【税理士監修】借地権の相続はどうする?計算方法や想定されるトラブルとは
更新日:2024.12.9
両親が亡くなった場合、真っ先にご実家の相続について考える人は多いです。もしも実家が借地だと知ったとき、「借地も相続財産に含まれるのだろうか」と不安に思う人もいるでしょう。
借地や借地権は、相続財産に含まれます。しかし、一般的な相続財産を相続するような手続きは必要ありません。しかし、相続税の申告義務はあるため、借地の評価額について確認しておくことが大切です。
また、借地ということは地主が存在します。通常の不動産の相続とは異なり、第三者が介入してくることもあるためトラブルが起きやすい相続財産とも言えるでしょう。借地権の相続は、手続きが必要ないため簡単に思いがちですが、専門家へ相談したほうがトラブルを避けやすいのも事実です。自分たちだけで解決するのではなく、専門家への相談も考えましょう。
目次
借地権とは何?借地権は相続財産として認められる?
借地権とは、文字通り土地を借りる権利のことであり、土地を所有している所有権とは異なります。借地権の相続が発生する前に、まずは借地権についてしっかりと把握しておきましょう。
借地権とは
近年、地価は高騰しており、土地を購入することが難しい家庭も多くなっています。そこで注目を浴びているのが、借地権です。土地は、借地権を付与することで土地を貸すことができ、借りる側は土地を購入するより安い値段で土地を利用することができます。
借地権とは、一般的には土地を借りる権利のことを指し、大きく分けて以下2種類に区別できます。
- 賃借権
- 地上権
地上権は、地主の許可を得ずに第三者に譲渡ができる権利です。一方、賃借権は地主の許可が必要であり、勝手に第三者に譲渡や賃貸をおこなうことはできません。
さらに、借地権は以下2つに分けることもできます。
- 普通借地権
- 定期借地権
普通借地権は、更新のある借地権です。平成4年8月に施行された借地借家法の改正により、更新ができない定期借地権とは、異なる借地権であることをあらわすために普通借地権と呼ばれています。普通借地権は、30年経った後に1回目の更新20年をおこないます。
また、定期借地権は契約の更新がなく、契約期間を満了したら建物を壊し土地を返さなければなりません。定期借地権には、一般定期借地権、事業用定期借地権、建物譲渡特約付き借地権の3種類があり、たとえばコンビニエンスストアなどのお店は、事業用定期借地権が利用されています。
定期借地権は、契約の更新がないため期間満了をもって地主に返還しなければならず、将来的に土地としての資産を持てるわけではありません。資産価値を考えるのであれば、どの種類の借地権が良いのか、しっかりと把握する必要があるでしょう。
借地権と所有権はどう違う?
借地権は、所有権とは異なります。どこに違いがあるのか、以下の表にまとめました。
土地の売買 | 土地を貸す | 土地の管理 | 土地の利用 | |
借地権 | 不可能 | 地主による | 可能 | 可能 |
所有権 | 可能 | 可能 | 可能 | 可能 |
所有権は、自分自身が土地を持っていると証明できる権利です。そのため、土地を購入した段階でその土地は自分自身ものになり、売買や賃貸も可能になります。さらに、自由に売却もできるため将来的に資産価値も高いです。
一方、借地権は土地を所有するための購入費用の代わりに、地代を支払う必要があります。かかる費用としては、借地権のほうがトータル的に考えても低いメリットがありますが、使い勝手が良いのは所有権でしょう。
借地権は相続できる
借地権は、相続財産に含まれる権利であるため、相続することが可能です。しかし、借地権であると明確にできなければ、借地権として相続することはできません。
借地権であると評価ができるためには、以下2つの条件を満たす必要があります。
- 建物を建てて所有しているか
- 使用貸借ではない
具体的には、親族が所有している土地に建物を建てて住んでいる場合、地代が無料もしくは固定資産税相当額程度の場合は借地権とはなりません。
借地権であると評価するためには、以下のポイントを確認しましょう。
- 地代を支払っている
- 支払っている地代の額が適正である
- 権利金を支払っている
地代の適正額とは、相場の地代であるかどうかです。たとえば、固定資産税額に相当する額だけを支払っている場合は、相場の料金に到達していないため地代を支払っているとは言いません。
借地権はどうやって遺産分割する?
借地権を遺産分割する方法は、通常の土地の遺産分割をする方法と同じです。しかし、借地権には地主という第三者が介入するため、特有のトラブルが起きる可能性が高く、相続人間で遺産分割が無事に終わるとは限りません。
現物分割
現物分割とは、相続財産のなかに複数の不動産が含まれている場合、それぞれの不動産を相続人間で分割する方法です。しかし、不動産はすべて同じ価値になることはないため、相続人間で公平に分割することは難しいと言えます。
代償分割
代償分割とは、遺産を現物のまま相続する代わりとして残りの相続人に代償金を交付する方法を言います。
この場合、代償金をほかの相続人に支払う資力が必要となります。
換価分割
換価分割は、借地権を売却することで現金化し、相続人間で現金を分配する方法です。
換価分割する場合は地主からの承諾が必要になるため、地主に許可を得てから売却しなければなりません。また、承諾してもらうための承諾料を支払う必要もあり、売却した金額そのものを分配することはできないため、注意が必要です。
借地権の評価方法
借地権の評価方法は、借地権の種類によって異なります。以下2つの借地権に分けた評価方法について確認しましょう。
- 普通借地権
- 定期借地権
普通借地権
普通借地権の評価額の計算方法は、以下のとおりです。
- 自用地の評価額×借地権割合
自用地の評価額とは、借地を更地とした場合の評価額であり、通常の土地の評価をする際と同じ方法で評価します。具体的には、路線価や倍率方式のどちらかで評価されるため、国税庁のホームページで確認しましょう。
一方、借地権割合は地域ごとによって国税庁が定めており、路線価図や評価倍率表に表示されています。借地権割合も、路線価同様、国税庁のホームページ で確認が可能です。30%から90%の範囲で決められています。
定期借地権の評価方法
定期借地権とは、契約期間が決められている借地権であるため、普通借地権とは異なり契約期間が計算に含まれます。
定期借地権等の評価方法は以下のとおりです。
- 自用地評価額×(A÷B)×(C÷D)
- A:定期借地権の設定時、借地人に帰属する経済的利益の総額
- B:定期借地権等の設定時、その土地の通常の取引価格
- C:相続税が発生したとき、定期借地権の残りの契約期間に応ずる基準年利率による複利年金現価率
- D:定期借地権の設定期間に応ずる基準年利率による複利年金現価率
Aは、権利金や保証金などをもとにして計算が可能です。一般的には、敷金礼金のことを権利金や保証金と呼びます。また、Cは相続をすると決まったとき、あとどれぐらいの賃借期間が残っているか、ということです。
基準年利率は、国税庁のホームページに詳細が記載されているため、相続が発生した年度や月の基準年利率を確認しましょう。また、複利年金現価率も、基準年利率が掲載されているページ 内から確認することが可能です。
しかし、定期借地権の評価は、普通借地権とは異なり複雑な計算方式となります。どれも専門用語ばかりなため、初心者で評価額を計算するのは困難でしょう。できるかぎり、専門家に相談したほうが無難です。
借地権の相続に地主の許可は必要?
借地権には、第三者である地主が存在します。そのため、相続に許可が必要なのではないかと不安に考えている人もいるでしょう。借地権の相続をするにあたり、地主とはどのように手続きを進めればよいのか説明します。
単純な相続なら必要ない
借地権を単純に相続する場合は、地主の許可は必要ありません。賃貸借契約書の書き換えも同様であり、とくに必要な手続きがあるわけではありません。しかし、建物自体の相続は名義変更が必要なため、手続きをおこないましょう。
また、「同居していた人だけが相続できるのではないか?」と誤解している人も多いですが、借地権は同居していなかったとしても、相続が可能です。しかし、地主も生身の人間です。良好な関係を築くためにも、借地権の相続をする場合は一言告げるようにしてください。
一方、地主によっては「借地権者が死亡した場合は土地を返してほしい」と伝えてくる地主もいます。しかし、一般的に借地権者が死亡した場合でも、土地を返す義務はないため返す必要はありません。
借地権は、地主という第三者が介入することでトラブルに発展しやすくなります。仮に、地主とトラブルになりそうだと判断した場合は、専門家へすぐに相談しましょう。
遺贈を受ける場合は許可が必要
法定相続人の場合、借地権の相続に地主の許可は必要ありません。一方、法定相続人ではない人に遺言で財産が与えられる遺贈の場合は、地主の承諾が必要となります。
承諾は、基本的に以下の流れです。
- 地主へ承諾を請求する
- 地主が承諾する
- 所有権の移転登記をおこなう
- 承諾料を地主に支払う
遺贈された本人自身が、地主に承諾の請求をおこないましょう。請求された地主は、承諾したことを本人へ伝えます。このとき、トラブルを避けるためにも、はっきりと承諾したことが証明できるよう内容証明などを利用して、承諾したことを伝えたほうが良いです。
承諾を得たあとは、地主へ承諾料を支払います。承諾料は、借地が更地だった場合の土地価格10%が相場です。仮に、土地価格が1,000万円の場合、承諾料は100万円になります。
もしも、地主からの承諾を得ることができなかった場合、家庭裁判所へ申し立てすることで法的に許可を得ることが可能です。この申し立てさえ却下されてしまった場合は、借地権の遺贈はなかったことになるため弁護士などの専門家に相談しましょう。
地主の許可があれば売却もできる
地主の許可があれば、売却も可能です。遺産分割協議を進める上で、借地権を売却することになれば、地主に許可を得て売却すると良いでしょう。しかし、地主の許可なく勝手に売却することは、契約違反となります。必ず地主に相談し、許可を得るようにしましょう。
借地権の売却方法は、たとえば以下のとおりです。
- 地主に買い取ってもらう
- 第三者に売る
- 地主から底地を買い取り借地権から所有権に変更し、売却する
借地権を売却する場合は、地主の許可が必要です。普段から、地主と良好な関係を築くように注意しましょう。
借地権の相続で起きがちなトラブル
借地権は、一般的な土地とは異なり地主という第三者が介入します。そのため、トラブルも起きやすいのが現状です。よく起きがちなトラブルについて確認し、事前にトラブルは避けるように動きましょう。
相続するなら承諾料を支払えと金銭を要求される
地主によっては、「相続する場合は承諾料を支払え」と要求してくる場合もあります。借地権の相続は、とくに必要な手続きもなく、地主の許可さえ必要ありません。そのため、基本的には承諾料を支払わなくても良いです。
しかし、昔からの関係や、借地権を設定した際に死亡した人と地主の間で、相続する場合は承諾料を支払うという口約束などをしていた場合は、支払ったほうが無難なこともあります。地主も人であるため、相続した後も良好な関係を築きたい場合は、どちらかが引くことも大切です。
借地権者が亡くなったのなら立ち退けと言われる
「1代限りとの約束だったため、死亡したのであれば立ち退いてほしい」と、地主から言われることもあります。しかし、地主の言う口約束は、借地借家法の第9条により、無効の特約とされます。そのため、立ち退く必要はありません。
それでも立ち退けといわれた場合は、専門家へ相談しましょう。仕方なく立ち退くことに決めた場合も、相応の請求ができるため、地主とのトラブルに発展する前に相談してください。
値上げを要求されることもある
相続を機に、地代の値上げをされることもあります。一般的に、借地権の相続とは死亡した人と同じ条件を受け継ぐことになるため、地代の値上げに応じる必要はありません。
しかし、賃貸借契約書に地代の値上げに関する記述があった場合は、応じる必要があります。また、周辺の地代の相場に比べると安いという理由で交渉された場合も、交渉に応じる必要があるでしょう。
値上げに不満を覚える場合は、専門家に相談し公正な判断をあおぐ必要があります。
更新させてもらないこともある
更新させてもらえない場合は、裁判所への申し立てを検討しましょう。
まとめ
借地権とは、土地を借りる権利のことであり、相続財産に含まれるものです。そのため、相続することが可能であり、法定相続人が相続する場合は、手続きなどは必要ありません。
しかし、借地権ということは土地を貸す地主が存在します。地主から土地を借りている立場になるため、トラブルは起きやすいと言えるでしょう。実際に、借地権に関するトラブルは多く、泥沼化してしまい地主との関係が悪化しているケースも多いです。
このことからも、借地権の相続がスムーズにいくように、先代と地主が良好な関係を築けていることが重要だと言えます。また、専門家などの公正な立場である人を介入させたほうが、穏便に終わらせることも可能です。
トラブルに発展しそうだと判断した場合は、すぐに専門家に相談しましょう。
相続税申告は、やさしい相続相談センターにご相談ください。
相続税の申告手続きは、初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし、適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
初回相談は無料です。ぜひご相談ください。
監修者
山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。