【税理士監修】小規模宅地等の特例の「家なき子特例」とは?要件や必要な手続き、注意点を徹底解説

更新日:2024.12.9

小規模宅地等の特例は、要件を満たせば被相続人と同居していなかった場合も適用を受けられます。この仕組みを一般的に、家なき子特例・家なき子と呼びます。

家なき子特例は被相続人と同居していた場合よりも要件が厳しい上、必要な書類も多いため注意が必要です。本記事で小規模宅地等の特例における家なき子について詳しく解説します。

小規模宅地等の特例の家なき子とは

はじめに、小規模宅地等の特例および家なき子の概要について解説します。

小規模宅地等の特例とは

小規模宅地等の特例とは、事業または居住の用に供されていた宅地等を相続する際、特定の要件を満たした場合は相続税評価額の減額ができる制度です。

小規模宅地等の特例による減額割合および限度面積は宅地の種類によって異なります。被相続人等の居住の用に供されていた宅地等を相続する場合、減額割合は80%、限度面積は330平方メートルです。今回は家なき子特例に絞って解説するため、事業の用に供する宅地については省略します。

小規模宅地等の特例の適用を受ける要件は、被相続人の居住の用に供されていた宅地を相続する相続人によって異なります。

被相続人の配偶者が宅地を相続する場合、同居の有無を問わず、ほかに特別な要件もありません。

被相続人と同居していた親族は、以下2つの要件を満たす必要があります。

  • 相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住する
  • 宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有する

被相続人と同居していなかった親族の場合、小規模宅地等の特例の適用を受けるための要件がより厳しくなります。

家なき子とは

家なき子特例および家なき子とは、被相続人と同居していなかった相続人であっても、一定の要件を満たすことで小規模宅地等の特例の適用を受けられる仕組みの通称です。被相続人と同居していなかった相続人を家なき子と呼ぶこともあります。

家なき子特例の要件

家なき子特例を受けるには、被相続人と相続人の両方が一定の要件を満たす必要があります。被相続人と相続人、それぞれの要件について詳しく解説します。

被相続人の要件

家なき子特例の適用に際して、被相続人が満たす必要のある要件は以下の2つです。

  • 配偶者がいない
  • 同居していた相続人がいない

被相続人が要件を満たしていない場合、家なき子特例の適用を受けられません。

相続人の要件

相続人である同居していなかった親族は、以下3つの要件すべてを満たす必要があります。

  • 相続開始前の3年以内に自己・自己の配偶者・三親等内の親族・特別の関係にある一定の法人が所有する家屋に居住していない:一定の法人が所有する家屋の例として、相続人が経営する会社の社宅が挙げられます
  • 相続開始時に取得者が居住している家屋を、相続開始前に所有したことがない
  • 相続した対象の宅地を相続税の申告期限まで所有し続ける

まとめると、被相続人が亡くなったときからさかのぼって3年間以上、第三者が所有している家屋に住んでいた相続人が特例の適用対象です。前述した同居親族が小規模宅地等の特例を利用する場合に比べると、より厳しい要件が設定されているとわかります。

【参考】平成30年度税制改正で要件が厳しくなった

参考情報として、以前の家なき子特例について紹介します。

平成30年度の税制改正までは、以下の要件を満たせば家なき子特例の適用を受けられました。

  • 相続した対象の宅地を相続税の申告期限まで所有し続ける
  • 相続開始前3年以内に自己または自己の配偶者の持ち家に住んでいない

相続開始前の3年以内に居住していた家屋について、現在よりも要件が緩いことがわかります。

かつての税制では、相続開始前3年以内に住んでいた家が法人や遠い関係にある親族の名義であれば、家なき子特例の適用を受ける上で問題ありませんでした。そのため、家なき子の要件を満たそうと、持ち家である不動産の名義人を親族や法人に変えるという事例が横行していたのです。

このような行為を防ぐため、税制改正によって家なき子の適用要件が追加され、要件が厳しくなったといえます。

家なき子特例の適用を受けるための手続き

家なき子特例の適用を受けるための手続きとして、必要書類・手続きの流れ・注意点を解説します。

必要書類

小規模宅地等の特例の適用を受けるにあたって、すべてのケースで共通して必要な書類は以下のとおりです。

  • 相続税申告書
  • 遺産分割協議書の写しまたは遺言書
  • 法定相続情報一覧図
  • 被相続人の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • マイナンバー

家なき子特例の適用を受ける場合、追加で以下の書類も必要となります。

  • 相続人の戸籍の附票の写し:これまでの住所の変遷が記載されています。相続開始前3年以内に住んでいた家を証明するために必要です
  • 相続する家屋の登記事項証明書:対象の家屋に相続開始前に所有したことがないことを示すために必要となります
  • 相続人が住んでいた家の賃貸借契約書等:相続開始時点において、相続人が持ち家に住んでいなかったことを示す証拠となる書類です

小規模宅地等の特例を適用する流れ

小規模宅地等の特例の適用を受けるまでの大まかな流れは以下のとおりです。

  1. 遺言書の有無を確認:遺言書がなければ相続人の調査を進めます。以降は遺言書がない場合の流れについて解説します。
  2. 相続人を確定
  3. 遺産分割協議を実施
  4. 遺産分割協議書の作成
  5. 相続登記を実施
  6. 相続税の申告書を作成
  7. 小規模宅地等の特例やその他特例の適用に必要な書類とあわせて相続税申告書を提出

相続税の申告時に小規模宅地等の特例の適用を受けるための手続きを行います。前述したように、申告書とあわせて必要になる書類が同居親族と家なき子で異なります。小規模宅地の特例の適用を受けるまでの流れ自体は、同居親族と家なき子の場合で特別な違いはありません。

なお、相続登記の実施と相続税の申告書作成は、順番を前後させることもできます。ただし、相続登記は手続き後に戸籍関係の書類を返却してもらえますが、相続税申告は書類の返却がありません。そのため、相続登記後に相続税申告をした方が書類を用意する手間を小さくできて効率的です。

小規模宅地等の特例の適用を受ける際の注意点

小規模宅地等の特例によって相続税がゼロになる場合も、相続税の申告が必要な点にご注意ください。

小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、相続税申告書と合わせて所定の書類を提出する必要があります。すなわち、相続税の申告をしなければ小規模宅地等の特例を利用したことにならず、小規模宅地等の特例の適用を受けられないのです。

小規模宅地等の特例は原則として、相続税の申告期限が過ぎたあとに適用を受けることはできません。期日までに相続税申告をしなかった結果、小規模宅地等の特例の適用を受けられなくなり、相続税の支払いが生じるという事態が起こり得ます。

家なき子特例の判断が難しいケースの例

家なき子特例は同居親族と比べて要件が厳しく設定されています。そのため、家なき子特例の適用対象に該当するか、判断が難しいケースも珍しくありません。

今回は家なき子特例の判断が難しいケースとして5つの例を取り上げ、それぞれ適用の可否を解説します。

被相続人が老人ホームに入居していた

被相続人が老人ホームに入居していた場合、対象の宅地が被相続人の居住の用に供されていた宅地等として小規模宅地等の特例を適用するためには次の要件が必要です。

被相続人が老人ホームに入居していた場合でも家なき子特例の適用を受けるために追加で満たすべき要件として、以下の3つが挙げられます。

  • 被相続人が亡くなる直前に要介護認定等を受けていた
  • 老人福祉法等に規定する老人ホームに入居していた
  • 被相続人の老人ホーム入居後、対象の家屋を事業の用または被相続人等以外の人の居住の用に供していない

被相続人が孫と同居していた

家なき子特例の要件のひとつとして、被相続人に同居していた親族(ここでいう親族とは相続の放棄があった場合にはその放棄がなかったものとした場合の相続人)がいないことが定められています。すなわち、被相続人が孫と同居していた場合に家なき子特例の適用を受けられるか否かは、孫が相続人に該当するかによって異なるのです。

被相続人と同居していた孫が相続人に該当しない場合は、家なき子特例の適用が可能です。

一方、代襲相続により同居していた孫が相続人になった場合、被相続人に同居していた相続人がいないという要件を満たしません。家なき子特例の対象外となり、同居していなかった親族は小規模宅地等の特例の適用を受けられなくなります。

被相続人が孫と同居していた場合は、代襲相続の発生有無を確認し、孫が相続人に該当するかで判断する必要があります。

被相続人が亡くなった後に相続人が持ち家を購入した

被相続人が亡くなった後に相続人が持ち家を購入した場合でも、家なき子特例の適用を受けることが可能です。

家なき子特例の要件に、相続開始前の3年以内に自己・自己の配偶者・三親等の親族・特別の関係にある一定の法人が所有する家屋に居住していないというものがあります。こちらの3年以内というのは、相続開始前の期間です。

持ち家の有無は相続開始前の3年間で判断するため、相続開始後に家を購入・所有するのは問題ありません。前述したその他の要件も満たしていれば、家なき子特例の適用を受けられます。

被相続人の同居親族が相続放棄をした

被相続人と同居していた親族である相続人が相続放棄をした場合、被相続人と同居していた相続人がいないという要件が問題になります。結論から申し上げると、この場合は家なき子特例の適用を受けられません。被相続人と同居していた相続人とは相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人のことをいうためです。

被相続人が亡くなる直前に、同居していた親族がいたか・同居していた親族が相続人であるかが焦点となります。たとえ相続放棄をした場合でも、亡くなる直前に同居していた相続人がいたと判断されます。そのため、被相続人と同居していた相続人がいないという要件を満たせず、家なき子特例の適用を受けられないのです。

被相続人と別居していた配偶者がいる

被相続人と別居していた配偶者がいる場合、家なき子特例の対象外となります。同居していなかった親族が小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。

家なき子特例の要件のひとつに、被相続人に配偶者がいないことが定められています。あくまで配偶者の有無そのものが大切な要素であり、同居の有無は関係ありません。被相続人に配偶者がいる以上は、同居していなかった親族は小規模宅地等の特例の適用を受けられないのです。

まとめ

家なき子特例の適用を受けるためには、一般的な小規模宅地等の特例の適用要件よりも、さらに厳しい要件を満たす必要があります。小規模宅地等の特例の適用を受けるまでの流れ自体に大きな違いはありません。家なき子特例ならではの要件や必要書類、判断が難しいケースについて、しっかり押さえることが大切です。

小規模宅地等の特例に限らず、相続税の制度は複雑なものが多くみられます。適用できる要件の判断や相続税の正しい計算などを、専門知識のない当事者のみで行うのは容易ではありません。

相続税の計算や特例の適用可否についてお悩みがあれば、税理士などの専門家に相談するのが確実です。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。