【税理士監修】内縁の妻は相続可能?内縁関係で相続を行うためのポイントを解説
更新日:2023.9.8
通常、亡くなった人の配偶者は常に相続人となる権利を有します。しかし、法的な婚姻関係ではない内縁の妻は、民法で定められている法定相続人ではありません。内縁関係の相続は、法的な婚姻関係にある夫婦の相続とは異なるポイントが多数存在します。
本記事では、内縁の妻に相続させる方法・内縁の妻との間にできた子供への相続など、内縁関係における相続について解説します。
目次
内縁の妻には相続権がない
亡くなった人による遺言書がない場合、民法によって定められた法定相続人が相続権を有します。法定相続人となり得る人は、被相続人の配偶者および特定の血縁者です。血縁者は被相続人との関係によって順位が設定されており、もっとも順位が高い人のみが相続権を有します。一方で、配偶者は常に相続人となります。
しかし、婚姻関係を提出していない内縁関係の場合、配偶者に相続権がありません。
この章では内縁関係の意味や、法定相続人となる人の条件について解説します。
内縁関係とは
内縁関係とは、婚姻届を提出していないものの、法律婚と同じように夫婦共同生活を営む関係です。事実婚とも呼ばれます。
内縁関係は単純な同棲や同居、愛人関係などと違い、当事者同に婚姻の意思があることが大前提です。そのほかにも内縁関係の判断基準となる要素として、以下の例が挙げられます。
- 同居をしているかどうか
- 同居の期間
- 生計を共にしているか
- 同一世帯として届け出ているなど、公的な手続きの有無
- 周囲(友人、知人、近所になど)に紹介して夫婦と認識されているか
- 挙式の有無
- 認知した子どもの有無
内縁関係の有無は、さまざまな基準から総合的に判断されます。当事者間の認識だけでなく、客観的な事実が必要です。
内縁関係の夫婦にも、民法上の夫婦同等の権利・義務が認められている項目が複数存在します。法律婚の夫婦と同様の権利義務として、民法752条の同居・協力・扶助の義務、民法761条の日常家事の連帯責任の義務などが挙げられます。
ただし、内縁関係の夫婦には法律婚の夫婦のような相続権は認められていません。したがって、特別な対策などをしない限り、内縁の妻に相続させることはできないのです。
法定相続人とは
法定相続人とは、民法で定められている相続人です。被相続人による遺言書がない場合、法定相続人に相続権が発生します。
法定相続人となり得るのは、被相続人の配偶者と特定の血縁者です。血縁者は被相続人との関係によって、以下のように順位付けられています。
- 第一順位:直系卑属(被相続人の子供または孫)
- 第二順位:直系尊属(被相続人の親または祖父母)
- 第三順位:被相続人の兄弟姉妹または甥姪
相続権が発生するのは、配偶者およびもっとも順位の高い血縁者のみです。被相続人の配偶者・子供・親が存命の場合、法定相続人になるのは配偶者と子供です。直系尊属である親は法定相続人となる可能性があるものの、より高順位である子供がいるため、今回の例では相続権を有しません。
ただし、配偶者が相続権を有するのは、婚姻届を提出済である場合のみです。被相続人に内縁の妻・子供・親がいる場合、法定相続人になるのは子供のみとなります。
内縁の妻に相続させる方法
内縁関係の配偶者には相続権が発生しないため、通常の方法では内縁の妻に相続させることができません。内縁の妻に財産を移転する方法として、以下の例が挙げられます。
- 遺言書を用意する
- 生前贈与をする
- 特別縁故者として認められる
- 内縁関係でも主張できる契約や制度を活用する
それぞれの方法について、具体的な進め方やポイントなどを解説します。
遺言書を用意する
内縁の妻に相続させる効果的な方法のひとつが、遺言書の用意です。
被相続人による遺言書が存在する場合、遺言書の内容通りに財産移転が行われます。遺言書のなかに、内縁の妻に財産を引き継がせる旨を記載すれば、内縁の妻に財産を移すことが可能です。
なお、遺言による財産移転は相続ではなく遺贈と呼びます。相続という呼び方ではありませんが、遺贈によって継承した財産も相続税や各種相続手続きの対象となります。
生前贈与をする
生前贈与とは、文字通り生前のうちに贈与をすることです。贈与は双方の合意があればだれにでも自由に行えるため、内縁関係の妻が相手でも問題ありません。また、贈与は相続に比べて手続きが容易というメリットもあります。そのため、内縁の妻への財産移転をよりスムーズかつ確実に行いたい場合、生前贈与は効果的な手段です。
ただし、贈与額が年間110万円を超える場合、贈与税の納付が必要になります。財産移転にともなう税負担をなるべく抑えるためには、年間110万円以下の基礎控除枠を活用し、長期的に生前贈与を続けるのが理想です。
特別縁故者として認められる
特別縁故者とは本来相続人ではないものの、亡くなった被相続人と特別な関係にあったために、財産を受け取る権利が発生した人を意味します。内縁の妻が特別縁故者として認められれば、相続によって財産を受け取ることが可能です。
特別縁故者として認められるのは、被相続人に法定相続人がいないことが大前提です。そのほかにも、以下のような要件を満たす必要があります。
- 被相続人と生計を一にしていた:生計を一にしているか否かは、内縁関係を判断する基準のひとつでもあります
- 被相続人の身の回りの世話をしていた(療養看護を行なっていた):医師やヘルパーなど、対価を得て療養看護を行なった人は対象外です
- 特別に密接な関係があった:被相続人と密接な関係であったことがわかる証拠が必要です
特別縁故者として認められるためには、被相続人の最後の住所地にある家庭裁判所で申立てを行う必要があります。申立てには以下の書類や費用が必要です。
- 特別縁故者に対する相続財産分与の申立書:裁判所の公式サイトに書式および記載例があります
- 申立人の住民票または戸籍附票
- 収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手
必要に応じて上記以外の追加書類が求められる可能性があります。
なお、特別縁故者は相続税の2割加算の対象です。被相続人の法律上の配偶者・直系卑属・直系親族以外が相続や遺贈によって財産を取得した場合、相続税の納付額が2割加算されます。たとえば、計算された相続税額が500万円であった場合、納付額は500万円に2割加算した600万円となります。
内縁の妻が特別縁故者として認められた場合でも、2割加算した相続税額の納付が必要です。
内縁関係でも主張できる契約や制度を活用する
本来の意味の相続とは異なりますが、内縁関係でも主張できる契約や制度を活用するのもひとつの手段です。具体例を3つ紹介します。
- 賃貸借契約:内縁の夫が借りたアパートで同居している内縁の夫婦がおり、内縁の夫が亡くなった場合も、内縁の妻はアパートに居住し続けられると賃借権を認めた裁判例 があります(事件番号|昭和40(オ)1435)。本来の契約人であった内縁の夫が亡くなった場合、内縁の妻は賃借権を援用し、居住する権利を主張できるという要旨です
- 生命保険:生命保険の受取人を内縁の妻にすることで、内縁の妻に財産を遺せます。ただし、内縁の妻を受取人にできるか否か・加入条件の有無などは、保険会社によって異なります
- 遺族年金:内縁関係の夫婦であっても、条件を満たせば遺族年金の受け取りが可能です
内縁の妻に相続させる際の注意点
内縁関係の配偶者は相続権を有しませんが、事前にできる対策を行えば、内縁の妻に財産を移転できるケースがあります。ただし、内縁の妻に対する相続にはさまざまな注意点があります。特に注意したいポイントは以下の4点です。
- 内縁の妻との子は相続権を持つ
- 配偶者に認められている控除制度は利用できない
- 内縁関係を証明できるよう準備する
- 遺留分に注意
それぞれ詳しく解説します。
内縁の妻との子は相続権を持つ
関係にない夫婦であっても、内縁の夫が子供を認知すれば、子供には通常と同様の相続権が認められます。婚外子には相続権がないと考えてしまうと、相続手続きの誤りを引き起こす恐れがあるため注意が必要です。
なお、内縁の夫の認知によって子供に相続権が発生した場合でも、内縁の妻は相続人になれません。配偶者が法定相続人になるためには、法的な婚姻関係が必要という事実は同様です。
配偶者に認められている控除制度は利用できない
遺言書によって内縁の妻への遺贈が行われた場合、配偶者に認められている控除制度は適用できません。
相続税には、配偶者の税額の軽減制度があります。配偶者の税額の軽減とは、配偶者が相続や遺贈によって取得した財産額が以下のどちらか大きい金額までであれば、配偶者には相続税が発生しないという制度です。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
配偶者の税額の軽減制度の適用対象となるのは、法的な婚姻関係にある配偶者のみとなります。内縁の妻は適用を受けられない点に注意が必要です。
配偶者の税額の軽減に限らず、以下の控除・特例の適用も受けられません。
- 障害者控除:障害者控除が適用されるのは法定相続人のみです。内縁の妻は法定相続人ではないため適用対象外となります
- 小規模宅地等の特例:法定相続人以外が遺贈を受けた場合も適用できますが、取得者が親族であることが条件となります。内縁の妻は親族ではないため対象外です
内縁関係を証明できるよう準備する
内縁関係でも主張できる契約や制度を活用できるよう、内縁関係を証明するための準備をする必要があります。
賃貸借契約や遺族年金などの制度を活用する際は、内縁関係の証明が必要になる可能性が高いです。事前に準備をしておくことで、内縁関係の証明がスムーズに進みやすくなると期待できます。
内縁関係を証明するために必ず行いたい準備のひとつが、役所への届け出です。役所に内縁関係の事実を住民票に反映してもらうよう届け出ることで、住民票の続柄に【妻(未届)】【夫(未届)】と記載されます。住民票は公的な書類であるため、内縁関係を証明する方法として効果的です。
ただし、内縁関係の有無はさまざまな基準から総合的に判断されます。住民票への記載以外にも、挙式の実施・子供の認知など、なるべく多くの準備・対策を行うのが安心です。
遺留分に注意
遺言書によって内縁の妻に遺贈をする場合、遺留分に注意が必要です。
遺留分とは一定の法定相続人に認められている最低限の財産取得分を意味します。遺留分の権利は遺言書よりも強い効力を有します。遺言が遺留分を侵害した内容である場合、遺贈を受けた内縁の妻が遺留分減殺請求をされる恐れがあります。
内縁の妻へトラブルなくスムーズな遺贈を実現するためには、遺留分を侵害しない内容にすることが大切です。
まとめ
婚姻届を提出していない内縁の妻には相続権がありません。内縁の妻へ相続させたい場合、生前贈与や遺言書の作成などの実施が必要です。事前にできる方法・対策を行えば、内縁の妻に対して理想的な財産移転ができる可能性があります。
ただし、法的な婚姻関係にある配偶者への相続と異なる部分が多く、さまざまな点に注意が必要です。内縁の妻への確実な財産移転やトラブルを防ぐためには、専門家へ相談するのが安心です。
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監修者
小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士
84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。
2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。
複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。