夫婦間の贈与に税金はかかる?使える特例「おしどり贈与」を紹介

夫婦間の贈与には、適切に活用すれば節税効果が期待できます。この記事では、贈与税の基本的な仕組みから非課税枠、特に「おしどり贈与」と呼ばれる特例まで、夫婦間の資産移動を最適化する方法について詳しく解説します。
本制度を知らなかったために余計な税金を払うケースをよく見かけるので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
夫婦間の贈与と税金の基本
夫婦間での財産のやり取りも原則として贈与税の対象になります。しかし、贈与の金額や特例を活用することで非課税になるケースもあります。
これから説明する贈与税の基本的な仕組みを理解すれば、夫婦間の資産移転を賢く行えるでしょう。
夫婦間の贈与でも税金はかかるのか
夫婦間の贈与でも原則として贈与税はかかります。個人から財産を無償で受け取った場合、夫婦関係であっても例外ではありません。
高額な金銭や不動産、有価証券の移動は贈与税の対象です。ただし、年間110万円以下の贈与や生活費・教育費は非課税です。また、婚姻期間20年以上の夫婦間では、居住用不動産等に最大2,000万円の非課税特例があります。
なお、高額な資産のやり取りを検討している場合は、税理士などの専門家への相談をおすすめします。
税金がかからない贈与のパターン
夫婦間の贈与でも、特定の条件下では贈与税が非課税になります。税法によって定められた非課税枠や夫婦の扶養義務に基づくものなどが対象です。
これらを理解すれば、無用な贈与税の負担を避けられます。非課税の例としては、年間110万円以下の贈与や生活費や養育費として渡す金銭などです。
年間110万円以下の贈与
贈与税には「暦年課税制度」という非課税枠があり、年間110万円までは贈与税がかかりません。本制度は1月1日から12月31日までの1年間に受け取った財産の合計額に適用されます。夫婦間に限らず、すべての個人間贈与に適用されます。
関連記事:【税理士監修】暦年贈与の注意点、相続税対策のポイントを解説
例えば、夫が妻に年間110万円以下の金銭や物品を贈与した場合、贈与税は発生せず、贈与税の申告も不要です。
しかし、110万円の非課税枠は、同一の受贈者が1年間にもらった全贈与の合計額です。例えば、夫から100万円、義父から50万円を同じ年に受け取ったケースを想定してみます。
受け取った金額の合計は150万円となり、110万円を差し引いた40万円に贈与税がかかります。また、毎年継続する「連年贈与」は定期贈与とみなされ、まとめて課税される可能性があるので注意が必要です。
生活費や教育費に充てる贈与
夫婦間には民法で互いに扶養する義務があります。この義務に基づく生活費や養育費としての金銭贈与は、原則として贈与税はかかりません。家賃や食費、医療費、子どもの学費などが該当し、通常必要な範囲内なら、年間110万円を超えても非課税です。
ただし、贈与された金銭が貯蓄や株式、不動産の購入など生活費や養育費以外の目的で使用した場合、課税対象となる可能性があります。
婚姻期間20年以上の夫婦間贈与の特例「おしどり贈与」
婚姻期間が20年以上の夫婦には、特別な贈与税の非課税枠があります。「おしどり贈与」とも呼ばれるこの特例は、居住用不動産やその購入資金の贈与に適用でき、節税効果があります。
ここでは、おしどり贈与の適用要件や手続きについて詳しく見ていきましょう。
「おしどり贈与」の適用要件
夫婦間贈与の特例「おしどり贈与」を利用するには、以下の要件を満たす必要があります。
- 夫婦の婚姻期間が贈与時点で20年以上経過していること
- 贈与財産が居住用不動産か、居住用不動産取得のための金銭であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与された居住用不動産に受贈者が実際に居住し、その後も居住する見込みであること
- 同じ配偶者の間では一生に一度しか適用できないこと
上記の要件を満たせば、基礎控除110万円に加えて最大2,000万円、合計2,110万円までの贈与が非課税となります。
参考:No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除|国税庁
特例を適用するための手続きと必要書類
夫婦間贈与の特例を適用するには、贈与税の申告手続きが必須です。非課税でも特例を適用するためには申告書の提出が義務付けられています。
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、受贈者の住所地を管轄する税務署へ提出します。提出方法は税務署への持参か郵送です。
主な必要書類は次の通りです。
- 受贈者の戸籍謄本または抄本、戸籍の附票の写し(贈与日から10日以上経過後に発行されたもの)
- 贈与対象の居住用不動産の登記事項証明書
- 居住用不動産の購入資金贈与の場合は、取得資金であることを証明する書類(売買契約書の写しなど)
- 居住を証明する住民票の写し
申告書は国税庁のサイトの「贈与税申告書作成コーナー」で作成できますが、土地評価が複雑な場合や正確な申告を希望する場合は税理士への相談がおすすめです。
参考:贈与税の申告|国税庁
過去に離婚歴がある場合の特例適用
婚姻期間20年以上の夫婦間贈与の特例は、離婚後に再婚した場合でも適用できる可能性があります。
贈与時点で婚姻期間が20年以上であることが要件で、過去の離婚歴は直接的に適用を妨げません。
ただし、この特例は同じ配偶者との間で一生に一度しか利用できない点に注意です。そのため、以前の婚姻期間中にすでに利用していた場合、再婚後は同じ配偶者からの贈与には適用できません。
関連記事:【税理士監修】内縁の妻は相続可能?内縁関係で相続を行うためのポイントを解説
夫婦間贈与で税金がかかるケース
夫婦間の財産移動がすべて非課税になるわけではありません。意図せず贈与税の課税対象となることもあります。
ここでは、夫婦間で贈与税がかかりやすいケースについて解説します。
年間110万円を超える贈与
夫婦間でも年間110万円を超える贈与は課税対象です。
暦年課税制度による年間110万円の基礎控除を超える部分は贈与税が発生します。例えば、夫が妻に生活費や教育費以外の目的で年間150万円を贈与すると、40万円分に対して贈与税がかかります。これは金銭だけでなく、高額なアクセサリーや自動車等の贈与も対象です。
また、年間110万円を超えないよう毎年少額の贈与を繰り返す連年贈与は、贈与の仕方によっては計画的贈与(定期贈与)とみなされてまとめて課税されるリスクがあります。思わぬ課税を避けるには、贈与のたびに贈与契約書を作成するなど、独立した贈与であることを示す証拠を残すことが重要です。
高額な金銭の移動
夫婦間で高額な金銭を移動させる場合、資金の用途によっては贈与税が課税されます。
よくあるケースでは、夫の口座から妻の口座へ多額の預貯金を移し、生活費以外の利用や貯蓄に回した場合は贈与とみなされる可能性があります。
予期せぬ課税を避けるためには、目的を明確にし、必要に応じて贈与契約書を作成するなど慎重な対応が求められます。
不動産の持分割合と出資額の不一致
不動産を夫婦で共同購入する際、登記上の持分割合と実際の出資額が一致しないと、贈与税が発生する可能性があります。
例えば、夫がすべての費用を負担したにも関わらず、不動産名義を夫婦で半分ずつにすると、夫から妻へ購入費用の半額が贈与されたとみなされ課税対象になります。
税務署は不動産登記情報からこれらの不一致を把握し、「お尋ね」の書面を送ることがあります。この事態を避けるには、不動産購入時の資金負担割合と登記上の持分割合を一致させることが重要です。もし、資金負担割合と異なる持分割合で登記する場合は、事前に専門家へ相談しましょう。
「おしどり贈与」を利用する上での注意点
婚姻期間20年以上の夫婦間贈与特例は、贈与税の節税に効果的です。しかし、この特例利用にはいくつかの注意点があります。
ここでは、特例の概要と利用回数や二次相続に与える影響などについて解説します。
特例の利用回数は一生に1度だけ
「おしどり贈与」は、同じ夫婦間では一生に一度しか適用できません。一度この特例を利用すると、非課税枠の2,000万円を使い切らなくても、残額を将来の贈与に回せません。
例えば、1,000万円分の居住用不動産に特例を適用すると、残り1,000万円の非課税枠は消滅します。
そのため、この特例を利用する際は、将来のライフプランや財産状況を考慮し、どのタイミングでどのくらいの金額を贈与するのが効果的か慎重に検討しましょう。将来的に自宅の建て替え・買い替えを予定している場合は、特例利用も視野に入れましょう。
関連記事:【税理士監修】贈与税の配偶者控除とは?要件や必要書類、注意点等を紹介
二次相続に注意
夫婦間贈与の活用は二次相続にも影響します。配偶者への贈与で自宅を贈与した場合、一次相続時に「小規模宅地等の特例」が適用できなくなります。配偶者ではなく子供への相続をしたい場合など、結果的に相続税の負担が増える場合があります。
小規模宅地等の特例は被相続人が居住していた宅地に適用されるため、配偶者へ自宅を生前贈与すると、一次相続時にこの特例を利用できません。小規模宅地等の特例は、被相続人が住んでいた土地の評価額を最大80%も減額できる節税策なため、利用できなくなると影響は大きいです。
また、「おしどり贈与」を利用して贈与税が非課税でも、不動産取得税や登録免許税などの諸費用は発生します。特に、不動産の名義変更時にかかる登録免許税は、相続(固定資産税評価額の0.4%)に比べて贈与(同2.0%)の方が税率が高く設定されています。そのため、負担が大きくなる点にも注意が必要です。
評価額が低い不動産であれば諸費用の負担は少ないですが、高額不動産の場合はが数百万円に及ぶこともあるので、注意が必要です。
関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例とは?計算方法や適用要件をわかりやすく解説します
夫婦間の贈与のまとめ
夫婦間の贈与は、一見すると個人的な財産のやり取りですが、税法上は贈与税の対象になります。
年間110万円の基礎控除や生活費・教育費の非課税枠に加え、婚姻期間20年以上の夫婦には居住用不動産等に最大2,000万円まで非課税特例があります。
この特例は、節税効果が期待できる一方、利用回数や二次相続への影響などに注意が必要です。高額な金銭移動や不動産の持分割合の不一致などは、贈与税が発生するケースもあるため慎重な対応が求められます。
夫婦間の贈与においては、贈与額だけでなく家族構成や二次相続も踏まえて行う必要があります。どのような贈与が節税効果が高いかは、税理士をはじめとした専門家を交えて判断をするとよいでしょう。
関連記事:【税理士監修】夫婦間でも贈与税は発生する。贈与税が発生しないパターンや疑問について解説
待できます。この記事では、贈与税の基本的な仕組みから非課税枠、特に「おしどり贈与」と呼ばれる特例まで、夫婦間の資産移動を最適化する方法について詳しく解説します。
本制度を知らなかったために余計な税金を払うケースをよく見かけるので、ぜひ参考にしてみてください。
二次相続に注意
夫婦間贈与の活用は二次相続にも影響します。配偶者への贈与で自宅を贈与した場合、一次相続時に「小規模宅地等の特例」が適用できなくなります。配偶者ではなく子供への相続をしたい場合など、結果的に相続税の負担が増える場合があります。
小規模宅地等の特例は被相続人が居住していた宅地に適用されるため、配偶者へ自宅を生前贈与すると、一次相続時にこの特例を利用できません。小規模宅地等の特例は、被相続人が住んでいた土地の評価額を最大80%も減額できる節税策なため、利用できなくなると影響は大きいです。
また、「おしどり贈与」を利用して贈与税が非課税でも、不動産取得税や登録免許税などの諸費用は発生します。特に、不動産の名義変更時にかかる登録免許税は、相続(固定資産税評価額の0.4%)に比べて贈与(同2.0%)の方が税率が高く設定されています。そのため、負担が大きくなる点にも注意が必要です。
評価額が低い不動産であれば諸費用の負担は少ないですが、高額不動産の場合はが数百万円に及ぶこともあるので、注意が必要です。
関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例とは?計算方法や適用要件をわかりやすく解説します
夫婦間の贈与のまとめ
夫婦間の贈与は、一見すると個人的な財産のやり取りですが、税法上は贈与税の対象になります。
年間110万円の基礎控除や生活費・教育費の非課税枠に加え、婚姻期間20年以上の夫婦には居住用不動産等に最大2,000万円まで非課税特例があります。
この特例は、節税効果が期待できる一方、利用回数や二次相続への影響などに注意が必要です。高額な金銭移動や不動産の持分割合の不一致などは、贈与税が発生するケースもあるため慎重な対応が求められます。
夫婦間の贈与においては、贈与額だけでなく家族構成や二次相続も踏まえて行う必要があります。どのような贈与が節税効果が高いかは、税理士をはじめとした専門家を交えて判断をするとよいでしょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。