【税理士監修】遺言書を公正証書で作成するには?必要書類や作成するメリットを解説

更新日:2023.9.8

遺言とは、亡くなった方が、誰にどの遺産をどれくらい渡したいかを記載した書面のことです。また、遺言書を公正証書として作成したものを「公正証書遺言」と呼びます。遺言を作成しようか悩んでいる方の中には、公正証書遺言の概要やメリットが知りたいと思っている方も多いのではないでしょうか。

そこで、本記事では公正証書遺言の作り方やメリットを紹介します。遺言書の種類や公正証書遺言の注意点も併せて解説するため、ぜひ参考にしてみてください。

公正証書遺言とは

一言に遺言と言っても、遺言には複数の種類があります。公正証書遺言はその中の一種です。ここでは、まず、遺言書の種類や公正証書遺言の概要といった基本情報を紹介します。知識を深めて自身に合った遺言書を作成しましょう。

遺言書の概要

遺言書とは、被相続人が自身の財産を誰にどのくらいあげたいかを記載するものです。遺言書を残すことで、故人の希望に沿った遺産相続が可能になります。

また、遺産分割協議におけるトラブルを回避できるのも遺言書のメリットです。遺言書は法定相続分に優先されるため、法定相続人同士の話し合いがスムーズに進む傾向があります。故人の遺志が明記されているため、できるだけ意向に沿って相続しようとするケースが多いと言われています。

公正証書の概要

公正証書とは、公証人が公証役場で作成し、内容を証明する書類のことです。公証人法(明治1年法律第53号)という法律により規定されています。公証人や公証役場の概要は以下の通りです。

・公証人:公証事務を実行する実質的な公務員のこと

・公証役場:法務省が管轄する役所のこと

公証人は裁判官や検察官、弁護士などを務めた者の中から、法務大臣が任命することで決定されます。公証人は日本全国に約500人おり、公証役場は約300ヵ所あります。

遺言書の種類

遺言書の種類は自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類です。それぞれの形式により作成方法や管理方法が異なるため注意しましょう。

・自筆証書遺言:被相続人本人が作成し捺印した書類

・公正証書遺言:公証人が作成し公証役場で保管される書類

・秘密証書遺言:被相続人本人が作成し、公証人と証人に署名・捺印をもらった書類

 自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言
遺言書を作成する人本人公証人本人
証人の有無不要2人以上2人以上
検認の有無必要不要必要
保管場所本人公証役場本人

公正証書遺言は公証人が作成し公証役場で保管されるため、遺言書を開ける際に裁判所による検認が必要ありません。そのほかの方法では被相続人が自身で遺言書を作成するため、裁判所が内容を検認し有効性を確認します。

どの形式の遺言書を選択するかは本人が自由に決められます。それぞれの方法にメリット・デメリットがあるため、事前に確認してから自身に合った方法を選択しましょう。

遺言書を公正証書にするメリットとデメリット

遺言書を公正証書として保存するメリットとデメリットを紹介します。公正証書遺言を作成しようか悩んでいる方は参考にしてみてください。

メリットは確実性

公正証書遺言のメリットは以下の3点です。

・公証役場にて公証人が作成するため、偽造や改ざんの恐れがない

・公証役場で保存されるため、紛失するリスクが少ない

・家庭裁判所の検認を受ける必要がない

自分で遺言書を作成するのではなく、遺言書に記載したい内容を公証人に伝えることで、公証人が本人に代わって遺言書を作成します。そのため、記載ミスや書類の形式間違いが起こりにくく確実性があるのがメリットです。

また、作成した遺言書は公証役場で保管されるため、自宅で保管する必要がありません。紛失や改ざんのリスクも削減できます。

デメリットは手間と費用

公正証書遺言のデメリットは以下の3点です。

・書類の作成に費用がかかる

・証人確保の手間がかかる

・公証人との打ち合わせや遺言書の作成に時間がかかる

公正証書遺言を作成する際は、公証人だけでなく証人2名の確保も必須となります。書類の作成に手間や費用がかかるのはデメリットと言えるでしょう。

ただし、自身で遺言書を作成しても必ずしも有効な遺言書を作成できるとは限りません。トータルで考えた際に、公正証書遺言を作成する方が効率がよくなるケースもあります。

公正証書遺言の作り方と手順

公正証書遺言を作成したいと考えている方は多いでしょう。公正証書遺言作成の手順は以下の通りです。

手順1.遺言書の原案を作成する

手順2.必要書類をそろえる

手順3.証人を2人以上集める

手順4.公証人とコンタクトを取る

手順5.公証役場で遺言書を作成する

手順に沿って、公正証書遺言の作り方を詳しく解説します。

手順1.遺言書の原案を作成する

まずは、誰にどの財産をどのくらい渡したいかを書き出しましょう。正式な書類にはならないため、書式などを気にせずメモ書きする程度で構いません。自身の財産がどれくらいあるのか、相続税がいくらぐらいになるのかなどを確認しながら、相続割合を決めていく必要があります。

なお、遺産相続の際にトラブルを招く恐れがあるため、公平性を欠く内容は避けるのが無難です。例えば、「全財産を長男に相続させる」「不動産は全て孫に譲る」など、極端なやり方はトラブルの火種になります。相続割合に困ったら、家族に相談するのも方法のひとつです。自身の意思を事前に伝えておくことで、遺言書の意向に沿った相続が行われる可能性があります。

手順2.必要書類をそろえる

遺言書の作成に必要な書類をそろえましょう。公正証書遺言に必要な書類の一例は以下の通りです。

・印鑑証明書

・相続人との続柄の分かる戸籍謄本

・相続人との続柄の分かる住民票

・相続人以外に遺贈する場合はその方の住民票

・登記事項証明書

・固定資産税評価証明書

・証人予定者の名前や住所、生年月日などを書いたメモ など

実際に必要となる書類は、遺言書の内容や公証人によって異なります。公証人に確認をしてから書類を準備しましょう。

手順3.証人を2人以上集める

証人を2人以上集める必要があります。誰でも証人になれるわけではないため注意しましょう。証人に指定できない方の条件は以下の通りです。

・推定相続人

・受遺者の直系血族および配偶者

・遺贈を受ける人

・未成年者

・公証人の配偶者や4親等以内の親族

・書記

・雇人

自身で証人を見つけられない場合、公証役場で証人の紹介を受けることができます。また、費用を支払えば弁護士や司法書士に依頼することも可能です。

手順4.公証人とコンタクトを取る

公証人と遺言書作成日を決めます。日本公証人連合会のWEBサイトから予約が可能です。遺言書に記載する内容を相談しながら、細かい部分も仕上げていきます。公証人との相談の機会は、遺言内容や話し合いの状態により異なりますが、平均としては1~2回程度です。

なお、公証役場に出向くのが難しい場合は、自宅や病院などに出張してもらえることもあります。予約の際に相談しておきましょう。

手順5.公証役場で遺言書を作成する

公証人と約束した日時に、公証役場で遺言書を作成します。必要書類をそろえ、2人以上の証人を連れて公証役場に行きましょう。

遺言者が口頭で遺言の内容を伝え、公証人が筆記します。公証人が遺言書の内容を読み上げ、間違いがなければ遺言者と証人、公証人がそれぞれ署名・捺印を行い完成です。原本と正本、謄本の3通を作成し、原本は公証役場で保管されます。

所要時間は平均30分~1時間程度です。最後に作成費用を清算して、正本と謄本を受け取り帰宅となります。

公正証書にした遺言書の内容が分からなくなったら?

公正証書にした遺言は紙ベースの書類と電子データで2つ保管されます。

遺言者が生きている場合は、本人のみ閲覧可能です。一方、遺言者が亡くなっているケースでは、法定相続人や受遺者、遺言執行者等遺言などが閲覧できます。誰でも閲覧できるわけではないため注意しましょう。

また、遺言書の検索・閲覧請求をする際は、まず公証役場に出向く必要があります。請求に必要となる以下の書類を持参しましょう。

・遺言者が死亡したことが記載されている戸籍謄本

・相続人(請求者)の戸籍謄本

・本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)

なお、検索閲覧システムでは遺言書の有無を調べることはできますが、内容まで確認できません。内容を確認するためには遺言が保管されている公証役場にて、開示に向けた手続きが必要となります。手数料(200円)を用意して、遺言書が保管されている公証役場に向かいましょう。

遺言書を公正証書にする際の注意点

公正証書遺言は確実性の高さにメリットがある遺言書類です。しかし、遺言書を公正証書にする際には注意したいポイントもいくつかあります。メリットだけでなく注意点も事前に確認し、公正証書遺言を作成するかどうか、今一度検討しましょう。

公正証書遺言には費用がかかる

公正証書遺言を作成する際は、公証人への手数料が発生します。手数料は以下のように財産価格によって変わります。

財産価額手数料
100万円以下5,000円
100万円超え200万円以下7,000円
200万円超え500万円以下1万1,000円
500万円超え1,000万円以下1万7,000円
1,000万円超え3,000万円以下2万3,000円
3,000万円超え5,000万円以下2万9,000円
5,000万円超え1億円以下4万3,000円
1億円超え3億円以下4万3,000円に超過額5,000万円までごとに1万3,000円を加算した額
3億円超え10億円以下9万5,000円に超過額5,000万円までごとに1万1,000円を加算した額
10億円を超える場合24万9,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額

また、弁護士や司法書士などに証人をお願いする場合は、日当を支払う必要があります。日当の費用目安は1人あたり5,000円から1万5,000円程度です。公正証書遺言を作成した後すぐに支払いが生じるため、事前に費用を用意しておきましょう。

公証人は内容に関するアドバイスができない

公証人に依頼できる内容は遺言書の作成のみです。遺産相続割合や遺言者の決定のような遺言内容に関するアドバイスを求めることはできません。

遺産の相続割合について助言が欲しい場合や相続の際に起こり得る親族間トラブルを避けたい方は、弁護士や税理士などの専門家に相談しましょう。専門家に相談することで、適切な相続方法を提案してもらうことができます。

遺留分は遺言よりも優先される

相続財産には遺留分があります。遺留分とは、法定相続人に認められている最低限の遺産取得分のことです。遺留分は遺言書よりも優先されます。そのため、全財産を特定の人に譲るなどの極端な遺贈があった場合には、遺留分侵害請求が実行される可能性があります。なお、遺留分の侵害請求ができる方は以下の通りです。

・配偶者

・直系卑属(子や孫など)

・直系尊属(親や祖父母など)

兄弟姉妹には遺留分はありません。また、遺留分は法定相続分の1/2~1/3と定められています。

効力が無効になることもある

公正証書遺言でも確実に有効であるとは言い切れません。過去に遺言書の内容が無効になったケースもあるため、注意が必要です。無効になる可能性のあるケースとして以下のような事例が挙げられます。
・遺言を作成する際に、遺言者の意思能力がなくなっていた
・相続人の脅迫や詐欺を受けた状態で遺言書を作成した
・公序良俗に反するような遺言内容を記載した
ただし、公正証書遺言を作成する際は公証人や証人と共に作成します。そのため、上記のような状態に陥る危険は少なく、他の遺言書に比べると確実性は高いと言えるでしょう。

内容を変更したい場合は書き変えが必要

公正証書遺言において遺言書の内容を変更するということは、書き変えることと同じ意味を持ちます。遺言の内容に差しさわりのない部分であれば、更正や補充という方法で手続きできます。しかし、更正や補充では内容の書き変えは認められていません。そのため、再度公証人や証人を集め新しく遺言書を作成する必要があります。

再度遺言書を作成した場合、通常は日付の新しいものが優先されます。ただし、古い遺言書が残っていると部分的に古い遺言書の効力が残ってしまうケースもあるため、古い遺言書は破棄するのが無難です。公証人に相談しながら、変更作業を進めましょう。

まとめ

遺言書を公正証書にすることで、改ざんや偽装のリスクが減り確実性が高まるのがメリットです。公証役場で保管されるため、紛失や破損のリスクも回避できます。ただし、遺産相続には遺留分があることや、公正証書にする際は費用がかかるといったデメリットも発生する点に注意しましょう。
遺言の作成を検討中の方や遺産相続に不安のある方は、一度税理士や司法書士などの専門家へ相談するのも方法のひとつです。専門家に相談することで、自身に合った方法で遺産を渡すことができます。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。【執筆実績】「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他、【メッセージ】亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って、相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。