暦年課税と相続時精算課税の併用は不可!主な違いや選び方、おすすめできるケースの例を紹介

相続・贈与について相談をする二世帯

贈与税には暦年課税相続時精算課税という2種類の課税方式が存在します。このうち相続時精算課税は一定の条件を満たすケースでのみ選べるもので、利用するには事前の手続きが必要です。同じ人からの贈与に2つの課税方式を併用することは認められないため、どちらを利用するか比較検討した上で選ぶ必要があります。

今回は暦年課税と相続時精算課税の違いや特徴、各制度をおすすめできるケースの具体例を紹介します。

暦年課税と相続時精算課税の違い

暦年課税と相続時精算課税はどちらも贈与税に関する課税方式ですが、以下のように全く異なる性質をもっています。

名称 暦年課税 相続時精算課税
利用の条件 特になし 一定の条件を満たす贈与のみ可能
事前の手続き 不要 必要
発生する税金

贈与税

※相続開始前7年以内に行われたものは相続税

相続税

※控除額を超える部分は20%の贈与税

それぞれの概要や特徴について詳しく解説します。

暦年課税とは

暦年課税とは1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与財産から基礎控除を差し引いた額に課税する方式です。具体的な計算方法は以下の通りです。

贈与税の税額=(贈与財産の価額-基礎控除110万円)× 税率-控除額

税率や控除などの詳細については以下の記事をご覧ください。

関連記事:相続税と贈与税の違いとは?控除や節税のポイントも解説

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相続時精算課税とは

相続時精算課税は60歳以上の親または祖父母などから18歳以上の子供または孫などへの贈与で選べる制度です。当該選択にかかる贈与者を特定贈与者と呼びます。

相続時精算課税では、年間110万円の基礎控除を差し引いた合計が2,500万円になるまで贈与税がかかりません。特定贈与者が亡くなったときに、それまでに受けた贈与財産の額を相続財産に含め、相続税の計算を行います。税負担そのものがゼロになるわけではなく、課税の繰り延べや先送りに近い性質を有するといえるでしょう。なお、2,500万円を超える部分には20%の贈与税が課せられる仕組みです。

1年目に1,400万円、2年目に900万円、3年目に500万円の贈与が行われたケースを例に計算方法を紹介します。

1年目:1,400万円-110万円=1,290万円

2年目:900万円-110万円=790万円 合計2,080万円

3年目:500万円-110万円=390万円 合計2,470万円

なお、相続時精算課税を利用するには申告受付期間中(翌年2月1日〜3月15日 土日祝に当たる場合は翌平日)に手続きが必要です。手続きの詳細や必要書類については以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:【税理士監修】相続時精算課税制度の必要書類とは?手続きの方法や注意点も解説

関連記事:相続時精算課税の申告方法は?初年度と2年目以降それぞれ詳しく解説

暦年課税と相続時精算課税の併用は不可

NG・バツをする男性

結論として、同じ人からの贈与について暦年課税と相続時精算課税の併用はできません。そのため、事前にどちらを利用するかを選ぶ必要があります。

暦年課税への変更もできない

相続時精算課税を選択した後に暦年課税への変更も不可能です。ある年に相続時精算課税を適用し、その翌年は暦年贈与を適用するといった方法は不可能です。どちらの方法を選ぶか十分に検討する必要があります。

贈与者が違えば併用可能

制度の併用ができないのは贈与者が同じ人の場合です。贈与者が違うのであれば、暦年課税と相続時精算課税の両方による贈与を受けても問題ありません。父からの贈与は暦年課税、母からの贈与は相続時精算課税といった方法も可能です。

暦年課税と相続時精算課税のどちらを選ぶべき?

同じ人からの贈与について課税方式の併用が認められないため、どちらかを選ぶ必要があります。自分に合う方法を選ぶには、両者の違いを正確に把握した上での比較検討が必要です。

以下でそれぞれの特徴や、各制度をおすすめできるケースの例について解説します。

関連記事:【税理士監修】生前贈与はいくらまで非課税?効果的な節税の方法や注意点を解説

暦年課税のメリット

暦年課税の主なメリットとして以下の2つが挙げられます。

  • 条件の定めがなく誰でも利用できる
  • 事前の手続きが不要

前述のように、暦年課税には条件の定めがありません。贈与者・受贈者の関係や年齢などの要素に関係なく、自由な資産移転を進められます

また、利用にあたって事前の手続きは不要です。資産移転を行う際の手間が少なく済む点も魅力といえるでしょう。

暦年課税のデメリット

最大のデメリットといえるのは、相続開始前7年以内に行われた贈与による財産は相続財産に加算する必要がある点です。基礎控除以下で贈与税が課せられなかった年の分も、相続財産に含める必要があります。

暦年課税をおすすめできる例

暦年課税をおすすめできるケースの具体例を2つ紹介します。

  • 贈与者が若く健康的などの理由により、長期間にわたる資産移転ができる見込み
  • 贈与先(受贈者となる人)が多く基礎控除の仕組みを上手く活用できる

例えば毎年100万円の贈与を30年間続けると、トータルで3,000万円の資産移転が可能です。このように基礎控除の仕組みを活用しつつ長年贈与を続けることで、税負担を抑えた資産移転ができます。具体的には贈与者が若く健康的なために長期間にわたる資産移転ができる見込みであれば、暦年課税がおすすめです。

また、基礎控除は受贈者ごとに適用されます。例えば父から4人の子供に贈与をするケースでは、110万円 × 4人=440万円まで非課税で贈与が可能です。このように贈与先が多い人にもおすすめできます。

関連記事:【税理士監修】贈与税がかからない方法とは?節税には注意が必要

相続時精算課税のメリット

相続時精算課税の主なメリットとして以下の2つが挙げられます。

  • 合計2,500万円までは贈与税がかからない
  • 贈与時点の価額によっては通常の相続に比べて税額を抑えられることがある

合計2,500万円まで贈与税がかからないが最大のメリットといえるでしょう。贈与者が亡くなった際に相続税の課税対象になるものの、相続税の税率は贈与税の税率よりも低いため、税負担を抑えられる可能性が高いです。

また、相続財産に加算するのは贈与時点の価額です。贈与時の方が相続時よりも評価額が低ければ、税額を抑えられる可能性があります。

相続時精算課税のデメリット

主なデメリットは以下の3つです。

  • 一度選んだ後は暦年課税に戻せない
  • 小規模宅地等の特例を利用できなくなる
  • 相続時に評価額が下がっていれば税額が高くなり損となる

前述のように、一度選んだ後は暦年課税に戻せません。後に暦年課税の方が有利だと発覚しても遅いため、どちらを選ぶかは慎重な判断が必要です。

小規模宅地等の特例とは、相続や遺贈によって取得した宅地等が一定の要件を満たす場合に評価額を最大80%減額できる特例です。課税対象となる遺産総額を大幅に減らせるため、節税対策として非常に効果的といえます。

しかし、相続時精算課税制度を適用した資産移転によって取得した宅地等は小規模宅地等の特例を利用できません。相続税が課せられるとはいえ、資産移転に用いた手段はあくまでも贈与です。すなわち「相続や遺贈によって取得」という要件を満たさないため、特例の対象外とみなされます。

関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例が適用される条件とは?宅地等の相続税を減額するための要件や添付書類を解説

また、前節でメリットとして「贈与時の方が相続時よりも評価額が低ければ、税額を抑えられる可能性がある」を挙げました。しかし反対に、贈与時の方が相続時よりも評価額が高い場合、相続よりも税額が高くなってしまいます。

相続時精算課税をおすすめできる例

相続時精算課税をおすすめできる例を2つ紹介します。

  • 生前に短期間で高額の資産移転をしたい
  • 不動産や自社株式など、将来値上がりする可能性のある財産を移転したい

相続時精算課税を選択すれば合計2,500万円まで贈与税がかかりません。また、2,500万円超の部分に適用される税率は20%です。

一方、暦年課税の税率は10〜55%で、課税価格が一定額を超える部分により高い税率を適用する「超過累進課税」を採用しています。すなわち、課税価格が高額になるほど税負担が重くなる仕組みです。

以上を考慮すると、生前に短期間で高額の資産移転をしたい人には相続時精算課税がおすすめできます。

不動産や自社株式など、将来値上がりする可能性のある財産を移転したい場合にもおすすめです。前述のように相続財産に加算するのは贈与時点の価額のため、通常の相続に比べて税額を抑えられる可能性があります。反対に、価値が下がる可能性がある財産や、値動きの予想ができない財産の移転に用いるのはリスクが高いでしょう。

暦年課税と相続時精算課税は併用できない!自分に合う方法を選ぼう

同じ人からの贈与について暦年課税と相続時精算課税の併用が認められないため、どちらを利用するか選ぶ必要があります。

どちらが節税になるかは条件によって異なるため一概にはいえません。本記事で各制度をおすすめできるケースを紹介しましたが、それらはあくまで一例です。実際には、個々の状況を踏まえた慎重な判断が求められます。

両者の違いを押さえつつ、様々な要素を考慮した上で自分に合う方法を正確に選ぶのは容易ではありません。細かなシミュレーションを行うには複雑な計算も必要です。

確実な節税対策を実施できるよう、専門家である税理士のサポートを受けることをおすすめします。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。