空き家の相続税対策は10ヵ月以内に!相続時にかかる税金について

空き家を相続した場合の相続税の申告・納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です。売却時には税負担を軽減するいくつかの特例を活用できますが、それぞれの適用には期限もあります。この記事では、空き家相続における税金や売却時の特例について詳しく解説します。
目次
空き家を相続する際に知っておくべきこと
空き家の相続は単に不動産を引き継ぐだけでなく、それに伴うさまざまな責任や費用も引き受けることを意味します。ここでは、空き家を相続する際に最低限知っておくべきこととして、「空き家」の定義や空き家をそのままにしておくことのリスクについて説明します。
「空き家」の定義とは
空き家とは、「空家等対策の推進に関する特別措置法」において、建築物またはこれに附属する工作物であって、居住その他の使用がなされていない状態が常態であるもの、及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む)を指します。ただし、国や地方公共団体が所有または管理するものは含まれません。
この定義からもわかるように空き家とは、単に誰も住んでいない家ではなく、利用されていない状態が続いている建物を指すのです。空き家は全国的に増加傾向にあり、相続をきっかけに発生するケースが多くなっています。
参考:国土交通省|空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報
空き家をそのままにするリスク
相続した空き家を使わないまま放置することは、さまざまなリスクを伴います。ここでは、特に重要な以下3つのリスクについて詳しく説明します。
- 資産価値の低下
- 固定資産税が増額する可能性
- 近隣とのトラブル
リスク1:資産価値の低下
空き家を長期間放置すると、建物は確実に老朽化が進みます。適切な管理が行われない建物は雨漏りやシロアリ被害、歪みなどが生じ、状態が悪化するのです。放置したことで発生するこれらの影響により、その不動産の市場価値は著しく低下します。そして将来的に売却しようとしたとき、希望する価格での売却が難しくなる可能性が高まるのです。
手入れされていない庭木が伸び放題になったり、外壁のひび割れが目立ったりするようになると、見た目の印象が悪くなり、いっそう買い手はつきにくくなるでしょう。
リスク2:固定資産税が増額する可能性
空き家であっても、不動産を所有している限り固定資産税が発生します。さらに、管理不全な状態の空き家は「特定空き家等」に指定される可能性があるため、注意しなくてはいけません。「特定空き家等」に指定されてしまうと、固定資産税の軽減措置が解除され、税金が最大で6倍になることがあるためです。適切に管理されていないと判断されると、行政から指導や勧告が行われ、最終的には住宅用地の特例が解除されてしまいます。このように、空き家を放置することは、税負担を大きく増加させるリスクを伴うため注意しましょう。
リスク3:近隣とのトラブル
管理されていない空き家は、近隣住民とのトラブルの原因となり得ます。例えば、庭木が越境して隣家に迷惑をかけたり、害虫や害獣が発生したり、建物の倒壊の危険性から周囲に不安を与えたりするといった問題が発生する可能性があるのです。また不法侵入や放火といった防犯上の問題も懸念されます。
これらの問題が発生すると損害賠償を請求されたり、自治体からの指導や命令を受けたりすることにつながります。これは精神的・経済的な負担が増加するだけでなく、地域との関係性が悪化する原因にもなります。
空き家にかかる税金
空き家を相続した場合、まず相続税が発生します。また、その他にも固定資産税などさまざまな税金が発生します。しかし一定の要件を満たすことで適用される特例もあり、税負担を軽減できる可能性があるのです。ここでは、空き家にかかる主な税金について詳しく解説します。
相続税の計算方法
相続税は、相続財産の総額から基礎控除額を差し引いた課税遺産総額に対して課税されます。空き家を含む不動産の評価額は、相続税評価額をもとに計算されることが一般的です。以下の計算式と例で流れを理解しましょう。
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。
例えば相続財産が8,000万円で、法定相続人が配偶者と子1人の合計2人である場合を考えます。
1.まず、遺産額から基礎控除額を計算します。
3,000万円+600万円×2人=4,200万円 |
2.次に課税遺産総額から基礎控除分を差し引き、課税遺産総額を算出します。
8,000万円(相続財産総額)-4,200万円(基礎控除額)=3,800万円 |
課税遺産総額は3,800万円となります。
3.課税遺産総額の3,800万円を法定相続分に則って相続の取得金額を分配します。
配偶者:3,800万円×1/2=1,900万円 子:3,800万円×1/2=1,900万円 |
4.各相続人の取得金額に応じた税率を掛け、控除額を引きます。(国税庁の相続税の速算表を参照)
配偶者(法定相続分の1/2):1,900万円×15%-50万円=235万円 子(法定相続分1/2):1,900万円×15%-50万円=235万円 |
それぞれの相続税を合算した470万円が納税する相続税額となります。
このように、相続税は相続財産の総額だけでなく、法定相続人の数やそれぞれの取得金額によって税額が大きく変動するのです。
なお配偶者には「配偶者の税額軽減」という特例があり、1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までは相続税がかかりません。
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内です。期限を過ぎると無申告加算税や延滞税が課される可能性があるため、早めの対応が重要です。
関連記事:【税理士監修】家の相続には相続税がかかる?手続きの方法や注意点を解説
関連記事:【税理士監修】早見表付き:相続税の計算方法や大まかな税額を把握しておこう
空き家にかかる固定資産税
空き家を所有している限り、固定資産税と都市計画税が毎年課税されます。固定資産税は、毎年1月1日時点の不動産所有者に対して課税され、税額は固定資産税評価額に標準税率1.4%を乗じて計算されます。都市計画税も同様に、都市計画区域内にある土地や家屋に課税され、税率は最高0.3%です。
住宅用地には固定資産税の軽減措置があり、200平方メートル以下の小規模住宅用地では固定資産税評価額の6分の1、200平方メートルを超える一般住宅用地では3分の1に軽減されます。
しかし、空き家の管理状態が悪く「特定空家等」や「管理不全空家」に指定され、行政から勧告を受けると、この軽減措置が適用されなくなり、固定資産税が最大6倍になる可能性があります。
空き家売却時の譲渡所得税
空き家を売却して利益が出た場合、その利益(譲渡所得)に対して所得税と住民税がかかります。譲渡所得は「売却価格-取得費-譲渡費用」で計算されます。
譲渡所得税の税金は不動産の所有期間によって、以下のように税率が異なるため、注意が必要です。
種別 |
所有期間 |
所得税 |
住民税 |
---|---|---|---|
短期譲渡所得 |
5年以下 |
30% |
9% |
長期譲渡所得 |
5年超 |
15% |
5% |
相続した不動産の場合は被相続人の所有期間を引き継ぐことができるため、多くの場合は長期譲渡所得の税率が適用されます。また相続した空き家を一定の要件を満たして売却した場合、最高3,000万円の特別控除が受けられる可能性があります。この特例は令和9年12月31日まで延長されており、令和6年1月1日以降の譲渡では、売却後に買主が耐震改修や取り壊しを行う場合も適用対象となりました。
空き家に関する特例措置
空き家を相続した場合や売却した場合には、相続税の負担を軽減するための特例措置がいくつかあります。各制度の内容を理解したうえで適切に対応すれば、相続税や譲渡所得税の負担を抑えられます。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、被相続人が居住していた宅地を相続する際に適用できる制度です。一定の要件を満たせば、その宅地の評価額が最大80%減額されます。評価額が下がると相続税の課税対象額も抑えられるため、税負担を大きく軽減できるのです。
この特例の適用には、例えば相続人が被相続人と同居していたケースや、一定条件を満たす「家なき子」としての要件を満たしていることなどが求められます。また不動産の評価額が高額になる傾向にある都心部では、節税効果が特に大きくなる可能性があります。
参考:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例対象となる同居とは?条件や定義について解説
関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例の「家なき子特例」とは?要件や必要な手続き、注意点を徹底解説
空き家を売却した場合の特別控除
相続または遺贈により取得した空き家(被相続人が居住していた家屋)とその敷地を売却する際には、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」が適用できる場合があります。条件を満たすと、譲渡所得から最大3,000万円まで控除可能です。
この制度では、建物の建築時期や、相続発生から売却までの期間、家屋の使用状況などが適用要件となります。また売却前に耐震基準を満たす改修を行う、または家屋を解体して土地のみを売却する必要があるなど、実務的な留意点もあるため、注意しましょう。
参考:国税庁|No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
空き家売却で適用できる特例の注意点
相続した空き家を売却する際に適用できる特例は、税負担を軽減できる有効な手段です。しかし適用を受けるためには、いくつかの注意点があります。ここでは、特に重要な点について解説します。
特別控除の要件
相続した空き家を売却する場合、「空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)」を利用できる可能性があります。この制度では、譲渡所得から最大3,000万円の控除を受けることが可能です。
ただし、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 相続または遺贈により取得した家屋およびその敷地であること。
- 被相続人が相続開始の直前まで、その家屋に居住していたこと(要介護認定を受けて老人ホーム等に入所していた場合も含む)。
- 相続開始時点で、その家屋に被相続人以外の居住者がいなかったこと。
- 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家屋であること。
- 区分所有建物(マンションなど)ではないこと。
- 相続時から譲渡時まで、事業用、貸付け用、または居住用に使われていないこと。
- 譲渡価額が1億円以下であること。
- 売却相手が、親子や夫婦など特別の関係にある人ではないこと。
- 売却時において、一定の耐震基準を満たす建物である、または建物を取り壊して更地として譲渡すること(令和6年1月1日以降の譲渡については、譲渡後に耐震改修または取壊しを行う場合も対象)。
これらの要件はすべて満たす必要があるため、1つでも満たしていない場合は特例の適用を受けられません。
参考:国税庁|No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
特例適用のための期限
この空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)を適用するには、相続が開始された日の属する年の3年後の年末(12月31日)までに譲渡する必要があります。期限を過ぎると特例は適用されないため、売却を検討している場合は早めの準備が求められます。
他の特例との適用関係
空き家に関連する特例は複数ありますが、なかには併用できないものもあります。例えば、相続した空き家を売却した場合の特別控除と、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例は併用できません。どちらの特例を適用するかは、税額を比較して有利な方を選択する必要があります。
また、小規模宅地等の特例と空き家売却の特別控除は、一定の要件を満たせば併用が可能となる場合がありますが、その適用条件は複雑なため注意が必要です。複数の特例に該当する可能性がある場合は、どの特例を適用するのが最も有利になるかを慎重に判断する必要があるため、専門家である税理士に相談することをおすすめします。
参考:国税庁|No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
関連記事:【税理士監修】相続税は節税できる?利用したい控除と効果的な対策方法
まとめ
空き家を相続すると、相続税のほかにも固定資産税や、将来的に売却する場合には譲渡所得税が発生する可能性があります。これらの税負担を軽減するには、早い段階での対応が欠かせません。
特に空き家を売却した場合の特別控除は、要件や手続きが複雑であり、他の特例との関係性も考慮する必要があります。ご自身の状況に合わせて最適な税金対策を行うためには、相続や不動産に関する税務に詳しい税理士に相談することをおすすめします。専門家のアドバイスにより予期せぬ税負担を避けたうえでの、円満な相続を実現しましょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。