相続税と贈与税の税率は?控除額は?どちらが得?に答えます

相続税・贈与税で悩む老夫婦

相続や贈与は、多くの人にとって身近なテーマでありながら、税金に関する不安や疑問がつきものです。この記事では、相続税と贈与税の基本的な仕組みから、それぞれの税率、控除額、計算方法をわかりやすく解説します。

また、生前贈与が相続税対策として有効なケースや「相続時精算課税制度」の活用方法にも触れながら、最終的にどちらがより得かを比較検討します。税金に関する正しい知識を身につけ、将来の備えに役立てましょう。

相続税の基本

相続税は、被相続人(亡くなった方)から財産を相続または遺贈によって取得した際に課される税金です。相続税の計算は、遺産の総額から基礎控除額を差し引いた課税遺産総額に対して行われます。ここでは、相続税の課税対象や計算方法、基礎控除、税率、さらには様々な控除や特例について解説します。

相続税の課税対象と納税義務者

相続税の課税対象となる財産は、現金や預貯金、株式、土地、建物などの本来の相続財産のほか、被相続人の死亡によって支払われる生命保険金や退職金などのみなし相続財産、そして相続開始前一定期間内に行われた暦年課税に係る贈与財産などがあります。

暦年課税に係る贈与財産とは、亡くなる前の数年間にもらった財産も相続税の計算に含めるということです。また、一定期間内とは、令和8年12月末までに亡くなった方は3年以内、それ以降は段階的に延長され、令和12年以降は7年以内となります。

納税義務者は、これらの財産を相続や遺贈により取得した個人です。遺贈とは、遺言によって財産を無償で譲り渡すことを指し、相続人以外が財産を取得した場合も相続税の対象となります。

相続税の計算方法

相続税の計算は、遺産の総額から負債や葬式費用などを差し引いた「正味の遺産額」を求め、そこからさらに基礎控除額を差し引いた「課税遺産総額」に対して行われます。この課税遺産総額を基に、法定相続分に応じた税額を計算し、合計したものが相続税の総額となります。そこから各種税額控除を差し引いたものが、各相続人の実際の納税額となります。

実際の相続税の計算は以下の流れで行われます。

<計算式>

まず、正味の遺産額の計算:遺産総額から負債や葬式費用を差し引きます。

正味の遺産額=遺産総額-(負債+葬式費用)

次に課税遺産総額の計算をします。先ほどの正味の遺産額から基礎控除額を差し引きます。

課税遺産総額 = 正味の遺産額 – 基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)

課税遺産総額を法定相続分で按分し、税率を適用して各法定相続人ごとの税額を計算、合計した額が相続税になります。

各法定相続分に応ずる取得金額=課税遺産総額×法定相続分

各法定相続人ごとの税額=各法定相続分に応ずる取得金額×税率-控除額

相続税の総額=各法定相続人ごとの税額の合計

各人の納税額は、相続税の総額を実際の取得財産額の割合で按分し、各種税額控除を適用します。

各人の納税額 = 相続税の総額 × (各人の実際の取得財産額 ÷ 相続人全員の実際の取得財産額の合計額)

<計算例>

仮に課税遺産総額が1億円で法定相続人が子2人の場合、計算例は以下のようになります。

1億円を2人で分割すると、1人あたりの取得金額は5,000万円となります。次に控除額を求めます。

5,000万円 × 税率20% – 控除額200万円 = 800万円

このケースでの1人あたりの相続税は800万円(合計1,600万円)となります。

関連記事:【税理士監修】相続税の早見表で大まかな税額を把握。相続税の計算方法や注意点も解説

相続税の基礎控除

相続税には基礎控除額が定められており、遺産総額がこの基礎控除額以下であれば相続税はかかりません。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。法定相続人の数が多いほど基礎控除額は増加します。

法定相続人の数に応じた基礎控除額は以下の通りです。

法定相続人の数

計算式

控除額

1人

3,000万円+600万円✕1人

3,600万円

2人

3,000万円+600万円✕2人

4,200万円

3人

3,000万円+600万円✕3人

4,800万円

4人

3,000万円+600万円✕4人

5,400万円

5人

3,000万円+600万円✕5人

6,000万円

相続税の税率

相続税の税率は、課税遺産総額を法定相続分で按分した金額(法定相続分に応ずる取得金額)に応じて定められています。税率は累進課税となっており、財産額が多いほど税率も高くなります。

法定相続分に応じた取得金額別の税率と控除額は以下の通りです。

法定相続分に応ずる取得金額

税率

控除額

1,000万円以下

10%

1,000万円超3,000万円以下

15%

50万円

3,000万円超から5,000万円以下

20%

200万円

5,000万円超1億円以下

30%

700万円

1億円超2億円以下

40%

1,700万円

2億円超から3億円以下

45%

2,700万円

3億円超から6億円以下

50%

4,200万円

6億円超

55%

7,200万円

参考:No.4155 相続税の税率|国税庁

相続税の控除と特例

相続税には、基礎控除の他にも様々な控除や特例が設けられています。これらの控除や特例を適用することで、相続税の負担を軽減できる場合があります。

代表的なものとしては、配偶者の税額軽減があります。これは、被相続人の配偶者が遺産を相続した場合に、一定額まで相続税がかからない制度です。また、生命保険金や退職金には非課税枠が設けられています。その他にも、未成年者控除障害者控除相次相続控除などがあります。これらの控除や特例を適切に活用することが、相続税対策において重要となります。

関連記事:相続税の納税猶予制度とは?要件や注意点についてわかりやすく解説

贈与税の基本

贈与税の申告書

贈与税は、個人から財産を贈与によって取得した際に課される税金です。相続税とは異なり、贈与が行われた時点で課税されます。贈与税の計算方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があり、それぞれ基礎控除額や税率が異なります。ここでは、贈与税の課税対象や納税義務者、主な計算方法である暦年課税における基礎控除と税率、そしていくつかの特例についてご紹介します。

贈与税の課税対象と納税義務者

贈与税の課税対象は、個人からの贈与により取得した財産です。これには現金や預貯金はもちろん、株式や不動産、宝石なども含まれます。また、借金の免除などにより実質的に利益を受けた場合も贈与とみなされ、課税対象となることがあります。納税対象となるのは贈与により財産を取得した本人です。

【課税対象となりうるもの】

  • 現金、預貯金
  • 株式、公社債、投資信託などの有価証券
  • 土地、建物などの不動産
  • 骨董品、宝石、自動車など
  • 借金の免除益

贈与税の計算方法(暦年課税)

暦年課税制度における贈与税の計算は、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額を合計し、その合計額から基礎控除額110万円を差し引いた残りの金額に税率を乗じて税額を計算します。計算式は以下のようになります。

<計算式>

(1年間に受け取った財産の価額の合計額-基礎控除額110万円)×税率-控除額=贈与税額

この税率は、贈与者と受贈者の関係によって「一般税率」と「特例税率」のいずれかが適用されます。

<計算例>

一般税率の場合で、1年間に500万円の贈与を受けた場合、基礎控除後の課税価格は500万円-110万円=390万円となります。

390万円に対する税率は20%、控除額は25万円です。

贈与税額は390万円×20%-25万円=53万円となります。

贈与税の基礎控除(暦年課税)

暦年課税制度では、受贈者一人あたり年間110万円の基礎控除額が設けられています。この年間110万円以下の贈与であれば、贈与税はかからず、申告の必要もありません。これは暦年贈与の大きな特徴であり、計画的な贈与による相続税対策の基礎となります。

年間合計贈与額に応じた基礎控除後の課税価格は以下の通りです。

年間合計贈与額

基礎控除後の課税価格

110万円以下

0円

110万円超200万円以下

年間合計贈与額-110万円

200万円超300万円以下

年間合計贈与額-110万円

300万円超 ~(すべて同様)

年間合計贈与額-110万円

※年間合計贈与額から110万円を差し引いた金額が基礎控除後の課税価格となります。

贈与税の税率

贈与税の税率は、暦年課税における基礎控除後の課税価格に対して適用されます。税率には、一般贈与財産に適用される「一般税率」と、直系尊属から18歳以上の受贈者への贈与に適用される「特例税率」があります。いずれも累進課税であり、基礎控除後の課税価格が高いほど税率も高くなりますが、特例税率の方が一般税率よりも税負担が軽減されるように設定されています。

基礎控除後の課税価格別の税率と控除額は以下の通りです。

<一般贈与財産用(一般税率)>

基礎控除後の課税価格

税率

控除額

200万円以下

10%

0円

200万円超~300万円以下

15%

10万円

300万円超~400万円以下

20%

25万円

400万円超~600万円以下

30%

65万円

600万円超~1,000万円以下

40%

125万円

1,000万円超~1,500万円以下

45%

175万円

1,500万円超~3,000万円以下

50%

250万円

3,000万円超

55%

400万円

<特例贈与財産用(特例税率)>

基礎控除後の課税価格

税率

控除額

200万円以下

10%

0円

200万円超~400万円以下

15%

10万円

400万円超~600万円以下

20%

30万円

600万円超~1,000万円以下

30%

90万円

1,000万円超~1,500万円以下

40%

190万円

1,500万円超~3,000万円以下

45%

265万円

3,000万円超~4,500万円以下

50%

415万円

4,500万円超

55%

640万円

贈与税の特例について

贈与税には、特定の目的のための贈与や特定の関係性における贈与について非課税となる特例があります。

たとえば、夫婦間で居住用不動産やその取得資金を贈与する場合の配偶者控除の特例があります。これは婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産やその購入資金を贈与した場合に、最大2,000万円まで贈与税が非課税となる制度です。

また、特定の目的のために使われる教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与についても非課税となる制度があります。

また、特定の公益を目的とする事業を行う団体への贈与や心身障害者扶養共済制度に基づく給付金の受給権も非課税とされています。

これらの特例を適用することで、贈与税の負担を大きく軽減することが可能です。これらの制度を利用する際には、それぞれに要件が定められているため、事前に確認することが重要です。

関連記事:贈与税が非課税になるケースはある?税率と注意点も解説

贈与税の暦年贈与と相続時精算課税制度について

生前贈与を行う際の課税方法として、暦年贈与と相続時精算課税制度があります。どちらを選択するかは、贈与の目的や金額、贈与を受ける人の年齢などを考慮して慎重に判断する必要があります。

暦年贈与は年間110万円の基礎控除を利用して少額を計画的に贈与する場合に適しており、長期間続けることで大きな財産を移転できる可能性があります。

一方、相続時精算課税制度は、2,500万円までの特別控除を利用してまとまった金額を一度に贈与したい場合や将来値上がりが予想される財産を贈与する場合に有効な場合があります。ただし、相続時精算課税制度を選択すると、暦年贈与に戻すことはできず、贈与した財産はすべて相続財産に加算されるという点に注意が必要です。2024年からは相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が導入され、暦年贈与との比較検討がより重要になっています。

関連記事:【税理士監修】生前贈与の方法とは?税務署に注意されないための手続きについて説明

相続税と贈与税の違い

相続税と贈与税は、どちらも財産を無償で引き継ぐ際に課される税金ですが、その性質や計算方法にはいくつかの違いがあります。どちらの税金が有利になるかは、個々の状況によって異なります。ここでは、税率や基礎控除額、課税タイミングの違いを比較し、生前贈与が節税につながる可能性や具体的な税額シミュレーションを行います。

税率の違い

相続税と贈与税の大きな違いの一つは税率です。一般的に、同じ金額の財産を一度に引き継ぐ場合、贈与税の税率の方が相続税の税率よりも高く設定されています。

これは、相続税の負担を軽減するために、亡くなる直前に多額の贈与が行われることを防ぐ目的があるとされています。しかし、贈与は複数年にわたって少額ずつ行うことができるため、長期的に見ると贈与税を活用した方が税負担を抑えられるケースもあります。

基礎控除額の違い

相続税と贈与税では基礎控除額にも大きな違いがあります。

相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数と比較的大きく設定されており、遺産総額がこの金額以下であれば相続税はかかりません。一方、暦年課税における贈与税の基礎控除額は年間110万円です。

この基礎控除額の差が、一度に多額の財産を移転する場合と、複数年に分けて少額ずつ移転する場合の税負担に影響を与えます。相続税はまとまった財産の一括課税、贈与税は分割課税に対応していると言えます。

課税されるタイミングの違い

相続税と贈与税は、課税されるタイミングが異なります。相続税は被相続人が亡くなった時点の財産に対して課税されます。一方、贈与税は個人が財産を贈与によって取得した時点、つまり生きている間に課税されます。

この課税タイミングの違いを利用して、計画的に生前贈与を行うことで、将来の相続税を軽減できる可能性があります。

生前贈与による節税対策について

生前贈与には、年間110万円の基礎控除を活用した暦年贈与や相続時精算課税制度を利用した贈与があります。これらを上手に活用することで相続税の節税につながりますが、贈与の仕方によっては税負担が増えることもあるため、専門家への相談をおすすめします。

税額シミュレーション

相続税と贈与税の税額は、財産の金額や相続・贈与を受ける人の状況によって大きく異なります。ここでは、具体的なケースを想定して税額をシミュレーションし、どちらが節税効果が高くなるかを検証してみましょう。

<シミュレーション例1>1億円の財産を子1人が相続または贈与で取得する場合

相続税の場合

遺産総額1億円、法定相続人1人(子)の場合、基礎控除額は3,000万円+600万円×1人=3,600万円です。課税遺産総額は1億円-3,600万円=6,400万円となります。

6,400万円に対する相続税額は、(6,000万円超1億円以下の場合)税率30%、控除額700万円が適用され、6,400万円×30%-700万円=1,220万円となります。

贈与税の場合

1億円を一度に暦年贈与する場合(親から成人した子への特例贈与)、基礎控除110万円を差し引いた9,890万円が課税対象です。

税率は55%、控除額640万円が適用され、9,890万円×55%-640万円=4,799.5万円となります。

このケースでは、一度に財産を移転する場合、相続税の方が税額が大幅に少ないことがわかります。

<シミュレーション例2>年間400万円ずつ暦年贈与を25年間行う場合

年間400万円の贈与に対し、基礎控除110万円を差し引いた290万円が課税対象となります。

290万円に対する贈与税は、(200万円超300万円以下の場合)税率15%、控除額10万円が適用され、290万円×15%-10万円=33.5万円です。

これを25年間続けると、贈与税の合計額は33.5万円×25年=837.5万円となります。

このように、少額を長期間にわたって贈与することで、一度に多額を贈与するよりも贈与税の負担を抑えられる可能性があります。ただし、贈与から7年以内に相続が発生した場合は、その贈与財産が相続財産に加算される点に注意が必要です。

一般的に相続は一括で行うのに対し、贈与には分割で行う方法もあり、相続と贈与どちらが得かは一概には言い切れません。財産の種類、金額、相続人の数、贈与の期間、さらには将来の税制改正なども考慮して慎重に判断する必要があります。

参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

関連記事:贈与税が非課税になるケースはある?税率と注意点も解説

相続税と贈与税のまとめ

税金に関する相談先(税理士)

相続税と贈与税は、財産を無償で引き継ぐ際に発生する税金ですが、それぞれ異なる特徴を持っています。税率だけを比較すると贈与税の方が高く設定されていますが、基礎控除額の違いや課税タイミング、利用できる控除や特例が異なるため、どちらがお得になるかは個々の状況によって異なります。

生前贈与は、年間110万円の基礎控除を活用した暦年贈与や相続時精算課税制度を利用することで、将来の相続税負担を軽減できる可能性があります。しかし、生前贈与加算の対象期間や名義預金のリスクなど、注意すべき点も多くあります。

適切な相続税・贈与税対策を行うためには、ご自身の財産状況や家族構成などを考慮し、専門家である税理士に相談することをお勧めします。

関連記事:相続税と贈与税の違いとは?控除や節税のポイントも解説

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
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