【税理士監修】遺産分割協議書は必要か?必要な例・不要な例や、作成時のポイントなどを解説
更新日:2023.9.8
遺産分割協議書は遺産分割について、誰が・何を・どのくらい相続するかなど、遺産分割協議で決まった内容を記載した書類です。相続手続きのさまざまな場面で登場する用語であるため、相続には遺産分割協議書が必要不可欠と考えている人も多いのではないでしょうか。
しかし、遺産分割協議書は必ずしも必要とは限りません。本記事では遺産分割協議書が不要なケースの例や、遺産分割協議書を作成する際のポイントなどを解説します。
目次
遺産分割協議書は必要か?判断する前に概要を確認
遺産分割協議書の必要・不要の判断について紹介する前に、まずは遺産分割協議書の概要を解説します。
遺産分割協議書とは、遺産分割協議の内容を記載する書類です。遺産分割協議は相続人全員で、相続人の誰が・何を・どのように相続するかを話し合って決定します。遺産分割協議書には、遺産分割協議で決定した内容について記載する必要があります。
遺産分割協議書に厳密な書式はありません。しかし、必要事項をわかりやすく記載する・相続人全員の署名押印をするなど、いくつかのポイントを押さえる必要があります。必要事項の漏れや記載方法の誤りなどがあると、遺産分割協議書の効力を失う恐れがあるため注意が必要です。
遺産分割協議書は必要か? 不要なケースの例を紹介
遺産分割協議書はすべての相続において必要とは限りません。遺産分割協議書が不要な例として、以下2つのケースが挙げられます。
- 遺産分割協議自体が不要な場合
- 名義変更および相続税申告が不要な場合
それぞれのケースについて、なぜ遺産分割協議書が不要であるか・判断する基準は何かなどを詳しく解説します。
遺産分割協議自体が不要な場合
遺産分割協議書は、遺産分割協議の内容を記載する書類です。すなわち遺産分割協議自体が不要・遺産分割協議を行わない場合は、遺産分割協議書の作成も必要ありません。
遺産分割協議自体が不要なケースとして、以下の例が挙げられます。
- 相続人が1人である:遺産分割協議は遺産分割についてほかの相続人と話し合う行為です。相続人が1人である場合は、ほかの相続人という概念自体が存在しません。1人がすべての遺産を相続することが決定づけられているため、遺産分割協議が起こり得ず、遺産分割協議書も不要となります
- 遺言通りに相続する:遺言通りに相続する場合も、遺産分割協議の必要がありません。遺産分割協議は相続人全員が納得のいく遺産分割の方法を決定するための話し合いです。遺言が存在し遺言通りに遺産分割を行うのであれば、遺産分割協議の必要性がないため、必然的に遺産分割協議書も必要ではなくなります
- 遺産を法定相続分で分割する:民法で定められている法定相続分で分割する場合も、遺産分割協議の必要がなくなります。したがって、遺産分割協議の内容を記載する遺産分割協議書も不要です
- 相続対象となる遺産がない:亡くなった人が遺産を有していなければそもそも相続が発生しないため遺産分割協議が起こらず、遺産分割協議書を作成する必要もなくなります
遺産分割協議をしない場合、遺産分割協議書を作成する余地も起こりません。したがって、遺産分割協議が必要ない=遺産分割協議書も不要といえます。
名義変更および相続税申告が不要な場合
名義変更および相続税申告が不要な場合も、遺産分割協議書を作成しなくて問題ないケースが多いです。
遺産分割協議書は、名義変更や相続税申告の際に提出が必要になります。すなわち、名義変更および相続税申告が不要であり、相続人全員が遺産分割協議書を必要ないと考えている場合であれば、遺産分割協議書を必ずしも作成する必要はないのです。
名義変更が必要な遺産として、以下の例が挙げられます。
- 不動産
- 自動車
- 株式などの有価証券
相続税申告が不要なケースの代表例は、相続税の基礎控除によって課税対象額がゼロになる場合です。相続税には基礎控除という仕組みがあり、遺産総額から基礎控除を引いた額に相続税が課せられます。すなわち、基礎控除を引いた額がゼロまたはマイナスであれば、相続税は発生しないのです。
相続税の基礎控除は以下の式で計算します。
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
なお、基礎控除以外のさまざまな控除・特例制度によって相続税の額がゼロになった場合、相続税の納付は不要であっても申告は必要なケースが多いです。相続税の申告が必要である場合は遺産分割協議書も必要となる可能性が高くなります。
遺産分割協議書の必要性を考える際は、相続税の納税の有無ではなく、申告の有無で判断が必要です。
遺産分割協議書は必要か? 必要となるケースの例を紹介
原則として、遺産分割協議書が不要なケース以外であれば、遺産分割協議書が必要であるといえます。今回は遺産分割協議書が必要となるケースのなかでも、特に多い例を4つ取り上げました。
- 法定相続分での分割をしない
- 名義変更が必要な財産がある
- 相続税の申告をする
- 相続人同士のトラブルを回避する
それぞれ詳しく解説します。
法定相続分での分割をしない
遺言書がない状態で法定相続分での相続をしない場合、遺産分割協議の内容を記録する必要があります。そのため、遺産分割協議書の作成が必要です。
民法では法定相続人ごとの相続割合として、法定相続割合が定められています。しかし、必ずしも法定相続割合通りに遺産分割をする必要はありません。被相続人との関係性や介護などの貢献度合いなど、さまざまな要素を考慮したうえで話し合いを行い、相続割合を決定するケースが多いです。
遺産分割協議によって法定相続分以外の割合で遺産分割を行うことになった場合は、遺産分割協議書を作成・内容を正しく記載する必要があります。
名義変更が必要な財産がある
名義変更が必要な財産がある場合、遺産分割協議書が必要です。より正確に表現すると、相続人が複数存在・法定相続分とは異なる割合で遺産分割を行う場合に、遺産分割協議書が必須となります。
名義変更の際は各機関に必要書類の提出を行いますが、必要書類のひとつに遺産分割協議書が含まれます。各機関のルールに従い、遺産分割協議書などの必要書類をしっかり揃えることが大切です。
なお、軽自動車の名義変更であれば、遺産分割協議書が必要ありません。また自動車の名義変更についても、指定の用紙に必要事項を記入すれば済むケースもあります。名義変更に際して必要となる書類を事前に確認しておくと安心です。
相続税の申告をする
相続税の申告をする場合も、遺産分割協議書が必要になります。ただし、相続税申告を行うからといって、すべての場合に遺産分割協議書が必要なわけではありません。以下のケースに当てはまる場合は、相続税申告に際して遺産分割協議書が必要です。
- 法定相続分以外の割合で遺産分割を行う:相続税は相続財産の額に応じて課されるため、法定相続分以外で遺産分割を行う場合、相続内容を明確に証明する書類として遺産分割協議書が必要です
- 配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などを適用する:控除制度や特例によっては、遺産分割協議書の提出が適用を受ける条件として設定されています
遺産分割協議書を作成せずにいると、スムーズな相続税申告が実現しない恐れがあるため注意が必要です。
相続人同士のトラブルを回避する
相続人同士のトラブルを回避するにあたって、遺産分割協議書は重要な意味合いを持ちます。
遺産分割協議書を作成せずにいると、遺産分割協議が終わった後で内容の撤回や不満を言う相続人が出たときに、強く反論できる材料が存在しません。言った・言わないに関する争いや水掛け論が発生し、大きなトラブルにつながる恐れがあります。
遺産分割協議書は遺産分割協議の内容を証明する書類です。相続人全員が合意したことを示す書類でもあるため、遺産分割後のトラブルを防ぐ効果も期待できます。遺産分割協議書が不要である場合も、後に相続人同士のトラブルが予想される場合は作成しておくのが無難です。
遺産分割協議書を作成するポイント
遺産分割協議書に厳密な書式はありません。しかし、必要な記載事項や守るべきルールが複数存在するため、作成方法について押さえることが大切です。
遺産分割協議書を作成する際に押さえたいポイントとして、以下の4点が挙げられます。
- 遺産分割協議書作成の流れを押さえる
- 必要事項を漏れなく記載する
- 相続財産について曖昧な書き方をしない
- 相続人全員が各自所有する
ポイントについて、それぞれ詳しく解説します。
遺産分割協議書作成の流れを押さえる
遺産分割協議書をスムーズに作成するためには、事前に作成の流れを押さえておくことが理想です。遺産分割協議書を作成するまでの大まかな流れは以下のとおりです。
- 相続人を確定させる:被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を収集し、相続人を確定します
- 財産目録を作成する:相続対象となる財産を調査・確定し、財産目録を作成します。スムーズな遺産分割協議・相続手続きのために必要です
- 遺産分割協議の実施:原則として、相続人全員の参加・合意が必要です。ただし、必ずしも全員が顔を合わせる必要はなく、電話やメールなどでの意見表明もできます。最終的に全員が合意する必要があります
- 遺産分割協議書の作成:遺産分割協議の決着がついたら、いよいよ遺産分割協議書の作成です。必要事項や注意点については後述します
- 相続人全員による署名捺印:相続人全員による署名捺印を行います。印鑑は実印を使うのが理想です
必要事項を漏れなく記載する
遺産分割協議書を作成する際は、必要事項を漏れなく記載することが大切です。
遺産分割協議書の書式に厳密な決まりはありませんが、必要事項に漏れがあると遺産分割協議書の効力を失う恐れがあります。そのため、遺産分割協議書を作成する際は、書式よりも記載事項の抜け漏れがないかに注意が必要です。
遺産分割協議書の作成に際して、特に漏れが起こりやすい事項を紹介します。
- 相続財産の内容:遺産について、誰が・何を・どのように相続するか漏れなく記載が必要です。相続財産に少しでも記載漏れがあると、遺産分割協議のやり直しや遺産分割協議書の作り直しの必要性が発生する恐れがあります
- 遺産分割協議を作成した日:日付についても明記が必要です
- 遺産分割協議書が複数枚になる場合には、用紙と用紙の間に全員分の契印を押す:押印箇所が多いと押印漏れが起こりやすくなるため、必要事項を漏れなく明記しつつも、なるべく少ない枚数にまとめるのが理想です
相続財産について曖昧な書き方をしない
遺産分割協議書は誰が見てもわかる内容にする必要があります。相続財産について曖昧な書き方をしてしまうと、遺産分割協議書としての効力を発揮できない恐れがあります。
特に注意が必要となる相続財産が不動産です。不動産は財産の表記が曖昧なケースが少なくありません。不動産の表記が曖昧である場合、名義変更のために法務局に提出しても認められず却下されてしまう恐れがあります。
当事者である相続人は簡単な書き方でも判断できるかもしれませんが、第三者が見てもわかるように、正確かつ詳細に記載する必要があります。したがって、不動産の所在・地番・地目・地積までしっかり記載が求められます。登記簿の通りに記載するのが無難です。
不動産以外の財産も、内容を特定できるように具体的に記載する必要があります。預貯金であれば銀行名・支店名・種別・口座番号・口座名義、有価証券は銘柄のほか、利用している証券会社名・口座番号などの記載も必要です。
相続人全員が各自所有する
後のトラブルを防ぐため、遺産分割協議書は相続人全員が所有する必要があります。
ただし、相続人の人数が多い場合、人数分の原本を作成するのは大きな手間となります。必ずしも全員が原本を所有する必要はなく、原本を1通のみ作成して相続人の代表者が保管し、ほかの相続人はコピーを保管する方法も可能です。
まとめ
遺産分割協議書は相続手続きで重要な書類のひとつではありますが、必ずしも必要とは限りません。遺産分割協議書について正しく理解するために、遺産分割協議書が必要なケース・不要なケースを事前に確認しておくのが安心です。
遺産分割協議書が必要な場合、ポイントを押さえて作成する必要があります。必要事項の漏れやミスがあると、せっかく作成した遺産分割協議書が効力を失う恐れがあります。遺産分割協議書の作成について疑問や不安があるならば、専門家への相談をおすすめします。
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監修者
山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。【執筆実績】「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他、【メッセージ】亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って、相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。