
事前の打ち合わせや必要書類の準備、証人の手配が完了したら、いよいよ公証役場での作成当日を迎えます。
当日は、遺言者と証人が公証役場に出向き、公証人が作成した遺言書の案文を確認します。公証人が遺言の内容を読み上げ、遺言者がその内容が自身の意思と合致していることを確認します。
その後、遺言者、証人、公証人がそれぞれ署名押印を行い、公正証書遺言が完成します。公証役場に出向くことが困難な場合は、公証人に出張してもらうことも可能です。
公正証書遺言作成時の注意点
公正証書遺言は法的に有効性の高い遺言方法ですが、作成にあたってはいくつかの注意点があります。これらの注意点を怠ると、せっかく作成した遺言が無効となったり、相続発生後にトラブルの原因となったりする可能性があります。
ここでは、公正証書遺言作成時に留意すべき点について解説します。
公正証書遺言が無効となるケース
公正証書遺言は公証人が関与するため形式的な不備で無効になることは少ないとされていますが、いくつかのケースで無効と判断される可能性があります。
たとえば以下のケースでは、無効となってしまいます。
- 遺言者に遺言能力がなかった場合(認知症などで判断能力が著しく低下していた場合)
- 証人が民法で定められた欠格事由(例えば未成年者や相続人など)
また、遺言者が口頭で述べた内容(口授)と公正証書の内容が異なっている場合や、詐欺や強迫によって作成された遺言も無効となる可能性があります。公序良俗に反する内容も無効の原因となります。
相続財産の遺留分について
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障されている最低限の遺産の取得分です。
公正証書遺言を作成する際、特定の相続人に多くの財産を与え、他の相続人の遺留分を侵害する内容とすることも可能ですが、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求を行うことができます。
遺留分に関するトラブルを避けるためには、遺留分に配慮した内容で遺言を作成することが望ましいです。遺言書作成前に、相続人間の話し合いを持つことも有効な対策の一つです。
関連記事:【遺留分の基礎知識】遺留分の割合と計算方法について解説
遺言執行者について
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことです。
遺言書で遺言執行者を指定しておくと、相続手続きがスムーズに進みます。遺言執行者には、相続人を含め誰でもなることができますが、未成年者や破産者はなることができません。
遺言執行者を指定した場合、その任務として相続財産の目録作成や預貯金の名義変更、不動産の登記移転などを行います。遺言執行者を指定しなくても遺言は有効ですが、その場合は相続人が協力して手続きを進める必要があります。
公正証書遺言に関するよくある質問
Q1:公正証書遺言はどこに保管されますか?
A1:公正証書遺言の原本は、作成した公証役場で原則として20年間保管されます。遺言者には正本と謄本が交付されますが、紛失した場合でも公証役場に原本があるため安心です。
Q2:自分が相続人かどうか、また公正証書遺言があるかどうかを確認するにはどうすればよいですか?
A2:相続人は、公証役場に遺言書の検索を依頼することができます。昭和64年1月1日以降に作成された公正証書遺言であれば、全国の公証役場で検索可能です。検索には、遺言者が亡くなったことを証明する書類や自分が相続人であることを証明する戸籍謄本などが必要です。
Q3:公正証書遺言の内容を閲覧することはできますか?
A3:遺言者の生存中は、遺言者本人以外は原則として遺言書の内容を閲覧することはできません。遺言者が亡くなった後は、相続人などの利害関係人が公証役場に開示請求を行うことで、謄本の交付を受けたり、閲覧したりすることが可能です。
Q4:公正証書遺言の場合でも検認手続きは必要ですか?
A4:公正証書遺言は、家庭裁判所での検認手続きが不要です。これは、公証人が法律に基づいて作成しているため、遺言書の偽造や変造のおそれが少ないとされているためです。そのため、相続開始後、比較的スムーズに手続きを進めることができます。
まとめ
公正証書遺言は、ご自身の意思を確実に次世代へ伝えるための有効な方法です。
作成には必要書類の準備や一定の費用がかかりますが、法的な有効性が高く、紛失や偽造のリスクが低いという大きなメリットがあります。適切な準備と手続きを踏むことで、安心して遺言書を作成できます。
必要書類の準備や手続きに関して不明点があれば、専門家への相談もご検討ください。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。