土地の相続放棄は兄弟の1人だけできる?トラブルにならないための対策

親から子、あるいは兄弟間で土地を相続する際、多額の負債や管理の手間を理由に相続放棄を検討するケースがあります。
相続放棄は、個人の権利として単独で行うことが可能であり、他の相続人の同意は原則不要です。しかし、相続放棄は他の相続人に影響を及ぼす可能性があるため、慎重な検討と対応が求められます。
本記事では、相続放棄の手続きや兄弟間でトラブルにならないための具体的な対策、そして相続放棄後の土地の管理方法について解説します。
目次
相続放棄の概要と兄弟への影響
相続放棄とは、亡くなった親の財産(プラスの財産とマイナスの財産)を一切受け継がないと家庭裁判所に申述する手続きです。これは、相続人が借金などの負債を抱えずに済むための重要な手段となります。
しかし、相続放棄がなされた場合、その人は最初から相続人ではなかったものとみなされるため、他の相続人にその影響が及びます。
相続放棄は単独で可能か
相続放棄は相続人が単独で手続きを進めることが可能です。他の相続人、例えば兄弟姉妹の許可を得る必要はありません。相続放棄を希望する人は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄の申述書」を提出することで手続きを行います。
この手続きにより、放棄した人は被相続人の財産や負債を一切相続しないことになります。そのため、親が残した負債を相続したくない場合などに有効な手段となります。
しかし、単独での相続放棄は他の相続人に予期せぬ影響を与える可能性があるため、慎重な検討が不可欠です。
相続放棄が他の相続人に与える影響
相続放棄が行われると、放棄した人が受け取るはずだった財産は、他の相続人が引き継ぐことになります。相続人が複数いる場合に一人が相続放棄をすると、残りの相続人の相続分が増加し、その結果、相続税の負担が増える可能性もあります。
また、相続人が第一順位(子)で、その全員が相続放棄をすると、相続権は第二順位(親)、次に第三順位(兄弟姉妹)へと移ります。このように、相続放棄は他の相続人の相続順位や相続割合に直接的な影響を与えるため、予期せぬトラブルにつながることもあります。
たとえば、共有名義の財産があるケースでは、放棄者の持ち分が他の相続人に移り、共有者が増えることで、その後の管理や売却が複雑になる恐れがあります。
相続人全員が相続放棄した場合
相続人全員が相続放棄することも可能です。被相続人に多額の借金がある、または相続財産がマイナスになることが明らかな場合や管理が難しい不動産がある場合などに、相続人全員が相続放棄を選択するケースがあります。
相続人全員が相続放棄をすると、財産は最終的に国庫に帰属することになります。しかし、相続放棄は原則として放棄する人ごとに行うものであり、手続きは被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行われます。
全員がまとめて相続放棄を希望する場合でも、個々の相続人がそれぞれ申述手続きを行う必要があります。全員が相続放棄をしたとしても、相続財産清算人が選任されるまでの間は、財産の管理責任が残る可能性があるため注意が必要です。
関連記事:【税理士監修】相続放棄の費用はいくら?手続きの進め方や注意点も解説
相続放棄による兄弟間のトラブルを回避する方法
相続放棄による兄弟間のトラブルを避けるには、まず全員で十分に話し合い、情報共有することが大切です。特に、共有名義の財産がある場合、一人が放棄するとその相続分が他の相続人に移るため、今後の管理や税金について理解を共有しておきましょう。
相続財産に不動産や負債が含まれる場合は、全員で最善策を模索することが重要です。話し合いで解決しないときは、弁護士などの専門家を交えて協議するのも有効な手段です。専門家のアドバイスを得ることで、法的な観点から適切な解決策を見つけ、トラブルを未然に防ぐことにつながります。
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相続放棄された土地の管理について
相続放棄がなされると、次の順位の相続人が所有権を取得しますが、放棄された土地が一時的に所有者不明の状態となる可能性があります。しかし、土地はそのまま放置することはできず、適切な管理が必要です。特に、建物が建っている場合や隣地に影響を及ぼす可能性がある場合は、その責任の所在が問題となります。
相続財産精算人による管理
相続人全員が相続放棄をした場合や相続人がいない場合、相続財産は最終的に国庫に帰属します。しかし、それまでの間、相続財産が適切に管理されるよう、「相続財産清算人(旧:相続財産管理人)」が家庭裁判所によって選任されます。
相続財産清算人は、相続財産の管理や清算を行い、債権者への弁済や特別縁故者への財産分与などの手続きを進める役割を担います。相続財産清算人の選任は、利害関係人や検察官が家庭裁判所に申し立てることで行われます。
管理責任が免除されるケース
相続放棄をした相続人は、原則として相続財産に関する権利義務を一切引き継ぎません。しかし、相続放棄をした人が現に相続財産を占有している場合、次の相続人や相続財産清算人が財産の管理を開始できるまでは、その財産を保存する義務があります。
この管理義務は、民法によって定められたものであり、放棄したからといって直ちに管理責任がなくなるわけではありません。
ただし、その土地が共有名義であり、他の相続人が適切に管理している場合や相続財産清算人が選任され、その職務が開始された場合には、相続放棄をした人の管理責任は免除されると考えられます。
相続放棄の手続きについて
相続放棄は、負債を相続せずに済む手段ですが、家庭裁判所での正式な手続きが必要です。この手続きには厳格な期限が設けられており、必要書類も多岐にわたります。ここでは、手続きの流れから、期間、必要な書類まで詳しく解説します。
相続放棄の手続きの流れ
相続放棄の手続きは、以下の流れで進めます。
1. 相続財産の調査
相続放棄の意思決定のため、まず被相続人の財産状況を正確に把握することが大切です。これには、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。
相続放棄は一度行うと原則撤回できないため、事前に財産内容を詳しく確認しましょう。預貯金は通帳や金融機関からの郵送物で、不動産は固定資産税通知書や名寄帳などで確認できます。もし調査が難しい場合は、弁護士に依頼することも可能です。
2. 必要書類の準備と提出
相続放棄を決定したら、家庭裁判所に提出する「相続放棄申述書」をはじめとする必要書類を準備します。申述書には本籍、住所、氏名、相続放棄の理由などを正確に記入し、捺印します。
提出先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。直接持参することも、郵送で送ることも可能ですが、期限が迫っている場合は直接提出が推奨されます
3. 照会書への回答
書類を提出後、家庭裁判所から「照会書」が送付される場合があります。これは相続放棄の意思確認のための質問状で、内容に沿って回答し、返送することで手続きが進行します。
照会書への回答によっては相続放棄が却下される可能性もあるため、慎重な対応が必要です。
4. 受理通知書の受領
手続きが完了すると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送付されます。この通知書は相続放棄が正式に認められたことを証明する重要な書類ですので、大切に保管してください。
もし、債権者への証明などで必要となる場合は、別途「相続放棄申述受理証明書」を申請して取得することも可能です。
相続放棄の手続き可能期間
相続放棄の申述は、原則として「自己のために相続が開始されたことを知ったときから3ヵ月以内」に行わなければなりません。この期間は「熟慮期間」と呼ばれ、この間に相続放棄をするか、しないかを判断します。
この期間を過ぎると、自動的に相続を承認したとみなされてしまうため注意が必要です。やむを得ない事情がある場合は、家庭裁判所に申し立てることで、熟慮期間の延長が認められる可能性もあります。
相続放棄に必要な書類
相続放棄の手続きには、様々な書類が必要です。申述人の立場によって求められる書類は異なりますが、一般的に以下の書類が必要となります。
<すべてのケースで必要な書類>
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票(または戸籍附票)
- 申述人(相続放棄する人)の戸籍謄本
- 被相続人の死亡が記載された戸籍謄本
- 800円の収入印紙、連絡用郵便切手
<ケースによって必要な書類>
- 被相続人の子や孫が死亡している場合は、その子や孫の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 兄弟姉妹が相続放棄をする場合は、第一順位や第二順位の相続人がいないことを証明するための多くの戸籍謄本
これらの書類は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。必要書類の収集には時間がかかる場合があるため、早めに準備を始めましょう。
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相続した土地を手放す他の選択肢
相続した土地は、相続放棄以外にも手放す方法があります。負債がなく、管理の負担が大きい土地の場合などには、他の選択肢を検討することも有効です。ここでは相続放棄以外で手放す方法について紹介します。
相続土地国庫帰属制度を利用する
相続放棄は財産すべてを放棄する手続きですが、国庫帰属制度は特定の土地のみを国に引き取ってもらう制度です。
これは2023年4月27日から施行された新しい制度で、管理が難しい土地の所有者の負担軽減が目的です。この制度では相続人としての地位は維持されます。負債はないが、管理に手間がかかる土地を手放したい場合に有効です。
この制度を利用するには法務大臣への承認申請と、審査手数料、負担金(原則20万円)の納付が必要です。また、建物がないことや通常の管理に支障がないことなど、特定の要件を満たす土地である必要があります。申請は、土地が所在する法務局の不動産登記部門で行います。
相続放棄と国庫帰属制度、どちらの制度も土地を手放すことができますが、性質と影響が異なるため、自身の状況に合わせて適切な選択をすることが重要です。
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相続土地の分割と売却方法
相続した土地が複数ある場合や共有名義で相続する場合、その後の分割や売却は重要な課題です。全員が納得できる形で土地を分割・売却することは、トラブルを避ける上で大切です。
土地を分割相続する場合
土地を複数の相続人で分割して相続する方法には、主に「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共有分割」の4種類があります。
現物分割は、一つの土地を物理的に複数に分ける「分筆」を行い、それぞれを相続人が単独で所有する方法です。これにより、各相続人が明確な所有権を持つことができます。
代償分割は、特定の相続人が土地を相続する代わりに、他の相続人に対して代償金などの金銭を支払う方法です。これは、土地を分割するのが難しい場合や特定の相続人が土地の管理を継続したい場合に有効です。
換価分割は、土地を売却して現金化し、その売却代金を相続人で分割する方法です。相続人全員の同意があれば、公平に財産を分けられるメリットがあります。
共有分割は、土地を複数の相続人が共有名義で相続する方法です。平等に相続できる一方で、将来的な売却や利用には共有者全員の同意が必要となり、トラブルの原因となる可能性があります。
関連記事:不動産の換価分割とは?代償分割や現物分割との違いは?選択基準と手続きについて
相続した土地を売却する場合
相続した土地を売却する際は、まず相続登記を行い、名義を相続人に変更します。遺言書がない場合は、遺産分割協議で誰が土地を相続するかを決め、相続人全員の同意を得る必要があります。
名義変更が完了したら、不動産会社に査定を依頼し、売買契約、決済、引き渡しという流れで手続きを進めます。売却によって利益が出た場合、譲渡所得税などが課税されます。被相続人の所有期間を引き継ぐため、5年以下の所有期間で売却すると税率が高くなる可能性がある点に注意が必要です。
特定の条件を満たす場合、「取得費加算の特例」などを利用することで譲渡所得税を軽減できることもあります。
関連記事:不動産を相続後に売却するなら3年以内に!節税効果の高い売却方法
まとめ
土地の相続放棄は、個々の相続人の権利として単独で行うことが可能です。しかし、相続放棄は、相続順位の繰り上がりや他の相続人への管理責任の移行、相続税負担の増加など、他の相続人に大きな影響を与える可能性があります。そのため、相続放棄を検討する際は、事前に兄弟姉妹間で十分に話し合い、情報共有を行うことが重要です。
遺産分割協議を通じて、全員が納得できる解決策を見つけることが、トラブル回避の鍵となります。また、相続放棄以外の選択肢として、相続土地国庫帰属制度の利用や土地の分割・売却も検討する価値があります。
相続に関する問題は複雑で、法的な知識や税務上の専門性が求められるケースが少なくありません。特に、不動産が絡む相続や相続人間に意見の対立がある場合は、自己判断で進めると予期せぬトラブルに発展する可能性があります。
相続放棄の手続きや他の相続人への影響、適切な土地の管理・処分方法など、判断に迷う点が多々あるでしょう。そのような時は、専門家である弁護士や司法書士、そして相続税に関する知識が豊富な税理士に相談することをおすすめします。
税理士は、相続財産の評価や相続税の計算、各種特例の適用など、税務上の側面から最適なアドバイスを提供し、円滑な相続手続きをサポートしてくれます。専門家の知見を活用し、ご家族にとって最良の解決策を見つけ出すことで、安心して相続を乗り越えることができるでしょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。