孫との養子縁組が相続税の節税になる?節税の仕組みと孫養子のデメリット

孫と養子縁組すると節税になると言われるのは、相続税の計算上、法定相続人の数が増えることが主な理由です。一方で、安易な養子縁組は、逆に税負担の増加や家族関係の悪化など思わぬリスクを生じかねません。
本記事では、孫を養子にする際の相続税への影響と注意点、円満な手続きの進め方まで分かりやすく解説します。
目次
孫を養子にすると相続税はどう変わる?節税の仕組み
孫を養子にすることで、相続税の計算上いくつかの節税効果が期待できます。以下では、養子縁組による節税の仕組みについて詳しく見ていきましょう。
世代飛ばしによる節税効果
財産は親から子へ、子から孫へと2回の相続を経て承継されるのが一般的です。しかし、孫を養子にすると、実の子どもたちと同様に孫も相続人となります。財産の一部または全部を直接孫へ相続させることで、相続税の負担を軽減できる可能性があるのです。
相続税の税率は最大55%にもなり、財産規模が大きい家庭では何代も相続を繰り返すことで財産が減ってしまいます。その場合、相続を一代スキップして財産の一部を孫に直接承継させるのは、有効な節税対策であると言えるでしょう。
相続税の基礎控除額の増加
相続税の基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」という計算式で求めます。相続人の数が多いほど控除額が増える仕組みです。
例えば、法定相続人が配偶者と子1人の計2人の場合、基礎控除額は3,000万円+600万円×2人=4,200万円です。ここに孫を養子として加えると、法定相続人は3人となり、基礎控除額は3,000万円+600万円×3人=4,800万円に増えます。
法定相続人が1人増えることで、課税対象となる遺産総額が600万円減ります。遺産総額が基礎控除額以内に収まれば、そもそも相続税が発生しません。
ただし、養子の人数には税法上の制限があるため注意が必要です。養子の人数制限については後述します。
関連記事:【税理士監修】相続税の基礎控除と法定相続人の解説。相続税の申告が不要になるケースは?
生命保険金や死亡退職金の非課税枠の増加
生命保険金や死亡退職金は、受取人の固有の財産のため遺産分割の対象とはなりませんが、相続税の計算には含まれます。
ただし、生命保険金と死亡退職金それぞれについて「500万円×法定相続人の数」で求められる金額までは非課税です。基礎控除額と同様、相続人の数が増えるほど控除額が大きくなります。
例えば、法定相続人が配偶者と子1人の計2人の場合、非課税枠は500万円×2人=1,000万円です。ここに孫を養子として加えると、法定相続人は3人となり、非課税枠は500万円×3人=1,500万円に増加します。
死亡退職金と生命保険金の両方がある場合は、それぞれの非課税枠を最大限に活用することで、大きな節税効果が期待できるでしょう。
関連記事:生命保険を活用して賢く相続税対策!非課税枠や注意点を解説
相続税率の軽減
相続税は、課税対象となる遺産総額が増えるほど税率が高くなる累進課税の仕組みです。前述のように、孫を養子にして基礎控除額や非課税枠が増加すると、適用される税率が下がるケースがあります。
例えば、相続財産が1億円の場合で簡易的にシミュレーションしてみましょう。
法定相続人が子1人の場合
- 基礎控除額:3,000万円+(600万円×1人)=3,600万円
- 課税遺産総額:1億円-3,600万円=6,400万円
- 相続税の総額:(6,400万円×30%)-700万円=1,220万円
法定相続人が子2人(実子1人+孫養子1人)の場合
- 基礎控除額:3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円
- 課税遺産総額:1億円-4,200万円=5,800万円
- 相続税の総額:実子385万円+孫養子462万円=847万円
- 実子の相続分(1/2):5,800万円×1/2=2,900万円
- 2,900万円に対する相続税:385万円(税率15%)
- 孫養子の相続分(1/2):5,800万円×1/2=2,900万円
- 2,900万円に対する相続税:385万円(税率15%)
- 2割加算額:385万円×20%=77万円
- 孫養子の納税額:385万円+77万円=462万円
- 実子の相続分(1/2):5,800万円×1/2=2,900万円
法定相続人が子1人の場合は1,220万円の相続税が発生しますが、孫を養子にした場合の相続税の総額は847万円に抑えられ、約373万円の節税効果が得られます。
法定相続人の構成や遺産分割の割合によっては、数十万円から数百万円の節税効果が得られる可能性もあります。ご自身のケースで正確な効果を把握するためには、税理士に相談して詳細なシミュレーションを行うことをおすすめします。
孫を養子にするデメリットとリスク
孫を養子にすることで節税効果が期待できますが、同時に見過ごせないデメリットやリスクもあります。メリットとデメリットの両方を知った上で、あなたと家族に適した節税対策を講じることが大切です。ここでは、孫を養子にするリスクを5つ解説します。
1.孫養子の相続税は2割加算される
孫養子が相続または遺贈によって財産を取得すると、孫が納める相続税額が20%加算されます。相続税の「世代飛ばし」による課税機会の減少を防ぐための制度です。したがって、2割加算の対象となる養子は孫養子のみで、世代飛ばしにあたらない婿養子や嫁養子に加算はありません。
加算分を考慮すると、養子縁組による節税効果が薄れる、あるいはかえって税負担が増えることもあります。相続税のルールの中でも特に注意が必要なポイントです。
例外として、被相続人の子が先に亡くなっていて孫が代襲相続人として相続する場合は、2割加算は適用されません。
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2.相続税法上の養子の人数制限
民法上は養子の人数に制限はありませんが、相続税の計算上、法定相続人としてカウントできる養子の数には制限が設けられています。これは、養子縁組を悪用した不当な節税を防ぐためのルールです。
養子は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までしか、法定相続人の数に含められません。
ただし、特別養子縁組による養子や配偶者の連れ子、代襲相続人となった孫については、人数制限の対象外となります。
節税効果を期待して複数の孫を養子にしたとしても、税務上のメリットは限定的です。事前に制限を把握しておかないと、期待した節税効果が得られない可能性があります。
3.家族間のトラブルに発展する可能性
孫を養子にすると、家族間で不公平感が生じ、取り返しのつかないトラブルに発展するおそれがあります。
トラブル因子の1つ目は、本来の相続人である配偶者や実の子どもたちの相続分が減ることです。遺言書で孫に大きな財産を遺す場合や、遺産が不動産などの分割しにくい財産の場合、感情的な対立が深まりやすい傾向にあります。
トラブル因子の2つめは、特定の孫だけが養子として財産を受け取ることで、孫同士の不公平が生じることです。祖父母からの扱いの差に納得できず、孫本人たちだけでなく、孫の親である子ども同士の関係にヒビが入るケースもあります。
孫を養子にする際は、なぜその決断に至ったのか、どのような目的があるのかを事前に家族全員で話し合い、理解を得ておくことが大切です。
4.扶養義務や親権の問題
養子縁組すると、養親(祖父母)と養子(孫)の間に法律上の親子関係が成立し、互いに扶養義務を負います。祖父母が孫を扶養する義務を負うだけでなく、将来的に孫が直接祖父母を扶養する義務を負うということです。
また、普通養子縁組によって未成年の孫を養子にした場合、実の親は親権を失い、養親(祖父母)に親権が移ります。戸籍上は実の親との親子関係が継続しますが、子どもの身上監護や財産管理については養親に責任が生じます。
養親である祖父母が、孫が未成年のうちに亡くなったとしても、親権は自動的に実の親に戻るわけではありません。親権者不在の状態となり、未成年後見人の選任手続きが必要です。相続手続きなどは未成年後見人が代行することとなり、手続きが煩雑になったり、時間がかかったりするリスクもあります。
養子縁組の法的な効果を確認しておかないと、家族間での認識にずれが生じ、トラブルの原因となりかねません。節税という金銭的なメリットだけでなく、家族としての責任を全うできるかを慎重に検討する必要があります。
関連記事:【税理士監修】養子縁組制度の解説。普通養子・特別養子の違いや条件、相続税への影響は?
5.税務署に否認されるリスク
養子縁組は、実質的な親子関係を築くことが目的であるべきとされています。あまりにも節税目的が明白すぎる場合、税務署に養子縁組の効力を否認されるリスクがあります。
例えば、祖父母と養子となった孫が同居しておらず、生活の面倒も一切見ていないなど、実態が伴わないケースです。過去の判例でも、形式的な養子縁組と否認され、加算課税や延滞税が課された事例があります。
養子縁組が否認されると、基礎控除額や非課税枠の増加効果も無効となり、当初の計画とは全く異なる結果になってしまいます。節税のためだけに形式的な養子縁組をするのではなく、実態のある家族関係を築くことが重要です。
円満な相続を実現するための進め方
相続対策は、節税効果だけでなく家族の絆を大切にすることが何よりも重要です。ここでは、円満な相続を実現するための進め方を紹介します。
家族全員で話し合う
円満な相続のために大切なのは、家族全員に平等に情報共有して話し合うことです。誰が相続人となるのか、どのような財産があるのか、誰に何を遺したいのかなど、将来の相続に備えて整理しておきましょう。
孫との養子縁組をする場合は、相続税対策のためだけでなく、孫に財産を確実に引き継ぎたい、跡継ぎとして期待しているなど想いを伝えると理解を得やすいでしょう。扶養義務や親権については、孫本人や孫の親とも丁寧な話し合いが必要です。
養子縁組で相続分が減る可能性のある実子や、他の孫たちに不公平感が生じないよう、全員が納得できる遺産分割の方法を探りましょう。
関連記事:[生前贈与の節税対策]孫への相続を非課税にする方法
養子縁組以外の対策も検討する
無理に孫との養子縁組だけにこだわるのではなく、家族の状況や財産構成に適した対策を検討しましょう。主な目的が相続税対策なのか、特定の孫に渡したい財産があるのかによっても必要な対策が異なります。
誰にどの財産を渡すかを指定したい場合は、遺言書を作成するのが一般的な方法です。元気なうちに確実に財産を移転したい場合は、生前贈与の選択肢もあります。
長期計画で少しずつ財産を移転する場合は、贈与税の年間110万円の非課税枠を活用した「暦年贈与」が有効です。将来的に価値が上がる見込みの不動産などは「相続時精算課税制度」を活用して早期に移転しておく方法もあります。
相続時精算課税制度では、累計2,500万円までは贈与税がかからない代わりに、相続時に相続税の課税対象となります。贈与時の価値を基準に課税されるため、孫が2割加算の対象であることを考慮しても、トータルの税負担は軽くなる可能性があるのです。
ここで紹介した以外にも、さまざまな対策方法があります。専門家のアドバイスを受けながら、総合的な生前対策を講じるとあなたも家族も安心できるでしょう。
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税理士に相談するべきケース
相続財産が高額な場合や、価値の評価が難しい財産がある場合は税理士へ相談しましょう。財産を洗い出し、家族関係を整理した上で、税額のシミュレーションを行い、節税効果の高い対策を提案してもらえます。
相続税は相続開始後10ヵ月以内に現金一括で納付するのが原則です。不動産など現金以外の財産が多い場合、納期限までに現金を用意するのが難しいケースもあります。税額の見通しが立つことで、納税資金の確保もしやすくなるでしょう。
実際に相続が発生した際は、複雑な相続税申告も税理士に一任できるため、相続人の負担が軽減できます。
弁護士に相談するべきケース
弁護士は法律の専門家として、相続にまつわる法的トラブル全般に対応します。孫との養子縁組について、親権や扶養義務の移行など法的な側面から慎重に検討したい場合には弁護士への相談が有効です。遺産を特定の孫に渡したいが家族間のトラブルが心配な場合など、トラブル防止策についてもアドバイスがもらえるでしょう。
まとめ
孫との養子縁組は、相続税を軽減する有効な手段です。しかし、節税だけでなく、養親と養子の間に法的関係が生まれるため、安易に選択すべきではありません。大切なのは、家族の状況や財産内容に合った総合的な対策を講じること。税理士や弁護士といった専門家に相談し、事前にシミュレーションを行うことで、円満な相続を実現しましょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。