株式を相続したときの名義変更の方法は?相続税はいくらかかるの?

株式を相続した際に名義変更の方法や手続き、相続税の支払いなどのやり方がわからず、不安になる方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、株式相続の基本的な流れから、上場・非上場株式それぞれの名義変更手続き、必要書類、そして相続税の計算方法や注意点まで詳しく解説します。
目次
株式相続の概要
株式を相続する経験は、多くの方にとって馴染みがないかもしれません。ここでは株式の相続がどのように始まるのか、また相続人が複数いる場合にはどのように株式を分けるのかを解説します。
これらの基本的な仕組みを押さえておけば、その後の名義変更や税金に関する手続きをスムーズに進められるでしょう。
株式の相続発生時の状態
被相続人が亡くなると、その方の所有していた財産はすべて相続の対象となり、相続が開始された時点で遺産は相続人全員の共有財産として扱われます。
相続財産には、預貯金や不動産だけでなく株式も含まれます。特に上場株式の場合、通常は証券会社の口座で管理されています。しかし非上場株式の場合は株券で保有されていることもあります。
いずれの場合も、相続発生後に株式をどのように引き継ぐかを、相続人間で取り決める必要があるのです。
株式を分ける遺産分割協議
相続人が複数いる場合、どの財産を誰が相続するかを決めるために遺産分割協議を行います。株式についても同様に、どの銘柄の株式を誰がどれだけ受け取るかを話し合わなくてはいけません。
遺言書がある場合は、その内容に従って株式の承継先が決まるのが原則です。しかし遺言書がない場合や記載内容が不明確な場合は、相続人全員の合意に基づいて遺産を分割します。
協議がまとまったら、その内容を明記した遺産分割協議書を作成する流れです。この遺産分割協議書は、株式の名義変更を行う際に必ず提出が求められます。
特に証券会社や株式を発行している会社によっては、書式や必要な添付書類が異なる場合があるため、事前の確認が重要です。
参考:知っておきたい相続の基本。大切な財産をスムーズに引き継ぐには?【基礎編】 | 政府広報オンライン
関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書は必要か?必要な例・不要な例や、作成時のポイントなどを解説
相続した株式の名義変更手続き
相続した株式が被相続人名義のままでは、売却や管理ができません。そのため、相続人自身の名義に変更する手続きが必要です。上場株式と非上場株式では手続きの方法が異なります。
ここでは、それぞれの名義変更手続きの詳細と必要書類、手続きの期限や手数料について解説します。
上場株式の名義変更手続き
上場株式を相続した場合は、被相続人が利用していた証券会社を通じて名義変更を行います。
まず、証券会社に連絡して相続による株式の移管について申し出ましょう。相続人がすでに同じ証券会社に口座を持っていれば、その口座へ株式を移管する形で手続きを進めます。もし口座がない場合は、新しく口座を開設する必要があります。必要書類を提出し、審査が完了すると、被相続人名義の株式が相続人の口座へ移管されます。
この手続きには、株式名義書換請求書や証券会社所定の同意書などの書類が必要です。詳細は各証券会社によって異なるため、事前に確認しましょう。
非上場株式の名義変更手続き
非上場株式の名義変更手続きの窓口は、上場株式の場合とは異なり、証券会社ではなく、その非上場株式を発行した会社です。
まずは株式の発行元である会社に連絡し、相続による名義変更を希望する旨を伝え、具体的な手続き方法や必要書類を確認しましょう。非上場企業では、会社独自の書式や社内手続きが設けられているケースがあります。例えば取締役会の承認や定款に基づく制限がある場合があるため、早めの対応が重要です。
手続きが完了してはじめて株主名簿の名義変更が完了します。これにより、正式に相続人が株主として認められることになります。
名義変更に必要な書類
株式の名義変更に必要な書類は、遺言書の有無や遺産分割協議の状況によって異なりますが、一般的には以下の書類が必要です。
- 株式名義書換請求書
- 証券会社所定の誓約書や同意書(上場株式の場合)
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑登録証明書(発行から6ヵ月以内のものが多い)
- 遺産分割協議書(遺言書がない場合)
- 遺言書(ある場合。公正証書遺言または検認済の自筆証書遺言など)
- その他、証券会社や発行会社所定の書類
名義変更の期限
株式の名義変更自体に法的な期限はありません。しかし、相続税の申告と納税には相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内という期限があります。この期限までに相続財産の評価を行う必要があります。株式の名義変更が遅れると、申告書の作成に支障が出る恐れがあるでしょう。また期限を過ぎた場合には、延滞税や加算税が発生するリスクもあります。
とくに非上場株式は評価に時間がかかることが多いため、早めに名義変更に着手することが重要です。
名義変更にかかる手数料
株式の名義変更にかかる手数料は、依頼先によって異なります。
上場株式の場合、証券会社が相続による株式移管を無料としているケースもありますが、一部では数千円〜数万円程度の手数料が発生するようです。
非上場株式については、発行会社によって名義書換料が設定されている場合があります。社内規定や株主名簿管理人の有無などによっても変わるため、個別に確認が必要です。
株式相続にかかる税金
株式を相続した場合、相続財産の総額によっては相続税が課されます。ここでは相続した株式の評価方法と相続税の計算方法、相続税の申告と納税について解説します。
株式の評価方法
相続税を計算するためには、相続した株式の評価額を算出する必要があります。上場株式と非上場株式では評価方法が異なるため、それぞれのやり方を理解しなくてはいけません。
上場株式の場合、原則として相続発生日(被相続人が亡くなった日)の終値で評価しますが、株価の変動による不公平を避けるため、以下の4つの価額のうち最も低い価額を選択できます。
- 相続発生日の終値
- 相続発生月の毎日の終値の月平均額
- 相続発生前月の毎日の終値の月平均額
- 相続発生前々月の毎日の終値の月平均額
非上場株式の場合は、会社の規模や相続人が同族株主かなどによって、以下のような方法を用いて評価します。
- 類似業種比準方式
- 純資産価額方式
- 配当還元方式
非上場株式の評価は複雑なため、税理士への相談をおすすめします。
相続税の計算方法
相続税は、相続財産の総額から基礎控除額を差し引いた課税遺産総額に対して課税されます。株式も相続財産に含まれるため、その評価額を算入して計算を行います。相続税の計算は以下の流れで行います。
- 遺産総額の計算(株式の評価額を含む相続財産の合計額から債務や葬式費用を差し引く)
- 基礎控除額の計算(3,000万円+600万円×法定相続人の数)
- 課税遺産総額の計算(遺産総額-基礎控除額)
- 各相続人の課税遺産額の計算(課税遺産総額を法定相続分で按分)
- 各相続人の相続税額の計算(各相続人の課税遺産額に税率を乗じて控除額を差し引く)
- 相続税の総額の計算(各相続人の相続税額を合計)
- 各相続人の実際の納税額の計算(相続税の総額を実際の相続割合で按分し、各種税額控除を適用)
例えば、被相続人が評価額5,000万円の株式を所有しており、これを配偶者と子供2人で分配する場合で計算してみましょう。計算式は以下のとおりです。
基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円 課税遺産総額:5,000万円-4,800万円=200万円 |
この課税遺産総額を法定相続分で按分すると、配偶者が100万円、子供がそれぞれ50万円になります。
相続税の税率を適用して計算すると相続税の総額が算出されます。しかし、実際の納税額は配偶者の税額軽減などを適用して計算されます。
株式に限らず、相続財産にはこのほかにもさまざまな控除があります。取得する株式や財産にどういった控除が適用できるかは、税の専門家である税理士への相談をおすすめします。
参考:相続税はいくらから?基礎控除とは?相続税の基本を確認! | 政府広報オンライン
相続税の申告と納税
相続税の申告と納税は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に行う必要があります。この期限を過ぎると、延滞税や加算税といったペナルティが課される可能性があるため、早めに行うことが肝心です。
申告書は、被相続人の住所地を管轄する税務署に提出します。相続税は原則として現金一括で納付する必要がありますが、要件を満たせば延納や物納が認められる場合があります。
株式の評価や遺産分割協議には想定以上に時間がかかることがあります。そのため、相続税の申告と納税期限を見据えて計画的に進めることが大切です。特に相続財産に株式が含まれる場合、その評価方法や相続税の計算は複雑になるため、できれば税理士への相談を検討しましょう。
株式相続の注意点
株の相続には名義変更以外にもいくつかの重要な注意点があります。これらの注意点を理解することが、のちのトラブル防止やスムーズな遺産承継につながります。
ここでは、名義変更をしない場合のリスクや相続した株式の売却に関する税金、そして生前に行える贈与による相続税対策について詳しく解説します。
名義変更をしないと配当金が受け取れない可能性がある
相続した株式の名義変更を行わずに放置しておくと、さまざまなリスクが発生します。ひとつは株主としての権利(議決権や配当金の受け取りなど)を行使できなくなる可能性がある点です。名義が被相続人のままだと、会社からの通知や配当金が相続人に届かないためです。
また長期間名義変更をしないでおくと、会社法に基づいて会社がその株式を競売にかけたり、買い取ったりすることが認められる場合があります。つまりせっかく相続した株式の権利を失ってしまう可能性があるのです。さらに他の相続人との間で、のちに株式の権利を巡るトラブルに発展するリスクも考えられます。
相続した株式の売却で税負担の軽減
相続した株式を売却して現金化したいなら、まず名義変更手続きを完了させる必要があります。名義変更が完了すれば、相続人は自身の判断で自由に株式を売却できるためです。
覚えておかなくてはいけないのが、株式を売却して利益が出た場合、その売却益に対して所得税と住民税(譲渡所得税等)が課税される点です。税率は一律20.315%で、譲渡所得は「売却金額-取得費-譲渡費用」で計算されます。相続した株式の場合の取得費は、被相続人がその株式を取得したときの価格が引き継がれます。
ただし、相続開始から3年10ヵ月以内に売却する、または一定の要件を満たす場合には、納付した相続税の一部を取得費に加算できる特例(取得費加算の特例)を利用できます。この特例を利用すれば、税の負担を軽減できる可能性もあるでしょう。
参考:国税庁No.3152 譲渡所得の計算のしかた(総合課税)/No.3267相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
関連記事:【税理士監修】相続税は節税できる?利用したい控除と効果的な対策方法
生前贈与による対策
被相続人が所有する株式を相続開始前に相続人へ贈与することも、有効な相続税対策のひとつです。生前贈与により将来の相続財産を減らし、相続税の負担を軽減できる可能性があります。
株式の生前贈与の際は、暦年課税贈与や相続時精算課税制度などを利用できます。暦年課税贈与は年間110万円までの非課税枠を利用できる一方で、これを超える部分には贈与税が課税される仕組みです。相続時精算課税制度を選択すると一定の金額まで贈与税がかからず、相続時にまとめて相続税として清算されます。
どの方法が適しているかは、贈与する株式の評価額や相続人の状況によって異なります。また非上場株式の場合、事業承継税制の特例措置の利用により、相続税や贈与税の納税が猶予または免除される制度もあります。
生前贈与は効果的な相続対策となり得ますが、方法によっては贈与税や将来の相続税に影響するため、専門家である税理士に相談し、慎重に検討することが重要です。
参考:国税庁No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)/相続時精算課税の選択/事業承継税制特集
関連記事:暦年贈与が2023年に改正!変更点は?廃止されるって本当?
関連記事:暦年課税と相続時精算課税の併用は不可!主な違いや選び方、おすすめできるケースの例を紹介
関連記事:相続時精算課税の申告方法は?初年度と2年目以降それぞれ詳しく解説
株式の名義変更のまとめ
株式を相続すると、その時点で株式は相続人全員の共有状態となります。遺言書がない場合は遺産分割協議を行い、誰がどの株式を相続するかを明確にします。遺産分割協議がまとまったら、上場株式は証券会社を通じて、非上場株式は発行会社に名義変更の手続きを依頼する流れです。
名義変更自体に法的な期限はありませんが、相続税の申告・納税には10ヵ月以内という期限があるため、速やかに手続きを進めましょう。名義変更をしないまま放置すると、議決権や配当金の受け取りができなくなるといったリスクがあるため、注意が必要です。
相続した株式を売却して利益が出た場合には税金がかかりますが、要件を満たせば取得費加算の特例を利用できる場合もあります。
税の制度や特例は年々改正されており、適用には細かな要件が設定されています。株式の評価や名義変更、相続税の申告・節税対策まで含めて一貫して進めていくには、相続に強い税理士に相談することをおすすめします。
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相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
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