換価分割で相続税はどう計算する?メリット&デメリットも解説

上の世代が亡くなった際、同じように相続権をもつ人が複数いることも少なくありません。その場合、遺産を平等に分ける方法として選択されるもののひとつが「換価分割」です。ここでは将来を見据え相続を学びたい方のために、換価分割での相続税の計算方法や、メリット・デメリットについて解説します。
目次
換価分割とは?
換価分割とは、「財産を換金してから分割する」方法です。相続の際、例えば土地や建物、会社、株式など、現金ではない形で遺産が存在するケースも少なくありません。その状態で相続権のある人が複数いる場合、誰が何を受け継ぐかで揉め事が起こりがちです。
換価分割は、その状況を解決するための選択肢のひとつだと言えます。不動産や株式などを売却して現金化すれば、財産の価値が全て同等になるため、相続人同士が納得のいく結果になりやすいでしょう。
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換価分割でかかる税金は相続税だけではない?
換価分割は遺産を平等に分割しやすい方法ですが、条件によって以下のような税金がかかります。相続額や要件をしっかり確認した上で、適切な税務処理を行いましょう。
相続税 |
課税遺産総額が相続税の基礎控除額を超える場合 ※課税遺産総額=資産から負債を引いた金額。生命保険も含む |
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譲渡所得税 |
不動産を売却し、不動産の売却価額から、取得費等を差し引いて売却益が発生した場合 ※居住用不動産等で、特別控除が適用されるケースを除く |
また、不動産等を売却した際、特定の1人の名義を使用して相続登記を行うこともあると思います。そのケースでは「贈与税」が気になるところですが、換価のみを目的として名義人になったのであれば特に問題はありません。ただ、分配される金額が調停と異なる(その人に多く分配されるなど)といった事情がある場合は、一度専門家にご相談ください
関連記事:遺産の換価分割による譲渡所得税はいくらになる?計算方法を解説
相続に関するご相談は『やさしい相続センター』にお気軽にお問い合わせください。
協議書の作成を推奨!換価分割の流れをチェック
換価分割を行う場合、税制面でのトラブルを防ぐためにもしっかりとした協議書の作成が推奨されます。では、具体的な流れについて確認してみましょう。
- 相続財産の調査・評価:権利情報を確認し、不動産会社等を頼り財産を評価する
- 遺産分割協議:協議書を作成し、全員の同意を証明する
- 相続登記:共同登記/単独登記のいずれかを選択し、登記移転の準備を行う
- 売却および売却代金の分割:売却手続きを進め、完了後に遺産を分割
気を付けておきたいのが、売却の前にいったん登記を相続人に移転しなければならない点です。この時、同じ権利を持つ人同士で共同登記する方法と、誰か1人を代表として単独登記する方法があります。相続人それぞれの距離感や居住地なども踏まえ、話し合って決めましょう。
また、遺産分割協議書は不備がないよう、できる限り詳しく作成したいものです。書き方に関しては以下のページでご紹介していますので、ぜひご参考ください。
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関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説
換価分割のメリットは?
遺産分割には、換価分割以外にも「代償分割」や「現物分割」といった方法が存在します。代償分割は特定の財産を受け継ぐ相続人が、他の相続権を有する人に代わりの現金等を支払うのが特徴です。そして現物分割は、土地や建物、株式などをそのまま受け継ぐことができます。
この中で換価分割を選択する場合、どのようなメリットが存在するのでしょうか?確認していきましょう。
不動産の評価額で争いが発生しない
例えば代償分割では、不動産を売却せず「評価額」によって代償金を決定します。しかし、どの評価方法を選ぶかによって金額が変わる傾向があるのがネックです。土地や建物を受け取る側は、評価額が低い方が代償金の負担が減ります。逆に替わりに現金を得る方は、当然ながら評価額が高くなる方法を選択したいといったすれ違いが生まれてしまうでしょう。
それに対し、換価分割は不動産や株式を明確に売却します。そして現金として分けるだけなので、相続人同士で評価額を巡る争いが発生しにくいのです。
関連記事:【税理士監修】不動産評価額とは?調べ方や使用用途について解説
代償金の用意が不要
換価分割と同様、不動産を別の価値があるものに替えて分ける方法に「代償分割」があります。ですが、代償分割は土地や建物を受け継ぐ人が、他の相続人に引替となる代償金を支払わなければなりません。
しかも、不動産を売らない状態でそのお金を用意する必要があります。それに対し、換価分割は誰かが代償金を負担することなく、平等に財産を分けることが可能です。
より公平な形で財産を分けられる
現金という同等の財産を分けられるため、相続人全員に公平な意識が生まれやすいのも換価分割のメリットです。仮に「現物分割」を選択した場合、土地や建物、株式などをそのままの形で受け継ぐことになります。
それぞれの希望に沿っていれば良いのですが、財産としての価値が同じではないため、不満に繋がるケースも少なくありません。換価分割はそういったリスクを回避する意味でも、利点が大きいと言えるでしょう。
納税資金に充てることも可能
相続した財産には、基本的に「相続税」をはじめとする税金が課せられます。しかし、不動産や会社などの価値が予想以上に高く、税金の支払いに困窮する方もいるようです。
その点、換価分割であれば相続財産を現金化するため、そこから税金を支払うことができ、無理なく相続を完了することが可能です。
換価分割には注意点もある!
一方で、換価分割もメリットばかりではありません。安易に選択をして後悔しないよう、デメリットや注意点についても確認しておきましょう。
売却額が予想より低いこともある
土地や建物は「不動産評価額」によって、ある程度いくらで売れるかが分かります。ですが、相続税の支払い等に焦って売るタイミングを間違えてしまうと、思った金額を得られないこともあるでしょう。
例えば、「早く売りたい」という気持ちが買い手に伝わり、買い叩かれるようなケースが代表的です。不動産会社とも相談しながら、売り時期を逃さないよう気を付けましょう。
売却に手間と費用がかかる
換価分割は他の遺産分割方法に比べ、手間や費用がかかりやすい傾向があります。なぜなら財産を分ける前に売却、という手順を踏まなければならないからです。
売却は一般的に不動産会社を探すところから始まり、複雑な手続きが含まれるほか、仲介手数料もかかります。信頼できる業者になかなか出逢えないリスクも考えられますので、相続人同士でよく話し合うことが大切です。
譲渡所得税が発生するリスクもある
不動産を売却した際、相続税以外に「譲渡所得税」が発生することもあります。これは基本的に、不動産の売却価額から取得費や譲渡費用等を差し引いた譲渡所得に課税される、と覚えておきましょう。
特に先祖代々受け継いできた土地や家などは、購入金額が不明瞭で価値が分かりにくいと言われています。できれば被相続人の生前から税理士をはじめとする専門家に相談し、準備を行っておくことが重要です。
参考:未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等|国税庁
相続に関するご相談は『やさしい相続センター』にお気軽にお問い合わせください。
不動産や株式、会社などを活用できなくなる
換価分割では、不動産や株式、会社などの権利を含めて他者に売却します。そのため、相続人がその財産をそれ以降は利用することができません。
思い入れのある家や承継したい会社、関心のある株式などが遺っていないか、事前に確認しておくのが良いでしょう。
換価分割がおすすめなケースは?
換価分割にはメリットとデメリットの両方が存在するため、選択する際には慎重に考えなければなりません。では、どのようなケースに該当する方におすすめなのでしょうか?
現物のままでは分割しにくい資産がある
不動産や会社、株式などが遺されている場合、相続人全員が遠方に住んでいて活用しにくいといった状況もあると思います。
また、他の相続人と疎遠になっていたりして、どの遺産を受け継ぐかの話し合いが難しい方もいるでしょう。そういった状況でも、換価分割ならお互い公平な条件で相続が可能です。
誰も土地や建物、株式などの相続を望んでいない
相続人の中で「住み続けたい家がある」「家を建てたい土地がある」などの希望がない場合は換価分割がおすすめです。
また、使用されていない不動産でも、残し続けると固定資産税が発生します。相続人の負担を軽減する意味でも早めに話し合いましょう。
関連記事:不動産の換価分割とは?代償分割や現物分割との違いは?選択基準と手続きについて
納税資金を確保したい
相続の際にかかる税金の支払いが難しい方にとっても、現金を確保できる換価分割は非常に助かるはずです。
また、「現物分割は揉めそうだが、代償金を支払える人もいない」という場合も、換価分割を選択されるケースが多いでしょう。
まとめ|活用予定のない現金以外の資産がある方は、換価分割も検討を
換価分割は、相続人が複数いる場合、平等に資産を分ける方法として非常に有益です。特に現金化したい不動産や貴金属、株式などをお持ちの際にはおすすめだと言えます。現物分割や代償分割とはまたメリットが異なるため、土地や建物を相続予定の方は覚えておくと良いでしょう。
ただし、協議書の作成やどの税金がかかるかなど、知識のない方には判断が難しい遺産分割の方法でもあります。全員が納得できる道に繋がるよう、税理士や不動産会社など、頼れる専門家にぜひ事前に相談してみてください。
相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。
相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。