【税理士監修】住宅取得等資金贈与のメリットは?非課税制度の適用条件と注意点

更新日:2023.9.8

住宅を取得する際はまとまった費用が必要です。そのため、父親や母親、祖父母から贈与を受ける方も少なくありません。住宅取得等に関する資金は、一定条件を満たせば、贈与を受ける際に非課税制度を利用できます。
ただし、住宅取得等資金贈与の非課税制度にはいくつか注意したいポイントもあります。基礎知識を深め、適切な方法で制度利用しましょう。
この記事では、住宅取得等資金の贈与を受ける際の適用条件や限度額、住宅取得等資金の非課税制度のメリット・デメリットについて紹介します。住宅の購入を検討中の方は、ぜひ参考にしてみてください。

住宅取得等資金贈与の非課税制度とは

住宅取得等資金の非課税制度は、住宅を購入したり増築したりする際に、資金の贈与を受けた方が利用できる制度です。この制度を利用すると、贈与金額から一定額が控除されるため、贈与税の節税効果を期待できます。

実際に、どのようなケースにおいて利用できる制度なのでしょうか。ここでは、制度の適用条件と控除金額について詳しく解説します。

適用条件

住宅取得等資金の非課税制度は、誰でも利用できるものではありません。以下のような条件に合致する場合にのみ適用可能となります。

・2022年1月1日~2023年12月31日までの間に贈与されたものであること
・父母や祖父母などの直系尊属から直系卑属への贈与であること
・受贈者の年齢が、受贈年の1月1日時点で満年齢18歳以上であること
・贈与があった年における受贈者の合計所得金額が、2,000万円以下であること(取得する住宅の床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下であること)
・平成21年分から令和3年分までの贈与税の申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けていないこと
・贈与を受けた年の翌年3月15日までに、資金の全額を用いて住宅用の家屋の新築等をすること
・受贈者が、贈与を受けた年の翌年3月15日までに該当の住宅に居住していること
・贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住できない場合、その後に居住できると見込まれること
・贈与を受けた際の住所が日本国内にあること

なお、その他にも要件は細かく定められています。非課税制度を利用できる住宅の種類に関する決まりもあるため、詳しく知りたい場合は国税庁のホームページ を確認しましょう。

控除金額

住宅取得等資金の非課税制度には、住宅の種類に応じて控除限度額が設けられています。限度額は以下の通りです。

・省エネ等住宅:1,000万円まで
・省エネ等住宅以外の住宅:500万円まで

「省エネ等住宅」の方が、控除額が大きいため節税効果を見込めますが、「省エネ等住宅」に認められるためには一定の要件を満たす必要があります。以下の、省エネ等基準のいずれかに適合する住宅用の家屋で、尚且つ、「住宅性能証明書」のような一定条件を満たす書類を贈与税申告書に添付することで、控除の適用を受けられるようになります。

・断熱等性能等級4以上または一次エネルギー消費量等級4以上であること
・耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上または免震建築物であること
・高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上であること

購入する予定の物件が、このような条件をクリアしているかどうか分からない場合は、不動産会社に確認しましょう。条件を満たさない場合は非課税制度が適用されません。

贈与税の課税方法

贈与税とは、他者から贈与を受けた際にかかる税金のことです。お金を渡した方ではなく、受け取った方に納税義務が発生します。そして、贈与価額が控除額を上回る場合に贈与税が発生します。

贈与税の課税方法は2種類です。種類によって適用条件や控除額が異なります。贈与の予定がある方は、課税方法に関する知識も深めておきましょう。

暦年贈与

暦年贈与は、一般的に広く使用されている贈与の課税方法です。1月1日から12月31日までの1年間で受け取った贈与財産に対して、1受贈者あたり110万円の基礎控除が適用されます。また、1年間の贈与財産の合計額が、110万円を超える場合は、超えた分の金額に対して贈与税が課されます。

例えば、1年間で500万円受け取った場合の課税対象額は、500万円-110万円=390万円です。

贈与税の課税対象となった財産にかかる税率は、特例税率と一般税率の2種類です。

【特例税率】

父母や祖父母といった直系尊属から18歳以上の子や孫(直系卑属)に対して贈与された財産に課されるのは、特例税率です。一般税率に比べて税率が低く、控除額が大きくなるよう設定されています。

【一般税率】

一般税率が課されるのは、特例贈与財産に該当しない全ての財産です。例えば、伯父叔母、兄弟姉妹といった親族から受け取った財産や、夫婦間での贈与財産、第三者からの贈与財産などが該当します。特例贈与と比べて贈与の必要性が低いため、税率は高く設定されています。

例えば、満年齢25歳(年収400万円)の孫が、祖父母から1,200万円の贈与を受けたものと仮定しましょう。この場合、1,200万円からまず110万円の基礎控除を差し引きします。これにより導き出された課税財産の金額は、1,200万円-110万円=1,090万円です。そして、この課税財産に特例税率(1,500万円以下)の40%をかけて、最後に190万円を控除します。算出される贈与税額は、1,090万円×40%-190万円=246万円となります。

相続時精算課税制度

贈与税の課税方法の2つ目は、相続時精算課税制度です。贈与時の税金を抑え、相続時に相続税として精算する方法となります。この制度を適用した場合の特別控除額は2,500万円です。2,500万円を超えた金額には、一律20%の税金が課されます。

制度を適用できるのは、60歳以上の父母や祖父母などの直系尊属から、18歳以上の子や孫などの直系卑属が受け取った贈与財産のみです。贈与者が亡くなった場合は、贈与財産(贈与時の時価)を相続財産に加算し、相続税額を計算することになります。そのため、贈与時よりも相続時の方が、価値が上がりそうな財産に有効です。

なお、相続時精算課税制度を利用する際は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間に、贈与税申告書を税務署に提出する必要があります。

住宅取得等資金贈与の非課税制度を適用するメリット

住宅取得等資金の非課税制度を利用することで、住宅を取得する際のまとまった資金をお得に贈与できるのが最大のメリットです。住宅取得等資金の非課税制度の適用条件に合致する場合、最大1,000万円までは税金がかかりません。本来税金として納めるはずであった分のお金を、自分や家族のために、有意義に使用できます。

また、住宅取得等資金の贈与により得た財産は、相続開始前の3年以内の贈与財産にかかる3年加算の対象外です。
(令和5年度税制改正により7年に延長)

相続税の生前贈与加算は亡くなる直前に税金対策として生前贈与を悪用するのを防ぐための措置で、通常の贈与財産は相続財産に加算されます。相続財産が増えれば相続税も増える可能性がありますが、住宅取得等資金の贈与により得た財産はこの措置の対象となりません。

なお、住宅取得等資金の非課税制度は、受贈者ひとり一人に適用されます。夫婦で各自がそれぞれの直系尊属から住宅資金を受け取った場合は、世帯で見た際の非課税枠を拡大できます。住宅の名義を夫婦共有にすることで適用可能となるため、税金を少しでも減らしたいときは共有名義を検討しましょう。

住宅取得等資金の非課税制度を利用する際の注意点

住宅取得等資金の非課税制度は、最大1,000万円を控除できるとして多くの方に利用されている制度です。ただし、デメリットもいくつかあります。制度の利用を開始する前に注意点を確認し対策を立て、適切な形で制度を利用しましょう。

小規模宅地等の特例が利用できない

小規模宅地等の特例は、相続財産にのみ適用される、大きな節税効果を見込める特例制度です。相続財産に小規模宅地等の特例を適用させると、土地の評価額が最大80%減額されます。相続税額が高額になることで、配偶者や家族が土地や自宅を手放さなければならなくなるような事態を避けるための制度です。

贈与の際に住宅取得等資金の非課税制度を利用して得た財産は、相続財産に含まれないため必然的に小規模宅地等の特例の対象外となります。また、小規模宅地等の特例の適用条件に「被相続人と同居していたこと」や、「別居していた場合、相続開始前3年以内に取得者や取得者の配偶者などが所有する家屋に居住したことがないこと」と記載されています。

つまり、自宅を所有している別居の子や孫は、相続が発生した際にも小規模宅地等の特例制度を適用できません。節税効果を高めたい場合には、どちらの制度を利用するのが自身にとって有益となるか、しっかりと事前に考えておくことが大切です。自身の状況に合った制度を適宜利用しましょう。

贈与税申告が必要になる

通常、贈与税の課税対象外となる場合は、贈与税申告をする必要がありません。しかし、住宅取得等資金の贈与を行う際は、たとえ最終的な贈与額が0円になったとしても贈与税申告をする必要があります。申告しなかった場合、住宅取得等等資金の非課税制度を利用できなくなるため注意しましょう。

贈与税申告・納税の期限は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。添付書類を添えて、受贈者の住所地を管轄する税務署に提出します。提出方法は以下の3パターンです。

・税務署の窓口に持参する
・書類を税務署に郵送する
・e-Taxから申告する

また、納税は納付書を使用して税務署や金融機関の窓口で納める方法だけでなく、インターネットバンキングからの納付やクレジットカード納付などさまざまな方法が用意されています。申告・納税の期限を超えてしまうと、税務調査により追徴課税のペナルティーが発生することもあるため早めに済ませましょう。

贈与税以外の税金がかかる

住宅を取得する際は、不動産取得税や登録免許税といった税金が発生します。不動産取得税は不動産を購入した際に課される税金で、住居の場合の税率は3%です。ただし、相続により不動産を取得した場合は、不動産取得税はかかりません。

また、登録免許税は不動産を買った方の所有権を登記する際にかかる税金です。土地の税額を求める計算式は「固定資産税評価額×1.5%」、建物(新築)は「固定資産税評価額×0.15%」となっています。相続により不動産を取得した場合、土地・建物ともに「固定資産税評価額×0.4%」となるため、土地は相続した方が節税になるでしょう。相続で不動産を取得する可能性がある方は、自身で住宅を購入するか相続で取得するか、あらかじめよく考えて決めておく必要があります。

遺産分割でトラブルになることがある

住宅取得資金等の贈与を受ける方以外にも推定相続人がいる場合、生前に財産の贈与を受けることでその方の将来の相続財産が減ることになります。例えば、兄と弟の2人兄弟のうち、兄だけが父から2,000万円の贈与を受けたとしましょう。その後父がなくなり、財産を分割する際、兄弟で法定相続分を等分するとなれば、兄は弟より実質2,000万円も多く財産を受け取ることになります。

財産の取得割合を巡って、家族内のトラブルに発展することも少なくありません。贈与を受ける前にほかの家族に相談しておくことが大切です。

なお、生前贈与した財産は基本的に遺留分の対象になります。また、相続開始前10年以内の法定相続人に対する贈与や、遺留分を侵害することを双方が承知の上で行われた贈与、特別受益にあたるものも遺留分の対象です。遺留分は相続人に最低限保障される取り分のことで、遺言をもってしてもこの権利を奪うことはできません。

遺留分が請求されたら、原則金銭での支払いとなります。遺留分の請求を避けるためにも、他の相続人にとって不平等と思われるような贈与・相続は避けるのが無難です。

今後税制制度が変わる可能性がある

住宅取得資金等贈与の非課税制度は、2023年12月31日までの特例措置となっています。元々の適用期間は2021年12月31日でしたが、税制改正の際に延長されました。そのため、今後も税制度が変わることで、期間が延長される可能性もあります。

ただし、現状では2023年12月31日までの特例措置となっているため注意が必要です。非課税制度を利用して、お得に財産の贈与を受けたいと考えている方は、できるだけ早めに贈与の準備を進めましょう。

まとめ

住宅取得等資金贈与の非課税制度を利用すると、父母や祖父母などの直系尊属から受け取った贈与財産のうち最大1,000万円が非課税になります。住宅の購入や増築などを検討中の方に適した制度です。 ただし、相続時に小規模宅地等の特例が適用されなくなったり、将来的に家族間のトラブルが発生する可能性があったりと、注意点もいくつかあります。住宅取得等資金の贈与を受けて新しく住宅を購入するか、相続するか、どちらの方法を選択するか家族で話し合って決めましょう。 また、税金対策に関する悩み事は、専門家に相談するのが得策です。相続税に強い税理士に相談すると、家族構成や資産額など、自身の状況に合わせて適切な方法をアドバイスしてくれます。

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監修者

竹内 英雄

竹内 英雄 小谷野税理士法人 税理士 中小企業診断士

85年大手銀行入行、2016年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。【講演実績】公益財団法人不動産流通推進センター、株式会社きんざい、他多数の講演実績【メッセージ】相続の手続きは専門性が高い分野ですが、私の銀行員経験、多数の講演経験を活かして、難しいことを易しく丁寧に説明します。初めての経験であっても気軽に、安心して相談して下さい。