事業承継税制を利用すれば相続税は免除できる?納税猶予について紹介!

中小企業の経営者にとって、事業を「誰に」「どのように」引き継ぐかは避けて通れない問題です。特に相続税や贈与税の問題は大きく、想像以上の税負担が発生し、それがきっかけで事業の継続を諦めるケースも少なくありません。
こうした課題を受けて、国が設けたのが「事業承継税制」という制度です。条件を満たせば、相続税や贈与税の支払いを一時的に猶予してもらえ、さらにその後の経営状況などが一定の基準を満たせば、最終的に税そのものが免除される可能性もあります。
本記事では、事業承継税制の仕組みや適用条件、手続きの流れについて詳しく解説します。
目次
事業承継税制の概要
事業承継税制は、中小企業の後継者が自社の株式を相続や贈与で取得する際に、発生する税金の負担を軽くする目的で作られた制度です。特に非上場企業の株は市場で売却できないため、評価額に応じた相続税・贈与税を現金で納めるのが難しいという事情もあります。
事業承継税制を活用すれば、一定の要件を満たすことで税の納付を猶予してもらえるだけではなく、猶予されていた税が最終的に免除される場合もあります。上手く活用すれば、後継者の負担を軽減できる魅力的な制度といえるでしょう。
また、事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」2つのタイプがあります。「一般措置」は従来からある制度で、対象となる株式の範囲や納税猶予の割合に制限があります。
一方で、「特例措置」は平成30年度の税制改正で新たに設けられたもので、対象株式がすべて認められたり、相続税・贈与税ともに100%猶予されたりと、より後継者の負担を減らせる内容になっているのが特徴です。
しかし、利用するには「特例承継計画」を事前に作成し、提出しておく必要があるので注意してください。
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事業承継税制の適用要件
事業承継税制を利用するには、会社だけでなく、先代の経営者と後継者、それぞれが定められた条件を満たしている必要があります。ここでは、事業承継税制の適用要件について詳しく解説します。
会社側の要件
事業承継税制が適用されるのは、中小企業に限られます。具体的には、非上場であり、業種ごとに定められた資本金や従業員数の条件を満たしている会社です。また、風俗関連事業や一部の資産管理会社、上場企業などは対象外となっています。
また、従業員が1人以上在籍していることも条件の1つです。法人ではなく個人事業主向けにも「個人版事業承継税制」が設けられており、こちらでは事業用資産が対象になります。
先代経営者側の要件
事業承継税制を利用するためには、先代の経営者が会社の代表者でなければいけません。そして贈与や相続が発生する直前に、本人とその親族が議決権の過半数を持っており、筆頭株主であることも求められます。贈与の場合は、贈与時点で代表権を持っていないことが条件になります。
後継者側の要件
後継者は、相続や贈与により株式を取得し、後継者本人とその親族が議決権の過半数を保有しつつ、筆頭株主である必要があります。贈与の場合には20歳以上で過去3年以上にわたって後継する会社の役員であり、かつ贈与時に代表権を有していることが条件です。相続の場合は、相続の開始時点で役員であり、その後5ヵ月以内に代表者にならなければいけません。
納税猶予継続のための要件
事業承継税制を使って納税を猶予してもらった場合は、ルールを守っていることを税務署に報告しなければいけません。特に特例措置では、最初の5年間に年1回「年次報告書」を都道府県に、また「継続届出書」を税務署に提出し続ける必要があります。
この間に後継者が代表を退任したり、同族による議決権の過半数が失われたり、対象株式を譲渡したりすると、猶予は打ち切られ、税金を支払うことになります。5年が経過しても報告義務は続き、3年ごとに継続届出書の提出が必要です。
事業承継税制を利用する際の手続き
事業承継税制を利用して、相続税や贈与税の支払いを猶予してもらうには手続きを行う必要があります。ここでは、具体的な手続きの内容について詳しく解説します。
1.特例承継計画の作成
特例措置を使いたい場合は「特例承継計画」という書類を作成しなければいけません。これは会社の現状や、誰にどのように承継するのか、今後5年間の経営計画などをまとめたものになります。
特例承継計画は、会社の本店所在地を管轄する都道府県に提出します。作成には専門的な知識が必要であり、慣れていないと難しいかもしれません。税理士や金融機関などと相談しながら作成するのがおすすめです。
特例承継計画の作成に関する相談は、ぜひやさしい相続相談センターにご相談ください
2.都道府県知事の認定申請
特例承継計画を提出した後は、実際に株式の贈与や相続が起きたタイミングで、改めて都道府県知事に認定申請を行います。ここでは、会社・先代経営者・後継者がそれぞれ制度の要件を満たしているかが審査されます。
申請期限は、贈与の場合は贈与があった翌年の1月15日まで、相続の場合は開始から8ヵ月以内です。認定を受けなければ、税務署での猶予申請に進めないので注意しましょう。
3.税務署への申告
都道府県の認定が下りたら、次は税務署へ申告を行います。贈与税または相続税の申告書に「事業承継税制を使います」という旨を記載し、必要な書類を添えて提出してください。
その際は、猶予を受ける税額に見合う担保を差し出さなければいけません。通常は贈与・相続で取得した非上場株式をそのまま担保として差し入れれば問題ありません。しかし、会社によっては株券の発行状況などによって手続きが異なる場合があるため、事前に確認しておきましょう。
申告が認められたら、事業承継税制の利用が可能になります。猶予が認められた後も、先ほど説明したように、継続的に税務署に報告をしなければいけないため注意しましょう。
事業承継税制による納税猶予が打ち切られるケース
事業承継税制を活用して納税が猶予されている場合でも特定の条件に当てはまると、猶予されていた税金の支払いが求められます。その際は利子税も加算されるため、どのようなケースで納税猶予が打ち切られるかを知っておかなければいけません。
例えば以下に当てはまると、納税猶予が打ち切られてしまいます。
- 後継者が会社の代表を辞任した
- 後継者とその親族の議決権合計が過半数を割り込んだ
- 後継者以外の親族が、後継者より多くの議決権を持つようになった
- 猶予対象の株式を譲渡した
- 会社が解散した
- 年次報告書や継続届出書の提出を怠った
税務署によってはかなり厳しくチェックされるため、もしこれらの条件にあてはまってしまった場合は、すぐに報告するようにしましょう。
事業承継税制のメリット
事業承継税制を活用するメリットは数多くあります。ここでは、事業承継税制を利用することで得られる代表的なメリットを紹介します。事業承継税制を活用するか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。
納税負担が軽減される
事業承継税制を利用すれば、相続税や贈与税の負担が実質的にゼロになる可能性があります。特に特例措置を利用すれば、後継者が引き継ぐ非上場株式の100%について、相続税・贈与税の納税が猶予されます。
さらに、要件を満たし続ければそのまま免除されることもあるため、後継者の負担は大幅に少なくなるでしょう。特に株式評価額が高額な会社にとっては、事業承継税制が会社の経営を大きく左右するほど重要になります。
資金面の心配が少なくなる
非上場企業の株式は換金が難しく、相続や贈与によって取得した際に、現金で納税するのが困難なケースも多くあります。制度を利用すれば、株式自体を担保にして納税を猶予してもらえるため、会社の資産や運転資金を使用する必要がありません。
納税のために借入をしたり、株を売却したりといった行為が必要なくなるため、事業に必要な資金を守ることができ、会社の健全な運営にも繋がるでしょう。
事業承継がスムーズになる
税金の問題が軽減されることで、後継者の選定や事業承継の手続きもスムーズに進められます。後継者が納税資金の確保に悩まされることがなければ、経営に前向きな気持ちで取り組めるようになりますし、親族間の対立防止にも繋がります。
また、特例措置では最大3人までの後継者に対応できるため、複数の子どもに経営を分担させたい場合や、親族以外の適任者に継がせたい場合でも問題ありません。経営者の意志を反映した事業承継がしやすくなるのも、事業承継税制を活用するメリットといえるでしょう。
事業承継税制のデメリット
事業承継税制には多くのメリットがありますが、注意すべき点も少なくありません。制度の内容を十分に理解せずに利用すると、多くのリスクを抱える可能性もあります。ここでは、事業承継税制を使う上での注意点やデメリットについて解説します。
手続きが複雑
事業承継税制を使うためには、特例承継計画の作成をはじめ、都道府県知事への申請、税務署への申告など、複雑な手続きが数多くあります。提出書類の内容も専門的なものが多いため、自社だけで対応するのは現実的ではありません。
事業承継税制を利用した後も、継続届出書や年次報告書を定期的に提出し続ける必要があります。書類の提出漏れや内容の不備があると、納税猶予が打ち切られる可能性もあるため、税理士を始めとした専門家に相談しつつ、手続きを進めるようにしましょう。
事業承継税制の手続きに関する相談は、ぜひやさしい相続相談センターにご相談ください
納税猶予が取り消されるリスクがある
納税猶予を維持するためには、制度が適用された後も様々な条件を守り続けなければなりません。特に最初の5年間(経営承継期間)は要件が厳しく、代表者の交代や雇用維持要件の不達成、株式の譲渡などがあると、納税猶予が取り消される可能性があります。
取り消された場合は、猶予されていた税金をまとめて支払うことになります。利子税が加算されるため、場合によっては制度を使わない方が良かったという事態にもなりかねません。
M&Aには向かないことがある
将来的にM&Aによる事業承継を検討している場合は、事業承継税制の利用が足かせになることがあります。なぜなら、納税猶予中に株式を譲渡すれば猶予が打ち切られてしまうからです。
そのため、外部への売却を視野に入れているケースでは、事前にM&Aとの相性をしっかりと考えておきましょう。
関連記事:M&Aを行う際に独占禁止法はどう関係する?事例と注意点を徹底解説
非上場株式の事業承継税制について
事業承継税制は、非上場企業の株式を対象とした相続・贈与に関する税負担を軽くする制度として注目を集めています。非上場株は現金化が難しく、評価額も不透明になりがちなため、事業承継税制によるメリットは大きいです。
ここでは、非上場株式の評価方法と、制度を通じて受けられる納税猶予の仕組みについて解説します。
非上場株式の評価
非上場株式は、上場株式と違って市場価格が存在しないため、税務上の評価には特別な方法が必要です。主に用いられるのが「純資産価額方式」や「類似業種比準方式」といった計算手法で、会社の資産内容や利益水準、同業他社の株価などをもとに評価額が決まります。
非上場株式の評価には専門的な知識が求められるため、実際には税理士などの専門家に依頼して行うのが一般的です。
非上場株式の評価額に関する相談は、ぜひやさしい相続相談センターにご相談ください
非上場株式にかかる納税猶予
非上場株式は事業承継税制を活用することで、納税猶予される資産の対象となっています。後継者が、都道府県の認定を受けた非上場企業の株式を相続や贈与によって取得し、一定の条件を満たせば、贈与税・相続税の納税が猶予されます。
平成30年度の税制改正で導入された「特例措置」では、猶予の対象となる株式の上限が撤廃され、納税猶予の割合も贈与税・相続税ともに100%となりました。そのため、実質的に税負担ゼロでの株式承継が可能となっています。
さらに、一定の条件を満たして事業を継続し続ければ、猶予されていた税金は最終的に免除されます。制度はあくまで「事業の継続」を前提としたものですが、事業承継のハードルを大きく下げているのは間違いありません。
参考:非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし|中小企業庁
関連記事:事業譲渡と株式譲渡の違いとは?メリット・デメリットについて
まとめ
事業承継税制は、中小企業が世代交代を円滑に進められるよう設計された制度です。非上場企業においては、自社株に対する相続税や贈与税の負担が重くのしかかることが多く、それが原因で事業の継続が困難になるケースも少なくありません。
事業承継税制を活用すれば、一定の条件を満たすことで納税を一時的に猶予してもらえます。最終的に税金が免除される可能性もあるため、事業承継のハードルを大きく下げているといえるでしょう。
平成30年度の改正によって導入された特例措置によって、対象株式の範囲や猶予割合が拡大され、より実用的な制度となりました。しかし、事業承継税制を利用するための手続きは複雑で、定期的な報告も必要です。
税理士を始めとした専門家と相談しながら、事業承継税制を活用してみてください。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。