【税理士監修】遺言書の持つ効力とは?無効になるケースと確実性を高めるポイント

更新日:2023.9.8

遺言書とは、自身の財産に関する意思表示をするための書類です。遺言書を作ることで、遺産の渡し方を指定できます。自身の身に万が一のことが起きた場合に備えて、遺言書を作成しようと考えている方も多いのではないでしょうか。
遺言書の作成時は、作成方法を誤ると無効となる可能性があるため、正しい知識を身に付けることが大切です。本記事では、遺言書の種類や効力について詳しく紹介します。また、作成時の注意点や無効になるケース、確実性を高めるポイントなども併せて解説します。遺言書の作成を検討中の方に必見の内容です。ぜひ参考にしてみてください。

遺言書の種類

遺言書には大きく分けて3つの種類があり、種類によって遺言書の作成方法や保管方法が異なります。事前に概要を確認し、自身に合った遺言書を選択しましょう。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者が自分で作成する遺言書のことです。遺言を作成するタイミングや内容、保管方法などに縛りがなく、比較的気軽に作成できます。

自筆証書遺言には、作成年月日や遺言者の氏名、遺言の内容を自署し、自身の印鑑が必要です。書類の形式に決まりはないものの、必要事項の記載がないと無効となる恐れがあります。また、紛失や改ざんのリスクがある点にも注意が必要です。

メリット・気軽に作成できる ・費用がかからない
デメリット・記載内容に不備があると無効になる ・紛失や破損、改ざんや偽装のリスクがある ・遺言を開封する際は家庭裁判所での検認が必要

公正証書遺言

公正証書遺言は、遺言者が公証人に依頼し、公証役場で作成してもらう遺言書類です。書類を作成する際は、実印と印鑑証明書のほか、2人以上の証人を連れていく必要があります。

公正証書遺言は、公証人が作成し公証役場で保管されるため、確実性が高い点に魅力があります。また、遺言を開封する際に家庭裁判所で検認を受ける必要がありません。

メリット・改ざんや偽装のリスクが少ない ・遺言書の保管に困らない ・形式的な間違いや記載ミスが起こりにくい
デメリット・遺言書の作成に手間と時間がかかる ・費用が発生する ・証人を2名指定する必要がある

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、自身で作成した遺言書を公証役場で公認してもらう方法です。遺言書は自身で記載するため、他者に内容を知られる心配がありません。また、証人2名と公証人の署名・捺印をもらうことで、自身の遺言書が存在することを公に認められます。公証役場に記録が残るため、遺言書の存在をもみ消されたり内容を改ざんされたりするリスクを削減できるのもうれしいポイントです。

ただし、開封時は家庭裁判所の検認が必要となる点や、手数料が発生する点はデメリットと言えるでしょう。また、公正証書遺言と同程度の手間が発生するものの、確実性は低くなります。

メリット・改ざんや偽装のリスクが少ない ・遺言書の保管に困らない ・形式的な間違いや記載ミスが起こりにくい
デメリット・遺言書の作成に手間と時間がかかる ・費用が発生する ・証人を2名指定する必要がある

特別方式の遺言書

特別方式の遺言書とは、特殊なケースで作成される遺言書のことです。大きく分けて以下のような4つの種類があります。
・一般危急時遺言:死亡の危険がある際に、3名以上の証人を立てて口頭で作成する遺言書のこと
・難船危急時遺言:遭難した船舶の中におり死亡の危険がある際に、2名以上の証人を立てて口頭で作成する遺言書のこと
・一般隔絶地遺言:伝染病などで隔絶された場所にいる者が、警察官1名と証人1名以上の立会いのもとで作成する遺言書のこと
・船舶隔絶地遺言:船舶の中におり他の空間と隔絶された者が、船舶関係者1名と証人2名以上の立会いのもとで作成する遺言書のこと
このように、死亡リスクの高い環境の中で緊急として遺言書を作成する方法です。そのため、遺言者が通常の遺言書を作成できる状態に戻ってから6ヵ月以上生存した際は、特別方式で作成した遺言書の効力がなくなります。

遺言書が持つ3つの効力

遺言書にはどのような効力があるのでしょうか。遺言書の持つ3つの効力について解説します。

遺産の分割方法や割合の指定ができる

遺言書を作成することで、遺産の分割方法や割合を指定できます。具体的な効力は以下の通りです。

・誰にどの財産をどれくらい渡すかを指定できる

・法定相続人以外の人物への遺贈も指定できる

・生命保険金の受取人を指定できる

例えば、孫に全財産を渡したいというケースや、事業を次男に継承してほしいといった希望を持つ場合もあるでしょう。遺言書に記載すれば、特定の人に多くの財産を渡すこともできます。

ただし、あまりに不公平な内容になると、法定相続人同士で遺産相続トラブルに発展する恐れがあります。法定相続人同士の関係性や心情も加味して分割方法・割合を決めましょう。

身分に関する指定ができる

遺言書では、相続に関する身分の指定もできます。具体例を挙げると以下の通りです。

・相続人の廃除や廃除の取り消しができる

・婚外子の認知ができる

・遺言執行者の指定ができる

・後見人の指定ができる

被相続人に対して虐待や侮辱行為などがあり、自身の財産を相続させたくないと思う推定相続人がいた場合、その人を法定相続人から廃除することで相続権を消失させることができます。また、婚外子を認知することで婚外子にも実子として相続する権利を持たせることが可能です。

その他の効力

遺産の分割方法や身分に関する指定以外にもできることがいくつかあります。具体的例は以下の通りです。

・遺産分割方法を第三者に委託できる

・遺産分割の禁止も命ずることができる

・相続人相互の担保責任の指定ができる

・遺産の寄付を指定できる

遺産分割の方法を自身で決めるのではなく、第三者に委ねることもできます。例えば、遺産分割方法や割合は弁護士〇〇さん(名前)に相談して決めることと記載すれば、その弁護士が関与することになります。また、5年以内であれば遺産分割を禁止することも可能です。

遺産分割の際は法定相続人同士でトラブルに発展するケースも少なくありません。そのため、遺産が多い場合や遺産の種類が多く分割が困難なときは、遺言書で遺産分割自体を禁止し、熟慮期間を設けるのも方法のひとつです。

遺言書の効力に期限はあるのか

遺言書の効力に期限はありません。何年も何十年も前に書いた遺言書でも、その後新しいものが発見されることがなく、なおかつ、正しい形式で記載されていれば有効となります。

また、遺言書の効力が発揮されるのは、遺言者が亡くなったときです。ただし、遺言書に停止条件がついている場合は、その条件が成就したときから効力が発揮されます。なお、遺言書が効力を発揮する前に、受遺者がなくなってしまっている場合においては、遺贈の効力はなくなるため注意しましょう。

遺言書の取り扱いに関する注意点

遺言書は、財産の分割方法や割合について自身の意見を反映できるのが主なメリットです。しかし、遺言書の取り扱い方法には、注意したいポイントもあります。注意点も事前に確認し、メリット・デメリットの内容を比較したうえで、遺言書を作成するかどうか検討しましょう。

勝手に開封すると罰金(過料)が課される

自筆証書遺言や秘密証書遺言を作成した場合、自宅で保管するケースがほとんどです。遺言書を発見したら、早く開封しなければと思う方が多いでしょう。しかし、自筆証書遺言や秘密証書遺言を開封する際は、裁判所の検認が必要とされています。

封をした遺言書を勝手に開封すると5万円以下の罰金(過料)が課される可能性があります。遺言書を見つけたら開封せず、法定相続人を集めて家庭裁判所で検認を受けましょう。なお、誤って開封してしまっても遺言書の効力は保持されます。

遺言書の作成には費用がかかる

遺言書の種類によっては作成費用がかかるケースもあります。費用の目安は以下の通りです。

遺言書の種類費用目安内容
自筆証書遺言0~3,900円遺言書保管制度を利用する場合にかかる手数料
公正証書遺言2~5万円※財産の金額によって異なる公証人に支払う手数料
秘密証書遺言1万1,000円公証人に支払う手数料

公正証書遺言の作成時は特に費用がかかります。財産の金額に応じて公証人に支払う手数料の金額も変わるため、事前に確認しておきましょう。また、証人に支払う日当や、弁護士などへの依頼費用が必要になるケースもあります。費用が足りなくなることのないよう、余裕を持たせた金額を用意しておくことが大切です。

遺言書の効力が無効になるケース

遺言書の内容や作成時の状況によっては効力が無効となるケースもあります。効力を失った遺言書はただの紙切れ同然となり、本人の意思も反映されなくなる可能性があるため注意しましょう。遺言書が無効になるケースとしてよくある事例3つを紹介します。

ケース1:記載ミスがある

遺言書作成時は、法律で定められた内容を漏れなく記載し、署名・押印する必要があります。遺言書に記載すべき内容は以下の通りです。

・遺言書の作成日

・遺言者の署名と押印

・戸籍に記載のある氏名

・相続の具体的な内容

また、パソコンによる記載も無効とされています。遺言書を作成する際は、全文を自筆しましょう。ただし、財産目録についてはパソコンでの作成や代筆も可能です。

記載内容に漏れやミスがあると、遺言書としての効力がなくなります。自筆証書遺言や秘密証書遺言のように自身で遺言書を作成する際は記載ミスが起こりやすいため注意しましょう。

ケース2:遺言者に遺言能力がない

15歳未満の者は遺言者になれません。そのため、遺言を残しても無効となります。親権者による代筆であっても、遺言書として効力を発揮することはないと規定されています。

また、遺言書の作成時、遺言者に正常な判断能力がない場合も無効となります。例えば、脅迫や詐欺により遺言書を作成したケースや、認知症で判断力がなくなった状態の方の遺言書などです。遺言書の内容や形式ミスだけでなく、作成時の状態によっても遺言書の効力を失う可能性があります。

ケース3:法定相続人の遺留分を侵害している

遺留分とは、法定相続人において最低限の遺産を相続する権利のことです。法定相続人は、遺留分に相当する財産を相続できなかった場合、遺留分の侵害請求ができます。

ただし、遺留分の侵害請求ができるのは配偶者や親、子といった兄弟姉妹以外の法定相続人です。遺留分として法定相続分の半分~1/3相当の金額を請求できます。遺留分を巡り相続トラブルが発生するケースは少なくありません。遺言書の内容に公平性を持たせるようにしましょう。

遺言書の確実性を高めるポイント

遺言書を作成するのであれば、できるだけ効力を無駄にしなくないものです。ここでは、遺言書の確実性を高めるためのポイントを2つ紹介します。ポイント押さえて有効な遺言書を作成しましょう。

付言事項を記載する

付言事項とは、遺言書において法的な効力を持たない事柄に関する記載のことです。書かれることの多い内容の一例としては以下のようなものが挙げられます。
・家族への思い
・相続割合に関する事情
・遺言書を記載した理由 など
法的な効力はないものの、被相続人の意思を家族に伝えるには有効な方法です。自由に記載できるため、遺言者の素直な気持ちを表現できます。できるだけ遺言書の内容に即した相続を行おうとする遺族も多く、遺産相続に関するトラブルを防止する効果を期待できます。

公正証書にする

公正証書とは、法務局に所属する公証人が、公証役場で作成する公文書のことです。遺言書も公正証書遺言として作成できます。公証人が遺言内容を記載するため、形式的な間違いや記載ミスが起こりにくい上に、証人の立ち合いも行われるため証明力があります。
また、遺言書を作成した後は公証役場で保管されるため、改ざんや偽造のリスクも小さくなるのが強みです。開封する際の裁判所による検認も不要で、相続人の手間を省くこともできます。

専門家に相談する

遺産の分割方法・分割割合に悩んでいる方は、専門家に相談するのも方法のひとつです。専門家のアドバイスを受けることで、家庭の状況に合った遺産相続割合や相続者を指定できるようになります。また、専門家に相談をする中で、自身の考えや希望を明確にできるのも利点です。遺言書を作成する目的が明らかになると、遺産相続の計画を立てやすくなります。

まとめ

遺言書には大きく分けて3つの効力があります。遺産の相続方法や割合の指定、また、身分に関する指定も可能です。ただし、場合によっては無効となるケースもあるため注意しましょう。遺言書の注意点や作成時のポイントを確認し、事前に知識を深めておくことが大切です。公正証書遺言を作成したり専門家に相談したりすることで遺言書の確実性を高められます。遺言書の種類や効力、取扱時の注意点などを記載した今回の記事もぜひ参考にしてみてください。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。