【税理士監修】結婚・子育て資金贈与とは?概要や手続き方法、注意点を解説
更新日:2023.9.8
結婚・子育て資金贈与とは、直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合に一定額が非課税になる仕組みの通称です。結婚・子育て資金贈与の特例の適用を受けるためには所定の手続きが必要であり、一般的な贈与とは異なる部分が多く存在します。
本記事で結婚・子育て資金贈与について、手続きの方法や注意点など、適用を受ける上で押さえたい点について詳しく解説します。
目次
結婚・子育て資金贈与の概要
結婚・子育て資金贈与とは
結婚・子育て資金贈与とは、直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合に、一定額が非課税になる仕組みの通称です。受贈者である子または孫の年齢が18歳以上50歳未満の場合に利用できます。
適用対象は平成27年4月1日から令和7年3月31日までの間の贈与となります。令和5年度税制改正において、令和7年3月31日に延長されました。
結婚・子育て資金贈与の非課税限度額は1,000万円です。ただし、結婚資金は300万円が上限となります。
例えば、結婚資金200万円・子育て資金800万円であれば、合計額である1,000万円全てが非課税の適用対象です。一方、結婚資金400万円・子育て資金600万円の場合、結婚資金が上限額を超えています。合計額は1,000万円で結婚・子育て資金贈与の非課税限度額以内ではありますが、結婚資金のうち、100万円については非課税適用を受けられません。
また、結婚・子育て資金贈与の非課税適用を受けるためには、取り扱い金融機関の営業所等での手続きが必要です。金融機関を経由して納税地の所轄税務署長へ申告書の提出が行われます。贈与税に関する一般的な特例・控除制度と違い、受贈者が税務署に対して直接行う手続きはありません。
贈与に関する非課税適用ではありますが、贈与税の申告とは異なる手続きを要する点に注意が必要です。
結婚・子育て資金の範囲
非課税適用を受けられる結婚・子育て資金の範囲を紹介します。
- 結婚資金の範囲
- 挙式費用、衣装代等の婚礼費用:入籍日の1年前の日以後に支払われる資金が対象です
- 結婚に伴う家賃、敷金等の新居費用、転居費用:入籍日の1年前後以内に締結した賃貸借契約に関するものに限定されます。また、支払いのタイミングについても規定があり、当該契約締結日から3年を経過する日までに支払われたものが対象です
- 子育て資金の範囲
- 妊娠に関する費用:不妊治療や妊婦健診などの費用が該当します。医薬品については、処方箋に基づくもののみです
- 出産に要する費用:出産のための入院から退院までに要する費用、出産に起因する疾患の治療費や医薬品費などが挙げられます。産後ケア費用については、出産後1年以内に支払われた費用であって、6泊分または7回分を上限として対象となります
- 育児に要する費用:未就学児の子の医療費、幼稚園・保育所等の保育、行事への参加や食事費用など、育児に伴い必要となる費用が幅広く対象となります
結婚・子育て資金の範囲そのものは広いですが、種類によっては支払う期間や回数などの細かな要件が定められています。結婚・子育て資金贈与を検討している人は、事前に非課税対象となる資金について確認しておくと安心です。
参考として、婚礼に係る費用のうち、非課税適用を受けられない支出の例を紹介します。
- 婚活関連費用
- 両家の顔合わせや結納式の費用
- 指輪代
- 新婚旅行費用
結婚・子育て資金は非課税対象になるか否かの判断が難しい部分もあるため、事前に専門家である税理士や、金融機関の窓口で確認することをおすすめします。
結婚・子育て資金贈与の非課税の適用を受ける要件
結婚・子育て資金贈与の非課税適用を受けるためには、以下すべての要件を満たす必要があります。
- 父母や祖父母から18歳以上50歳未満の子または孫への贈与である
- 受贈者の前年の合計所得金額が1,000万円以下である
- 結婚・子育て資金に該当する金銭である
- 取扱金融機関の営業所等で必要な手続きを行っている
結婚・子育て資金非課税申告書の提出先そのものは納税地の所轄税務署長ですが、金融機関を経由して提出するため、受贈者が税務署で直接行う手続きはありません
金融機関で行う手続きの詳細は後述します。
一般的な方法による贈与は非課税の対象外
結婚・子育て資金贈与を非課税にできるのは、金融機関等で所定の手続きを実施した上で行われた贈与に限ります。
結婚や子育て資金に充てる目的の資金贈与であっても、一般的な方法による贈与では直系尊属からの結婚・子育て資金の一括贈与を非課税にすることはできません。例えば、受贈者が普段から使用している銀行口座への振込や現金を直接手渡す方法で贈与を行い、後日非課税を適用させることは不可能です。
非課税対象となるのは、結婚・子育て資金に充てるための贈与のうち、金融機関等とのその結婚・子育て資金管理契約に基づいた以下のケースに該当するもののみです。
- 信託受益権:信託された資産から発生する経済的利益を受け取る権利
- 書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預け入れる場合
- 書面による贈与により取得した金銭等で有価証券を購入する場合
贈与税に関する特例は多数存在しますが、特例の多くは贈与税の申告時に所定の手続きや添付書類の提出を行うことで適用を受けられます。一方、結婚・子育て資金贈与の非課税適用に必要となる手続きは、贈与税の申告とは関係ありません。
結婚・子育て資金贈与の非課税適用は、贈与に関する他の特例と比較して、やや特殊な制度といえます。
結婚・子育て資金贈与 非課税適用に必要な手続き
この章では、結婚・子育て資金贈与の非課税適用を受けるために必要な手続きについて解説します。
なお、手続きの細かな流れや必要書類は金融機関によって異なる可能性があります。結婚・子育て資金贈与の非課税適用に関する手続きを行う際は、事前に必ず金融機関の案内をご確認ください。
結婚・子育て資金贈与専用の口座を開設
結婚・子育て資金贈与の非課税適用には専用口座が必要であるため、まずは金融機関で口座開設を行います。
金融機関での口座開設に必要な書類は以下の通りです。
- 贈与契約書の原本:贈与の事実や年月日を証明する書類です。金融機関によっては所定の様式が用意されています。決まった様式がない場合は当事者が自由に作成することもできますが、記載事項に漏れがないよう注意が必要です
- 受贈者の戸籍謄本:贈与者が受贈者の直系尊属であることの証明に必要です
- 受贈者の源泉徴収票や確定申告書:受贈者が所得要件(前年の合計所得金額が1,000万円以下である)を満たしていることを証明するために必要となります。受贈者に所得がなく扶養親族である場合は不要です
- 贈与者、受贈者それぞれの本人確認書類:健康保険証や運転免許証などの原本が必要です
- 受贈者のマイナンバーを確認できる書類:マイナンバーカードや通知カードのほか、マイナンバーが記載された住民票も利用できます
- 受贈者の銀行印
金融機関によっては、発行日の規定や記載事項などに独自の規定が存在するケースもあります。また、口座開設や申し込み手数料も必要です。
結婚・子育て資金非課税申告の手続を行う
専用口座を開設した金融機関の窓口に、受贈者が結婚・子育て資金非課税申告書を提出します。前項で紹介した結婚・子育て資金贈与専用の口座開設と同時に実施されるケースが多いです。
結婚・子育て資金非課税申告書の記載項目の一例を紹介します。
- 受贈者に関する情報
- 氏名
- 住所
- マイナンバー
- 生年月日
- 贈与者に関する情報:複数人からの贈与を受ける場合、贈与者ごとに情報の記載が必要です
- 氏名
- 住所
- 生年月日
- 受贈者との続柄
- 贈与の内容
- 財産の種類:信託受益権・金銭・金銭等(有価証券等)を選択します
- 財産の価額
- 贈与財産の取得年月日
- 非課税適用を受ける財産価額:贈与財産の価額が非課税限度額を超える場合などは、財産の価額と非課税適用を受ける価額に相違が起こり得ます
結婚・子育て資金非課税申告書の正式名称や記載項目は金融機関によって多少の相違があります。金融機関の窓口で入手できるため、事前に確認するのが安心です。
作成した結婚・子育て資金非課税申告書は、金融機関を経由して納税地の所轄税務署長に提出されます。
贈与者から受贈者へ贈与を実施
金融機関での手続きが完了後、贈与者から受贈者への贈与を実施します。贈与実行に関する細かなルールは金融機関によって違いが大きいため、詳細は金融機関の窓口でご確認ください。
専用口座から払い出しを行う方法
結婚・子育て資金贈与の非課税適用を受けるためには、専用口座からの払い出しを行う際にも注意が必要です。払い出しのルールも金融機関によって多少の相違がありますが、今回は大まかな内容を紹介します。
大前提として、結婚・子育て資金贈与の非課税対象となるのは、結婚・子育ての用途で実際に支出した分のみです。そのため、贈与を受けた資金を払い出して結婚・子育ての用途に支出したことを証明する書類(領収書等)を期日までに提出する必要があります。費目によって提出期日が異なるため注意が必要です。
なお、領収書等の他にも、戸籍謄本・住民票や賃貸借契約書の写し・母子手帳の写しといった追加書類が必要になるケースもあります。期日を過ぎてしまうと非課税適用を受けられないため、早めに準備や確認を進めておくのが安心です。
結婚・子育て資金贈与の注意点
結婚・子育て資金贈与の非課税適用を受けるにあたって、以下の4点に注意が必要です。
- 結婚・子育て以外の目的で引き出した場合は贈与税の対象
- 贈与者が亡くなった場合は相続税の対象
- 受贈者が50歳に達した時の残額は贈与税の対象
- 非課税限度額は受贈者ごとに1,000万円
それぞれ詳しく解説します。
結婚・子育て以外の目的で引き出した場合は贈与税の対象
専用口座に振り込まれた資金を結婚や子育て以外の目的で払い出した場合、該当の払い出し分は贈与税の対象となります。贈与税の申告および納付義務が生じるため注意が必要です。
また、結婚・子育て資金に充てる目的の引き出しであっても、領収書等の必要書類がない場合は贈与税が課せられます。領収書等の提出期日が過ぎた場合も非課税適用を受けられません。
贈与者が亡くなった場合は相続税の対象
金融機関との契約期間中に贈与者が亡くなった場合、専用口座の残額は相続税の対象です。贈与者から相続を受けたものという扱いになります。
なお、贈与者が亡くなるよりも前に結婚や子育て目的で既に支出した分がある場合、領収書等により支出の事実が確認できれば結婚・子育て資金支出額として扱われ非課税対象となります。一方、贈与者が亡くなった後に行った支払いは非課税になりません。
受贈者が50歳に達した時の残額は贈与税の対象
受贈者が50歳に達するなどの理由で専用口座の契約が終了した時に残額がある場合、残額は贈与税の対象になります。
通常、直系尊属からの贈与は特例贈与財産に該当し、特例税率を用いて税額の計算を行います。しかし、令和5年4月1日以降に専用口座へ振り込まれた贈与分については、直系尊属からの贈与であっても一般税率での計算が必要です。計算に利用する税率を誤らないようご注意ください。
非課税限度額は受贈者ごとに1,000万円
結婚・子育て資金贈与の非課税限度額は受贈者ごとに1,000万円です。贈与者の数や贈与者1人あたりの贈与額などは関係ありません。
例えば、受贈者である子供が父母それぞれから1,000万円の結婚・子育て資金贈与を受けた場合、贈与を受けた額は合計2,000万円になります。非課税限度額である1,000万円を超えており、差額の1,000万円は通常通り贈与税の課税対象です。受贈者は贈与税の申告および納付を行う必要があります。
一方で、2人の子供に対して父が1,000万円ずつ贈与した場合、贈与者による贈与合計額は2,000万円ですが、受贈者ごとの金額は1,000万円です。受贈者ごとの非課税限度額を超えていないため、全額非課税措置の適用を受けられます。
非課税限度額は贈与者が贈与した合計額ではなく、受贈者が贈与を受けた額で考えます。考え方を誤らないよう注意が必要です。
まとめ
結婚・子育て資金贈与の非課税措置の適用を受けるためには、金融機関での手続きが必要です。贈与契約書や戸籍謄本など必要書類が多いため、早めに準備を行う必要があります。非課税の対象となる資金の範囲や、領収書の提出期限にもご注意ください。
結婚・子育て資金贈与の非課税適用は、贈与に関する他の制度や特例とは異なる性質を有します。結婚・子育て資金贈与について疑問や不安があれば、税理士などの専門家に相談するのが安心です。
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しかし、適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
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監修者
竹内 英雄 小谷野税理士法人 税理士 中小企業診断士
85年大手銀行入行、2016年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。【講演実績】公益財団法人不動産流通推進センター、株式会社きんざい、他多数の講演実績【メッセージ】相続の手続きは専門性が高い分野ですが、私の銀行員経験、多数の講演経験を活かして、難しいことを易しく丁寧に説明します。初めての経験であっても気軽に、安心して相談して下さい。